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69話目【松本の死後のあれこれ】

松本達がポッポ村に帰り付き、広場でモギ肉を焼いている頃、

天界ではテラス席で天使と女神が食パンを焼いていた。


丸いテーブルに置かれたポップアップトースターを3つの椅子が囲んでいる。

ジャムが入った瓶と、3枚の白い皿、3つのカップがテーブルを飾っている。。



ジジジジジ…


チンッ!


シァッ!



トースターから香ばしい香りと共に焼き色の付いた食パンが2枚飛び出した。


「神様ーパン焼けましたよー」

「今日はブルーベリージャムですよー」

「ふふ、私は次でいいから天使ちゃん達が先に食べていいわよ~」

「「 わ~い! 」」


1度に焼けるのは2枚まで、このトースターの決まりである。


「早くジャムちょうだいー」

「まってよー沢山塗った方が甘くて美味しいんだからー」


ジャムの順番待ちをする天使達を微笑ましく見守りながら

次の食パンをトースターにセットする女神。

休日の朝のような穏やかな時間が流れている。


リィィィィィン! リィィィィィン!


穏やかな空間に甲高い音が響いた。

部屋の中の黒電話が呼んでいる。


「ちょっと出て来るわ、食パン焼けたら冷めないうちに食べちゃって」

「「 はーい! 」」


リィィィィィン! リィィィィィン!


「はいはい今出ますよー、朝からいったい何の電話かしら?」


黒い電話の受話器を取り耳に当てる女神。


「はいー女神コレーで~す」

「なんじゃ気が抜けとるの~ペルセポネ」


受話器から聞こえる年配の男性の声に女神が硬直する。


「げぇ!? ハハハ、ハデス様!? おはようございます!」

「おはよう、職場ではペルセポネで名乗るように言っとるじゃろ~まったく…」

「いやぁ~ハハハ…まだ食事中でして…気を付けます!」



ヒェッ!? トースターの件、黙ってたのバレたのかしら!?

あばばあばば…



青ざめた顔で乾いた笑い声を発する女神ペルセポネ(コレー)。

冥界の王ハデスが呆れている。


「あ、あの~…そ、それでハデス様、今回はどのようなご用件で…」

「いやの、この前転生させた人の子がおったじゃろ? あの備考にパンツと書いとった」

「あぁ~はいはい…」



やっぱりぃぃぃぃ!?

どどどどどうしよううううう…



「その人の子が転生した世界なんじゃが、随分と昔に人の子が3人転生しとるみたいでな。

「へ、へぇ~そうなんですか、そんな昔のことよく分かりましたねハデス様」

「それなんじゃよ~ワシも忘れておってな、軍神アレスが覚えとって教えてくれたんじゃ」

「アレス様ですか? 転生処理に関わってないのによく知ってましたね」

「なにやらその時の3人を訓練したらしくての~」



よかったぁぁぁー! バレてなーい!

セーフ! セーフよ! 日頃の行いの結果ね!



「そこでじゃな、一度過去の記録を整理することになったんじゃ」

「へぇ~大変ですねハデス様」

「いや、ワシじゃなくてお主がやるんじゃよ」

「え!? 嫌ですよ面倒くさい、大体それどれくらい前の話なんですか?」」

「相変わらず正直な奴じゃの…大体1000年くらい前かの~覚えとらんから分からんの~」

「えぇ…1000年前の記録って言ったら石板じゃ何ですか…他をあたって下さいよー!」


頬を膨らませブーブーと不満を述べる女神。


「いや、転生担当はお主しかおらんじゃろ。それに…」

「それに何ですか? 私はやりませんよ! 食パン食べたいんで電話切りますよハデス様!」

「ほう、食パンか。今度はトースター落とさんように気を付けるのじゃよ」

「はう!? ハ、ハデス様…まさか…」

「はてなんのことかの~? ところでさっきの話じゃが…」

「先ほどの仕事、私が責任をもってやらせて頂きます‼」

「よろしくの~」



バ、バレてたぁぁぁー… 



神を欺くことなど出来ない、日頃の行いの結果である。

因みに、松本にパンを出す能力を与えてくれてたのはハデス様である。


「これペルセポネが悪いからの~流石に可哀相じゃの~、

 要望はたぶん『パンツ』じゃが、…代わりにパン出せるようにしとくかの~」


と、経緯を見て気を利かせてくれたのだ。

ありがとうハデス様! 特に落ち込んだりしてないけど、松本は元気です。




一方、松本が死んだ後の現世の話。

松本から死後の処理を任せられた親友の前山が警察の聴取を受けていた。


「あの~松本の死因は結局なんになるんでしょうか? あと俺は…」

「死亡後の外傷は確認できますが、死因はショック死ですね。

 その点は前山さんの供述と概ね一致しています、しかし神の下りはちょっと…」

「ですよね~」

「これ以上調べても何出そうにありません。遺族の方からは前山さんを罰する要望もありませんし、

 この件は事故ということで処理されます、捜査にご協力頂き有難う御座いました」

「いえ、こちらこそありがとうございました。

 あの預けたメモを返して頂けませんか? 松本との約束ですので」

「どうぞ、一応資料としてコピーを取らせて頂いています」

「ありがとうございます」

「しかし、本当に神様がいるのでしょうかね?」

「さぁ、松本が言うには美しい外見らしいですよ。ただ…」

「ただ?」

「ポンコツだから今後崇めることは辞めろと…」

「まぁ…私は無宗教ですので」

「私もです」


ポンコツ神のせいで、現世に少しだけ神全体への風潮被害が出た。



松本の遺体が遺族に戻され、実家で布団に寝かされていた。

司法解剖が行われたため、体には傷があるが顔は生前の状態を保っていた。

とても死後1ヶ月以上経っているとは思えない生気に溢れた顔をしている。

腐敗しないのはポンコツ女神ペルセポネが復元した影響である。

松本の布団には実家の猫が山となり、枕元には食パンが添えられていた。


「きれいな顔してるだろ。ウソみたいだろ。死んでるんだぜ。それで。」


松本の兄が神妙な面持ちで、どこかで聞いたことのあるセリフを口する。


「きれいな顔してるだろ。ウソみたいだろ。死んでるんだぜ。それで。」


今度は父がが神妙な面持ちで口する。


「きれいな顔してるだろ。ウソみたいだろ。死んでるんだぜ。それで。」


次は母が口にする、次に兄の嫁と3人の娘達が、次に前山が、次に前山の妹が。

布団の猫があくびをしている。


『はっはははは!』


大人達が笑う、姪達は釣られて笑った。

およそ故人に対する態度とは思えないが、皆悲しんでいない訳ではない。

湿っぽいことが嫌いな松本、その性格を育んだ家庭環境ではいたって普通の反応である。


「我が生涯に一片の悔いなし。

 皆のおかげで人生に満足している。

 悲しむ必要などない、願うならば新たな旅立ちを笑顔で送って欲しい。

 あと、猫アレルギーを気にしなくていいので猫と一緒に寝たい」


松本が前山に伝えた遺言である。

食パンは前山の差し入れである。


「なんでこのセリフ言わないといけないの?」

「このセリフ何なのお父さん?」

「弟の遺言なの、セリフの意味は後で教えてあげるから。名作だぞ~」


世代の違う姪達はこのセリフを知らなかった。


「さぁ、明日には火葬だから今夜が家族そろっての最後の食事よ。皆準備手伝って頂戴」


まるで親元を離れて一人暮らしする息子を送る母のように振る舞う。


「エビフライだー!」

「ハムだー!」

「お刺身だー!」


姪3姉妹が大皿を運んでくる。

長四角のテーブルに並ぶ料理と飲み物、それを囲む松本親族と前山兄妹。

母の横には猫達が刺身を待っている。

松本の枕元に刺身とハムが取り分けられた、エビフライは猫に悪いので貰えなかった。


「皆飲み物持ったかー?」

「いいですよお義父さん」

「それじゃ実の新たな旅路に!」

『 カンパーイ! 』 


掲げたグラスを煽る親族と親友兄妹。

母が刺身を猫に与えている。


「しかし、神様に殺されるとはね~我が弟らしい」

「俺の話を信じるんですか?」

「実さんならあり得そうだからなぁ~お兄ちゃんが一緒ってにいたってのがまた…」

「どういうことだ?」

『はっはははは!』


食卓を笑顔が包む、魂の抜けた松本の顔が少し笑った気がした。

枕元の刺身とハムは猫に食べられた。



翌日、松本の体は火葬され、葬儀は家族葬で質素に行われた。

松本のパソコンは前山に渡され、ハードディスクがドリルで穴だらけにされた。

前山、無事任務完了である。



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