表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/303

88話目【帰還する者、旅立つ者】

ウルダの城壁の外側で薪を積む人達。

雰囲気が重く、すすり泣く声が聞こえる。


「ついこの間まで元気にしてたのにな…」


牧の上に棺と花が置かれる。


「最後よ、ほら、お別れして」

「今まで…ありがとぅぅぅ、っうっう…」


神父が杖を光らせると棺は炎に包まれ、瞬く間に灰になった。


「この者の魂に安らかなる眠りと、新たな旅路の祝福を」


村人達が祈りを捧げている。



「俺もいつかは死ぬんだよな」

「誰だってそうだ、だからこそ精一杯生きるんだろ」

「さ、こっちも準備しましょ」


上空に昇ってゆく煙を横目にバトー、ミーシャ、ルドルフは牧を積んでいた。





一方、天界から下界に向けて旅立った松本。


「え~機長の松本です。

 当機は天界を出発し、現在下界に向けてフライト中。

 到着地は不明、到着時間と所要時間も不明です。

 本日はオリンポスからの雷、ペガサスの群れによる天候の悪化が予測されます。

 機体の揺れにご注意ください」


ず~っと落下していた。


「機内食は天界で作られた天然の雲、口溶けの速さと味気の無さが特徴です。

 シロップを掛ける際は顔に飛び散りますのでごお気を付けください。

 って、いつまで落ちるんだこれぇぇぇぇ!?」


分厚い雲に突っ込む松本。


「だぁぁぁ寒ぅぅい! あばばばば」


分厚い雲を抜けると青々とした大地が見えて来た。


「え~機長の松本です。

 当機はまもなく着陸態勢に入ります。

 シートベルトを締め、座席を立たないようにお願いします。

 ってこれどうすんの!? 俺は何処に向かってるのぉぉぉぉ!?」


地表へ向けて落下する松本。


「さぁ、もう少しで下界と天界の境目ですよー」

「へぇ~天界なんてあるんですね天使さん」

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」

「「 ? 」」


旗を振る天使と魂の横を松本が通り過ぎて行く。

みるみる地面が近付き、城壁に囲まれた町が迫ると

進行方向に焚火と数人の人が見えた。


「あぶなぁぁぁい! 避けてぇぇ!」


衝突する直前に方向が変わり、横たわる松本の体にヌルンと吸い込まれた。



あ、そういう仕組みなのね…

いま鼻から入らなかったか?



戻った体の感覚を確かめ、辺りを見渡すと見慣れた3人が焚火を突いていた。


「う…流石に体の動きが鈍い…鈍ってるな…」


よろよろと起き上がり3人に声を掛けた。


「すみません、戻りました」

「ほらな、俺の言った通り匂いに釣られて起きただろ」

「5日も目を覚まさなかったから心配したぞ」

「まったく、変なキノコ食べるんじゃないわよ。危うく死ぬところよ」

「はは、すみません、気を付けます」


苦笑いする松本の腹が鳴った。


「だっはっは、そりゃ腹も減るわな!」

「丁度芋が焼けたぞ、食べるだろマツモト」

「沢山あるわよ、熱いから気を付けなさい」

「ありがとう御座います」


ルドルフから焼き芋を受け取り、少し冷ましてから食べる松本。


「うぐっ!?」

「どうしたの?」

「い、いや…5日も何も食べてなかったから胃が…ビックリして…」

「余り無理しない方がいいぞー」

「そうですね…」


松本はインスタントスープにパンを付け、ふやかして食べた。




芋を食べた一同はカルニの元を訪れ、売店の裏の部屋で現状を説明した。

話を聞いたカルニが頭を抱えていた。


「最悪ね、まさか襲撃犯が魔族で魔王が復活する可能性があるなんて…」

「その変わりレム様が体現されて、光魔法が復活したからよ、悪いことばかりじゃねぇさ」

「これから私とミーシャは王都に戻り調査結果を報告するわ。

 王都から今後の方針について連絡があるかもしれないから、

 今は大事にしない方がいいと思う」

「一応、デフラ町長には伝えておくわ。その後の判断は上の人達に任せるわ~」


お手上げといった様子のカルニ。


「俺とマツモトは依頼していた武器を受け取た後、

 光筋教団に知らせに行こうと思うんだが大丈夫か?」

「光筋教団であれば知らせても大丈夫だと思うわ、昔からレム様の信者として活動してるもの。

 まぁ、今は光魔法じゃなくて重力魔法が主力だけど」



へぇ~、重力魔法なんてあるのか、カッコイイじゃない。

元々光魔法の伝承が目的の組織だから光筋教団ってのは魔法使いの集まりなのか?



「重力魔法が主力なんて変わってるわね」

「ルドルフさん、重力魔法ってどんな魔法なんですか?」

「文字通り重力を操るんだけど、あまり好んで使う人はいないわね。

 戦闘で使いにくいから私は取得してないわ」

「ルドルフも習得してなかったの? 私もよ~、日常生活でも使い道無いのよね~」

「大体、一定の空間を重くするだけってのが微妙なのよ、物単体ならまだ使い道あるけど…」

「そうなのよ~、マナも継続的に使用するし、戦闘で敵を遅くすることも出来るけど、

 近寄って攻撃しようにも魔法の範囲内に入ると影響受けちゃうし。

 魔法でなら追撃出来るけど、それなら最初から別な魔法で攻撃した方が早いのよね、

 マナの節約になるし」


質問した松本をほっといて、煎餅片手に片手に盛り上がるルドルフとカルニ。

マダムの片鱗が見える。


「それじゃ、重力魔法ってどんな時に使えるんですか?」

「戦闘なら敵から逃げる時に足止めするとかかしら?」

「建物作る時の地盤固める時に使われてるわよ」

「なるほど、建築系ですか」


地味に皆の役に立っている重力魔法。

建築は基礎工事が大切なのだ。




「そんじゃそろそろ行くかな」

「そうね」

「見送るわ」


ミーシャとルドルフを見送るため一同は煎餅片手に部屋を出た。




場所は変わり西側の城門。

数台の馬車が止まっており、利用客を待っている。

ただ、松本の知っている馬車とは異なり、先頭に大きな毛玉が付いていた。


「バトーさん、何ですかあの毛玉は?」

「あれは怠けシープっていう、普段は怠けて寝てばかりいる羊だ」


松本が大きな毛玉を覗き込むと、鼻提灯を膨らませながら羊が寝ていた。



へぇ~羊か、あまり見たことなかったけど結構可愛いな

しかしこの場合は馬車っていうのか? 羊車か?



ミーシャが馬車の青年と話をしている。


「お客さん、どこまで行きます?」

「王都まで頼むわ」

「遠いですね、もしかしてお急ぎですか?」

「あぁ、出来るだけ早く頼む」

「それだと1ミリになりますけど…」

「かまわねぇ、2人頼むわ」

「ありがとうございます。準備しますので少し待ってください」

「おーいルドルフー。この馬車で行くわー荷物載せろー」


荷物を載せるミーシャとルドルフ。

青年が寝ている羊の毛をバリカンで刈り始めた。


「結構短くするのね、ミーシャ、何ミリにしたの?」

「1ミリだ、運転は荒くなるがこれが一番早いからな」

「お尻痛くなりそうね…」

「一大事だからな仕方ねぇだろ、我慢しろよルドルフ」


羊を転がし反対側の毛を刈る青年。

横で女の子が刈り取られた毛を袋に詰めている。


「カルニさん、あれは何を?」

「怠けシープの毛は布団やクッションの中身に使うの。

 ああやって布団屋さんとかが買いに来るのよ」

「マツモトの布団も中身は怠けシープの毛だっただろ」

「そうなんですか?」

「タグに書いてあったぞ」


ウルダ産、怠けシープ毛の布団は冬でも使用可能です。




青年が羊の毛を狩り終え、女の子から代金を受け取っている。


「お客さん準備出来ましたよー」

「お、終わったみたいだな、マツモトちょっと怠けシープを見て来てみろ」

「はいー」


丸刈りにされた羊の前に立つ松本は、

頭の毛だけ残されリーゼント姿になった羊に睨みつけられていた。


「メェェ!? メェ? メェェェン?」


額に血管を浮かせ、松本に顔を近づけ睨みつける羊。

ヤンキーのそれである。



カチキレてますやん…



「ッぺ! メェェ!? メェェェン? ッペ! メェェェェェ!?」



めっちゃ唾吐くやん…




「なんかメッチャ睨まれてるですけど…」

「怠けシープは日頃おっとりしているが、毛を剃られると怒るんだ」

「ただし、誰でも睨むわけじゃなくて、自分より弱いと思った相手だけを睨むんだよ」

「つまりこれは…」

「ッペ! メェェェン?」


唾を吐き松本を見下す羊。


「上等だこの毛玉ー! その立派なリーゼント刈り取ってやろうかぁぁぁ!」

「メェェェェェェェン!」

「「 だーっはっは! 」」


羊と揉み合う松本を見てミーシャとバトーが笑い転げていた。


「子供に何やらせてんのよ…」

「全員子供よ…」


転げまわる男共を見てルドルフとカルニは呆れていた。




「それでは出発します、しっかり掴まって下さい!」


青年が御者席に体を固定する。

ミーシャとルドルフも座席に体を固定した。


「それじゃぁそろそろ行くぜ、元気でなー」

「獣人の里は頼んだわよ2人共、カルニも大変だと思うけどしっかりね」

「久々に会えてうれしかったよ、気を付けてなルドルフ、ミーシャ」

「お互い頑張りましょう、また何か情報があったら教えて」

「任せて下さい! あとこれ餞別にどうぞ」


フランスパンと食パンを出し、半分ずつ手渡す松本。


「ありがとよ、俺はフランスパンがいいから交換しようぜルドルフ」

「私も食べたいから駄目、有難く自分の分を食べなさいミーシャ」


青年が突然現れたパンを不思議そうに見ていた。


「それとカルニ、あんた結婚したいなら早くした方がいいわよ

 死ぬかも知れないんだから」

「そんなに焦らなくてもいつか私を迎えに来てくれるわよ」

「はぁー、いい年して何夢見てんのよ、あんたもう27でしょ?」

「ルドルフだって28じゃない」

「私は結婚願望ないからいいのよ」

「はいはい、余計な事言ってないで早くいきなさいよルドルフ」

「親切心でいってんのよ、先ずは小さい胸が好きな男を探しなさいよ」

「あん? ルドルフも大して変わらないじゃない、大きなお世話よ」


ルドルフとカルニの間にマナが集まり出す


「おい…」

「ちょっと…」

「落ち着け2人共…」


焦り出す男共。


「0と1では大きな差があるのよ…」

「誰が0よ…失礼ね…」


勢いを増すマナ、周りの怠けシープが起きてオロオロしている。

モヒカン羊は怯えガタガタ震えている。


「は、早く馬車を出せ!」

「え? でも話し中じゃ…」

「いいから! 直ぐ出すんだ!」

「急いでぇぇぇ!」

「しゅ、出発しますー!」


青年が手綱を引くと馬車が物凄い勢いで消えた。


「こっち来なさいよカルニー!」

「降りてきなさいよルドルフー!」


砂埃の向こうに声が遠ざかって行った。



「凄い速さですね…」

「怠けシープは刈られた毛の短さに応じて速度が増すんだが、今回は普段より早いな…」

「ちょっとカルニさん辞めて下さいよー、また巻き添えになりたくないですよー」

「ふふ、冗談よ。元気でねルドルフ、ミーシャ」

「勘弁してくれカルニ、肝が冷えたぞ…」

「あら、金獅子ともあろう者が情けない」

「周りが勝手に呼んでるだけだ、俺は人間だ」

「いいじゃないですか金獅子、俺なんて全裸マンか工場長ですよ」

「それは間違ってない、正しい字名だ」

「ふふふふ」

「はははは」

「はははは」


ルドルフとミーシャは王都に旅立った。

見送る3人は笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ