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57話目【ウルダ祭 30 『ミノタウロス祭』 決勝】

バトーとミーシャがステージに上がる。

前回優勝者のアクラスを完膚なきまでに叩きのめしたバトーと

Sランク冒険者であり、バトルアックスを片手で振り回すモヒカン三つ編みの髭、ミーシャ。

バトーはアクラス戦でそれなりに戦って見せたが、ミーシャに至っては殆ど戦いになっておらず、

実力者の2人がどのような戦いを見せてくれるのかと観客の期待は高まっている。

胸を高鳴らせる会場の中で唯一、審判のカルニだけが冷や汗を掻いている。


急に決勝戦まで話が飛んだと感じる方もいるだろうが、お察し頂きたい。

ルドルフが再々語っていたようにトーナメント内にバトーとミーシャに敵う者などいなかったのだ。

カルニ軍団で1回戦を勝ち上がったシグネ、オリー、エリスの3人だが、オリーは2回戦敗退。

シグネは3回戦でバトーと対戦したが、先のアクラス戦を見て怯え切っており、

バトーが剣を振った際に口から魂が抜け失神。

エリスも3回戦でミーシャと対戦し同じく失神。

カルニ軍団4人の内3人が失神するという大惨事となった。


冷や汗を掻くカルニの近く、ステージ脇にはアナウンスで強制的に呼び出された

ルドルフと松本、カルニ軍団唯一の生き残りのオリーが控えている。


「ちょっとカルニ、なんで私がこんなことしないといけないわけ?」

「ルドルフ、止めなかったあんたにも責任があるんだから手伝いなさいよ!」

「マナの回復なんて、あんたの弟子達にやらせればいいでしょ? 私を巻き込まないでよ!」

「その弟子達がバトーとミーシャのせいで3人倒れたの! オリーはそこにいるでしょ!」

「ルドルフさん手伝って下さいよ~カルニ姉さんがこんなに取り乱したの見たことないんですよ?

 絶対、私1人じゃ無理ですよ~」


オリーがルドルフの腰に抱き付き、涙を流しながら懇願している。


「あのー俺はリバイブ使えないんで必要ないのでは?」

「マツモト君はルドルフが逃げようとしたら捕まえて頂戴、あとサボったらその剣でお尻叩いて!」

「マツモト、叩いたら後で倍叩くわよ!」

「マツモト君叩かなかったら後でその分叩くわよ!」



えぇ…どっちにしろ俺の尻叩かれるじゃん…

『ヒヨコ杯』から尻叩かれ過ぎて変な性癖に目覚めそう…



「バトー、ミーシャあんまり本気でやらないでね」

「無理だなカルニ、ミーシャが手加減するとは思えないからな」

「無理だぜカルニ、バトーが手を抜くはずないだろ」

「この分からず屋ども! 手加減しなさいよ~手を抜きなさいよ~」


カルニの願いは聞き入れられなかった。


「只今より、ウルダ祭、決勝戦を開始致します!」


カルニのアナウンスで沸く会場。


「その前に大切なお知らせがあります! 

 今回の対戦は非常に危険な為、私が退避を指示した場合は速やかに非難して下さい。

 慌てると大変危険です、落ち着いて、譲り合いの精神で避難して下さい」


カルニのアナウンスに首を傾げる観客。

カルニが松本達のいるステージ端に寄る。


「それでは試合開始ー!」


右手で持つ斧で肩をトントンするミーシャ。

右手に持った鞘付きの剣で肩をトントンするバトー。


「最近死にかけたそうだなバトー、鈍ってるんじゃないのか?」

「今年34歳だろ? ミーシャこそ、そろそろ体にガタが来てるんじゃないのか?」

「なーっはっはっは」

「はーっはっはっは」

「「はぁ!」」


ステージ中央で笑い合っていた2人が同時に攻撃を仕掛けた。

ミーシャは右上からバトーの顔を、バトーは右下からミーシャの腹を。

ミーシャの斧はバトーの盾で、バトーの剣は根元をミーシャの左手で掴まれている。


2人が激突した瞬間、今までの対戦では聞いたことのない衝撃音と共にステージが揺れた。

全身に力を入れ膠着する笑顔の2人、額に血管と汗が浮く。

一瞬でも力を緩めれば相手に押しつぶされる、静かな攻防が行われている。


「鈍ってはなさそうだなバトー」

「まだまだ現役だなミーシャ」

「そうかい…ありがと・よぉ!」


前に出していた右足でバトーの腹を蹴るミーシャ。


「ぐ…!」

「おらぁぁぁ!」


1メートル程後退したバトーにミーシャが右手に持った斧を振り下ろす。

バトーが盾で斧を弾き、ミーシャの右半身が開いた。

すかさずミーシャの右肩を剣で突くバトー、直撃し体制を崩す。

右肩を抑えてミーシャが笑う。


「やるなバトー」

「片手なら弾けるからな」

「お前以外に出来るヤツはいないぜ~」



ミーシャとバトーどちらかが攻撃するたびに「ビシッ」音がしている。

2人が持つ武器の被せ物にカルニが施した強化魔法が悲鳴を上げているのだ。

その都度カルニが杖を光らせ、強化魔法を掛け直している。

本来なら攻撃した程度では破られないが、バトーとミーシャは規格外だのだ。


ステージと観客前の障壁、選手の武器と半日強化魔法を使用し続け、

最終戦に来て最大のマナ使用量、たまったものではない。


「オリー、お願い」

「リバーイブ!」


オリーのマナ回復魔法を受けカルニの体が光る。



「流石に片手じゃ倒せねぇな、両手で行くぜバトー」

「いいのか? 左手の防御を捨てて」

「問題ねぇ、俺は『不屈のミーシャ』だからよ」


今まで片手で振っていた斧を両手で握るミーシャ。

空気が変わり、肌を焦がすような威圧感を感じる。


「いくぜバトォォォ!」


飛び上がり両手の斧を振り下ろすミーシャ。

真上から迫る斧を盾を受けるバトー。

左手の盾に剣を持ったままの右手と、尚且つ左手の前腕も合わせ、全身で衝撃を逃がし防ぐ。

大きな衝撃音と共に、「ビシィィ!」と何かに亀裂の入るような音がする。


「んなっ!? ストレングス!」


慌てて強化魔法を掛け直すカルニ。

音の正体はバトーの足者、ステージに掛けてあった強化魔法に亀裂が入ったのだ。


「でやぁぁあ!」


再び、全力で斧を振り下ろすミーシャ、

盾に当たった瞬間に盾を支える右手を下げ、体の右側に斧を逸らすバトー。

斧はステージに直撃し強化魔法に亀裂を入れる。


「ぉぉらあ!」


斧を逸らしたバトーは体を右回転させ、遠心力で威力の増した剣を両手でミーシャの

右脇腹に叩きつけた。


「ぐ…ぬぁぁ!」


左に揺らぐミーシャは左足を出して体を支え、そのままの態勢からステージ上の斧を

バトーの右半身を目掛け振り上げる。

盾で受けたバトーの体は浮き、2メートル程飛んで着した。

着地したバトーをミーシャが追い、全力で斧を振る。

バトーが逸らしカウンターを打ち込む。

至近距離で振り回される斧と剣。

常人が受ければ絶命するであろう攻撃。

バトーは皮一枚で避け、ミーシャは直撃を生身で耐えている。



こえぇぇ!? なんなのあの2人!

あんな攻撃受けたら鞘があっても関係ない、真っ二つなるわ!

ミーシャさんタフ過ぎぃぃぃ!



ステージ上で2人が衝突するたび衝撃音と共に強化魔法の悲鳴が聞こえる。


「オリー!」

「リバーイブ! カルニ姉さんもうマナ切れです!」

「ルドルフ!」


カルニは強化魔法を唱え続け、オリーのマナ尽きた。

ステージ、剣、盾、斧の4つに強化魔法を掛け消耗が激しい。

取り分けステージは大きくて辛い。

バトーとミーシャが3度も衝突すればマナの回復が必要である。


「ちょっと!? ルドルフ早く!」

「もう少し頑張りなさいよカルニ、リバイブって結構マナ使うのよ?」

「もうマナ切れるわよ! 急いで! マツモトくーん!」

「はいカルニ姉さん」


ビターンとルドルフのお尻を木剣で引っぱたく松本。


「いったー!? ちょっとマツモト!」

「早くしないともう1回叩きますよー」


木剣を振り上げる松本。


「わかったわよリバイブ! 後で覚えときなさいよマツモト!」


お尻を擦り悪態を付くルドルフ。


「俺はどっちにしろお尻叩かれるんで、それだったら最後まで試合見たいです」

「もっと節約しなさいよカルニ! 私もそんなに持たないわよ!」

「無理よ! バトーとミーシャに言いなさいよ!」


ステージ端では別な戦いが行われているのだ。



退かず、迫るミーシャを正面から迎え撃ち反撃するバトー。

既に十数回、バトーの渾身の攻撃を生身に受けても倒れないミーシャ。

『金獅子バトー』『不屈のミーシャ』ステージ上で字名を体現する2人に観客は息を飲んでいる。


真横から振られる斧を全力で受け、横滑りするバトー。

縦の攻撃なら逸らせるが、横の攻撃は逸らせない。

横振りの攻撃を防ぎ足が止まったバトーに前蹴りを入れるミーシャ。

ミーシャの足を抱え、振り回して投げるバトー。


「おぉぉぉらぁ‼」


2メートル近くある巨漢が宙を舞う。

ステージに倒れた巨漢に飛び掛かり、両手で持った剣に全体重を乗せ叩きつける。


「おらぁぁ!」

「ぐぅっ…!?」


斧で直撃は防いだが、衝撃が逃げず流石のミーシャもダメージを負う。

バトーが2撃目を打ち込むがミーシャ横に転がり避ける、

剣はステージを叩き、ミーシャが起き上がろうとする。

逃がさないバトーの盾がミーシャの顔面に直撃した。

アクラスが肋骨を骨折した一撃だが、顔面に受けたミーシャは怯まず、

バトーの腰に両手を回し、引き寄せ後方に投げ飛ばした。


今度はステージに転るバトーに、鼻血を流しながらミーシャが体重載せた斧を振る。


「そぉぉぉら!」

「がぁっ!」


盾で防ぐがダメージが通る。

先程と同じ構図だが、体格、武器の重量が勝るミーシャの方が有効打となる。


「そぉぉら、もういっちょぉお!」


大ぶりな2撃目を全力で避け立ち上がるバトー。

斧がステージに叩きつけられ、次々と亀裂が入る強化魔法。

大慌てのカルニ。


「ストレングス! ルドルフー!」

「リバイブ! あと2回が限界よカルニ!」

「うそぉ!? オリー! マツモト君! 誰か呼んで来て今すぐにぃぃ!」

「「はぃぃ!」」

「誰かー! リバイブ使える人ー! 今すぐ協力して下さい!」

「ちょっと起きて皆! カルニ姉さんが大変よ!」


大急ぎでリバイブが使える人を探す松本。

オリーはカルニ軍団を引っぱたいている。

ミーシャがステージを叩き強化魔法亀裂を入れる。


「ストレングス!」


バトーが反撃し、再びミーシャがステージを叩く。


「ストレングスうううう!」

「私はマナ切れよ、気合入れなさいカルニ!」

「ちょっとぉぉぉ! オリー! マツモト君ー!

 ストレングスううう! はぁ…はぁ…マナが…」


ステージ上で暴れ回る2人、息とマナが切れるカルニ。


「カルニさん連れてきましたー!」


松本が冒険者を連れて帰って来た。

更に奥にオリーと冒険者の姿がある。


「早くぅぅ! リバイブ掛けて!」


冒険者がカルニに杖を向ける


「リバ…」


ステージからパリーンっと砕け散る音が聞こえた。


「「「「…へ!?」」」」


青ざめるカルニ、ルドルフ、松本、オリー。


「退避ー! 全員退避ー!」


大声で退避勧告を出すカルニ。

観客は首を傾げ顔を見合わせている。


「バトー、ミーシャ止まりなさい! 試合中止よ!」

「バトーさんミーシャさん、ちょっとぉぉぉ! 2人共も止まって下さーい!」


ルドルフと松本がバトーとミーシャを止めようとしている。


「おらぁぁぁ!」

「おぉぉぉ!」


ミーシャが振り下ろす斧の内側に入り、剣を振り下ろすバトー。

ミーシャの斧は空を切り、バトーの剣はミーシャの腕を打つ。

振り切った2人の武器が同時にステージを叩く。

凄まじい音と共にステージの石板が砕け散り、砂埃が舞った。


砕け散ったステージを見て驚愕した観客から驚きの声と悲鳴が聞こえる。

それでも戦いを辞めない2人。


「まだ観客席の障壁は残ってるから落ち着いて退避して下さーい!」

「子供優先でお願いしまーす」


カルニと冒険者達の誘導で観客が路地に避難する。


「おいバトーなんか大変らしいぞ?」

「やめるかミーシャ?」

「俺はまだ地面に落ちてねぇ」

「俺もだ」

「いや、やめて下さいよ2人共! 止まってぇぇぇ!」


松本の制止を振り切り、半壊し砂塵の舞うステージで戦い続けるバトーとミーシャ。


「ちょっと、そこの冒険者の人。私とカルニにリバイブ掛けて頂戴」

「あ、はい」


冒険者によりマナを回復したルドルフとカルニがステージに向かう。


「マツモト、死にたくなかったら下がりなさい」

「え!?」

「ちょっと危ないわよマツモト君」

「ヒェッ!?」


ルドルフが怒りに満ちた声で松本に警告する、

振り向くとカルニが額に血管の浮いた笑顔で向かってくる。

2人は杖をステージに向けた。


「カルニ、ステージを強化魔法で覆って」

「3重で覆うから遠慮しなくていいわよルドルフ」


ルドルフの杖が光り炎の塊がステージに飛ぶ、続けカルニの杖が光り強化魔法がステージを覆った。

ステージ上で暴れ回るバトーとミーシャの間に炎の塊が飛ぶ。


「なっ!? ちょ…」

「え!? ルド…」


炎の塊はバトーとミーシャの間で爆発し、

全壊したステージの破片とキノコ雲が上がった。


「おいルドルフ…手加減しろよ…」

「人間相手に使っていい威力じゃないぞ…」


煙の中で所々焦げたミーシャとバトーが咳き込んでいる。


「辞めないあんた達が悪いんでしょ!」

「そうよ! 何考えてるの2人共!」

「…いや、それで生きてるなら人間じゃないですよ…」


バトーとミーシャの試合が強制終了し、誰もいなくなった筈の会場に拍手が響く。

拍手を送るはロックフォール伯爵とデフラ町長。

会場で唯一試合の終了を見届けた観客である。



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