97話目【ポッポ村を旅立つ者達】
松本達がポッポ村に帰って来て3日後。
レムの小屋の周辺では、光筋教団員とポッポ村の住人が集まっていた。
敬虔な信者達は1日で全員光魔法を取得したため、ウルダに帰っても良かったのだが
今後も訪れれるであろう光筋教団員のために、もう一つ小屋を作成していた。
夕方には2つ目の小屋が完成し、最初の小屋も改良され暖炉が追加された。
翌日の早朝、
来客用の小屋の前で光筋教団員を見送るレム、バトー、松本。
「皆さんお世話になりました、レム様もお元気で!」
『 お元気で! 』
「ふふ、君達も元気でね、それと、出来るだけ急いで光魔法を広めてくれないかな?」
「わかっておりますレム様! 光筋教団として責務を全う致します! それでは!」
「「「 さよーならー 」」」
イエーツと光筋教団員はウルダに向けて出発した。
ウルダに帰った後は次の習得希望者を連れて戻って来る予定になっている。
ついでに村の買出しも依頼した。
光筋教団が旅立った後、マツモト、バトー、ゴードン、そして獣人の3人はバトーの家で
獣人の里に向かうための準備を行っていた。
「寝袋、着替え類、ナイフ、剣と盾、これは必ず必要で後は食べ物ですね」
「結構かさばるからなぁ、一応干し肉を少し持って行って、後は現地調達するしかないな」
「片道20日位掛かるんだろ? 獲物が取れりゃいいけどなぁ」
秋から冬に差し掛かり、獲物が少なくなる季節。
移動中の食料が心細かった。
「まぁ、パンなら出せますので多少マシですね」
「そうだな、マツモトがいるからマシだが時期が悪いな」
「村の保存食だから干し肉の量を増やすわわけにもいかねぇしな…
カテリアちゃん達は来る時はどうしてたんだ?」
「森の中で木の実などを取ってました、後は魔物の肉を少々ですかね」
「あれって少々っていうのかな?」
「嘘はいけないのであるカテリア」
実は結構、肉を食べてた獣人達。
人間と異なり身体の能力が高いため狩りが得意なのだ。
獣人の里の食料事情は殆ど狩りでまかなわれている。
「まぁ、木の実も魔物もそろそろ数が減って来るが、
全て無くなるわけじゃないから大丈夫だろ」
「海辺に出れば魚も取れるだろうし、森の中よりいいかもしれねぇぞ」
「バトーさん、そもそも獣人の里ってこの地図だとどの辺になるんですか?」
テーブルに広げた地図を覗き込む一同。
「ここがウルダ、これが青龍湖、そしてポッポ村はこの辺りだから…この辺か?」
地図ではなく、地図の外側のテーブルを指さすバトー。
「…はみ出てませんか?」
「はみ出てるぞ、この地図には載ってないからな」
ポッポ村は地図の一番下の端だった。
「まぁこの地図はカード王国の地図だからな、載ってなくても仕方ねぇ。
確か子供達の勉強小屋にもっと大きい地図があっただろ?」
「行ってみましょう」
勉強小屋の地図を覗く6人、狭いのでニャリモヤは外から覗いている。
松本の地図より大きな範囲が描かれており、ポッポ村の位置に印が書き込まれている。
これがカード王国か、国の左側と下側は海に面していて…右はたぶん別の国か?
ポッポ村の下は海だけど右に行くにつれて斜めに陸地が広がってる
たぶん俺の家がある精霊の森だろう、ナーン貝の入り江はどの辺りだ?
地図の印を指さすバトー。
「ここがポッポ村だな」
「ポッポ村って国の南端だったんですね」
「この地図だと近く見えるが、実際は海まで結構距離がある。
ナーン貝の浜辺は入り江になってるから近いが、外海はもっと遠いんだ。
獣人の里は松本の家からポッポ村の反対側に20日位だから、恐らくこの辺だな」
ポッポ村の右下の陸地を指さすバトー。
「あのー多分この辺です」
ポッポ村から下側の海を指すマルメロ。
「「「 ん? 」」」
「海を越えて来たので」
「「「 んん!? 」」」
予想外の行先に動揺する松本、バトー、ゴードン。
「この地図に掛かれていないんですけど、この辺に大きな島があるんですよ」
「海沿いに出れば見えるのである」
カテリアとニャリモヤが補足を入れる。
「島まではどれくらいの距離なんですか?」
「漕いだら3時間位かな?」
「いけない距離ではないが、船がいるな…」
「その場で造るしかねぇな、ノコギリ持って行くか?」
「ロープもいりますかね?」
マルメロの言葉に悩む松本、バトー、ゴードン。
突然沸いた問題に打開策を模索している。
「その辺は心配しなくても問題ないのである」
「「「 ん? 」」」
「来た時のヤツがあるから大丈夫ですよ」
「「「 あ、じゃあそれで 」」」
カテリアとニャリモヤが助け舟で直ぐに解決した。
「それじゃ、明日松本の家に迎えに行くからよ」
「皆しっかり準備しておいてくれ」
「「「「 はいー 」」」」
獣人達は松本と一緒に出店の店員をしてる。
松本がマダムと子供達に翌日からの店の休みを説明している。
「ということで、明日から店はお休みになります」
「そう、じゃぁカテリアちゃんもマルメロ君もニャリモヤさんも今日が最後なのね」
「「「 お世話になりました 」」」
獣人達の事情を知っているマダムは悲しそうにしている。
「えぇ~じゃぁニャリモヤいなくなちゃうの?」
「もう会えないの?」
「やだ~もっと一緒に寝たい~」
事情を知らない子供達はニャリモヤに張り付いている。
「すまない、我にはどうしてもやらなければならないことが…」
「「「 いやぁぁ~ 」」」
別れを拒む子供達が力を強め、ニャリモヤにめり込んだ。
「駄目よ、ニャリモヤさん達にも事情があるんだから」
「ははは、最後ですから子供達の自由にさせてあげて欲しいのである」
「そう~? ごめんなさいねニャリモヤさん。
あっそうだ、こうしちゃいられないわ! 皆まだあとでね!」
ナーン貝を抱えたマダムが走って行った。
「そうだよね、今日がポッポ村にいる最後なんだよね。
カテリア姉ちゃん、ニャリモヤ、お世話になった人達に挨拶に行こうよ」
「そうね、行きましょう」
「そうであるな、行くとしよう」
「それなら、これでお土産も買ったらいいですよ」
ドングリが山積になった貝殻から硬貨を取り出し手渡す松本。
「これお店のお金ですけど、いいんですか?」
「いいですよ、俺がいない間に皆さんがナーン貝売ったお金っですから、
これは皆さんが稼いだお金です。
ポッポ村の物価は安いから少しくらいは買える筈です」
「折角だらか頂きましょうマルメロ」
「そうであるな、有難く頂こう」
「ありがとう御座いますマツモトさん」
「あとこれは俺からの餞別です」
財布から取り出した金色の硬貨を渡す。
人間の世界に憧れるカテリアは手にしたお金に目を輝かせていた。
「ありがとうマツモトさん!」
「よかったねカテリア姉ちゃん」
「それでは行くのである」
「いってらっしゃ~い」
カテリアとマルメロと子供がめり込んだニャリモヤは
村を巡って挨拶をして回った。
「残念ね~、カテリアちゃんが一杯食べる姿が好きだったのに~、これ帰ってから食べて!」
「頑張ってな! バトー達が行くなら大丈夫だからよ! これ少しだけど持ってけ!」
「また来てね、いつでも歓迎するから、あとこれお土産ね!」
大量の野菜と芋とパンを貰った獣人達。
「何か一杯貰っちゃったね」
「ありがたいけど、ちょっと貰い過ぎかしらね」
「優しい者達が多すぎるのである」
「折角マツモトさんからお金貰ったから何か買い物しましょうか」
「もうあまり持てないよ?」
「かさばらない物なら大丈夫である」
折角なのでマリーの店で紅茶とココアとインスタントスープを購入した。
「そんなぁぁぁお願いマルメロ君、ずっとここにいて!
それが無理ならせめてお姉さんと一晩だけ添い寝して頂戴! お願いよぉぉぉ!」
「いい加減にしなさいウィンディ! マルメロ君から離れなさい!」
「いやよぉぉぉ! レベッカねぇさん離して! いやぁぁぁ!」
その後、村にウィンディの悲痛な叫びが響き渡った。
夕方になる頃にはマダムネットワークにより広場に宴の準備が整えられた。
複数の焚火を囲む村人達、手はモギ肉の串を掲げている。
「ポッポ村から旅立つ者達に!」
『 カンパーイ! 』
獣人達が村を訪れた理由は明るい物ではなかったが、村人達は笑顔で送り出した。
「マルメロ君が…私のマルメロ君がいっちゃうぅぅぅ…うわぁぁぁぁん!」
「あんたいつまで泣いてるの…マルメロ君困ってるでしょ!」
「だって、だってぇぇ! なんか私に懐いてぇ…尻尾振ってぇ…
好き好きしてくれる感じがするんだもぉぉぉぉん!
うぁぁぁん! ウィンディお姉さんって呼んでマルメロくぅぅぅん!」
ウィンディだけは号泣していた。
「ウィンディお姉さん」
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」
泣きながらのた打ち回るウィンディ。
全員ドン引きしていた。




