6話目【そして異世界へ】
「それで? 俺はこれからどうしたらいいんだ?」
「あなたには2つの選択肢があるわ、
1つ目は魂の泉に還り新たな生命として世界へ還る道、これは通常の流れね、
記憶は全て消え完全に別の生命となる、魚や鳥の可能性もあるわ。
2つ目は現在の記憶を持ったまま別な世界へ転生する道、今回みたいなイレギュラー時の特別な処置よ、
こちらは同じ種族に転生する」
「記憶を持ったまま別な種族にはなれないのか?」
「近い種族なら可能だけど大きく離れた種族は無理ね、構造が異なるからいずれ体と魂が分離して消滅するわ、
私的には1つ目がおススメかなー? 事後処理が楽だし」
「じゃあ2つ目で!」
「えぇ~!? 1つ目にしなさいよ~お願いよ~!」
「断る! 1つ目にメリット感じないし、何よりお前が楽するのは気に食わん!」
「なんでよ~? 魂の泉はいいところよ? 1つ目にしときなさいよ、ローラーもきっと気持ちいいいから!」
「い・や・で・す! そもそもローラーって何よ?」
「なにって、魂の情報をリセットする装置よ、天使ちゃん達~ちょっと持ってきて~」
「「 は~い 」」
神が手を叩くと天使達が台車に乗った装置を運んで来た。
棒状のローラーが2つ上下に並んでおり、横にはハンドルが付いている。
「これが魂の情報をリセットする装置、その名も転生君よ! 一度見た方が早いわね」
そういうと天使達が魂を連れてきてローラーの前にセットする。
「どっせーい!」
ビシャー!
神がハンドルを回すと魂がローラーに飲み込まれ、よく分からない液体?が飛び散った。
ローラーの反対側では絞られた魂が受け皿に滑り落ちた。
「ヒェッ…」
謎の液体を浴び硬直する松本、同じく液体まみれの3人が振り向いた。
「さぁ、次はあなたの番よ…」
そう告げながら据わった目で近寄って来る神と天使。
「イヤァァァァ‼ 絶対にイヤァァァ‼」
「安心して! 痛くはないわきっと!」
「怖すぎぃぃぃ! やめてぇぇぇ! 絶対に嫌だぁぁぁぁ!」
ローラーに押し込もうとする神に全力で抗う松本。
「チッ…仕方ないわね~2つ目で行くわよ、まったくもう…
「(もともとお前のせいだろーが! なに不満そうにしてるんだこのポンコツ神が!)」
と思ったが再びローラーに巻き込まれそうなので口には出さなかった。
「それじゃ聞き取りするから、質問に答えなさい人の子よ」
バインダーに用紙を挟み聞き取りする神。
白熱球のライト、ラジカセ、黒電話、FAX、手動の転生君そしてバインダー、
昭和のノスタルジーを感じる。
「名前はマツモトミノル、種族は人間、年齢は38、性別は男、能力は極めて一般的…なんかつまらない人生ね」
「はいはいすみませんね、日本は平和な国なの、サラリーマンが沢山いるの、これがスタンダードなんです!」
「38年間恋愛経験なしが普通ねぇ…種族が滅びるわよ?」
「やめて! そっとしておいて! そこはデリケートな問題なの!」
鋭い言葉に松本は両耳を塞いだ。
「まぁいいわ、次は申請用紙に…あれ? どこ行ったかしら?」
ゴソゴソと机の引き出しを漁る神。
「あれ~おかしいわね? 残ってた筈なんだけど…はっ!? まさか…」
冷や汗を掻きながらバインダーの用紙をめくる神。
下に申請用紙が挟まっている。
「ちょっ、ちょっと神? 何? 大丈夫? 大丈夫ですよねそれ?」
「だ、だだだ、大丈夫よよよよ問題ないななななn」
「おいぃぃぃ! 絶対大丈夫じゃないだろ! 問題起きてるだろそれぇぇぇぇ!」
「なんでも無いわ! 私は神よ信じなさいよ!」
「信じられるかぁぁぁ!」
そそくさとFAXへ歩いていく神。
「ま、待てぇぇぇ! ちょっと待ちなさいよ、ちょっと見せなさいよ!」
「やめなさいよ! もう待てないのよ! これを流せば終わりなのよ!」
「させるかぁぁ! 終わらせはせん! 終わらせはせんぞぉぉぉ!」
FAX攻防を制した松本がぐったりした神からバインダー奪い取る。
確認すると用紙が『4枚』挟まっていた。
1枚目は生前の情報。
2枚目は青い塗料で1枚目と同じ内容が記載されている。
3枚目は転生の申請用紙、記載はないが1枚目の筆跡がみえる。
4枚目は3枚目と同じ。
「なぜ!? よりにもよってペーパーレスの時代に複写式!?」
「うるさいわね! それでも楽になった方よ!
以前はパピルス使ってたのよ! その前なんて石板だったのよ! 掘るの大変だったのよ!」
「天界なんだからもっと便利な方法ないの? 魔法とかでなにかないの?」
「無いからこうなってんでしょ頭悪いわね!
情報を送り側と受け取り側の両方で管理しているのよ! そのための複写式よ!
以前は石板2枚掘って持って行ってたのよ! 重いのよ場所とるのよ!」
「データー化したらいいじゃない! 作業も楽だし場所も取らないし!」
「転生作業なんてめったにないの! 予算なんてあと回しなのよチクショーーーー!」
天界も世知辛いようだ。
ちなみに複写式はFAXで送ったのち、原本をを天界急便で送るそうだ。
なんとも非効率である。
「とりあえず書き直せばいいのでは?」
「…のよ」
「?」
「もう用紙がないのよ!」
「いや、注文すればいいのでは?」
「注文しても届くのは3か月後よ!」
「え? じゃあ…待てばいいのでは?」
「駄目よ、正規の処理を行っていないから自我を保っていられないわ」
「…ということは」
「選ぶのです人の子よ…その申請用紙で転生するか、魂の泉に還るか」
松本の背後では天使達が転生君のハンドルをグルグル回している。
「…こ、この用紙で申請をお願いします」
松本、苦渋の決断である。
申請用紙には複写された内容は
名前:マツモト ミノル
年齢:8
性別:男
能力:極めて一般的
「年齢の38の3が複写されなかったことが唯一の救いだな…」
「まぁ名前なんて後から変えても大丈夫だし、そんなに落ち込まなくても…」
「折角転生するなら能力高くしたいと思いませんか神よ? せめて魔法使ってみたかった…」
「それなら魔法が使える世界を選べはいいのよ、特に才能なくても魔法使える世界があったはず」
「あ、あるの? そんな都合のいい世界」
「そりゃ数多の世界があるんだからあるわよ」
分厚い本のページの中から転生先を探す神。
「その能力じゃ普通の一般人だから…ここなんていいじゃない?
えーと人間以外の種族もいるみたい、魔族もいるけど魔王が倒されてからは割と平和、魔法は一般的に使用可能」
「何とか生きていけそうだし、まぁいいか、それでお願いいします」
「それじゃ申請するわよ~」
申請用紙を切り離し複写側をFAXにセットしボタンを押す。
容姿がゆっくり飲み込まれて行く。
「あの~神よ、所持品の欄が空欄なんですけど?」
「ひぇっ…まずいわよ! 早く書き足して、このままじゃ全裸で転生することになるわ!」
「えぇ!? ちょっとこれ止めて! 全裸はいやぁぁ!」
「ひょっと無理に引っ張らないで! 破れたら申請できなくなるから!」
「せっ、せめてパンツだけでも…ちょっとまってぇぇぇぇ!」
備考欄に急いで書き足す松本、FAXに飲まれ行く申請用紙には『パンツ』の文字が記載された。
「…今、備考欄に『パンツ』って入りきったかしら?」
「…いや、『ツ』は備考欄からはみ出ましたけど…」
胸の前で両手を組む神。
「新たな旅路に幸あらんことを…」
「おぃぃぃ!? なにその憐みの眼? ちょっと大丈夫なのこれぇぇぇぇ?」
カッ!
松本の体は光に包まれ消えた。