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72話目【襲撃犯の正体】

焚火を囲む松本、バトー、ゴードン、ルドルフ、ミーシャ、そして光の妖精レム。


「皆もちょっと聞いて欲しいの、関係のある話だから。

 私達は王都からの依頼で調査に来たの、調査内容は『出没する異形の襲撃者について』」


ルドルフの言葉に空気が静まり、焚火の周りから笑顔が消えた。


「実はポッポ村が襲撃される以前に2つの村が襲撃されているの。

 残念ながら村は壊滅、数人の生き残りがいるだけよ」


重い話に誰も口を開こうとしない。

事情を知るミーシャが説明を続ける。


「一番最初の襲撃は約1年前でな、その次が約半年前。

 それぞれ別な冒険者達が調査に行ったんだが、結果は芳しくなくてな。

 分かってるのは生存者が証言した

 『見たことない魔物の大群が夜に襲ってきた』という情報だけ…

 襲撃者の手がかりもなく、どっから来てどこへ消えたかも分かってねぇのよ。 

 そんで3度目の襲撃が起きたポッポ村に俺達が派遣されたって訳だ」

「夜に大群で襲って来たか…俺達が襲われた状況と同じだなバトー」

「そうだな、ポッポ村もレム様がいなかったら同じ結果だっただろうな」


ミーシャの説明を聞きゴードンとバトーが考え込んでいる。


「バトーから全員生きてると聞かされた時は耳を疑ったぜ、

 今までも結果からしたら奇跡みたいなもんだからよ」

「それに加えて何百年も誰も見たことない光の精霊様がいるって言うんだもの、

 実際にお会いするまで信じられなかったわ」

「俺、モギ討伐の時に光魔法使ったじゃないですか、信じてなかったんですか?」

「マツモトを疑ってたわけじゃ無いんだけど、本で読んだことあるだけで

 実際の光魔法を見たことないから判断が付かなかったのよ」



そりゃそうだ。

光魔法がポージングして全身から眩い光を出すと言われても信じないだろう。

絶対、手から光源出すと思うもん。



重い空気が少しだけ軽くなり、各々食事を再開した。

新しいモギ肉とキノコの串が火にかけられた。



「調査の経緯は分かったんですけど レム様に会いに来た理由は光魔法の習得ですか?」

「それもあるんだが、ちょっと聞きたい事があってよ。

 マツモト、ここから先は秘密で頼むぜ、いろいろ問題があるからよ」


ミーシャの言葉に全員が頷く。


「実はよ、王都が俺達に調査を依頼したのは『光筋教団こうきんきょうだん』が

 王に直訴したかららしいのよ」

「へぇ~懐かしいね、光筋教団はまだ残ってるんだ」


懐かしそうな顔をするレム。

マツモトとゴードンの頭上に『?』が浮かんでいる。


「あのーレム様、光筋教団とはいったい?」

「光筋教団っていうのは僕の信者が昔作った教団だよ、この時代に僕の信者いたんだねぇ」


ミーシャとルドルフの顔が少し険しくなった。


「その割には池の祠とかボロボロじゃないですか?」

「ん? 祠なんてあったか?」

「ありますよ、池の中心にある岩がそうです」

「「 あれか~ 」」


ゴードンとバトーが顎を撫でながら納得している。


「すみませんレム様、光筋教団についてもう少し説明して貰えませんか?」


祠の話をする3人を遮り、ミーシャがレムに説明を求めた。


「昔、魔王が暴れてた時代、魔族に光魔法が効果的として僕の信者は急増したんだけど、

 その時はまだ光筋教団は存在しなかった。

 魔王が討伐された後、今後魔族が現れた時に対応できるようにと、

 光魔法を後世に繋ぐ目的で設立されたんだよ。

 その後、復興が進み人口が増えると人の子は各地に散っていった。

 行きついた先でも光筋教団は信者を集めた、

 そうやって人の子の移動と共に各地へ広がっていたんだ。

 つまり光筋教団の歴史は世界の復興と人の歩みの歴史ということになるのかな?」


レムの説明を聞き、何やらミーシャとルドルフが納得したようだ。

浮かない顔をしている。


「なるほどなぁ、光筋教団の言ってたことは本当だったんだな、

 勝手に自称してるもんだと思ってたわ」

「どういうことだミーシャ?」

「今の光筋教団には光魔法を使える人はいないわ」



バトーの質問にはミーシャの代わりにルドルフが答えた。


「「「 は? 」」」


焚火の周りに「?」が3つ浮かんでいる。


「光魔法を伝承するのが光筋教団の目的なんだろ?」

「そうらしいけど、随分前に魔法の伝承が途切れたらしいのよ。

 レム様が不在なうえ、魔族もいなくなって使用頻度が減り途絶えたんだと思うわ」

「…その教団は何の意味があるんだ」


バトーの言葉に同意する松本とゴードン


「本人達は世界を救うと言っているけど…

 まぁ、実際には権力も光魔法もない、少し変わった一般人の集まりね。

 それなのに各地に存在し続けていて、信者もそれなりにいる。

 そんな光筋教団が王に直訴し、王都が依頼して私達が派遣されている、不思議でしょ?」

「「「 確かに 」」」


ルドルフに同意するポッポ村の3人。

レムはモギ肉を食べながら来るであろう質問を待っていた。


「見たことない魔物の襲撃、数百年ぶりに現れた光の精霊、

 途絶えた光魔法の復活、光筋教団の進言。

 皆薄々感じていると思うけど、私が代表で質問するわ…

 レム様、魔物の正体は魔王の配下の魔族なのでしょうか?」


一般の者からしたら遠い昔のおとぎ話、寝る前に母親が読み聞かせる絵本の世界。

普通であれば飛躍し過ぎた妄想と笑い飛ばすであろう、

あまりにも突拍子もない最悪のシナリオ。

焚火越しにレムを見据えるルドルフは、質問の答えを確信していた。


「いいねぇ、困難に抗う強い眼だ。君の予想通りあれは魔族だよ。

 1度世界を滅ぼしかけた魔王の眷属さ」


焚火を囲んでいた不安はレムの言葉によって現実となった。

木々の間を風が吹き抜け、落ちた葉が焚火を揺らした。

沈黙を破ったのは松本だった。


「魔族が現れたということは魔王が復活してるんでしょうか?」


拳を握る者、腕も組む者、目を閉じる者、牧をくべる者、焚火を見つめる者、

答えを待つ5人は各々覚悟を固めた。


「まだだと思うよ、でもそのうち現れるだろうね」


レムの言葉に一同は取りあえず安堵した。


「何故まだだと分かるのですか?」

「魔王が現れるとね、暗くなるんだよ。ずっと暗い夜のまま、朝が来なくなるの。

 魔王とは常闇の王、光の中では存在出来ない形無き者。

 世界に現れるには形が必要でね、そのために眷属を使って各地を襲い

 恐怖、絶望、怒り、悲しみ、そういった負の感情を集めるのさ。

 1回しか見た事ないから今回が同じとは限らないけどね」


牧をくべる手を止めゴードンが口を開く。 


「てことはよ、各地で起こる襲撃を防げれば負の感情とやらが集まらなくて、

 魔王が復活しない可能性があるのか?」



天才かゴードン? 伊達に最年長やってないな!



「どうやって襲撃される場所を調べるんですか?」

「わからん、俺に聞くなよマツモト」



いや即答かよ! しかし、そうだよなぁ…

無理だ、誰にも分からんよな、そんなもの…



「襲撃場所が分からねぇんだったら、

 次の襲撃までに各地に光魔法を広げればいいんじゃないか?」




天才かゴードン? 伊達にマッチョやってないな!

いきなり来る襲撃は止められないし、援軍は間に合わない。

しかし、光魔法を習得させる、もしくは使用できる者を配備すれば各地で対応が可能になる。



「光魔法はある程度筋力が必要だからな、その光筋教団に習得させたら早いんじゃないか?」

「いいですね! 元々レム様を崇めてる人達だから喜んでやってくれますよ、きっと!」


盛り上がる松本にルドルフが冷静な判断を突き付ける。


「ちょっと待ってマツモト、今のところ襲撃の頻度は半年ごと、

 前回の襲撃を考えると次は恐らく3ヶ月後位、間に合わないと思うわ」

『 う~ん… 』


頭を抱える一同。


「それなんだけどね、次の襲撃場所が分かるかもしれないよ」

『 え!? 』


キノコを焼くレムに振り向く一同。


「ちょっと準備が必要だからその話は後日にしよう。

 それに、早く食べないとキノコが焦げちゃうからね」


焼けたキノコを齧るレム。


「それじゃ襲撃場所の話は後日にするか、皆肉とキノコが焦げるぞー」


バトーによって話が打ち切られた。

一同焼けた串を手に取り食べる。


『 うま~い 』


焚火の周りに笑顔が戻った。



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