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52話目【ウルダ祭 25 『ミノタウロス杯』開催】

ウルダ祭3日目『ミノタウロス杯』当日。

朝食を食べた松本、バトー、ミーシャの3人はトーナメント表の前にいた。

トーナメント表には32人の名前が記載されている。

第1ブロックにバトー、第4ブロックにミーシャである。


「ヒヨコ杯より少ないですね」

「俺は第1ブロックか…ミーシャと戦うのは最後だな」

「その方がいいだろ、あんまり早く当たると、その後がつまらなくなっちまうからな」


中央広場は選手と冒険者で賑わっているが、

髭を触りながらトーナメント表を眺めるミーシャの周りには空間が空いている。


「俺達なんか避けられてないですか?」

「避けられてのはミーシャだけだ、なんてったってSランク冒険者だからな」

「お、そうか? なっはっは!」


胸を張り笑うミーシャ、空間が広がった。

ミーシャサークルである。


「バトーさんは2回戦でチャンピオンと当たりますね、頑張って下さい!」

「おう! 頑張るよ」

「あんまり頑張らなくていいわよ、バトー」


誰も近寄らない3人にカルニが声を掛けた。


「カルニさん、おはようございます」

「おはようカルニ」

「おう、おはよう」

「おはよう、皆早いわね」

「昨日はご馳走様でした」

「「ご馳走様でした」」


松本に続き、頭を下げる2人。


「どういたしまして」


胸を張るカルニ、小さい胸が少しだけ高くなった。


「チャンピオンは強いんですか?」

「ウチのギルド内じゃ間違いなく上位よ、Aランク冒険者だからね」

「Aランクなら、楽しめるんじゃないかバトー」

「どうかな? 俺はBランクだからな、負けるかもしれんぞ?

 Sランクに上がっていないだけの可能性もあるからな」

「そうなのかカルニ?」

「腕は確かよ、だたちょっとね。まだ私から推薦は出来ないわね」

「ならば、Sランク冒険者のミーシャ様を倒し、実力を証明してみせましょう!

 その暁にはSランクに推薦して頂けますか? カルニギルド長」


ミーシャフィールドに立ち入る男の冒険者が1人。

爽やかで礼儀正しいく自信に満ちた印象を受ける。

槍を持ち、装飾の施されたプレートアーマーを身に着けており華やかである。



「いいわよアクラス。もし勝てたらSランクに推薦してあげる」

「ありがとうございます! 必ずSランクに相応しい実力だと証明して見せます」

 

カルニの返答に士気を上げたアクラスはミーシャサークルから立ち去った。


「あんな約束して良かったのか?」

「いいのよバトー。もし2人に勝てるなら推薦するわ。でも無理ね」

「腕は確かなんだろ?」

「ええ、でも無理ね。アクアスは今まで順調に行き過ぎたのよ。

 まだ本当の危機に直面した事がない、本物の強者と対峙したらもっと成長出来る筈よ。

 バトー、ミーシャ、『ミノタウロス杯』は若手の教育も含んでいるの、よろしくね」

「どれ、若者に指導してやるかな」

「おう、任せとけ! 何てったてSランクだからな」

「バトーさん、程ほどにして下さいよ。相手が可哀相ですから…」

「さて、そろそろ説明始めるわよー! 参加者は集まってー!」


カルニの説明が始まった。

賞金は優勝者が30ゴールド、準優勝者が15ゴールド。

防具自由、魔法と刃の付いた武器禁止。刃の部分を被せ物で覆えば使用可。

場外、失神、リングアウト、降参すると敗けとなる。

ステージは分割されていない。


早めの昼食を取り、正午となった。




ステージを囲む観客席は埋まり、試合開始の合図を待っている。


「正午となりました! 只今より『ミノタウロス杯』開催致します!」


カルニの開催宣言により会場から歓声が上がる。

『ヒヨコ杯』の和やかな雰囲気とは異なる熱気が渦巻いている。


「第1試合の選手はステージへ!」


ステージに前回チャンピオンのアクラスと若手の冒険者が上がる。

アクラスの槍には被せ物がされており、防具は装飾の施されたプレートアーマー。

頭部は何も装備していない。

若手の冒険者は両手剣、胸部はプレート、その他の部位はレザーアーマーである。


アクラスが槍を掲げ観客にアピースすると、アクラスコールが起こった。



「へぇ~チャンピオン人気ね」

「見た目も派手で華がありますね」


松本とルドルフは酒場のテラス席から焼き芋片手に観戦している。

テーブルには焼き芋、葡萄、焼きキノコのウルダ特産物セット。

ソーダと果実酒のお供である。


「ルドルフさん、選手間に装備の差がありませんか?」

「装備を整えるのも冒険者に必要な能力よ、差はあって当然ね。

 ランクが高ければ当然質の良い装備になるわ」

「流石Aランク冒険者、カッコイイですね」

「マツモトはお子様ね、派手なだけで性能は普通のプレートアーマーと変わらないわよ」

「自分、男なんで」

「ホント男の子って派手な装備好きよね~お金掛かるわよ」


少し呆れた様子で芋を齧るルドルフ。

松本は冒険者同士の戦いに目を輝かせている。



「それでは、試合開始ー!」


カルニの合図で試合が開始された。


「ほらー! じっとしてないで前に出なさい! 格上の相手に戦えるチャンスなんだから!」


若手冒険者の師匠が背中を押している。


「遠慮無く攻めて来たまえ、胸を貸すよ」


アクラスが促すと若手が前に出始める。

ジリジリと距離を詰め、槍の間合いの内側に入るとアクラスに突きから始まる3連撃を放つ。


「ハァッ!」

「いい攻撃だ、だが踏み込みが足りないな」


間合いの内側で槍が扱い難いにも関わらず、涼しい顔で3連撃を防ぎ、若手の足に槍を当てるアクラス。

呆気に取られ手を止める若手に、師匠がお叱りを飛ばす。


「何止まってるの! 本物の戦闘だったら死んでるわよ! 手を動かしなさい!」

「ハイッ!」


攻撃を再開する若手、アクラスは苦もなく防ぎ、甘い箇所に槍を当てる。




「チャンピオンは対戦相手を教育してるんですか?」

「そうよ、『ミノタウロス杯』は、ああやって格上の冒険者に実戦で教えて貰えるの。

 基本的には先輩冒険者や師匠に教えて貰うんだけど、Aランク冒険者に相手して貰える機会は貴重ね。

 他の試合も1回戦は大体こんな感じよ」

「なるほど、2回戦からは実力者達同士の戦いになるんですね」

「大体はそうね、魔法職みたいな後衛も参加するから、その場合は前衛職の方が有利な試合になるわ」

「魔法禁止なのに、魔法職の人が参加するんですか?」

「後衛だからと言って近接戦がないわけじゃないからね、その練習よ。

 近接戦が必要ないなんて勘違いした馬鹿は早死にするわね」


焼きキノコを齧りながら毒を吐くルドルフ。


「辛辣ですね…」

「自分の命を守る覚悟が無いヤツは辞めた方が身の為よ、

 この町の冒険者の殆どは近接戦でカルニに勝てないわよ」



カルニギルド長半端ねぇぇぇ、凄い人だったんだなカルニさん。

そりゃ追っかけもできる訳だ。

けど、俺の中のカルニさんって結構間抜けなんだよな…



「凄いですね、カルニさん」

「伊達にあの若さでギルド長やってないのよ。 キノコ美味しいわよマツモト」

「頂きます」


差し出された焼きキノコを齧る松本、口の中に秋が広がる。


「そのカルニさんが嫌がるバトーさんとミーシャさんっていったい…」

「決勝を見ればわかるわ。 カルニ頑張れ~」

「一昨日けしかけたのはルドルフでしょ…」

「そうだったかしら?」



この野郎ルドルフ! 忘れるんじゃないよぉぉぉ!

その結果、俺は死にかけたんですけどぉぉぉ!



「そういえば、Sランクの推薦状ってなんですか?」

「文字通りSランクになる為の推薦状よ、Aランクまでは自力で上がれるけど

 Sランクになるには所属しているギルド長に推薦状を書いて貰って、ギルド本部で試験を受ないといけないの。

 推薦状を書くってことは、その冒険者の実力と人間性を保証するってことになるから、

 ギルド長の能力も判断される。責任があるから簡単じゃないのよ、推薦状は」

「へぇ~ルドルフさんとミーシャさんはカルニさんに推薦状書いて貰ったんですか?」

「私とミーシャは前任のギルド長に推薦してもらったわ。ちょっと塩気のある物が欲しいわね…」

「俺頼みますよ、ポテトでいいですか?」

「塩多めでお願い」



ルドルフの酒の肴を追加する頃、ステージ上の試合は終盤に差し掛かっていた。




「そろそろ試合を終わらせよう。私が攻撃するから全力で防ぐんだ」

「…お願いします!」


距離を取り下段に槍を構えるアクラス。


「行くよ、ハッ!」

「ぐっ!?」

「ハァッ!」


若手の右側から横薙ぎの槍が襲う、態勢を崩しながらなんとか剣で防ぐ。

素早い2振り目が若手の左側から迫り、足を払う。

転倒した若手に槍が振り下ろされ、直撃する寸前で止まった。


「…参りました」

「決着ー! ギブアップです!」


素早い3振りでの鮮やかな決着。

ステージを降りるアクラスに歓声と拍手が送られる。

若手はお師匠の元でアドバイスを受けている。

一方、松本はポテトにチーズを乗せて貰っていた。

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