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74話目【3人の獣人】


時は数時間遡り、松本達が家に帰ってくる少し前、

家の中には光の精霊レムと、3人?の人ならざる者がくつろいでいた。

ベットの上に横たわる4足歩行の大きな獣、ニャリモヤ。

人間に近い姿で獣の耳と尻尾が生え、顔が少し犬っぽい女性、カテリア。

同じく人間の姿に耳と尻尾の生えた少年、マルメロ。カテリアの弟である。

人間ではないが人の言葉を話す獣、獣人である。


「カテリア姉ちゃん、何か食べのも持ってない? 僕お腹すいちゃって…」

「ある訳ないでしょ、外にキノコなら生えてたわよ」

「あれは駄目だよ、生で食べると大変なことになるんだ。

 精霊様、何か食べ物ないですか?」

「こらっ失礼でしょマルメロ! 精霊様は食事は食べないの」

「マルメロ、精霊様に必要な物は食べ物ではなくマナである」

「いや、僕も食べないわけじゃないよ。

 なにかあったらよかったんだけど、この家は最近出来たばかりで何もないんだよねぇ」

「確かにないも無いですね、この家本当に人が住んでるんですか?」


部屋の中には家具以外何もない、服すらない為、全く生活感が感じられない。



「へぇ~屋根は岩なんだな、洒落てんな」

「いい家でしょ? ポッポ村の人達にこの前作って頂いたんです」

「子供1人でここに住んでんの? 隠居した爺みたいな生活してんのねマツモト」

「これだから都会人は…屋根と壁があるだけで有難いんですから」


外から数人の喋り声が聞こえてくる。

どうやら家の主が帰ってきたようだ。


「人間の声!? 帰って来たんだ、マズいよ!?」

「ここここのままだと見つかっちゃう!? どどどどどうしましょ!?」

「落ち着くのであるカテリア、バレないように窓から外に出るのである」

「そんなに人の子と会うのが嫌かい? 少し変だけど良い子だよ」

「里に関わることなので、ちゃんと見定めたいのである」

「そうかい? それなら僕が扉を抑えておくよ」

「かたじけないのである」

「「 ありがとうございます 」」


レムが扉を抑え、3人は窓から外に脱出していく。

ニャリモヤの背中に乗ってカテリアとマルメロが外に出た。


「あれ空かない? あれー? ちょっと歪んだかな?」

「どしたんだマツモト?」

「いや、ちょっとドアが開かなくて…」

「マツモト君かい? ちょっと待ってくれるかな?」


虎と同じくらい大きいニャリモヤが窓につっかえている。

家の外でカテリアとマルメロがニャリモヤを引っ張っている。


「(ニャリモヤはやくぅぅぅ!)」

「(ちょっと太りすぎなのよぉぉぉ!)」

「(すまんのである…)」


スッポンと窓から抜け、そそくさと3人は森へ消えた。


「レム様? 池にいないと思ったら俺ん家にいたんですか」

「いや~ごめんね、マツモト君がいない間少し使わせてもらおうと思って」


3人が脱出したのを見届け、レムは扉を開いた。




森に隠れた3人は昼食の準備をする人間達を注意深く観察していた。


「あれが精霊様の言っていた人間達であるか?」

「恐らく近くにあるという村の人達でしょ? いい人達ならいいんだけど…」

「人間にいい奴なんているのかな? 長老様が人間をあまり信用するなって言ってたし」

「いるわよきっと、ね? ニャリモヤ」

「わからぬ、我も人間の世界は知らぬのである」

「カテリア姉ちゃんも森を出たことないじゃないか」

「私はたまに森に入って来る人間を観察してるわよ」

「あれは悪い人間だよ、勝手に俺達の森に入って来て荒らしていくし」

「そうだけど…ちょっと!? こっち来るわ、隠れて!」


コソコソと茂みに隠れる3人?

金髪の男と、斧を持った男が近寄って来る。


「(何か斧持ってるよ!? こっち来るよカテリア姉ちゃん!?)」

「(しっ! 静かにしてマルメロ!)」

「(いざとなったら我が戦うのである、カテリアとマルメロは逃げるのである)」


近寄って来た男達が木の前で止まり、大きさを確認している。


「ちょっと木を倒すぞ、一応気を付けてくれ!」

「いくぞバトー、どりゃぁぁ!」


木が根元から寸断され倒れた。


『 (えぇぇぇ!?) 』

「(ひぇぇぇ!? とんでもない人間だよ)」

「(木を一振りで倒しちゃった…まるで月熊じゃない)」

「(恐らくあの者が精霊様の言っていた、森を支配していた巨大な月熊を倒した人間である)」


男達は倒した木を輪切りにした後、バリを落として運んで行った。

暫くすると香ばしい香りが漂ってきた。

人間達が囲む焚火に炙られ、モギ肉から油が滴っている。


「いいなぁ…僕も何か食べたいなぁ」

「仕方ないでしょ…今は我慢するの」

「今見つかる訳にはいかないのである」

『 ぐぅぅぅぅ~ 』


昨日の夜から殆ど食べていない3人に代わり、腹の虫が声を上げた。


『 はぁ… 』


焚火から目を逸らす3人、空腹で直視するにはモギ肉は強すぎた。



「マツモト君パン貰えないかな? ワニ美ちゃんにも持って行ってくるよ」

「いいですよー、ん? んん!?」

「どうしたんだい?」


少年の手から四角い茶色の物体が出た。


「カテリア姉ちゃん、あれなに?」

「パンってやつじゃない? たまに人間が食べてたやつに似てるわ」

「人間は手から食べ物を出せるのであるか?」

「暫く見るのはやめよう…」

「お腹すくものね…」

「そうするのである…」

『 はぁ… 』





「観察は終わりかい?」


池の畔で休憩している3人の元にレムがやって来た。

皿に盛られたモギ肉とキノコの串、そしてフランスパンと食パンを持っている。

釘付けになる3人の口から涎が垂れている。


「3人に差し入れだよ」

『 精霊様~! 』

「よっぽどお腹がすいてたんだねぇ」


キラキラした視線がレムに降り注いだ。


「美味しい~幸せ~」

「これがパン? フカフカで柔らかい、こっちのパンはちょっと硬いわ」

「やはり肉は旨いのである」


レムの差し入れを囲む3人、実に幸せそうである。

ニャリモヤも器用に前足で串を掴んで食べている。


「ところであの人の子達はどうだい?」

「今のところ悪意は感じないのである」

「僕達の森に入って来る人間とは少し違う気がします」

「強そうだし出来たら協力して欲しいけど、あんな話信じて貰えるかしら?」

「その点は大丈夫だと思うよ、彼らの中にも1度経験した者がいるからね。

 それに僕に会いに来た理由もそのことに関連してるんじゃないかな」

「そうなんですか?」

「たぶんね。この後聞いてみるさ、そろそろ僕は戻るよ、皿は後で返してね」

『 ありがとうございました~ 』


レムは焚火の元に帰った。

茂みに隠れ人間達の会話に聞き耳を立てる3人。

人間より視力、聴力、嗅覚に優れている為、少し離れた場所でも問題ない。


「皆薄々感じていると思うけど、私が代表で質問するわ…

 レム様、魔物の正体は魔王の配下の魔族なのでしょうか?」

「いいねぇ、困難に抗う強い眼だ。君の予想通りあれは魔族だよ。

 1度世界を滅ぼしかけた魔王の眷属さ」


人間達とレムの会話は3人が考えているよりすっと深刻だった。


「これは…我らが思っているよりも…」

「オババ様の予言は本当だったんだ…」

「私達の里が襲われるのは3か月後なの?」

「里の為にあの者達に協力して貰う必要があるのである、

 力は先程確認し悪意も感じぬ、後は直接会って見定めるしかないのである」

「僕まだちょっと怖いかな」

「なら私が行って話してみる」

「待つのであるカテリア。この中で最も強く、最も人間から遠い我に任せるのである」




時は戻り、現在。

外から焼きナーン貝の美味しそうな匂いが漂ってくる。

暗がりに浮かぶ丸い2つの目がベットの上から松本を見つめている。


「(さて、この人間の子供は我らをどう思う…

  中には我らを蔑む者もいると聞く、友好であって欲しい物だが…)」


家の中で松本の火魔法が暗闇を照らした。


「 !? 」


ベットの上に横たわる大きな四足獣を見て松本が目を丸くした。

虎のように大きいが、丸みがあり柔らそうな身体、

三角の耳と茶色と白と黒が入り混じった体毛。

その姿に松本は見覚えがあった。



み、三毛猫だぁぁぁぁ!

俺のベットにデッカイ三毛猫がいるぅぅぅ!



「(これは…どちらであるか? 友好か? 敵対か?)」


起き上がりベットを降りるニャリモヤ、

次の瞬間、狂気に満ちた松本が飛び掛かった。


「イヤッフゥゥゥゥ!」

「(何!? この目、普通ではないのである!」


瞬時にして毛を逆立て戦闘態勢になるニャリモヤ、

爪を出すより先に松本が背後に回る。


「(素早い!? 背後に…やられるのである!?)」

「うひょぉぉぉ! たまんねぇぇぇ!」


死を覚悟したニャリモヤの背中に松本が張り付いた。


「すぅぅぅはぁぁぁ…、すぅぅぅはぁぁぁ…」


両手両足をニャリモヤの体に回し、顔を埋めて匂いを嗅いでいる。


「(…これは…敵ではないであるか…?)」

「すぅぅぅはぁぁぁ…、すぅぅぅはぁぁぁ…」


猫ジャンキー松本、ニャリモヤをキメていた。





家の中からニャリモヤが出て来た。


「ニャリモヤどうだった?」

「あの人間の子供は何処にいったの?」

「それが…」


背中を指すニャリモヤ、松本がピッタリ張り付いて離れない。


「どうしたのこれ…」

「なにしたのニャリモヤ…」

「わからないのである、ここから離れないのである…」

「ね、少し変だっていったでしょ」


切り株に座りナーン買いを突くレムは笑っていた。




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