60話目【巨大モギ討伐 中編】
『モギ』とは通常5~10メートル程の大きなトカゲである。
肉食で性格は獰猛。皮膚の表面は鱗に覆われ、四肢には大きな鋭い爪。
見た目はコモドオオトカゲに似ているが、鋭い歯が生えており口だけ見るとワニにも似ている。
長い舌を持ち、上顎と下顎に2本ずつ他の歯に比べて大きな牙がある。
足は速く時速60キロ程のスピードで走る。
横から見ると全長の半分の位置に後ろ足があるため、半分が尻尾。
残り半分が体と頭、首の付け根に前足が生えている。
頭の大きさは全長の10分の1といったところだ。
今回、松本達が討伐しようとしているモギは規格外に大きい。
大きさは約全長40メートル。
とすると、尻尾の長さは全長の半分で約20メートル、大型バスより大きい。
残った20メートルが体と頭であり、頭の大きさは約4メートル、乗用車と同じくらい。
因みに、現在は尻尾が3メートル程切れており37メートル程。
小さければトカゲだが37メートルにもなると、もはや恐竜である。
ポニ爺が引く馬車の後方には大口を開けたモギが迫っていた。
松本が光魔法を止め荷台に伏せると、頭上で斧が振られ馬車の幌が吹き飛んだ。
「カルニ馬車を強化しろ! であぁぁぁ!」
ミーシャの声によりカルニの強化魔法が馬車に掛けられた。
揺れる荷台に足を踏ん張り、ミーシャが両手で斧を振る。
迫るモギの上顎の牙を叩き折ると、反動でミーシャの足元から亀裂が入り荷台が四散した。
うわぁ!? ミーシャさんの攻撃で荷台が粉砕した!?
受け身を取らねばぁぁぁ! 無理に着地したら骨折するぅぅぅ
衝撃は受け入れるしかない、頭だけ守れぇぇぇ!
投げ出された松本は両手で頭を守り体を丸くする。
回転する視界に同じく宙を舞うミーシャ、ルドルフ、カルニが微かに映る。
カルニが慌てて杖を光らせたと思った矢先、松本は近寄って来るモギの雄叫びに気が付いた。
大き過ぎて気付くのが遅れたが、回転する視界には迫りくるモギも映っていたのだ。
なぁ!? これもしかして食われる!?
いやあああああああああああああああああああああああ…
バクンッっと音を立てモギの口が閉じた。
荷台から投げ出されたミーシャ、ルドルフ、カルニは草原を転がったが
松本が転がったのはモギの口の中だった。
「着いたぞ! 全員無事か?」
「俺は無事だバトー!」
「私も無事よ!」
馬車から飛び降りたバトーの問いに草むらから姿を現したミーシャとルドルフが答える。
カルニと松本の返事がないため再度問いかけるバトー。
「カルニ! マツモト! 返事しろ!」
「私は無事よ! でも、マツモト君が…マツモト君が食べられちゃったわ!」
カルニの答えに思考が止まるバトー、ミーシャ、ルドルフ。
「「「 なにぃぃぃ!? 」」」
2秒程間を置き、3人に戦慄が走った。
4人はモギを囲む形でバラバラになっている。
モギの正面にバトー、右側にミーシャ、左側にルドルフとカルニ。
武器を構え、鼻息を荒げるモギに注意を向けながらバトーが大声で確認する。
「見たのか?」
「えぇ、さっき空中で丸飲みにされちゃったのよ!」
「丸飲みなのカルニ? 齧られた訳じゃないのよね?」
「そうよ、丸飲みだったわ! 齧られてなかった筈よ!」
カルニの言葉を確認し、4人が戦闘態勢になる。
「いいか! マツモトはまだ生きている可能性が高い! 急いで仕留めるぞ!」
「ルドルフ! 最大火力は無しだ! 中のマツモトが死んじまう!」
巨大なトカゲの向こう側からミーシャの声が聞こえる。
「了解! でも無理そうなら使うわよ! 皆それでいいわね!」
「いいわよ! 援護するわ!」
「皆やるぞ!」
「おう!」
モギの左側に走り出すバトー
「行くぞ! ミーシャ!」
「おうよ! でやぁぁぁ!」
バトーがモギの左前脚を攻撃し、モギの指を飛ばす。
ミーシャが右側の首に斧を叩きつけると弾かれ、金属音と共に火花が散った。
叫ぶモギから離れながら報告するミーシャ。
「コイツ首が硬いぞ! 斧が弾かれた!」
「ミーシャ、こっちは指を切ったぞ!」
「2人もー! 皮が凄く固いから弱点の首は無理よ、末端か腹側ならなんとか切れるわ!」
「そういうことか」
「試してみるか」
下顎を時よりモゴモゴするモギにバトーとミーシャが走りだした。
ルドルフとカルニはモギから距離を取る。
カルニとルドルフがモギの後方に炎魔法を放つ。
バトーの横を炎の塊が通り過ぎていく。
「どぉりゃぁぁ!」
「でやぁぁぁぁ!」
ミーシャとバトーが武器を振り腹側の皮膚を裂く。
カルニの魔法が左後ろ脚、ルドルフの魔法が尻尾で爆発し肉を焦がす。
爆炎が草を吹き飛ばし煙が上った。
バトーとミーシャが追撃を入れるとモギが暴れ出した。
「離れろバトー! 下敷きになるぞ!」
急いで距離をとる2人。モギが頭を左に向けバトーに突進する。
バトーがモギの左側に飛び避けると大きな爪が襲う。
正面から迫る爪を盾で受け止めるバトー、モギに押され地面に2本の線が出来る。
爪を押し返し、剣でモギの左前脚の指を2本飛ばした。
「どぉりゃぁぁ!」
モギの後方に飛び掛かったミーシャが千切れた尻尾の先に斧を振り下ろす。
尻尾が輪切りにされ1メートル程短くなった。
「バトー避けて!」
叫び声を上げるモギの顔にルドルフとカルニが魔法を放つ。
バトーが避けると同時に爆発が起きモギの左目を損傷させた。
「よし、効いてるわね」
「いけるわよカルニ」
再びバトーとミーシャが左右から攻撃を仕掛け、モギの側面に損傷を与える。
左目、上顎の牙、左前脚の指3本、左右の腹部、尻尾を少々。
ウルダの冒険者が総出で与えられなかった損傷を短時間で与えており火力の違いが伺える。
そもそも並みの冒険者であれば巨大モギの硬い鱗に傷をつけることが出来きなかった。
以前、尻尾に傷をつけたのはアクラスであり、傷を総出で攻撃し落としたのだ。
単身で牙を砕いたり、尻尾を輪切りにしたり、指を落としたりとバトーとミーシャは格が違う。
爆発の後、首を振るモギを見て察したミーシャが残る右目を潰そうと走り出す。
飛び掛かり斧を振りかぶるミーシャ。
「右目も頂くぜぇぇぇ!」
片目を潰されたモギが状態を起こし雄叫びを上げる。
たまらず4人は耳を塞いだ。
「何だ!?」
「耳が…」
「うるさ…」
「うるせぇ!」
飛んでいたミーシャは斧を止め両手で耳を塞ぎ着地する。
雄叫びが止みミーシャが顔を上げると血走ったモギと目が合った。
怒りに満ちた目でミーシャを見下すモギの口元から先が2股になった長い舌が現れる。
顔を向けるモギにミーシャは冷や汗を流した。
「コイツ…キレやがった…」
斧を構えるミーシャの背後から舌が迫る。
「ぐぉ!?」
「ミーシャ!?」
下に薙ぎ払われたミーシャがモギの前方に飛ばされる。
飛ばされる巨体を見て驚くバトーにモギの左手が迫る。
「ぐぅ…!?」
盾で爪を防ぐが、そのまま投げ飛ばされるバトー。
ミーシャとバトーが10数メートル飛ばされルドルフとカルニの前方に落ちた。
「いてて…」
「凄い力だ…」
ルドルフとカルニが駆け寄り回復する。
「大丈夫?」
「油断したわね2人共」
「いや…ミーシャ、あいつ」
「あぁ、キレやがった。ここからが本番らしい…」
立ち上がったバトーとミーシャを見て再び雄叫びを上げるモギ。
「来るぞ、気を付けろ!」
「今までと違うぞ! 油断すると死ぬぜ!」
「上等よ!」
「了解!」
武器を構える4人に怒り狂った巨体が迫る。
ルドルフとカルニが魔法を当て爆発が起き、爆炎がモギを包む。
「どう?」
「止まった?」
爆炎の中から雄叫びが聞こえ、地面が揺れる。
「いや…」
「止まってねぇぞ! 構えろ!」
4人の目の前に爆炎を掻き分けモギが現れた。
「ストレングス!」
モギを見たカルニが瞬時に4人の前に障壁を作り全員に強化魔法を掛ける。
バトーとミーシャが盾と斧で受けるが4人は弾き飛ばされ宙を舞う。
「ウォータ!」
空中でルドルフが水魔法を使い、着地地点に水の塊があらわれた。
水に飛び込み衝撃を和らげる。
4人を追いモギが迫る。
「ルドルフ、爆炎で視界を塞げ! 全員左目の方向に走れ、一旦隠れるぞ!」
「了解! いくわよ!」
バトーの要請でルドルフが魔法を複数放ち、爆炎でモギの視界を塞ぐ。
4人はモギの左側に走り潰れた左目の死角に消えた。
モギから距離を取り草むらに伏せる4人。
モギが爆炎を掻き分け探している。
右側に首を振り旋回し始め、尻尾を振り回し始める。
尻尾が振られる度に扇状に草原が消し飛ぶ。
尻尾の範囲外から4人は様子を伺っていた。
「上手く隠れられたな」
「どうするよ、あの巨体で暴れられたら手に負えないぜ」
「覚悟を決めるしかないんじゃない?」
「ルドルフ、覚悟ってまさか…」
察したカルニがルドルフに問う。
「しかたないでしょ、あれを野放しにする訳にはいかないのよ」
「マツモトと一番付き合いが長いのはバトーだ、お前が決めろ」
ミーシャの言葉にバトーは覚悟を決めた。
「仕方ないな、やるしかない。ルドルフの魔法で仕留めよう」
「いいのバトー? もしマツモト君が生きてたら…」
「あれを野放しにすれば次はウルダに向かうからな…俺はマツモトを信じるよ。
大丈夫、あいつの生命力は強いからな」
バトーは笑った。
「しゃーねぇか、生きろよマツモト」
「私も信じことにするわ」
「もし生きてたらモギ肉でお祝いね」
3人が笑う。
「最後だ、行くぞ!」
「おう!」
「ええ!」
「今までのお返ししてやるわ!」
草むらから立ち上がる4人。
モギ討伐も大詰めである、松本の命運は如何に。




