81話目【天界 1 天使と女神、再び】
…う~ん…
…ん………
「ぉ…ぃ…」
…なんだ? 誰かが呼んでいるような…
……気のせいか…
「ぉーい おきなさーい」
………もう少し寝させて…
「起きないわねぇ、天使ちゃんちょっと叩いて頂戴」
「わかりましたー。 せーの…」
パンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッ!
「いったー! えぇ?痛いんですけどー!?」
「この前も似たようなリアクションだった気がするわね」
「まったく同じですよ神様ー」
「同じですー」
目を覚ました松本の目の前には、大人の女性と2人の子供がいた。
というか以前見たことある女神と2人の天使だった。
女神の名はペルセポネ。
魂の輪廻と転生を管理する女神。
以前、下界にトースターを落下させ、回収ボタンと爆破ボタンを間違え松本を爆死させた。
あまつさえ事件を隠蔽しようとしたポンコツ女神である。
天使ちゃん達はカワイイ。
大きな机と本棚、壁際の黒電話とFAX…
そしてガラスの向こうにはテラス席…
見覚えのあるポンコツ神と天使…
「うそぉ!? 俺また死んだのぉォぉ!?」
「うるさいわね、まだ死んでいないから安心しなさい」
「え!? 死んでないんですか?」
「死んでないわよ、ほらよく見て見なさい、額に書いてあるでしょ?」
丸い手鏡を向ける女神。
鏡には幼い少年の顔が映っており、額に「生」と書かれてる。
「…なま?」
「そうよ、理解したなら落ち着きなさい。えーっと、名前なんだったかしら? 生肉?」
いや、生肉て…
「松本ですよ、松本実」
「あぁ~、確かそんな名前だったわね」
こんのポンコツがぁぁ…
てめぇが殺したんだろうが、忘れられなくしてやろうか? おぉん!?
額に血管を浮かべるも怒りを抑える松本。
「あのー神よ、俺なんでここにいるのでしょうか?」
「知らないけど? こっちが聞きたいわよ、なんか変な物でも食べたんじゃない?」
「え~本当に~?」
「何よその目は? さては信じて無いわね? あのね、私は神なの、全知全能の神!
人の子風情が対等に話できる存在じゃないのよ! 敬いなさいよ!」
「前科があるしなぁ~ポンコツだしなぁ~信用できないなぁ~」
女神を訝しむ松本。
「キィィィ腹立つ! 天使ちゃん達ー!」
「「 了解です神様ー 」」
女神が手を叩くと、天使によりグルグル巻きにされる松本。
もう一人の天使が転生君のハンドルを回し近付いてくる。
2つ並んだローラーがグルグルと回転している。
松本を持ち上げる女神と天使。
「ちょ!? ちょっと神様!? これはいったい…」
「私の前科とやらを、あなたの存在ごとなかったことにしてあげるわ」
「ちょっと!? 俺まだ死んでないんですけど!?
あんなローラーに巻き込まれたら大変なことに…」
「大丈夫、安心しなさい人の子よ。魂の泉はいいところよ」
「いやぁぁぁ! 怖すぎぃぃぃ! 生意気言ってすみませんでしたぁぁぁやめてぇぇぇ!」
ローラーに押し込もうとする神と天使達にに松本は必死に抗った。
「すみませんでした、貴方様こそ全知全能の神であらせられます」
深々と土下座する少年。
神の御業(物理)によって松本は改心した。
ジジジジジ…
チンッ!
シァッ!
トースターを囲む4人を香ばしい香りが包む。
「天使ちゃん達が先に食べて」
「わーい! ありがとー神様」
「今日はマーマレードジャムですー」
焼けた2枚を天使達に渡し、新しい食パンをセットする。
パンを待つ間、松本と女神は紅茶を楽しんでいる。
「ぐぬぬ…瓶が空かない…」
「どれ、オジサンに貸してごらん」
天使から瓶を受け取る松本、以前とは異なり見た目は少年である。
「ぬん! はいどーぞ」
「ありがとー」
「早くジャムちょうだいよー」
スプーン片手にジャム待ちの天使、松本と女神の顔が緩くなっている。
「うふふ、神様、俺帰れるんでしょうか?」
「うふふ、返れるわよ、記録整理を手伝った後にですけど」
「…それって神様の仕事なのでは?」
ジジジジジ…
チンッ!
シァッ!
焼けたパンを皿に移し、次をセットする松本。
「いいじゃない折角来たんだから手伝いなさい。
最近訪れる魂が急に増えて、仕事が思うように進まないのよ。
松本?が手伝ってくれば天使ちゃん達に転生君を任せて記録整理が進められるわ」
まだ名前覚えてないんか、このポンコツ…
口には出せないジャム待ちのチキン松本。
油断すれば転生君に巻き込まれる可能性がある。
「それ終わったら帰れるんですよね…」
「ちゃんと帰してあげるわよ、
それに貴方の今いる世界に関する記録もあるんだから少しは為になるでしょ」
「どっせーい!」
ビシャー!
天使達がローラーに魂をセットし、ハンドルを回すと液体が飛び散る。
「あの汁何なんですか…」
「魂の情報よ、魂の泉に送る前に搾り取ってリセットしてるの」
「どっせーい!」
ビシャー!
液体まみれの天使体が次の魂から情報を搾り取っている。
いや…見た目が怖いんですけど…
「さ、こっちに来て」
「はいー」
女神に案内され扉の前にやって来た。
「ここは?」
「過去の重要な魂の情報が記録されている保管庫よ」
女神が手をかざすと扉が光って消えた。
「付いてきて松本」
「はいー、い!?」
キョロキョロと周りを見渡す松本。
並んだ棚に書類が置かれている。
部屋の中はとてつもなく広く、左右と奥の壁が見えない。
「この部屋は全世界の魂の情報が記録されているの、
凄く広いから迷わないように気を付けてね」
「あのーあそこに骸骨みたいなものがあるんですけど…」
「オブジェよ」
「絶対嘘だ! 迷ったら死ぬ!」
「大丈夫よ、上に看板付いてるから」
「ほんとだ」
見上げると出口と書かれた看板が垂れており、矢印で方向が示されている。
「いま記録の整理をしてて、古い記録をデータ化してるのよ」
「何!? 黒電話、FAX、複写式シートのポンコツ部署がついにデータ化されるんですか?」
「ポンコツ部署ってあんたね…ようやく予算が降りたのよ。
そんなわけで今からこれをデータ化しないといけないの」
「え…いまから? …これを?」
「そう、今から、これを全部」
「…全部」
周りを見渡す松本、
壁が見えない部屋の中に書類とパピルス、奥の方に石板が見える。
「ここは…地獄か…」
「なにいってるの天界よ」
次回「データ化しないと出られない天界」
次の話も松本と地獄に付き合ってもらう。




