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89話目【オーダーメイドの装備】

依頼していた武器とナイフを受け取るためウルダの東区を歩く松本とバトー。

商業地区の西区とは異なり道幅が狭く、店先や道端によく分からない物が置かれている。


「そろそろですかね?」

「そこの角を曲がった先だな」


カルニが書いてくれたメモを頼りに鍛冶屋を探す2人。

角を曲がると女と男が揉める声が聞こえて来た。


「ほらよ、合わせて10ゴールドだ、しっかり払ったからな!」

「10ゴールド? これじゃ防具代だけしか足りてないね。剣の代金4ゴールド、とっとと持ってきな!」

「ねぇよそんなもん、その10ゴールドで収めとけよ」


鍛冶エプロンを付け、腕を組み仁王立ちする女。

身長が低いが横幅がある。


「あんた、ケロべロス杯でウチの若いモンに負けたこと、忘れてないだろうね?」

「あぁ? ありゃ2人掛りだったから負けたんだ。 無効だろそんなもん」

「反故にしようってのかい?」

「そんなつもりはねぇ、ただ、あんま欲をかかない方が身のためだぜ?

 10ゴールドで収めろよ、お互い了承すれば反故にはならねぇんだからよ」


女に顔を近づけ凄む男の声を聞き、わらわらと周辺から人が集まって来た。

見覚えのあるエプロン禿げが口を挟んだ。


「おめぇよ、そんな理屈を認めると思ってんのか?

 ウルダの職人を敵に回したくねぇならしっかり払いな」


周りを囲む職人達はノコギリやハンマー、バールのような物を片手に殺気立っている。


「わ、悪かった…今は手持ちがねぇ、少し待ってくれねぇか?」

「最初からそう言えばいいのさ、10日待つ、しっかり払いな!」


集まった職人達に睨まれながら、男はバツが悪そうに去って行った。


「なんか、凄い時に来ちゃいましたね…」

「そうだな…」


集まった人達が戻っていき、狭い通路が開けると先程の女が声を掛けて来た。


「いやー、見苦しい物を見せてすまないね。見ない顔だけど冒険者かい?」

「いえ、一般人です」

「ちょっと依頼していた装備を受け取りに来たんです」

「へぇ~冒険者じゃないのに装備を作成するとは変わってるね、どんな装備だい?」

「剣と盾です」

「あとナイフです、この辺にお店がある筈なんですけど…」

「あぁ、あんた達だったのかい。それならウチの店だね、ついておいで」


案内され、店の前に立つ2人。

入口には扉が無く、開けた店内で数人の職人が作業している。

店と通路の境目付近に剣や斧が入った樽が置かれている。


「これがアタイの店、『ユミルの左手』さ。そしてアタイが店主のドナ、よろしく!」

「俺は松本です、よろしくお願いします」

「バトーだ、ドナさんはもしかして…」

「あぁ、ドワーフさ。依頼された剣と盾はアタイが作ったからね、期待していいよ!」



ドワーフ! 急にファンタジー来たー!

ドワーフってたしか、小さい髭のオッサンで鍛冶の達人とかだよな?

ってことはドナさんって大人なの? この身長で?



殆ど身長の変わらないドナをジロジロ観察する松本。


「何してるんだマツモト?」

「い、いえ…なんでもないです」



全然分からん、ちょっとガタイのいい女の子に見える。



「さ、こっちだよ」


ドナに案内され店内に入る2人。


「店内はなんか暑いですね」

「奥で炉を焚いてるからね」

「師匠、ちょっと見て頂けませんか?」


ドナの元に見習いの青年が剣を持って来た。

剣を見て何やらアドバイスするドナ、見習い青年は頭を下げて帰って行った。


「師匠、これどう思いますかね?」


エプロン禿げがプレートアーマーを持ってきてアドバイスを受けている。


「師匠、持ち手なんですが…」


職人が斧を持って来てアドバイスを受けている。



あの人って確かケロべロス杯でエプロン禿げと一緒に戦ってた人だな



「バトーさん、ドナさんって凄い人なんですか?」

「カルニが言うにはウルダで一番腕の立つ鍛冶職人だそうだ」

「あの…ドナさんって大人なんですよね?」

「そうだと思うが、実は俺にもよく分からん」



まぁ、職人は腕が全てだからな…



「ドナさん、お弟子さんが沢山いらっしゃるんですか?」

「そんなにはいないけど、この店内にいるのは皆アタイの弟子さ」



うそぉ!? 全部? あの威厳漂うオジサンも?



鎧に彫金していた威厳漂うオジサンがドナに作品を見せている。


「すみません、大変失礼だとは思いますが…ドナさんて何歳なんですか?」

「おい、マツモト何聞いてるんだ」


松本の質問で店内の動きが止まった。


「何だい坊や、ドワーフを見るのは初めてかい?」

「えぇまぁ、異世界に慣れてないもので…すみません」

「? そうだねぇハッキリ数えてないから分からないけど、60歳は超えてる筈だよ」

『 なにぃぃぃ!? 』


店内で聞き耳を立ててた弟子達が驚いている。


「そんな、20代だと思ってたのに…」

「あんな見た目で60歳なのか…」

「俺は信じねぇ、信じねぇぞ…」


泣き崩れる弟子達。


「俺の予想が当たったな! おら、さっさと出せ! 一人50シルバーだぞー!」


エプロン禿げは掛け金を回収している。 



いや、お前達も知らなかったんかい…



「何だいあんた達、そんなに気になってたなら直接聞けばいいじゃないか」

「いや、流石に恐れ多いっていうか…」

「師匠に年齢聞くなんて、ねぇ…」

「夢は夢のままがいいっていうか…」

「馬鹿な事言ってないで仕事に戻りな、炉の火を落とすんじゃないよ!」

『 へーい! 』


弟子達は複雑な気持ちで仕事に戻った。

その日作成された装備は品質にバラツキが出たそうな。



奥の部屋でバトーに剣と盾を渡すドナ。


「これが依頼された品さ!」

「凄いな! 軽いのに頑丈そうだ」


盾を装備したバトーが驚いている。


「頑丈そう、じゃない、頑丈なのさ。なんてたってあの巨大モギの素材だからね。

 盾には背中の一番硬い鱗を使用している、並大抵の攻撃じゃ傷もつかないさ。

 剣は爪を削り出しているから鉱石と違って軽い、切れ味も申し分ない筈さ」

「前の剣より長いのに軽い、手首の負担が少ないな」

「硬いから削るのに苦労したよ」


バトーが剣を素振りして感触を確かめている。


「その装備があればもっと簡単に倒せたんじゃないですか?」

「そうだな、でも鱗は固かったからどうだろうな。ミーシャの熊も手も弾かれたからな」

「熊の手? なんだいそれ?」

「デッカイ斧です、凄く大きい斧」

「正式名称はなんだったかな? 月隈の手だったか?」

「熊の手? 腕…指?」


正式名称が出てこずに頭を捻る松本とバトー。


「もしかして月隈の爪かい?」

『 あぁ~ 』


どこかスッキリした2人。


「あの斧を振れるヤツがいるのかい? まともに扱えるような物じゃないけどね?」

「ミーシャが使ってます、片手で振りますよ」 

「本当かい? 普通じゃないねそのミーシャってヤツは」

「何言ってんですか師匠、その兄さんも普通じゃないんですから」


いつも間にか部屋に入って来ていたエプロン禿げが割って入った。


「師匠はミノタウロス杯見て無いから知らないでしょうけど、

 そのミーシャって人と、その兄さんが決勝で暴れてたんですから。

 おかげでステージが粉々になって、石材加工のヤツが嘆いてましたよ」

「「 なんか、すみません… 」」


少し気まずい松本とバトー。


「その巨大モギを討伐したのも、その兄さん達ですからね。

 既製品の剣と盾でやってのけたらしいですよ」

「へぇ~、装備に頼って身の丈に合わない依頼に失敗した、どっかの馬鹿とは違うね~」



さっきのアイツ、依頼に失敗したんか…

そりゃ金無いわな



「そして、これがもう一つの依頼の品。モギの素材で作ったナイフだ!」


エプロン禿げがバトーにナイフを手渡す。

装飾の施されたケースから引き抜くと、先の尖った黒い刃が現れた。


「そっちの剣と材料と作り方は同じだ、師匠に許しを得て作らせて貰ったが、

 いや~兄さんに使って貰えるなら最高だな!」

「あ、いや、これは俺のではなく…」

「俺のナイフです…なんかすみません…」

「なにぃぃぃぃ!?」


エプロン禿げがショックを受けた。


「坊や、何歳だい?」

「8歳ですけど」

「未成年じゃねぇか…ちょっと修正するから待ってな」


エプロン禿げがナイフを持って部屋を出て行った。


「どうしたんですかね?」

「未成年は刃の付いた武器が所持禁止だからね、あのナイフの形状じゃ言い訳が効かないのさ」

「少し形を変えて日用品ってことにすれば、マツモトが所持しても問題ないんだ」

「へぇ~、なんか面倒くさいですね」

「法律だからしかたないさ、未成年でも冒険者になれるからな、

 あまり危ないことをさせたくないんだろ」


エプロン禿げが部屋に戻って来た。


「師匠、これでどうですかね?」

「いい出来じゃないかい、やるようになったねぇ」

「へへ、恐縮です!」


松本にナイフを渡すエプロン禿げ。

尖った刃先が少し丸くなっている。


「師匠からお褒め頂いた俺の自信作だ! 大事に使ってくれ!」

「ありがとう御座います!」

「マツモト、折角だから何か試し切りしてみたらどうだ?」

「そうですね、じゃぁ…切りにくい食パンを」


食パンを出してテーブルに置く松本。


「今どっからだした?」


驚く禿げを尻目にナイフを食パンに当てる。

少しナイフを引くとパンの耳に刃が入り、潰れることなく1枚の食パンが切り離された。


「す、すごい…あんなに切りにくかった食パンがこんなに簡単に…」

「全然潰れなかったな…見ろマツモト、断面がこんなに綺麗だ…」


松本とバトーが驚愕していた。


「凄すぎる! ちゃんと狙った厚さに切れますよ! 全然パン粉が出ない!」

「素晴らしいな! これが既製品とは異なるオーダーメイドのナイフか!」

「多分バトーさんの剣でも出来るんじゃないですか? 同じ作りらしいですから」

「やってみるか、変わってくれマツモト。 す、すごい!? こんなにも簡単に!?」


驚きと歓喜の声と共に食パンが切り分けられて行く。


「喜んでくれるのは嬉しいけど、剣はそういう使い方じゃないのよ…」

「俺のナイフは最高だろ坊主! 鍛冶屋日和に尽きるねぇ!」


量産された食パンは弟子達に振る舞われた。

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