51話目【ウルダ祭 24 肉を食べよう】
松本とカルニはギルドの前にある酒場に来ていた。
地方都市ウルダに来てからの食事は昼以外は全てこの店である。
「マツモト君子供でしょ? ここ酒場よ?」
「ここしか入ったことないんですよ」
酒場の入り口から店内を見渡すと冒険者で賑わっている。
角の席に見慣れた3人を見つけた。
「あ、いたいた。こっちですカルニさん」
テーブルに近づくと気が付いたミーシャが声を掛けた。
続けてバトーとルドルフが振り向く。
「遅かったなマツモト」
「なんでカルニが一緒なのよ?」
「まぁ座れよ2人共。女の子に負けて拗ねてるのかと思ったぜ」
「そうですよ、拗ねてた俺を元気付けて下さい」
「しょうがねぇな、ほら唐揚げだ」
ミーシャの横に座ると、松本とカルニの唐揚げを取り分けてくれた。
「ありがとうございます」
「ありがとうミーシャ」
ミーシャとバトーの間に座る2人。
ミーシャから時計回りにルドルフ、バトー、カルニ、松本の順である。
「で、なんでカルニと一緒なのよ?」
ルドルフが不思議そうな顔をしている、不機嫌そうではない。
カルニとルドルフ、特にお互い嫌いな訳ではないようだ。
「昨日の件で夕飯奢って貰うことになったんですよ」
「あんまりにも嫌な言い方するから仕方なくね」
「「「 ありがとうござます! 」」」
「なんでバトーとミーシャも奢ってもらう気なのよ…マツモト君だけよ!」
「それ私も同じ手口でやられたわ…」
ルドルフが同情している。
「いいじゃねぇかカルニ、硬いこと言うなよ」」
「ミーシャの方が稼いでるでしょ! レディにたかるじゃないわよ」
バトーが松本に目くばせし、ミーシャの援護要請する。
「うぐ!? なんか急に左半身が…」
ワザとらしく息を切らす松本、ワザとらしく心配するミーシャ。
「おいおいどうした? まるでマナに揉まれて死にかけてたみたいな顔して…」
「気にしないでくださいミーシャさん、ちょっと昨日城壁の上から馬小屋に落ちただけですから…」
「ちょっと2人共…」
「なんだってー、でもそんな事件あったか?」
「もみ消されちゃって…悪い大人に騙されたんです…ヨヨヨ…」
「そりゃひでぇ、大変だったなマツモト」
涙を流す松本の背中を擦るミーシャ。
チラッ
引きつった顔をしているカルニを見る2人。
「あんた達ねぇ…」
「ヨヨヨ」
「マツモト」
カルニの言葉を遮り再び芝居する2人。
「分かったわよ! 好きなの頼みなさいよ!」
「「「 ありがとうございます 」」」
「質が悪いわね、どっちゃり3兄弟…」
カルニに頭を下げるどっちゃり3兄弟、憐れむルドルフ。
「お待たせしましたー」
テーブルに3杯のビール、果実酒、ソーダが運ばれてきた。
飲み物を手に取るとカルニに視線が集まる。
「それじゃ、今日は私の奢り、じゃんじゃん飲みなさい!」
「「「「 カンパーイ! 」」」」
アルコールを煽る4人とソーダを煽る少年。
「「「「 くぅぅぅ…! 」」」」
仕事上がりのサラリーマンのようだ。
「お待たせしましたー」
テーブルに追加の料理が届く、豆、ポテト、サラダ、そして大きな肉の塊。
香ばしく食欲を刺激する音と香り、ミーシャが人数分切り分けている。
松本の前に厚さが5センチはある熱々の肉が置かれる。
「はぁぁ…凄いですね。カルニさん、なんの肉ですか?」
「コカトリスよ、マツモト君見たことない?」
「無いですね、大きいんですか?」
「そうね…大体2メートル位かしら、森の近くの平地に良くいるわよ」
「バトーさん、ポッポ村の近くにもいますかね?」
「近くにはいないな、少し離れたところだとたまにいるぞ」
「へぇ~今度狩りに行きましょうよ!」
「いいぞ、村の修復も殆ど終わったし、そろそろ狩りに力を入れるべきだな」
「俺、火魔法覚えたので家で肉が焼けるようになったんですよ~。
レム様とワニ美も喜びますよ~」
「はは! そうだな、今度俺も遊びに行くよ」
松本とバトーの会話を聞いてミーシャとルドルフが驚いたように瞬きする。
「おいバトー、もしかしてよ…お前の村って最近襲われたりしたか?」
「ん? あぁしたぞ、危うく死ぬところだった」
顔を見合わせるミーシャとルドルフ。
「マツモト、レム様って? どんな人なの?」
カルニの質問に首を傾げる松本、バトー、カルニ。
「人じゃないですよ、光の精霊様だそうです」
「ふふ、マツモト君、精霊様は滅多に会えるものじゃないのよ?
それに光の精霊様は大昔に姿を消して以来、現れていないわ」
カルニの心情を察し、バトーは肉を食べながら静かに頷いている。
「ちょっとカルニ、邪魔しないで」
「なに? ルドルフ、あなたも信じてるの?」
「まぁまぁ、肉食べろってカルニ」
「もう…子供に優しすぎるわよミーシャ」
ミーシャに勧められ肉を食べるカルニ、触発され松本も肉に齧り付こうとする。
「俺も頂きまー」
「マツモトはまだ駄目、質問に答えてからにして頂戴」
悲しそうに肉を皿に戻す松本。
バトーはミーシャとカルニの目的を察して、黙ってポテトを摘まんでいる。
「マツモト、そのレム様は近くにいるのか?」
「俺の家の隣にいますけど? 食べてもいいですか?」
「本物の精霊様なの?」
「だと思いますけど、本人が言ってましたし。 食べていいですか?」
悩むミーシャとルドルフ。
見かねたバトーが声を掛ける。
「ミーシャ、ルドルフ、それくらいでいいだろ? 折角の肉が冷めるぞ」
「そうよ2人共、ポテトも冷めちゃうわよー」
「すまん、大事な話なんだよ」
「マツモトの言っていることは事実だ、俺も光魔法を教えて頂いたからな」
「「「 え!? 」」」
バトーに振り向くミーシャ、ルドルフ、カルニ。
松本は肉を頬張り満面の笑み、料理長も満面の笑みだ。
「ホントなのバトー?」
「本当だぞ、マツモトも光魔法使えるぞ。なぁ?」
頬を膨らましながら頷く松本。
「その様子だと、ミーシャとルドルフの受けた依頼は、
『何者かに襲撃された村の調査』か?」
ミーシャとルドルフは顔を見合わせると、ため息をついた。
「カルニもいるけど、いいだろルドルフ」
「そうね、極秘って訳じゃないし、カルニなら問題ないでしょう」
「なんの話?」
肉を頬張りながら話始めるルドルフ。
「私とミーシャは少し前に襲撃された村の調査に来たのよ」
「Sランク冒険者が2人で調査するの? 普通じゃないわね?」
「そうなのよ、というわけでバトー。村は無事なの?」
「家屋の半分は焼け落ちたが死者はいない。村の復興も殆ど完了したよ」
「どういうこと? 家屋は残念だけど死者が出ていないなら、大した問題じゃなかったってこと?」
バトーの回答に不服なルドルフ。
「いや、本当なら俺は死んでいたよ。俺だけじゃなく村は確実に全滅していた」
「お前がいながらか? 冗談だろ? 何に襲撃されたんだ?」
「よく分からん。見たことのない魔物だった、1体だけなら大したことないんだが、数が多くてな。
村人のマナも尽きて全滅を覚悟したときにレム様に救われたんだ」
話の内容は暗いがバトーは笑っている。
「凄かったですよね。レム様が光ったと思ったら、夜が昼みたいに明るくなって魔物が消えちゃって」
「ん? なんだマツモト見てたのか?」
「レム様の後を追っていったらポッポ村を見つけたんですよ。
大変そうだったので、混乱させないように朝まで村の近くで待ってました」
「それであの日にポッポ村に来たのか。おかげでいろいろ助かったよ」
「俺もいろいろ助かりました。ポッポ村の人には感謝しています」
「そうか!」
一段とほほ笑むバトー、松本も笑い返す。
「マツモト君はどうやってレム様に会ったの?」
「ポッポ村を見つける数日前に、家の横の池で出会ったんですよ。
池の水使わせてもらう対価としてワニ美ちゃんにパンを献上してたら、
光の魔法の信者と間違えて体現したらしいです」
「「「 どういうことよ… 」」」
「っはっはっはっは…」
状況が全く理解できないミーシャ、ルドルフ、カルニ。
3人の反応を見てバトーは声を出して笑った。
「だから言っただろ2人共、『マツモト』はいつもこんな感じなんだよ」
「いや分んないわよ…」
「変な子ね…」
「俺は分るぞ! な!」
親指を立て歯を光らせる男共。
「マツモト、俺もレム様に会いてぇんだけどよ」
「だったら松本の家に遊びに行けばいい、茶菓子持って行けよミーシャ」
「お茶が無いですけどね。何もないんですよ、この前まで土の上で寝てましたから」
「「「だーっはっはっは!」」」
腹を抱えて笑う男共。
カルニは松本の扱いに困っている。
「だったら私がお茶を買っていくわよ」
「いや、コップも何もないですよ」
「コップが無いって、どうやって飲み物飲んでたのよ?」
「池の水を直接飲んでました」
「「「だーっはっはっは…はぁはぁっ…」」」
腹を抱えて笑う男共、酸欠気味である。
困惑するカルニ。
「俺達の依頼内容が知れたから、ウルダ祭で力を示す必要は無くなったなバトー」
「そうだな、だがポッポ村のために賞金を持って帰りたいんだよな~」
「なら、明日はやるしかねぇな」
「あぁ、手加減はしないぞミーシャ」
「お願いだからやめてよ2人も! 程ほどにして!」
「頑張るのよカルニ~」
「カルニさん応援してますよ~」
選手より審判が応援される『ミノタウロス杯』、明日の正午より開始です。




