8話目【抗う者達】
村が燃えていた
闇の中上がる黒煙は炎に照らされ形を変える
村人達は逃げまどい助けを求ている
屈強な男達は守るべき者のため異形の侵略者へ剣を向ける
男達は弱者ではなかった
人間が相手であれば数が等しければ容易く
例え5倍であっても勝利を収める程に強者であった
侵略者は強者ではなかった
魔法は無く策略も無く指揮する者はおらず
そして痛みも苦痛も無く
一丸となり愚直に剣を振るう
小競り合いなら勝負にすらならなかったであろう
だがあまりにも村は小さく
侵略者の数は絶望的であった
時間と共に数で勝る侵略者へと旗色は変化してゆく
村の隅へ追い詰められた村人達は壁を背負い戦う
侵略者から最も遠い場所に子供を置き
その周りを戦えぬ者が囲み
一番外側では屈強な男達が剣を振るう
戦えぬ者は回復魔法を唱え戦う者を支えている
やがて魔法が尽きると戦えぬ者も武器をとる
ある者は血を流しながら剣を振るい
ある者は膝を付きながら盾を構える
絶望の淵にありながらも神に祈る者はおらず
自身の力を振り絞り侵略者へ抗う
守るべき者のために
旗色が侵略者へ染まるころ
屈強な男達は次々と膝を付き
異形の侵略者は止まることなく剣を振り下ろす
それでも最も屈強な男は諦める事なく剣を振るう
全ての村人を守るために
傷はおえど未だ死者はなく
全ては最も屈強な男の奮迅によるものか
どれほど微弱になろうとも抗い続ける村人達によるものか
されど終わりは訪れる
最も屈強な男も膝を付き
村人達に最早抗う力はない
最も屈強な男は死地にて笑う
金色の瞳に宿る気迫は衰えを知らず
しかし体は答えることは叶わず
村人達は男の死の意味を理解していた
終焉であると
最後の瞬間も恐怖に屈する者はおらず
顔を上げる村人達の眼は光を失っていなかった
「いつの時代も 諦めず抗う者こそ 成果を得る」
およそ戦場に似合わない清らかな声と共に光が放たれ
村人達を囲む侵略者が掻き消えた
村人達のに現れた青年は片手にフランスパンを持ち
傍らには背ビレのある黄色のワニを引き連れていた
髪は短く中性的な顔立ち
彫刻のように美しく筋肉質な身体
全身が淡く輝いていおり
そして裸だった
正確には下半身の輝きが強く履いているか不明だった
あまりの神々しさに女性は直視できず目を覆い
何人かは指の隙間から垣間見ようと必死だったが光の奥は見えなかった
安心は束の間だった
未だ村は暗闇に包まれており
おびただしい数の侵略者が再び集まり始めている
「村人よ目を閉じなさい」
そう告げた青年は
左足に重心を置き右足を軽く流し
右手を腰に当て腹筋を締め
広背筋からの美しい逆三角形を作り
「フロントポーズ」
青年の囁きと共に放たれた強烈な光は
瞬時に闇を掻き消し侵略者を消滅させた
暗闇と静寂が戻った村には動く者はおらず
炎だけが静かに揺れていた
長い夜を超え朝日が昇る
危険が去ったことを確認し
ようやく村人は安堵した
太陽が照した村は半数の建物が焼け落ちていた
侵略者の形跡は見当たらず剣1本すら残ってはいなかった
まるで幻だったかと思えるほどに綺麗に消え去っていた
村人は大半が怪我おったが死者は出なかった
偶然ではない
最後まで諦めず
恐怖に屈せず
抗い続けた者達が勝ち取った成果であった
生還を喜び笑う者
遅れてきた恐怖に涙する者
焼け落ちた家屋の炭でナーン貝を焼く者
それぞれの新しい1日が幕を開ける
村人達を優しく見守る青年は森へ還る
ワニと共にフランスパンを齧りながら