73話目【片付けとナーン貝とソレ】
昼食が終わり片付け中の一同。
「マツモト、コップと皿洗ってきたぞ」
「ありがとうございます、後で片付けますのでテーブルに置いといてください」
「切り株の椅子はどうする?」
「邪魔にならないのでそのままでいいですよ」
食器は水魔法で洗い、生ゴミは穴を掘って焼却した。
「マツモト、ちょっと俺達レム様の祠見て来るわ」
「了解ですゴードンさん。 俺は家の片付けしときますので」
「おうよ」
一同はレムと一緒に精霊の池に向かった。
1人残った松本はウルダで買い込んだ生活用品を片付けている。
買ってきた布で食器の水気を拭き取り棚へ置く。
今まで何もなかった棚に5組のコップと皿が並んだ。
使用しなかったフォークとスプーンはコップに立てた。
これらの木製の食器セットは今回の食事の為にとポッポ村から頂いたのだが、
「横に並びきらないな…」
有難いのだが、流石に1人暮らしに6セットは多かった。
皿は重ねて棚に置き、1つのコップは常用としてテーブルに置いた。
フライパンと鍋は壁に掛けたいが突起が無かったので床に重ねた。
「明日ポッポ村で釘を貰ってくるか…」
包丁はカバーが付いているが、危ないので棚の一番下に。
衣類の置き場が無いので洗ったナーン貝の貝殻に乗せて地面に直置きである。
本とランタンと歯ブラシはとりあえずテーブルへ…
使ってみてからランタンの位置を考えよう。
少しばかりの食料は壁際の麻袋の中である。
「さてと、一番大事なお布団様の居場所を用意しますか!」
ベットの上の敷かれている藁を外へと運び出し、雨に濡れない家の横に置く。
今までお世話になった藁、今後は牧への火付け役として頑張って頂く所存である。
「ん? これは…毛かな?」
ベットに残った藁を掃除していると、藁に混じって毛が落ちている。
白色にも見えるし茶色にも見えるが単体で見てもよく分からない。
「ワニ美ちゃんは毛は生えて無いし、レム様が寝てたのか?
動物が入って来てたら危ないから後で聞いてみるか…」
掃除されたベットの上にお布団様が鎮座した、今夜が楽しみである。
テーブルの上にフランスパンを置き、ランタンに火を灯す。
薄暗い部屋が明るくなった。
ランタンの揺れる光源に合わせ影が揺れる。
ベットに腰掛け部屋を見渡すと殺風景だった部屋に生活感が感じられた。
「なんか、充実してきたな」
ウルダでの生活に比べればまだまだ不自由だが、それなりに楽しい生活である。
精霊の池に向かうためベットから腰を上げ、ランタンを消した。
「消すとやっぱり暗いな…」
横にキノコが生える松本の家は窓を開けても薄暗かった。
精霊の池でゴードン達と合流した松本はワニ美ちゃんを観察していた。
やっぱり毛は生えてないよな?
ワニ美ちゃんの毛じゃないとするとレム様か?
「ワニ美ちゃんひっくり返して何しているんだいマツモト君? 」
仰向けになったワニ美ちゃんのお腹を擦る松本にレムが声を掛けた。
「いやちょっと調べ物をしてまして、レム様って俺のベットで寝ましたか?」
「いや、寝てないね。どうしたんだい?」
「さっきベットの藁を片付けたんですけど、なんか毛が混ざってたんですよ。
俺の毛じゃないし、留守にしてた間に動物が入り込んでたのかなと思いまして」
「なるほどね、それでワニ美ちゃんを調べてたんだね」
「レム様とワニ美ちゃんじゃないとしたら、野生動物の可能性がありますね。
用心しないと寝てる間に襲われるかもしれません」
「あぁ~、それは、心配ないと思うよ」
「ん? そうですかね? この前ムーンベアーに襲われたばかりですよ?」
「まぁ、獣に近いとは思うけど、心配はいらないよ」
「レム様何か知ってるんですね? こっそりペット飼ってるんじゃないですか?」
「バレちゃったか、ペットじゃないんだけどね。ちょっと訳アリでね」
訳アリか…敢えて言わないってことなんだろう。
「まぁ、危険がないならいいか…よいしょっと」
ゴロンとワニ美ちゃんをひっくり返す松本。
「マツモト…あんた精霊様の従者をそんな雑に…」
「ここで顔洗って常飲してたらしいし…今更だろ…」
「俺はもう慣れちまったよ…」
「精霊様達が許すならいいんだろ…考えるだけ無駄だぞ2人共…」
恐れ多い松本の行為に引くルドルフとミーシャ、
ゴードンとバトーは変な耐性が付いてきた。
「じゃーなマツモト」
「夜飯ちゃんと食えよー」
「明日ヨロシクなー」
「また同じ道のりを帰るのね…」
バトー達は村へと帰って行く、精霊の池で松本とレムが手を振っている。
明日、再度松本の家で今後について話し合われることになった。
「レム様、俺ちょっとナーン貝取に行ってきますので」
「今夜は焼きナーン貝か、楽しみだねぇ」
「俺のいない間に部屋に入らないで下さいよー」
「おや? 何か大切な物でもあるのかい?」
「ふふふ…ありますとも、お布団様がね!」
「そりゃ大変だ、気を付けるよ」
「それじゃ行ってきます!」
松本が戻った頃には夕方になっていた。
暗くなる前に夜飯の準備を進める。
牧に火を付け水管を切ったナーン貝と水の入った鍋を置く。
お湯が湧いたらミーシャから貰ったお茶パックで麦茶を作った。
ナーン貝が泡を噴き始めると引っくり返して反対側を焼く。
その間にフライパンを火にかけ、モギ肉の油を引いてナーン貝の水管を焼く。
しばらくすると蓋が空き焼きナーン貝の完成した。
フライパンの上で水管に焼き目が付いた頃、匂いに釣られてレムとワニ美ちゃんがやって来た。
「美味しそうな匂いだねマツモト君」
「丁度出来たところですよ、パンと食器を取って来ますから好きな場所に座ってください」
すっかり日が落ち辺りは暗くなっていた。
家の中は真っ暗になっており、窓から入る微かな明かりを手掛かりに部屋を探る。
手探りで皿とフォークを手に取ったが、テーブルの上にあった筈のフランスパンが見つからない。
あれぇ? ないな?
確かこの辺にフランスパン置いてた筈なんだけど…
「レム様ー俺のフランスパン食べましたー?」
「僕達じゃないよー」
家の中からレムに尋ねると返事が返って来た。
床に落ちたかな?
えーっとランタンはどこだ…
いや、火魔法でいいのか。
魔法に考えが追い付いていないな、これだからオジサンは…
考えがなかなか更新されない自分に文句を言いながら指先に火を付ける。
「 !? 」
指先の小さな灯りで浮かび上がったソレは、ベットの上から松本を見つめていた。




