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87話目【天界 7 そして下界へ】

記録整理が終わり、記録庫からパソコンを運び出す松本と女神とアマダ。


「持ってきましたよ、神様、早く俺を下界に返して下さい」

「まだ駄目よ、テーブル片付けるの手伝って頂戴。部屋まで運ぶの大変なのよ」

「自称、超有能天使アマダがいるじゃないですか」

「それが出来たら苦労しないわよ」


女神が指さす先でアマダが天使達に喋り掛けている。


「問題はここからでな、生肉が尋常じゃなく臆病でことあるごとに気絶するんだよ。

 このままでは仕事どころではない、その時だ、私の頭脳にゼウス様の雷が落ち、

 いやこれは本当にゼウス様の雷では無く、それ位凄いという比喩でだな、

 どうだ知的な表現だろ?」

「どっせいーい」


嬉々として話すアマダを無視し、黙々と転生君のハンドルを回す天使達。


「椅子に縛り上げた生肉の前で箱を開けると中には骨が入っていた。

 なんてことはない骨のオブジェだ。、だがしかし! それでも生肉は気絶してな。

 はは、本当にどうしようもない臆病者だろ?」

「どっせーい」


天使達は一切聞いていないが止まることを知らないアマダ。

とても嬉しそうに話している。


「アマダさん、神様がテーブル運ぶの手伝って欲しいみたいですよ」

「そうだ君達、私のよなうエリートになる方法を伝授してやろう、特別だぞ?」

「どっせいーい」


声を掛けた松本に対し、あからさまに背を向け天使に語り掛けるアマダ。


「聞いてますー? 麗しきペルセポネ様がお呼びですよー」

「まずは重要なのは精神面だ、どんなことにも臆さず冷静に対処する必要があるからな。

 私は最初から完ぺきだったから苦労はしなかったが、そうだな君達であれば…」

「どっせーい」


松本が存在しないように振る舞うアマダ。


「おーい、アマダさんー」

「強靭な肉体を得たいならトライデント槍術がおススメだ。

 因みに私は免許皆伝の腕前だ、どうだ? 凄いだろう?」

「おいアマダ、保管庫が怖いんだろ」

「黙れ生肉」

「聞こえてんじゃねぇか、お呼びだぞ」

「いいか、トライデント槍術の基本姿勢はこうっ、この時に手幅と手首の角度に気を付けろ」

「どっせーい」



駄目だコイツ…



「だから言ったでしょ、さぁ行くわよ」

「終わったらちゃんと帰して下さいよ」


女神と松本は保管庫に消えた。



暫くすると黒電話が鳴り天使が受話器を取った。


「どちら様ですかー?」

「おっほっほ、ワシじゃよハデスじゃよ~」

「ハデス様ー、どうされたんですかー?」

「記録整理はどうなったかの?」

「さっき終わったみたいですー」

「ほほー早かったの、アマダを上手く使ったようじゃの~阿保じゃが有能じゃからの~」

「ずっと一人で話してますよー」

「っほっほっほ、いつもの通りじゃの。ちとペルセポネに代わってくれんかの~」

「いま保管庫の中にいるので暫く帰ってこないと思いますー」

「それじゃアマダに代わってくれんかの~」

「はーい。アマダさんーハデス様ですー」


天使に代わりアマダが受話器を握る。


「はい、有能のアマダです」

「よくやってくれたの~期待通りじゃの~アマダ」

「はは、よしてくださいよハデス様。それほどでもあります、有能ですから」

「とこでじゃな、そこに人の子がおるじゃろ? 

 過去にその人の子の世界に転生した3人を調べて欲しいんじゃよ」

「任して下さいハデス様、この有能な私が完璧にこなして見せますよ」

「頼むの~、天使ちゃんに代わってくれんかの?」

「了解です。ハデス様が話があるようだ」


横にいる天使に受話器を渡し、ノートパソコンで記録を調べるアマダ。



「変わりましたー」

「すまんのじゃが、ペルセポネが帰って来たら連絡するように伝えてくれんかの~」

「分かりましたー」

「いつも助かるの~、またお菓子送るからの~」

「ありがとうございますー」

「よろしくの~」


通話が切れ受話器を置く天使。


「ハデス様がお菓子くれるってー」

「わーい、たのしみー」


喜ぶ天使達の後ろでアマダが首を傾げていた。




暫くして保管庫から松本と女神が帰って来た。


「ふぅ~着いた~」

「延長コード回収しましょ」

「ペルセポネ様、ちょっと見て頂きたいのですが…」


ノートパソコンを持ったアマダが声を掛けた。


「ハデス様から依頼されて、生肉の世界に転移した人間を調べていたのですが」

「どうしたの?」

「同じ時転移した3人の内、1人の記録が変なんですよ」

「どれどれ?」


画面を覗き込む女神とアマダ。



過去に転生した3人て確か魔王と戦った勇者だよな?



「俺にも見せて下さい」



翻訳眼鏡を掛け画面を覗く松本。



「ほらここです、転移後の記録が無いんですよ」

「確かに…なんでかしら?」


首を傾げる女神。


「それって変なんですか?」

「変っていうか、普通はあり得ないって感じね」

「どういうことですか?」

「知りたいか生肉、よし教えてやろう。この者は過去に君の世界に転移している。

 ここまでは分かるな?」


自信満々に説明してくれるアマダ、実にイキイキしている。


「転移した時期はおよそ1000年前、転生後も種族は変わらず人間、

 であれば100年経たないうちに確実に死んでいる筈だ。

 生物が死ぬと必ずここに来て魂の泉へ還る。

 その世界にとって重要な生物の場合は魂の情報は記録され保管庫に収められるのだ」

「全員の情報が記録されるわけじゃないんですか?」

「っは、全生物の記録なんで出来る筈ないだろう、いったいどれだけの世界があり、

 どれだけの生物がいると思っているんだ君は。

 それにだ、君のような何の変哲もない生肉の記録を残してどうするというのだ」


松本を小馬鹿し実に楽しそうなアマダ。



最後の一言要るぅぅぅ?

そんなんだから友達出来ないんだぞアマダ



「軍神アレス様の指導を受けた人間が記録されない訳がない。

 その証拠に同じ時に転移した2人は転移前と後の記録があるだろう、ほらここだ。

 つまりだ、転生後の記録が無いということは死んでいないということになる。

 いや、正確に言えば死後ここに来て魂の情報を記録されていないことになる!

 どうだこの順序立てた完璧な説明。流石の生肉でも理解できただろう」

「あ、ありがとう御座います…人間が1000年も死なない筈ないし、

 神様、記録し忘れたんじゃないですか?」

「それは無いわね、直ぐ分かるもの、ほらあの魂色が違うでしょ」


女神が指さす先には他の白い魂と異なり、色が付いている。


「色付きの魂だー」

「記録しないとー」

「そっち持ってー」

「引っ張るよー、せーの!」


天使達が丸い魂の手?みたいな物を左右に引っ張るとパカッと半分に割れる。

断面を覗き込み内容をメモしている。


「なに!? 今データ化したというのに手書きするだと!?

 あれでは二度手間になっていしまう、ちょと2人もこっちに来るんだ」

「「 はーい 」」

「いいか2人共、魂の情報は今後はデータで管理する。

 メモを取ってから入力すると二度手間だからな、ここにこうやって入力するんだ」

「「 はーい 」」


アマダが天使達にパソコンの入力方法を教えている。

有能である。



「魂の色って決まってるんですか?」

「基本は白よ、ここに来る前にゲートを通して、基準に以上の魂は自動で色が塗られるの」

「そ、そうですか…」



なんか製品の品質チェックみたいだな…



記録の終わった魂を天使達が糊付けしている。


「どっせーい」


色付きの魂は転生君で情報をリセットされ真っ白になった。




「確実に死亡していて…」

「記録時の不備が無いとすると…ま、まさか…」


松本と女神の視線が保管庫に向く。


「いい青空だな、お、あの雲の形…アイアスの盾に似てるな」


アマダは青空を見ている。


3人の脳裏に最悪の可能性が浮かんでいた。

保管庫内の全記録のデータ化が完了し、それでも埋まらぬ空白。


残された可能性は…『データ化時の取り込みミス』





「神様、今すぐ俺を下界に帰して下さい」

「その前に~ちょっと一緒に記録の確認しましょうよ~」

「断る! 今から記録の確認なんてしてたら俺の体は確実に死ぬ!」

「全部じゃないわ、ほんの石板だけよ! 手伝って! 一人で確認なんて絶対に嫌よ!」

「アマダがいるでしょ!? 俺を帰して! もうほんと死んじゃうから帰してぇぇぇ!」

「よーし、皆、にゅーるの時間だ。はは、押すんじゃない」


アマダはテラスで3匹の犬にオヤツを与えている。

暗がりでなければ別に怖くないらしい。


「一緒に行きましょうよ、逝くとこまで逝きましょうよぉぉぉ!」

「いやぁぁぁぁ! 離してぇぇぇ! 殺されるぅぅぅ」


女神に引きずられて行く松本。

命の危機である。


「神様ー、ハデス様が連絡するように言ってしたよー」

「電話してくださいー」

「そうなの? 仕方ないわね…」


天使達のお陰で松本は部屋に留まった。

ダイヤルを回す女神、ハデスが出た。


「記録整理が終わったようじゃの~ペルセポネ」

「ハデス様に送って頂いだアマダのお陰です、ありがとうございました」

「なんのなんの、ただ人の子の助力も忘れては可哀想じゃの~」

「はひっ!? ハ、ハデス様、どうしてそのことを?」

「っほっほっほ、ワシの目は全て見通し、ワシの耳は全てを聞くことが出来るからの~。

 人の子の世界時間で5日位経過しとるから、直ぐに帰してやらんといかんの~」

「はいぃぃぃ! 直ちに!」

「それと、折角じゃからお土産でも持たしてあげたらどうかの?」

「え!? 下界に天界の物を持たせて大丈夫なんですか?」

「翻訳眼鏡程度なら問題ないじゃろ、今後必要になる筈じゃからの~」

「はぁ、ハデス様がそうおっしゃるなら…」

「それじゃぁの~」


通話が切れた。


「喜びなさい人の子よ、下界に帰します」

「本当ですか神様!? 嘘じゃないですよね!? 今度こそ本当ですよね!?」

「疑り深いわね…本当よ、いろいろありがとう、後はこっちでやるわ」

「いやっほーう! 生きて帰れるぅぅぅ!」


松本、感涙。


「その眼鏡はお礼としてあげるから、さぁ準備して」

「もう出来てます!」

「そう、それならこっち来て頂戴」

「はいー」


テラスの淵に立つ松本、

女神、天使達、アマダが見送る。


「助かったわ、次はしっかり死んでから来るのよ」

「さよーならー」

「お元気でー」

「短い間だったが楽しかったぞ生肉、下界で私のことを語るときは

 超有能天使を頭に付けるのを忘れるなよ、いや大天使アマダも捨てがたいな…」

「お前は最後までブレないな…」

「お土産も頂いちゃって、皆さん有難う御座いましたー」

「それじゃ行ってらっしゃい、汝の旅路に幸あらんことを!」


女神が松本を突き落とした。


「…へ? なにぃぃぃ!?」


松本は下界に消えた。





黒電話のダイヤルを回す天使。


「ハデス様ですかー?」

「そうじゃよ~ちゃんと人の子を帰したかの~?」

「さっき帰しましたー、眼鏡も持って帰りましたー」

「報告ありがとうの~またよろしく頼むの~」

「了解ですー」

「それとさっきお菓子送ったからの~皆で食べるのじゃよ」

「ありがとうございますー」

「それじゃぁの~」


ハデスの目と耳は天使達であった。



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