78話目【光魔法を取得するミーシャとルドルフ】
昼食後のポッポ村。
バトーの家の中から男女の声が漏れている。
「早く服を抜ぐんだ!」
「大人だろ? 聞き分けろよ!」
「いやよー! ちょっと服引っ張らないでよ!」
パンツ姿のバトーとミーシャがルドルフの服を脱がそうとしていた。
「ルドルフが恥ずかしいって言うから俺の家でやってるんだぞ」
「まったく、いい年して恥ずかしがってるんじゃねぇよ」
「いい歳だからこそ恥ずかしいのよ!」
勘違いされそうな場面だが、別にいかがわしい内容ではない。
光の精霊レムより光魔法を教わろうとしているのである。
「別に全裸になれって言ってる訳じゃないだろ」
「おめぇ、もしかしてとんでもなく恥ずかしい下着なのか?」
「そんな訳ないでしょ! 下着姿自体が恥ずかしいって言ってんのよ!」
「準備が出来たら教えてくれるかい?」
ぷかぷかと浮かびながら笑うレム、3人のやり取りを楽しんでいた。
「ほら、レム様を待たしてるぞルドルフ」
「失礼だぞルドルフ」
「あんた達は女性に対して失礼なのよ!」
なんちゅう会話しとるんだ、外まで丸聞こえだっての…
店に商品を置き、無人販売の準備を整えた松本が、バトーの家の前で困惑していた。
「そんなに下着姿が恥ずかしいなら別な服を借りたらどうですか?」
バトーの家の扉を開きながら松本が提案する。
「ちょっと!? いきなり開けないでよマツモト! 服脱いでたらどうすんの!?」
「外まで会話が聞こえてるから服着てるのは分かってますよ」
「「 俺達はパンツ姿だぞー 」」
「バトーさんとミーシャさんは別に問題ないでしょ」
「まぁな!」
「俺は体に自信があるから平気よ!」
筋肉アピールするバトーとミーシャ。
「服借りに行きますよ~、ルドルフさんちょっと一緒に来てください」
「助かるわ~マツモト、それに比べてこの筋肉共は…」
「なんとでも言うがいい、フンッ!」
「早く帰ってこいよ、ッハ!」
ポーズを変え筋肉アピールするバトーとミーシャ。
力を込めるバトーの腕が少し光った。
「うん? へぇ~」
浮かぶレムが感心していた。
えーっと、ルドルフに合うサイズの服か…ウィンディかな?
松本とルドルフは子供達の勉強小屋にやって来た。
ウィンディが子供達に地図を使って勉強を教えている。
「すみませんウィンディさん」
「あらマツモト君、どうしたの?」
「ちょっとシャツと短パンを貸して貰えませんか?」
「私の服を借りたいの? 何マツモト君、性の目覚め?」
こらっ! 子供達の前だぞ、綺麗な目でそういうこと言うんじゃないよ!
後で両親が「性の目覚めって何?」なんて質問されてたらどうするんだ!
「違いますよ、レム様に光魔法教えて貰うためにルドルフさんが着用するんです。
筋肉の動きを見るからシャツとか短パンとか、ある程度の露出が必要なんです」
「そういうことね、残念」
何が残念なのかは聞かないでおこう…
「私の服は今洗濯中なの、レベッカ姉さんに借りた方がいいと思うわ。
今はたぶん畑にいる筈よ」
「「ちょっと行ってみます」」
というわけで芋畑。
「レベッカさん、お仕事中すみません」
「あらマツモト君、それにルドルフさん?」
「実は…」
「なるほどね、いいわよ。ただ私の服だと少し大きいかもしれないけど…」
「いえ、貸していただけるだけ有難いです、ありがとう御座いますレベッカさん」
「早速借りに行きましょうルドルフさん、レム様が待ってますからね。」
レベッカの家で服を借り、バトーの家に戻った松本とルドルフ。
「お、帰って来たな」
「早く着替えて教えて貰おうぜ」
「…とりあえず、ちょっと外に出なさいよ」
ルドルフ着替えの為、全員外に追い出された。
レムも追い出された。
「お待たせ、時間かけちゃって悪かったわね」
扉が開き、シャツと短パン姿のルドルフが現れた。
レベッカの服は少し大きいようで子供みたいである。
「マツモト、誰に服借りたんだ?」
「レベッカさんです」
「あの胸の大きい姉ちゃんか? そりゃこうなるわな。
カルニ程じゃねぇが、ルドルフもあまり大きくねぇからな」
「あん!?」
額に血管の浮いたルドルフが人差し指を向ける。
「「「 あばばばばば! 」」」
男達3人に電撃が流れた。
「あんた達ねぇ、結婚願望がないだけで私も女なのよ! 少しは気を使いなさいよ!」
「「「 ずびばぜんでじだ… 」」」
なんで俺まで!? 何も言ってないのにぃぃぃ!
松本は完全にとばっちりである。
3人は回復魔法で復活した。
レムの指導の元、ミーシャが光魔法を教わっている。
「左足に重心を置き右足を軽く流す、右手を腰に当て腹筋を締め、
広背筋からの美しい逆三角形を作って、こう」
レムの体が少しだけ光る。
「これが男性用のフロントポーズだよ」
「えーと、左足をこうで右足は出して…こう!」
形は出来ているが光らないミーシャ。
バトーがアドバイスする。
「足と腹筋も緩めちゃ駄目だぞミーシャ、脹脛はこうやってな…」
「なるほどな、こうやって…ッフ!」
ピカーっと体が光るミーシャ。
「おめでとう、理解が早いねぇ。後は練習次第だよ」
「へぇ~凄いわねミーシャ」
「ふぅぅぅ…。これ結構疲れるぜルドルフ、動けねぇしよ。
魔族以外の戦闘ではあまり使わねぇ方が良さそうだな」
「まぁ、上級まで上達すればポーズを取らなくても一部の筋肉だけ光らせられるけど、
結局は力を入れるから動きが止まっちゃうね。魔族以外には目くらまし位にしかならないよ。
光源にもなるけど火魔法の方が便利だから、僕の光魔法は日常生活では使い道は無いかな」
「なるほどな、伝承が途絶える訳だ。レム様ありがとう御座いました」
深々と頭を下げるミーシャ。
「ルドルフ君に教える前に、バトー君いいかな?」
「なんでしょうか?」
「全力で力こぶ作ってみてよ、多分光る筈さ」
「ふん!」
ピカー!
上腕二頭筋が光るバトー。
「「「「 おぉ~! 」」」」
レム以外驚いている。
「やっぱりね、おめでとうバトー君。君は上級になったんだよ。
ちょっとこのポーズ取ってみてくれないかな?」
横を向き、腰の高さで曲げた左腕の手首を右手で掴み、胸張り引く。
足は延ばし切らず曲げ力を入れる。
「こうですか?」
「少し右肩を上げて、そうそう。胸、腕、脚などを強調するポーズ。
サイドチェストって言うんだけどね」
「こうして…サイドチェストー!」
ピカァァァ!
バトーが輝き、家から光が漏れている。
「ちょっとやめてバトー!」
「眩しいぜ!」
「眩しくて見えないんで止めて下さいバトーさん!」
「はは! いつもより光が強い気がするな!」
「「「 やめろ! 」」」
怒られてバトーがシュンとなった。
「このポーズは筋量が一定以上ある人向けのポーズでね、
他にもダブルバイセップスやラットスプレッド、
モスト・マスキュラーなどある。
上級は筋量が必要だから、必然的に上級の人は皆このポーズで光るよ。
多分ミーシャ君も筋量多いから光るんじゃないかな?」
サイドチェストのポーズを取るミーシャ。
「っほ!」
ピカー!
光るミーシャ、バトーより光が弱い。
「俺こっちの方がやりやすいな」
「そのポーズで光るってことは筋量の条件を満たしているから、
ミーシャ君もポージングを練習すれば上級になれるよ」
「「 精進します 」」
バトーとミーシャが深々と頭を下げた。
「次はルドルフ君だね、女性のポージングは男性と異なるから…」
レムの指導の甲斐なく、この日ルドルフは光らなかった。
「なんでよぉぉぉ! なんで光らないのよぉぉぉ!」
「なんなんだよあのへっぴり腰は、腹筋は締めるって言ってただろ!」
「ポージングが下手なんだよルドルフ、ほら練習だ!」
「き、今日は疲れたから明日にしましょう…」
「駄目だ、練習するぞルドルフ」
「諦めろルドルフ、この目のバトーは止められねぇよ…」
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
バトーの特訓によりルドルフは翌日光ったそうな。




