61話目【巨大モギ討伐 後編】
ミーシャがモギの牙を砕き、馬車の荷台が四散し宙を舞う松本。
なぁ!? これもしかして食われる!?
いやあああああああああああああああああああああああ…
バクンッっと音を立てモギの口が閉じた。
暗闇に飲み込まれた松本は必死に抗っていた。
うぉぉぉぉぉヌルヌル滑るぅぅぅ…
何かに掴まらないとぉぉぉぉ…
こ、これだぁぁぁぁ!
何かに掴まりながら、パンツ姿で両足を開き踏ん張る松本。
助かったけど…なんだこれ?
上から垂れていて先に柔らかくて丸い物が付いている…
丁度2本あって掴みやすい…
「行くぞ! ミーシャ!」
「おうよ! でやぁぁぁ!」
バトーがモギの左指を飛ばし、ミーシャの斧が弾かれた。
外でモギが攻撃される度に口が空き光が入る。
ん? 今なんか外が見えたな…
ということは俺はまだ外に口の中にいるのか…
喉の手前か?
うぉぉぉぉ地面が動く! もしかして飲み込もうとしてる!?
「どぉりゃぁぁ!」
「でやぁぁぁぁ!」
爆発音が2回聞こえ再度光が入る。
松本の視界に並んだ歯が見えた。
喉の手前にいるとすると…この形…
もしかしてこれ…喉チンコか?
『喉チンコ』
正式名称は口蓋垂。人間の喉に垂れているアレ。チンコだがチンコではない。
口から入った食べ物が鼻の方に逆流しないように仕事しているチンコ。
他にもいろいろ仕事していたり、イビキの原因になったり、
人によって2個あったり、切除しても普通に生活できたりする謎のチンコ。
爬虫類には無いらしいが何故モギにあるかは不明、ファンタジーチンコである。
外ではバトーとミーシャが追撃入れモギが暴れ出した。
な、なんだぁぁぁ!? 揺れるぅぅぅ!
だ、脱出せねば、飲み込まれるうぅぅぅ!
のわぁぁっぁぁあ!
モギが左を向きバトーに突進する。
口の中の松本が振られ、喉奥から放り出され左の奥歯と舌の間に収まった。
舌に圧迫される松本。
うごっ!
く、苦しい…何とか喉から脱出できたが苦しいぃぃぃ
背中がなんか硬い物に当たってるんだけど…これもしかして歯か?
せめて歯の外に行ければ…
くそっ! 口が空かないと暗くて何も見えない…
松明でもあれば… ん? 松明か…ファイヤァァァァ!
身動きが取れない松本の手の平に小さな炎が現れ暗闇を照らす。
松本の視界にヌラヌラ光る肉の壁と、上下から嚙み合う大く鋭い歯が現れた。
怖ぇぇぇ!? なんっ…怖ぇぇぇぇ!
何この鋭い三角形、こんなのに齧られたら真っ二つになるわ!
しかし、これ超えないと外に出られんし…
松本の選択肢は2つ、進むか戻るか。
進むには鋭い歯超える必要があり、戻ると暗闇い穴の先に待っているのは消化液である。
喉チンコが振れて手招きしている。
進も地獄、戻るも地獄…
戻れば確実に死ぬ、しかし進むなら危険だが生存の可能性がある。
ならば! 選ぶ道は1つしかない、前進である!
な、なんとか長い間口開けてくれないかな…
モギの左前足の指が2本飛び、尻尾が輪切りにされる。
左目の付近で爆発が起き、左右の腹部に傷を負った。
「右目も頂くぜぇぇぇ!」
ミーシャの声が聞こえた直後、片目を潰されたモギが状態を起こし雄叫びを上げた。
お!? なんか縦向きにな…
み、耳がぁぁみみみみががあがががが
モギの口の中の左奥歯にいる松本。
至近距離で雄叫びを受け、口から泡、耳から血を噴く。
白目を剥いている。
あああああ耳がああああ
だがチャンスだあああああ
でやあああああああああああ
耳血と泡を飛び散らせながら、決死の覚悟で奥歯を乗り超える松本。
奥歯と頬の内側に滑り込み、鋭い歯にパンツが引っ掛かった。
なにぃぃぃ!?
ここに来てパンツだどぉぉぉ!
っは!?
モギの叫び声が止み松本に戦慄が走る。
松本のウィンナーに鋭い上顎の歯が迫ってくる。
なにぃぃぃ!?
このままでは尊厳によってウィンナーがぁぁぁ!
まだ1度も活躍していないウィンナーがぁぁぁ!
ぎゃあああああああああああ…
モギの口が閉じパンツが割ける。
松本の抵抗敵わずウィンナーが歯の間に挟まった。
ウィンナーは松本の元を離れず未だ寄り添っている。
ぎゃあああああウィンナー挟まってるぅぅぅ!?
取れる、取れちゃう! 息子が独り立ちしちゃぅぅぅ!
ん? 挟まってるけどなんともないな…
「ビシィィ」
聞き覚えのある音が聞こえた瞬間、松本は全てを理解した。
モギに食べられる時に光っていたカルニの杖…
鋭い歯に挟まったウィンナー…
そして何かに亀裂の入ったような音…
松本のウィンナーを鋭い歯から守ってくれているのはカルニの強化魔法、
その強化魔法が目の前で音を立てて砕け散ろうとしている。
それは松本とウィンナーの別れを意味している。
ロックフォール伯爵の収める自由都市ダブナルにも、ウィンナーの魔道補助具は無いのだ。
あばばばばばばば!?
やばいやばいやばいやばいやばい!
お願いだから口開けてぇぇぇぇはやくううううううううう!
雄叫びが止みミーシャが顔を上げると血走ったモギと目が合った。
一方モギの口の中では、ウィンナーに掛けられた強化魔法が悲鳴をあげ、松本が発狂していた。
怒りに満ちた目でミーシャを見下すモギの口元から、先が2股になった長い舌が現れる。
顔を向けるモギにミーシャは冷や汗を流した。
一方口の中では、鋭い歯から解放されウィンナーと松本が冷や汗を流していた。
キレたモギがバトー達を見失い、尻尾で草原を消し飛ばす間、
モギの左奥歯と頬の内側で松本は放心していた。
「仕方ないな、やるしかない。ルドルフの魔法で仕留めよう」
「いいのバトー? もしマツモト君が生きてたら…」
「あれを野放しにすれば次はウルダに向かうからな…俺はマツモトを信じるよ。
大丈夫、あいつの生命力は強いからな」
「しゃーねぇか、生きろよマツモト」
「私も信じことにするわ」
「もし生きてたらモギ肉でお祝いね」
草むらに伏せたバトー達が覚悟を決めた頃、松本は動き出す。
右手に魔力と殺意を込め、奥歯の根元に炎を灯した。
「ファイヤ… おらぁぁぁぁ! ウィンナーの恨みを思い知るがいい!」
モギの口の中で左奥歯の歯茎を焦がす松本。
ジュウジュウと音を立てる。
「よくも俺とウィンナーの仲を裂こうとしてくれたなぁぁぁ!
口内炎にしてくれるわぁぁぁ! ビタミン不足で苦しむがいい!」
奥歯で小さく姑息な反抗を開始する松本。
「最後だ、行くぞ!」
「おう!」
「ええ!」
「今までのお返ししてやるわ!」
草むらから立ち上がるバトー、ミーシャ、ルドルフ、カルニ。
巨大なモギが4人を視界に捉え、下顎をモゴモゴさせながら方向を変える。
「上級魔法には少し時間がいるわ! カルニ掩護して!」
「了解よ、2人もモギをこっちに近寄らせないで!」
「了解だ! 時間を稼ぐぞミーシャ!」
「おうよ! 前に出て引き付けるぞ」
バトーとミーシャが左右に分かれ前に出る。
ルドルフが上級魔法を唱え、カルニが正面に障壁を重ね全員に強化魔法を掛ける。
モギが走り出しミーシャに突撃し、同時にバトーへ尻尾を振る。
「ミーシャ! バトー!」
カルニの声が響くとモギの勢いが止まり、身構えたミーシャとバトーが距離を取った。
「なんだ? 急に止まったぞ?」
「いったいどうしたってんだ?」
不思議がるミーシャの前で、モギが口をモゴモゴさせながら苦しみだした。
「おらぁぁぁぁ! 知覚過敏にしてくれるわぁぁぁ!」
苦しむモギの口の中では、松本の怒りが歯茎を焼き、歯の神経を滅多打ちしていた。
のたうち回るモギを不信に思いバトーがミーシャの元に駆け寄る。
「ミーシャ、どうした?」
「分からねぇ、なんか急に苦しみだしてよ…」
叫び声を上げ、下顎をモゴモゴさせながら頭をブンブン振るモギ。
「ん? 今なんか…」
「どうしたよバトー?」
「いや、なんか口の中に見えたような…」
「なに? どれどれ…」
バトーとミーシャがモギの口の中に目を凝らす、左奥歯付近に肌色がチラチラしている。
「ミーシャ、あれなんだが…もしかして」
「ん~ どれよ?」
「いや、ほら左奥歯の辺り、肌色が見えないか?」
「奥歯か? ん~…ん!? おいバトーあれって…」
「見えたか? 多分そうだよな…」
地面に頭を打ち付け苦しむモギを見ながら、腕を組み顎を擦るバトーとミーシャ。
異変に気が付いたカルニとルドルフが声を掛ける。
「どうしたのー? なんでモギが暴れてるの?」
「何が起きてるのよ? そろそろ魔法いけるわよー!」
「ルドルフー、ちょっと待ってくれー!」
「モギの口の中によー…」
「ああああああああああああああああああああああああああ」
モギが頭を振ると口の中から全裸の少年が飛び出してきた。
「「 マ、マツモト(君)!? 」」
驚くルドルフとカルニの元に飛ぶウィンナー。
カルニが強化魔法を掛ける。
歯を見せて笑いうバトーとミーシャが追う。
「やっぱりな! いっただろミーシャ、あいつの生命力は強いって!」
「あぁ! 自分で出てきやがった、やるじゃねぇか!」
「ルドルフ! 思いっきりやっていいぞー!」
「カルニ! 皆の周り障壁を張れ! 吹き飛ばされるぞ!」
「ああああああああああああああああぐぇ!?」
集う歴戦の4人と全裸の松本。
バトーとミーシャが前に出て盾と斧で衝撃に備える。
松本を吐き出したモギが向かってくる。
「ストレングス! いいわよルドルフ!」
「いくわよ! エクスプロード!」
モギの下に炎が現れ収縮し、次の瞬間、光と炎が膨らみ爆発した。
身体の真下で爆発が起き、巨大なモギが宙を舞う。
「おおおおおおお…」
「ぐうううううう…」
「わわわわわわわ…」
「ひぃぃぃぃぃぃ…」
「あばばばばばば…」
5人は身を寄せ丸まり吹き荒れる爆風を耐える。
カルニの障壁が次々と粉砕し、マツモトのウィンナーが揺れた。
爆風が迫る5人の前に上空から絶命したモギが落ちて来た。
爆風が収まった草原は地表が露出し、爆発により地面がえぐれていた。
「なんとか助かったな」
「危なかったぜ」
「やり過ぎよカルニ! 地形が変わってるじゃないの!」
「なによ、思いっきりやれって言ったじゃない!」
「あのー何言ってるか聞こえないんですけど…」
巨大モギ討伐、依頼達成である。




