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50話目【ウルダ祭 23 建て前と報酬】

「えー…女の子が希望した賞品は『父親の魔道義足』です!」

「「 えぇ!? 」」


ステージ上のカルニがクルミちゃんの賞品を発表すると会場が騒めいた。


「どういうこと!? クルミちゃんって僕達が…」

「魔道義足って確か1000~3000ゴールドするって…なんでだ?」


クルミちゃんを上位4名以内に入賞させるようカルニに懇願され、

奮闘した松本とラッテオは混乱していた。


「はうぁ!?」


急に青ざめガタガタと震えだす松本。


「ど、どうしたのマツモト君!? 顔色悪いよ!?」

「ら、ラッテオ…もし、もしだよ? カルニさんが依頼を聞き間違ってたら…」

「え!? それって…」」

「他の3つの賞品とは金額の桁が違う…無償で与える理由が思い付かない…

 賞品の内容を知っていれば、与えたくないと思う方が普通だよ…」

「確かに…つまり、もし依頼が逆だったら…」

「俺達は大貴族にとんでもない損失を与えたってこと…」


松本の仮説を聞き頭が真っ白になるラッテオ。


「あわわわわ…」

「あうあうあう…」


言葉を失いカタカタと震える2人、現実からの逃避である。



『ヒヨコ杯』が終了し、家路につく町民達。

中央広場でカタカタ震える2人を発見し、カルニが焦っている。


「マツモト君!? ラッテオ君も!? ちょっとどうしちゃったの!?」

「あわわわわ…」

「あうあうあう…」

「ちょっと何!? どうしたらいいのこれ!? とりあえず回復かしら…ヒール」

「アバババババ…」


松本に回復魔法ヒールを掛けると振動が早くなった。


「違うみたいね…マナ不足なのかしら? リバイブ」

「あぼぼぼぼ…」

「なんか膨らんだんだけど…」


回復魔法リバイブ掛けられた松本は少し膨らんだ、体質である。


「と、とりあえず路地裏に運びましょ」


松本とラッテオを両脇に抱えるカルニにロックフォール伯爵の付き人が声を掛けた。


「取り込み中のところ失礼致します。

 我が主人、ロックフォールよりカルニギルド長をお連れするように賜っているのですか…」

「え? あ、はい! えーと…どうしましょう、いまちょっと…」


両脇に抱えた2人を交互に見て戸惑うカルニ、付き人が提案する。


「よろしければ其方のお2人も御一緒にどうぞ」

「え!? あ、すみません、ありがとうございます」

「では、お1人は私が」

「助かります」


松本を抱えた付き人と、ラッテオを抱えたカルニは北区に消えた。




「こちらでお待ちください」

「はい」

「あわわ…」

「あうあう…」


北区にある豪華な宿屋の一室に通された3人。

豪華な長椅子に座カルニとカタカタ震える2人。


「ちょっと2人も、ロックフォール伯爵に招かれてるのよ、正気に戻って…」

「「 … 」」


カルニの声で一瞬止まったが、ロックフォールの名を聞いて再び振動しだした。


「あわわ…」

「あうあう…」

「こりゃ駄目ね…」




カルニが内装を眺めていると、暫くして入口のドアが開き、ロックフォール伯爵が現れた。

テーブルを挟んだ対面の長椅子に座る。


「ご足労頂き感謝します、カルニギルド長」

「あ、いえ、とんでもありません」

「ところで、そちらの2人はどうされたのですか? 震えているようですが?」

「それが、よく分からなくて…さっきまでは普通だったんですけど」


付き人が人数分の紅茶を配る。

控えめな装飾が施された白いカップ、中に注がれた紅茶は琥珀のように美しく透き通っている。

芳醇で甘味を含んだ香りが空間を満たし、心が落ち着く。

紅茶の香りで松本とラッテオは現実へと帰還した。


「…ん?」

「…あれ?」

「おや、気が付いたようですね」

「え? よかった~、2人共心配したわよ~」

「あれ? カルニギルド長? どうしたんですか?」

「はうぁ!?」


目を覚ましたラッテオはカルニに状況を確認している。

松本はロックフォール伯爵を見て思考が加速していた。



なにぃぃぃロックフォール伯爵ぅぅぅ!?

そして、カルニとラッテオ!?

豪華な部屋、伯爵、カルニ、ラッテオ、そして俺…

この状況はどっちだ…呼び出されたのか!? 

返済なんて無理だぞ…



チャリン…

テーブルに置かれる美しく磨かれたナーン貝の小物入れ。

中には松本の全財産、シルバー硬貨が47枚が入っている。


「すみませんでした…」


長椅子の横で冷や汗を流しながら土下座する松本。

カルニが不思議そうに見ている。


「ちょっとラッテオ君、彼はいったいどうしちゃったの?」

「いや~それが、カルニさんがロックフォール伯爵様からの依頼を聞き間違って

 伯爵様に大変な損失を与えたんじゃないかって…」

「まさか、私はちゃんと聞いたわよ」

「でも、絶対に4位以内に入賞させてまで魔道義足を与える理由ってありますか?」

「うっ…た、確かに…あばばばば…」

「あわわわわ…」

「あうあうあう…」


下を向く3人は豪華な長椅子の上でカタカタと震えだし、カップがカタカタと音を立てる。


「はははは! 実に愉快な方達ですね。安心して下さい、依頼は間違っていませんよ」


静観していたロックフォール伯爵が声を上げて笑う。


「「「 え? 」」」


現実に戻って来た3人は顔を上げた。


「先ずは紅茶でも飲んで落ち着いて下さい」


進められ紅茶を飲む3人、芳醇な香りと控えめな甘さが口の中に広がる。


「「「 ほぁぁ…美味しい 」」」

「恐れ入ります」


3人の反応に付き人は頭を下げた。





「カルニギルド長、この2人も今回の件に関わっているのですね?」

「ええ、私が協力を頼みました」

「なるほど、2人の試合は拝見していました。

 違和感の無いように上手く対応してくれましたね。

 特にマツモト君の試合は依頼した私ですら驚きましたよ」

「まったくです、心臓に悪かったですね…」

「僕もそう思います…」

「なんか…すみません」


気まずそうに紅茶を啜る松本。


「3人共実に良い働きでしたよ、お陰で依頼は達成されました。

 折角ですので、マツモト君とラッテオ君の分の報酬を増やしましょう」

「あ、いえ、俺はその必要はありません。それより、依頼の理由をお聞きしたいのですか…」

「僕も報酬より、理由が気になります」

「あの~私も理由を知りたいのですが…」

「おや、そうですか? では理由を追加の報酬としましょう」


白いカップに琥珀色の紅茶が注がれ、再び香りが空間を満たす。


「魔道補助具が高額なのは知っていますね?」

「「「 はい 」」」

「10年ほど前に我が領地のダナブルで開発されたのですが、実はまだ殆ど使用実績がありません。

 高額なため庶民は買えず、大金を持つ貴族や資産家は基本的に手足を失うような怪我はしません」



確かに、肉体労働者か冒険者の方が大怪我する確率は高い。

回復魔法で治せるのは庶民も貴族も同じだが、貴族が四肢を失うような状況はあまり無さそうだ。

それこそ、モンスターに食べれらたりしない限りは魔法で治せるしな。



「庶民にこそ必要な技術ですが中々普及せず、認知もされず、

 使用率が低ければデータも集まらない為、改良も進みません。」

「あのー普及させたいなら、値段を下げればいいのではないでしょうか?」

「義手や義足は個人に合わせて作成する為、どうしても高額になるのです。

 また、子供の場合は成長に合わせ新調する必要があります。

 データが集まり改良が進めば多少金額も下がるでしょうが、現状は難しいですね」



まぁ、同じ人間なんていないからな。

全てオーダーメイドになるよな、壊したら溜まらんな…



「今回魔道義足を与えた理由はデータと魔道補助具の認知の為です」

「はぁ…高いデータ代ですね…」

「ふふ、私は貴族ですから、この程度大したことではありませんよ。

 それに貴族には領地の民を守る義務がありますから」


スケールの違う話である。


「それなら、ケロべロス杯の時に与えても良かったのではないでしょうか?」

「ふふ、それもまた私が貴族だからですよ」

「「「はぁ…」」」


言葉の意味が分からず気の抜けた返事をする3人。


「ここは私の領地ではありませんので迂闊に干渉する訳にはいきません。

 貴族には建て前が必要なのですよ」

「なるほど、今回の建て前は「祭りの賞品として望まれ、与えた」ということですか」

「その通りです。その結果、親子は魔道義手、私はデータと認知を得る。

 まぁデフラ町長に頼まれた事と、私の気まぐれが主な理由ですが」


説明を聞き、頷くカルニとラッテオ、松本は思案した。



それだけではないな…

デフラ町長への借り、ウルダ町民からの評判を得た筈だ。

クルミちゃんの父親が使用すれば、メインターゲットとなる冒険者と庶民へ宣伝になる。

製造には特殊な知識と技術が必要らしいから、庶民の手が届く値段になれば利益を独占できる。

魔道補助具が広まれば、伯爵と怪我人の双方に利益があるわけか…


この技術は素晴らしい、間違いない。

ただ…もし全身を魔道補助具に置き換えられたら、肉体の限界…老化を克服出来てしまう。

それは素晴らしい反面、とても危険だ。

壊れても交換できる体、痛覚が無ければ死を恐れない兵士になる…

人格の複製が可能であれば軍隊だって作れてしまう。

独裁者が永遠の命を手に入れる可能性だってあるわけだ、

逆に人格者が永遠に国を治めれば素晴らしい国になるだろう。

全ては空論、可能性の域を出ないが…


これは口にしない方がいいな…8歳児の考えじゃない…

どちらにしろ道具は使う者次第ってことだな。



「勉強になりました、ありがとうございました」

「あまり理解できなかったけど、スッキリしました」

「町民の為、手を差し伸べて頂き感謝致します」


3人は各々感想を述べ、頭を下げた。

ロックフォール伯爵が目くばせし、付き人が革袋を運んでくる。


「それでは、依頼を達成した報酬です。お受け取り下さい」

「「「ありがとうございます」」」

「それでは私は失礼します。ゆっくりして行って下さい」 


ロックフォール伯爵が退出した後、3人は紅茶を飲み干し豪華な宿屋を後にした。




「マツモト君、ラッテオ君、助かった、わありがとう。報酬よ、仲良く分けてね」


ロックフォール伯爵から貰った革袋をラッテオに手渡すカルニ。


「カルニさんはいらないんですか?」

「私はいいわ、試合で頑張ってくれたのは2人でしょ。遠慮なく受け取って」

「「ありがとうございます!」」


ラッテオが革袋の中身を手の平に出すとゴールド硬貨が10枚滑って来た。

半分の5枚を松本に手渡す。


「マツモト君、袋はいる?」

「俺はいいよ、これがあるから」


艶々と光るナーン貝の小物入れを取り出し開ける。

中には松本の全財産が入っている。


「それ財布だったんだ…」

「綺麗だけど使い難そうね…」

「そうなんです…」




「マツモト君また明日ー」

「また明日ねーラッテオー」


夕暮れの路地を手を振り走り去っていくラッテオ。  

時刻は18時を過ぎている。


「さて私達も帰りましょ」

「あのーカルニさん、報酬を貰った直後で言いにくいんですけど…」

「どうしたの?」

「昨日の死にかけた分で何でも買ってくれるっていいましたね」

「う…覚えてたか…」


ぐぅぅぅ~

松本の腹の虫が催促している。


「折角なので夕飯奢ってください」

「しょうがないわね…いいわよ、行きましょう」


夕暮れの路地に2つの影が並んで歩いていく。

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