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96話目【来客用の小屋と知らない獣人達】

ポッポ村に向かう4台の馬車。

早朝にイエーツがバトーと話をしている。


「バトーさん、もう5日目ですが、あとどれくらいで着きますか?」

「あと数時間ですね、今日の昼頃には着きますよ」

「それは良かった、皆長旅に慣れていないもので」

「疲れましたか?」

「えぇ、皆口には出しませんが疲れている様子。

 最近冷え込んできましたから、出来れば泊まれる場所があると有難いのですか…」

「レム様用の小屋を建てている筈ですけど、流石にこの人数は予定していなかったもので…」

「はは、申し訳ない、お気になさらず。まぁ、レム様に会えば皆の疲れも吹き飛ぶ筈! 

 気合を入れて行きましょう!」


荷物を纏め、一同を乗せた馬車は動き出した。




場所は変わってポッポ村、村人達が仕事を開始していた。

畑仕事に行く者、木を伐採に行く者、レムの小屋を造る者。

すっかり冬着に変わったポッポ村に見慣れえぬ獣人の姿があった。


村人達と一緒にレムの小屋を造る3人の獣人達。

2足歩行で歩く2人の獣人は全身が毛に覆われており、

4足歩行の大きな猫は体毛がモコモコで色が暗い。


「すまん、釘取って貰えるか?」

「はいゴードンさん!」

「たすかるわ」


ゴードンに釘を手渡す女性の獣人。



「ここ抑えてといて貰えないかな?」

「これでいいですかジョナさん?」

「ありがとう」


ジョナの板を抑える男の子の獣人。



「あんた達、見当たらないと思ったら、またこんなとこに隠れて! 出てきなさい!」

「いやぁ~」

「暖かいんだもん~」

「ははは、レベッカ殿構わないのである、我は気にしていないのである」


レベッカが横たわる大きな猫の毛を捲ると、子供が2人張り付いていた。



「こんなもんかね? どうですかレム様?」

「いや~いいねぇ~、なんかそれっぽい見た目で格好いいじゃない。ありがとう皆」

「とんでもねぇ、俺達は皆レム様に感謝してるんです」

「命の恩人ですからね、これくらい朝飯前ですよ」

「もう直ぐ昼飯だぜ?」

「あそうか、んじゃ、これくらい昼飯前ですよ」

『 だーっはっはっは! 』


6畳ほどの小さなレム用の小屋が完成した、少し協会っぽい見た目をしている。

レムと村人達が笑っていると遠くに馬車が見えた。


「お、バトー達帰って来たんじゃねぇか?」

「何とか帰ってくる前に完成したな」

「まだレム様の小屋だけだがな、昼からは来客用の小屋作り始めるぞー」

『 お~ 』


遠くの馬車を見る村人が目を細めている。


「ん? なんか馬車多くねぇか?」

「ん~? 本当だ1台じゃねぇな」

「全部で4台ですね」

「へぇ~見えるのかい? 獣人てのは目がいいんだな」

「まぁそれ程でもあります!」


胸を張る女性の獣人。


「人間が一杯乗ってるね」

「我らは隠れた方が良さそうである」

「そうね、早めにナーン貝売りに行きましょう」


マツモトの出店に座る3人の獣人、ナーン貝が1個だけ置いてある。

マダムがやって来た。


「あら今日もお店やってたわ、ナーン貝下さいな」

『 5シルバーになります 』

「はい、5シルバーよ」

『 ありがとう御座います 』


マダムから5シルバー受け取り、ナーン貝を渡す獣人達。

売り物が無くなったため店を閉めると、大きな猫の中からモソモソと子供が出て来た。


「また明日~」

「また来てね~」


森へ帰って行く獣人達を子供達は悲しそうに見送っていた。




暫くして、ポッポ村から少しだけ離れた場所にあるレムの小屋の前に馬車がやって来た。

ゴードンが手を振っている。


「おーい、バトー、マツモトこっちだ」

「どうしたゴードン」

「これがレム様の小屋ですか?」

「おう、さっき完成したばかりだ。ところでよお前ら、その後ろの馬車はなんだよ?」

「光筋教団の光魔法習得希望者だ」


馬車を見るゴードン。


「…ちと多すぎやしねぇか?」

「やっぱりそう思います?」

「ゴードンもそう思うよな…」

「いや~いきなり大勢で押しかけてしまい申し訳ない!」


全身が微かに光る、とんでもないマッチョが会話に入って来た。


「バトー、この人は?」

「この人はウルダの光筋教団で一番偉い人だ」

「イエーツさんです」

「初めまして、光筋教団ウルダ支部で支部長を務めているイエーツです、よろしく!」


笑顔で右手を差し出すイエーツ。


「俺はポッポ村のゴードンだ、よろしくな」


右手を握り、握手をするゴードン。


「ふふふふふふ…」

「ぬふふふふふ…」


笑顔で握手しながら右手と額に血管を浮かせるゴードンとイエーツ。



なにやってんだこのオッサン達…



「素晴らしい! 実に素晴らしいゴードンさん!」

「なぁにそうでもねぇ、イエーツさん、アンタも凄ぇな!」

『だーっはっはっは!』


何やら分かり合ったらしい。





「このポッポ村は素晴らしいですね、見れば他の方達も中々鍛えられているようで…

 特に大腿四頭筋、下腿三頭筋、が発達している!」

「だいたい? かたい?」

「なんだって? よくわからねぇよ」


バトーとゴードンが首を傾げている。


「太ももと脹脛です」

「そうなのか?」

「なんで知ってんだよマツモト」

「よく見たら腹斜筋と広背筋、上腕二頭と三頭もなかなか…」


村人の体を見て唸るイエーツ。


「マツモト」

「横っ腹と背中と腕の内と外です」

「だからなんで知ってんだよ」

「三角筋も…」



おいやめろ! これ以上余計な単語を増やすんじゃねぇぇぇぇ!



生前筋トレが趣味だった松本は一通りの筋肉名を通訳した。





「見る限りではトレーニング施設のようなものはありませんが、

 この村ではいったいどんなトレーニングをしてるのですか?」

「特にはねぇな、光魔法習得してから少しトレーニング始めたくらいだな」

「俺はバトーさんに修行付けて貰ってますけど、他の人達は特にないですね」

「そうだな」


『 なにぃ!? 』 


会話を聞いたマッチョ達が馬車で驚いている。


「そ、そんな馬鹿な…そんな筈がない! 

 あれは明らかに…明らかに日常生活で手に入れられる肉体ではない!

 いやしかし、この素晴らしい筋肉を持つ者達が嘘を付いているとは…

 しかし、日常生活であの大腿四頭筋はあり得ない! 断じてない!」


何故か取り乱し頭を抱えるイエーツ。


「どうしたんだ? おいバトー、マツモト、大丈夫かこの人達?」

「まぁ、…大丈夫だ」

「大丈夫ですよ…少し変ですけど。敬虔なレム様の信者なので」

「本当かよ?」


馬車の中では熱い討論が行われたいた。


「まぁ、なんだ、イエーツさん、それなら試しに昼から俺達の仕事手伝ってくれねぇか?

 あんた達の寝る場所作らねぇといけねぇからよ」

「確かに野宿は厳しくなって来たしな」

「俺でもそろそろ厳しいですよ」


野宿の達人松本でもそろそろ厳しい季節である。


「是非やりましょう! 団員達も座りっぱなしで体を動かしたがっていますからね!」

『 おぉ~! 』

「ふふふ、私の大腿四頭筋、下腿三頭筋が負荷を欲していますよ…」


太ももと脹脛に力を入れアピールするイエーツ。


「まぁ、昼飯食ってからだな、この辺は適当に使って貰って大丈夫だからよ」

「イエーツさんは先に村長に挨拶して頂きたいので俺達と一緒に来てください」

「わかりました、自由に昼飯にしてくれー! 私は挨拶に行ってくる!」

『 はい~ 』


荷物を降ろし始めるマッチョ達。

バトーとゴードン達は村に向かった。




「レム様…そんなところで何してるんですか?」

「いや~、なんか出る機会失っちゃてね…」


松本が小屋を覗くとレムが天井に張り付いて隠れていた。


「お昼ですけど、パン要ります?」

「貰おうかな」


マッチョ達に壁1枚挟んで教祖レムと松本はパンを齧った。





午後から仕事に参戦したマッチョ達が倒した木を引いている。


「唸れぇぇ! 我が下腿三頭筋んんん!」

「でりゃぁぁぁ!」



別のマッチョ達が木材加工所から木材を運んでいる。


「いいぞ! 大腿四頭筋に負荷を感じる!」

「運べぇぇぇ!」



小屋の建設予定地でイエーツが重力魔法で地面を固めていた。


「ゴードンさん、これくらいでどうですか?」

「へぇ~便利だな、俺も習得するかな重力魔法」

「いつもはどのように地面を固めているんですか?」

「この取手の付いた丸太をな、こうやって持ち上げて落とす。これを繰り返すんだよ」

「な、なにぃ!? 三角人と僧帽筋に負荷を掛けるだとぉぉぉ!? ちょっとこれでやっていいですか?」

「いや、ちょっと時間ねぇから魔法で頼むわ…」



マッチョ達のパワーと村人の的確な指示で30畳程の小屋が完成した。





「はぁ~凄いですね、もう出来ちゃったんですか?」

「まぁ、材料はあったし、壁と床と天井しかねぇ只の箱だからな、人手があればこんなもんだろ」

「少し狭いかもしれないが我慢して貰おう、野宿よりはマシだろうからな」


完成した小屋の前で話をしている松本、ゴードン、バトー。

横に並んでいる小さな小屋を指さす松本。


「あっちの小さな小屋はなんなんですか?」

「ありぁ、風呂だ。一応コーティングしたけどよ、どれくらい持つかわかららねぇ。

 まぁ駄目になったら作り直すわ」」

「寒くなって来たからな、風呂入りたいだろ」


風呂の小屋を覗くと木製の四角い浴槽が置いてあり、お湯の注ぎ口が付いている。


「これどうやってお湯入れてるんですか?」

「裏に樽があってな、外で沸かしたお湯を溜めてあるんだ」

「この板を開けるとお湯が出てくるからよ、必要量を入れるんだ。

 無くなったら外で沸かすしかねぇけどな」

「浴槽を空にする時はこの栓を外せば外に流れていく仕組みだ。

 溝を掘ってあるから村には流れて行かないようになってる」


窓から外を見ると溝が掘られており、溝の先に大きな穴が掘ってある。


「へぇ~いいなぁ、俺の家にも欲しいですね」

「そういえばマツモトの家って風呂ないよな、いつもどうしてるんだ?」

「俺は家の横で鍋で沸かしたお湯を使って体洗ってますね」

「大変だな」

「寒くねぇか?」

「まぁ、岩壁と家の壁で何とか耐えてます」


鍋2つ分のお湯が松本の風呂だった。



「今度皆で造るか」

「そうだな」

「ありがとう御座います!」


松本の家に風呂が増築されることとなった。





「少しならポッポ村の食材分けれるからよ、何人か取に来てくれねぇか?」

「いや、寝床まで準備して貰ったのに、タダで頂くわけにはいかない。

 是非購入させて貰えないだろうか?」

「まぁ、イエーツさん達がそれでいいなら構わねぇが」

「できれば鍋なども買いたいのだが…」

「それなら、ジョナの店で少しだけ売ってるから必要であれば買ってくれ」

「かたじけない!」


マリーさんとジョナが村人価格ではなく

通常価格に少し上乗せして販売したことにより、ポッポ村の副収入になった。

ついでに薪も販売した。





「レム様、そろそろ帰りますよ~」

「今行けそうかい?」


レムは相変わらず小屋の天井に張り付いていた。


「そんなにバレたくないならこの布羽織ってください」

「いや~助かるよマツモト君」

「なんでそんなにコソコソしてるんですか?」

「何か僕に会うのは明日って話になってるからね~ちょっと見栄張りたいじゃない」

「別に見栄張らなくても皆敬ってますよ」

「それでもさ、僕は彼らにとって教祖だからね~」


光の精霊と松本はコソコソと家路に着いた。




家に着いた頃には日が落ちて暗くなっていた。


「早いとこ夕食にしましょうレム様」

「今日は何食べるんだいマツモト君?」

「さっき野菜貰ったんで、スープにします、体温まりますしね」

「いいね~美味しそうだ、僕はワニ美ちゃん呼んでくるよ」


レムが池に飛んで行った。

牧に火を付けると辺りが明るくなり、周囲が少し暖かくなった。

扉が開き、家の中から知らない獣人達が出て来た。


「お帰りなさいマツモトさん」

「お久しぶりです」

「久しぶりであるマツモト殿」



なんか知らない人達が当たり前のように家から出て来たな…

まぁ、今更驚かないけど…



「あの~どちら様でしょうか?」

「えぇ!? 酷い! 忘れちゃったんですか? 私ですよカテリアです!」

「マルメロです」

「ニャリモヤである」

「えぇ!?」



カテリアさんとマルメロ君ってそんな毛深かったっけ?

人間の外観に耳と尻尾が生えたような感じだったと思うけど…

ニャリモヤさんは…まぁ色が変わったくらいか?



「あの~もしかして、獣人の方達って寒くなると見た目が変わります?」

「あ、そうだった。最近寒くなって毛が生え変ったんだった」

「マツモトさんは僕達を忘れた訳じゃ無いと思うよカテリア姉ちゃん、

 人間は見た目が変わらないんだから」

「そうであるカテリア、最初はポッポ村の人達も驚いていたのである」

「いや、ニャリモヤはあまり驚かれてなかったでしょ、色が変わっただけだもん」

「多分、毛の量も増えてますね。それより夕飯にしましょう、今日はスープとパンです」

「「「 はい~ 」」」



獣人達は寒い季節になると冬毛に生え変り、大なり小なり見た目が変化するらしい。

当然、夏毛が抜けるわけで…



へ、部屋の中が毛だらけに…



松本の部屋、特に布団が抜け毛まみれになっていた。

次の日に全部掃除した。

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