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71話目【食パンと便利な魔法】

レムの元を訪れた松本一行は家の中での話を諦め、外でモギ肉を焼く準備をしていた。

牧の前では松本がブツブツ言っていた。


「我が内なる炎よ、業火となりて、ほにゃららうんぬんほほいのほい! ファイヤァァァ!」


松本の指先に火か現れチリチリ音を立てている。


「へぇ~、マツモト君、火魔法習得できたんだね」

「これで家で暖かい食事が食べられますよ~」

「ところで、さっきの詠唱はなんだったんだい?」

「あれはその気分で…そっとしておいてください…」


魔法の詠唱は全裸過ごすより恥ずかしかったらしい。


空気が通るように積まれた牧の下に指を入れる。

指先の火が藁に燃え移り牧に火が付いた。


「いや~こんなに簡単に火が付くとは、魔法って便利ですねぇ。

 他にも回復魔法と水魔法を習得したので今後は家でお茶が飲めます!」

「家もあるし、一気に生活水準が向上したねぇ」

「最近肉も食べてるのでちょっと贅沢し過ぎですかねぇ」

「はは、懐かしい、人の子は変わらないねぇ。

 魔王が討伐された後、復興した人の子が同じようなことを言っていたよ」

「肉、食べたんしょうねぇ」

「食べてたねぇ。あの頃は生き物自体が減っていて、

 迂闊に動物を狩ると絶滅してしまう可能性があったんだ。

 肉を食べられるようになってことは復興した証だったからね」


『(普通に魔王て…精霊様となんちゅう会話しとるんだ…)』


焚火を突く松本の背中には4人の心の突っ込みが刺さっていた。




松本の家の前に2つの焚火とテーブルが用意された。

1つの焚火では串に刺さったモギ肉とウルダダケが焼かれており、

もう1つの焚火でお湯が沸かされている。

池の水ではなく水魔法で生成した水である。


「お湯湧きましたよ、ミーシャさん」

「おう、じゃ持って来たお茶沸かすか」


ゴソゴソと鞄を漁り麦茶パックを取り出すミーシャ。


「これ1個入れて5分くらい弱火で煮だしてよ、その後15分くらい放置すれば麦茶の完成ってわけよ」

「へぇ~お茶パックあったんですね」

「いっぱいあるから残ったヤツはマツモトにやるよ」

「ありがとうございます!」


松本は麦茶パックを手に入れた。

弱火の調整が出来ないので鍋の底を直接火魔法で炙った。

モギ肉から香ばしい香りがしてきた頃、麦茶も出来上がった。


「冷まさないと飲めないですね」

「そこは魔法よ、こうやって氷作ってな」


ミーシャが氷の塊を作り鍋を置くと、冷えた麦茶が出来上がった。


「氷魔法便利ですね、コップに氷も入れれますし」

「その時は容器を冷やした方がいいぞ、溶けた氷で薄まらないからよ」

「確かに、ウルダの酒場でやってましたね」


生活を豊かにしてくれる、魔法とは実に便利な物である。



「モギ肉も焼けたぞー」

「そろそろキノコもいいわよー」


肉担当のゴードンとキノコ担当のルドルフが呼んでいる。

麦茶を注ぐミーシャにバトーが声を掛けた。


「ミーシャ、ちょっと木を1本倒してくれないか? 腰掛ける椅子がなくてな」

「おういいぞ、マツモト麦茶変わってくれ」

「はいー」 


鍋を受け取る松本、木製のコップと皿はポッポ村で生産された物である。

底に焼き印があるのが特徴。


「ちょっと木を倒すぞ、一応気を付けてくれ!」


少し離れた場所でバトーが注意を促している


「いくぞバトー、どりゃぁぁ!」


ミーシャが愛斧『月熊の爪』を振ると、直径50センチはある木が根元から寸断され倒れた。

切り口が綺麗である。



えぇぇぇ!? すっげぇぇぇ!

ルドルフさんから聞いてたけど、すっげぇぇぇ!



「とんでもねぇな…これがSランク冒険者ってヤツかよ。ポッポ村で木こりやらねぇかな?」


ゴードンも松本と同じ反応をしている。

ルドルフとレムはキノコを裏返していた。



倒れた木を更に細かく輪切りにし、即席の椅子が出来た。

バトーとミーシャがコロコロと転がしてくる。


「おーい椅子出来たぞー」

「一応角は落としたから座っても痛くない筈だ」


丸太の角が面取りされている、木工の村の気配りである。


「麦茶も出来ましたので、どうぞー」


丸太に腰かけ、焚火を囲む5人と精霊。

皿にモギ肉とキノコの串が乗っている。


「マツモト、お前の家だ、始めてくれ」

「それじゃ、我が家の初めての暖かい食べ物を!」

『 頂きまーす! 』


モギ肉に齧り付くと肉汁が溢れ出す。

直火で焼いたモギ肉は表面は香ばしく中身は柔らかい、塩コショウが丁度いい塩梅である。


『 うんま~い! 』


暖かい焼きたての肉。

以前森でレム達と食べた、冷めたムーンベアーの肉と比べ物にならない美味しさ。

松本、感涙。


「いや~暖かいご飯っていいですね」

「依然の肉は冷めて硬かったからね、美味しいねぇ」


松本とレムが記憶の中の硬い肉を思い出している。


「マツモト君パン貰えないかな? ワニ美ちゃんにも持って行ってくるよ」

「いいですよー、ん? んん!?」

「どうしたんだい?」


右手を見つめて訝しむ松本。


「いや、なんかいつもと違う感覚というか感触というか…なんが太くて柔らかいような…」


ポン!

松本の右手に50センチ程の四角いパンが出現した。

表面を押すと柔らかい弾力がある。

少し千切って食べてみる松本。


「これ、食パンですね」

「「「「 そう… 」」」」


魔法のレベルが上がり食パンを出せるようになった。

松本初の中級魔法である。

店の商品が増えた。


「フランスパンはもう出ないのかい?」

「いや、多分でますよ、ほら」


右手にフランスパンが出現する。


「最近美味しくなったって評判なんですよ」

「へぇ~楽しみだね」


フランスパンと食パンはテーブルで切り分けられた。

モギ肉と食パンとフランスパンの半分を持ってレムは池に飛んでいき、

他の者達は好きなパンをテーブルから選んだ。


「食パンも柔らかくて旨いな」

「焼いた方か旨いんじゃないか? モギ肉挟んだら、どっちゃりサンドみたいになるぞ」

「フライパンで焼いたらいいじゃない」

「フランスパン以前より旨くなってねぇか? マツモト」

「そうなんですよ、成長してるんです俺のパン」


ミーシャがフライパンで食パンを焼いている。

暫くするとレムが返って来た。


「レム様皿置いてきたんですか?」

「ん? そうだね。まぁ串だから問題ないさ、皿は後でマツモト君の家に帰しに行くよ」

「了解です」

「ところで、君達は何故僕に会いに来たんだい?」


キノコを食べながらレムが問いかける。

キノコを皿に置き畏まったルドルフとミーシャが答えた。


「光の精霊レム様、申し遅れました、私は冒険者のルドルフと申します」

「同じく冒険者のミーシャと申します」

「皆もちょっと聞いて欲しいの、関係のある話だから。

 私達は王都からの依頼で調査に来たの、調査内容は『出没する異形の襲撃者について』」


ルドルフの言葉に空気が静まり、焚火の周りから笑顔が消えた。

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