68話目【ポッポ村への帰還】
地方都市ウルダを出発して5日目
松本、バトー、ミーシャ、ルドルフを乗せた馬車がポッポ村の近くまで帰って来た。
因みに馬車はポニ爺がずっと引いていた。
ポニ姉は長いまつ毛と白い鬣を風になびかせ横を歩いている。
森の手前の草原に柵に囲まれた集落が見える。
集落の横には畑と木材加工所、すぐ近くの小川には水車と小屋がある。
「見えたぞルドルフ、あれがポッポ村、俺達の村だ!」
「小さいのに立派な村ね、名前的にもっと放牧的な感じだと思ってたわ」
「ポッポ村は畜産はやってないからな、放し飼いの鶏から卵が取れるくらいだ」
御者台で手綱を引くバトーが横に座るルドルフに教えている。
馬車の荷台からミーシャが木材加工所を指を差す。
「あっちの建物はなんだ?」
「あれは木材加工所ですね、皿とか椅子とか作ってますよ」
「ポッポ村は木材加工が盛んでな、作った物を売って必要な物を買ってるんだ。
ミーシャの後ろに積んでるだろ」
「なるほどなぁ」
ミーシャと松本の乗る荷台にはウルダで購入したキノコと野菜、日用品
そして討伐したモギ肉が山積になっていた。
「お? あれバトー達じゃねぇか?」
畑仕事をしているゴードンが近付いてくる馬車に気が付いた。
「そうね、なんかいろいろ増えてるわね」
「馬車も変わってるな、何かあったなこりゃ…取りあえず出迎えに行くか、レベッカ」
「そうしましょ」
ゴードンとレベッカが村の入り口へと向かう。
馬車に乗るバトーとマツモトが手を振っている。
「ただいまレベッカ、ゴードン」
「ただいま帰りましたー」
「お帰りなさいバトー、マツモト」
「帰りが遅いから心配したぞ」
「すまないゴードン、ちょっといろいろあってな」
「馬車も変わってるし、ポニコーンも増えてるし、なにがあったんだ?
そんで、その2人はお客さんか?」
ゴードンとレベッカが少し警戒しているようだ。
「この2人は俺の元冒険者仲間だ。こっちがルドルフ、このデカいのがミーシャだ」
「「 初めまして、よろしくお願いします 」」
紹介され頭を下げるルドルフとミーシャ。
「まぁ、悪い人ではなさそうね」
「バトーが連れて来たんだ、大丈夫だろ。
すまんなお客人、気を悪くしないでくれ、最近いろいろあってな」
「どうやら、その村が襲撃された件の調査に来ららしいぞ」
「調査? まぁその辺の話は村長に頼むわ」
「早いとこ荷物降ろしましょう、最近凄く大きなモギが出るらしくて危ないのよ」
レベッカの言葉に顔を見合わす松本達。
「レベッカ、そのモギって…」
「この前ウィートが話してたんだけど、尻尾の切れた大きなモギが別な村で目撃されたらしいの。
なんでもウルダの冒険者総出で追い払ったとかなんとか…」
「子供達が心配でな、警戒してんだよ」
『ウィード』とは
44話目【ウルダ祭 17 ラッテオ対クルミちゃん】に登場した青年である。
レベッカに求婚し続けているが、軽くあしらわれ続けている。
26歳。レベッカと同い年の幼馴染。
心配そうなレベッカとゴードン。
松本が荷台でゴソゴソしている。
バトー、ルドルフ、ミーシャの視線がゴソゴソする松本の尻に集中している。
「あの~、そのモギならココに…」
大きな葉っぱに包まれた肉の塊を差し出す松本。
無言で頷く馬車の3人。
「マツモト君モギ肉仕入れて来てくれたの!? 気が利くのね!」
「モギ肉は旨めぇからな、皆喜ぶぜ~」
「いや、そうじゃなくて…」
「モギ肉じゃないの?」
ちょっと悲しそうなレベッカ姉さん。
モギ肉大好きレベッカ姉さん。
「いや、モギ肉ではあるんですけど。その大きなモギのモギ肉ですよ。
この人たちがウルダから依頼されて討伐したんです」
「「 はぁ!? 」」
驚くゴードンとレベッカにバトーが説明する。
「ウルダ祭の後にそのモギが現れて、町長から直々に依頼されてしまってな、
俺、マツモト、ウルダのギルド長のカルニ、Sランク冒険者のミーシャ、
同じくSランク冒険者のルドルフ、そしてポニ爺で討伐したんだ。
その時に馬車が壊れたんだが、討伐のお礼にポニ姉と馬車を貰ったってわけだ」
「はーそれで馬車が新しくなってんだな、マツモトも参加したのか?」
「参加はしましたけど、活躍はしてません」
胸を張る松本。
「マツモトは殆ど食べられてたわね」
「「「 だーっはっはっは! 」」」
「駄目じゃねぇか…」
「大丈夫だったのそれ…」
腹を抱えて笑う松本、バトー、ミーシャ。
困惑するゴードンとレベッカ。
「ルドルフとミーシャは強いからな、頼りになるぞ」
「バトーさんはウルダ祭でミーシャさんに負けましたもんね」
「ジャンケンでな」
「「「 だーっはっはっは! 」」」
「笑い事じゃないでしょ、止めなきゃウルダが崩壊してたわよ…」
「それで帰りが遅かったんだなお前達…」
「なんか心配して損したわね…」
笑う3人と呆れる3人。
「取りあえず、荷物を降ろそう。ポニ爺とポニ姉も休ませてやらないと」
「そうですね、俺とミーシャさんが渡しますから下で受け取ってください」
『 はいー 』
次々と荷台から降ろされる荷物。
キノコ、野菜、日用品、布団、そしてモギ肉。
モギ肉を受け取ったレベッカが紐を解き中身を確認する。
大きな葉っぱを開けると白い冷気が地面に落ち、中から脂の乗った生肉が顔を出した。
鮮やかなピンクに白のサシが入っている、いわゆる霜降り肉である。
「いや~キレーイ! ウルダから運んで来たから痛んでないか心配したけど、凄く新鮮ね~!」
宝石のように美しい霜降り肉にレベッカ姉さんが目を輝かせている。
「旅の間、ルドルフが氷魔法で保存してくれてたからな」
「ルドルフさんありがとう~!」
「どういたしまして。まだ沢山あるわよー」
「ほんと!?」
レベッカが荷台を覗くと木箱に入ったモギ肉の山が見えた。
木箱は全部で8個、1個の木箱に10キロのモギ肉が8個入っている。
全部で640キロである。
旅の間荷台が狭かったのはモギ肉のせいである。
「モギ肉がこんなに沢山!? うれし~い!」
「40メートル位の大物だったからな、もっと沢山あったが馬車容量が足りなかったんだ」
「そうなの? もう1台馬車買えば良かったじゃないの勿体ない…」
「そう言うなよレベッカ、保存するのも大変だろ? 氷魔法掛け続けないといけないんだぞ?」
「それもそうね、食べられるだけ有難いわ、感謝しなくちゃね」
「ちょっとー、バトーさんレベッカさんモギ肉運んでくださいよー、沢山あるんですから」
「「 はいー 」」
荷物を降ろし終えゴードンが馬車を戻しに行った。
ポニ爺はポニ姉と一緒の小屋でご満悦である。
しかし、後日ポニ姉の小屋が増設され悲しんだそうな。
マリーとジョナが荷物を受け取りに来てキノコの麻袋が運ばれていった。
「ちょっといいかジョナ、多分お前の方だと思うんだが…」
バトーがジョナに木箱に入ったキノコを見せている。
「あぁ~『がんばるダケ』。珍しい売ってたんだね、高かったでしょ?」
「買ってきたが問題ないか?」
「問題ないよ、僕の店で販売してる頑張るときに飲む薬の元だよ」
「そんなことだろうと思ったよ」
やっぱりな、女性店員さんがは説明し難そうにする筈だ。
田舎で子供が多いポッポ村…需要はありそうだな…
あれ? ジョナの店でそんな物売ってたか? っは!?
見た目は子供 頭脳はオジサンの松本に衝撃が走る。
「マツモト君、ちょっといいかな。君は勘が良さそうだね…」
「ヒェッ!?」
松本はジョナに連行されていった。
「マツモト! 今日は皆でモギ肉食べるから家に帰るなよー!
ミーシャ、ルドルフ、俺達は村長の所にいこう」
「おう」
「分かったわ」
バトーの案内でミーシャとルドルフは村長の元を訪れ、旅の目的を説明した。
滞在の間、ルドルフとミーシャはバトーの家に泊まることになった。
「マツモト君、初めての旅で少し成長したんじゃない? ちょっとだけ凛々しくなってるわよ」
「ウィンディさん、俺はもう大人ですよ」
広場でモギ肉を囲む村人の中に、少しだけ大人の顔つきになった少年がいたそうな。




