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80話目【出発前日のポッポ村】

午前中のポッポ村、

松本はいつものように斧を振っている。


「どっせーい! どっせーい!」

「そろそろ倒れるぞー!」


ゴードンが合図すると村人達が距離を取る。


「行きますよー、どっせいーい!」


松本が斧を振るとメキメキと音を立て木が倒れた。


「やるじゃねぇかマツモト、でもよ、明日出発なんだからあんまり無理するなよ?」

「そうも言ってられません、今日はもう1本倒す予定なんです」

「ほーん、それなら俺が手伝ってやるよ」


巨大な斧でか肩をトントンするミーシャ。


「ミーシャさんがですか?」

「そりゃありがてぇな、あの木倒して貰えねぇか?」


ゴードンが少し離れた位置の木にミーシャを案内する。


「この木でいいのか?」

「ああ、あっちの方向に倒してくれ。おーい、皆離れろー! 木が倒れるぞー!」


ゴードンの声を聞き、倒れた木を運ぼうとしていた村人達が振り向いた。


「なんだよ驚かすなよゴードン、まだ全然斧入れてないじゃないか」

「そういう冗談はやめろよ、いざッて時に信じないヤツが出て大怪我するだろ」


質の悪い冗談だと思われ文句を言われている。


「いや、冗談じゃねぇって。本当に倒れるんだって」

「あのな、いい加減しろよゴードン。俺達は木こりだ、そういう冗談は許されねぇ」

「その歳でもうボケたんじゃないだろうなゴードン」


散々な言われようである。

ポッポ村の村人達は殆ど木こりの為、木の倒し方を熟知している。

それゆえに、まったく手付かずの木が倒れると言われても信じる者はいなかった。


「本当なんだけどな」

「そりゃ普通は信じませんって…」


木の横でミーシャと松本が静観していると、バトーとルドルフがやって来た。


「いったいどうしたんだ?」

「聞いてくれよバトー、ゴードンが質の悪い冗談を言うんだよ」

「まだ斧を入れてないのに、「倒れる」なんて声を掛けやがるんだよ。

 子供じゃあるまいし、バトーもこの冗談がどれだけ危ないか知ってるはずだろ?」

「嘘じゃねぇんだって、なぁバトー?」


誰も信じてくれず、お手上げのゴードンがバトーに助けを求めた。


「誰が切るんだ?」


ミーシャを指さす一同。

バトーとルドルフはため息をついた。


「信じる方が変よね…」

「いいから取りあえず離れるんだ、危ないからな」

「バトーまでか? お前達なぁ…」

「いいから! 説明するより見た方が早いんだって」

「本当に危なねぇからよ、ちゃんと全員離れろって!」


しぶしぶ離れる村人達。

ゴードンとバトーが倒れる方向に残っている村人をどかす。


「バトー、もういいかー?」

「いいぞ! やってくれミーシャ」


持ち手を広く握り、斧を振りかぶるミーシャ。


「行くぜぇ! どりやぁぁぁ!」


斧が当たった部分から寸断され、木が横滑りする。

通常、木を切り倒すと幹を中心に上側(葉っぱ側)が倒れるが、

ミーシャが切り倒した木は幹側が前方に横滑りして倒れた。


空いた口の塞がらない村人達。


「おめぇらよ、だからいっただろ」

「すまなかったゴードン、俺達が間違ってたみたいだ…」

「いや、こんなの想像できるわけないだろ…」

「まぁなぁ、それより、早いうちに運んじまおうぜ」


倒した木の下に筒状の棒を数本入れ、後方から木を押す。

前方ではロープで引いている。


「行くぞー、せーの!」

『どりゃぁぁ!』


一番後ろの棒を前に持って行き、再び木の下に入れる。

これを繰り返して木材加工所まで運んでいくのだ。



「よい、しょぉぉ!」

「押す方が下半身が鍛えられていいな」

「腰を入れないと力が入らないからな、自然と下半身の力を伝えられるようになるぞ」

「な、なんで私まで…」


松本とバトーに混じり、ミーシャとルドルフも木を押していた。


「あと1本ですね」

「いくぞミーシャ、ルドルフ」

「おうよ!」

「ちょ、ちょっと…」


2本目を運び終えたルドルフは回復魔法で復活した。


「そろそろ、休憩にするか」


ゴードンの声で数人の村人が村の隅に移動する。

ぞろぞろと他の村人達も集まって来た。


「俺達も行きましょうか」

「今度は何よ…」

「光魔法のポージング練習だ、いくぞミーシャ、ルドルフ」

「おう!」


村人達に混じってポージング練習を行う。

獣人のカテリア、マルメロも参加してポーズを取っている。

光魔法が使用出来ないニャリモヤと子供達は、なんとなく参加していた。


「つ…疲れた…」

「大変ですけど毎日練習しないと上手くなりませんよ、ルドルフさん」

「そうね…」


ルドルフは回復魔法で復活した。


「こうやって力こぶを作ってだな、ダブルバイセップス!」

「「 おぉ~ 」」


筋力量の多いゴードンとミーシャはバトーからボディビルのポージングを教えて貰っていた。


一息ついて木材加工と畑仕事に戻る村人達。



「っほ、っほ、っほ、っほ、っほ…」


松本は大きなノコギリで木を輪切りにしている。


「バトー、こっちも輪切りにするのか?」

「そうだ、これくらいの幅で頼む」

「離れとけよ、おりゃぁぁ!」


ミーシャによって、あっという間に1本の木が輪切りにされた。


「すっげぇな、ミーシャさん…」

「Sランク冒険者って皆あんなかんじなのか?」

「いや、特別だろ。ルドルフさんもSランク冒険者らしいからな…」


もう1本の木を見る村人達。


「でりゃぁぁぁ! だからなんで私までなのよぉぉぉぉ!」

「は、早い! 流石ルドルフさん!」


村人の視線の先では松本から引き継いだルドルフが必死にノコギリを引いていた。

輪切りにし終えたルドルフは回復魔法で復活した。



昼食を終え、店の準備をする松本。

最近はフランスパンの横に食パンも並んでいる。


「工場長、食パン2枚ちょうだい!」

「はい、2ブロンズね」

「全裸マン、食パンちょーだい! 2枚!」

「はい、1ドングリね~」


受け取った食パンを焼かずにムシャる子供達。

最近では硬いフランスパンより、柔らかい食パンの方が人気である。


「あんたの呼び名と値段設定どうなってんのよ?」


店の後ろで食パンを食べていたルドルフが声を掛けた。


「子供達の勉強兼オヤツなので値段設定はこれでいいんですよ」

「呼び名は?」

「ふふ、名は体を表すってね!」


親指を立て刃を光らせる松本。


「それじゃただの変態じゃない」


全裸の工場長である。


バトーとミーシャが店にやって来た。


「マツモト、俺にも食パンの1枚頼むよ」

「俺はフランスパンにするわ」

「バトーさんは1ブロンズ、ミーシャさんは2ブロンズですね」


1ブロンズを横に置かれた貝殻に入れ食パンを取るバトー。

ミーシャは2ブロンズ入れた。


「なんでこんなにドングリが入ってるんだ?」

「無人販売にするとドングリが増えるんです…」


そう、無人販売の裏ではドングリ少女が暗躍しているのだ。


「マツモト、そろそろ訓練するか?」

「やりますか、それじゃ無人販売に切り替えますので…」


店頭からはパンが消え、貝殻の中にドングリが増えた。





「っほ! っほ! っほ!…」


斧を振るミーシャ


「っは! っは! っは!…」


ミーシャの隣で杖を振るルドルフ


「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」


ルドルフの隣で白目を剥きながら鍬を振る松本。


「あと100回だー休むなよー」

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」


素振りでは松本とルドルフが回復魔法で復活した。


「いやー意外と疲れるな」

「全然以外じゃないわよ…なんでさっきから体力使うことやらされてるのよ」

「なはは、流れでついな。調査も終わって暇だしよ、たまには体動かさないと太るぞルドルフ」

「大きなお世話よ! 明日出発なのに疲れてどうすんのよ」

「ふふふ、甘いですねルドルフさん、まだ組手が残ってますよ…」


回復したはずなのにプルプルする松本。


「大丈夫か? マツモト…」

「あまり無理しないほうがいいわよ…」

「皆、ちょっと休憩にしないか? 焼き芋が焼けたらしい」

「「「 いやっほーう! 」」」


ポッポ村の広場から上がる煙に4人は引かれて行った。



「カテリアちゃん、これ芋掘り手伝ってくれたお礼よ。帰ってみんなで食べて頂戴」

「いいんですか?」

「おほほ、いいのよ~、いつも手伝ってくれてありがとね」

「ありがとう御座います!」


マダムから芋を受け取りご満悦のカテリア。


「よかったではないかカテリア、これで夕飯が出来たのである」

「そうね、帰ったら食べましょうニャリモヤ。…なんだか凄い人気ね」


広場で横になるニャリモヤに子供達がめり込んでいた。

ドングリ少女が耳を触っている。


「何故か子供達が寄って来るのである、迂闊に動けないのである」


カテリアはマダムに、ニャリモヤは子供達に人気だった。



「獣人の方達も村に馴染んできましたね」

「あの様子なら、俺達がウルダに行ってる間も問題ないだろう」


村人と触れ合う獣人達を見て安心する松本とバトー。



「むふふふ、熱いから気を付けるのよマルメロ君」

「自分で食べられますから大丈夫ですよウィンナー姉さん」

「遠慮しないでいいのよ、さぁ!」


ウィンディが焼き芋片手にマルメロを胸に食い込ませていた。


「あっちは問題ありそうですけど…」

「そうだな…」


ご満悦のウィンディを見て不安になる松本とバトー。



「ちょっとウィンディ、昨日あれだけ言ったのに分かってないようね…」

「レ、レベッカ姉さん!? こ、ここれはっ、焼き芋を食べさせてあげようととと…」

「はいマルメロ君、焼き芋どうぞ、熱いから気を付けて食べてね」

「あ、ありがとう御座います、レベッカさん」


ウィンディから奪い取った焼き芋をマルメロに手渡すレベッカ姉さん。


「ちょっとウィンディ、こっち来なさい…」

「ち、違うんです! やめてレベッカ姉さん、いやあああああああ!」


ウィンナー姉さんはレベッカ姉さんに引きずられて消えた。



「大丈夫そうですね」

「そうだな、焼き芋食うか」


引きずられるウィンディを見て安心した松本とバトー。

ポッポ村にレベッカ姉さんがいる限りウィンナー姉さんの悪事は捌かれるのだ。


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