49話目【ウルダ祭 22 『ヒヨコ杯』表彰式】
ウルダ祭2日目、『ヒヨコ杯』の決勝が終わり、レイルがステージ上でアピールしている。
北側の観覧席では、新たなチャンピオンと対戦者に拍手と賛辞を送っている。
「新しいチャンピオンは中々の役者ですね」
「ははは、彼はいつもそうです、兄の影響でしょう。
前大会でも上位に位置していましたが、前チャンピオンや兄の影に隠れていましたからね。
『ヒヨコ杯』は今後、彼を中心に回っていくでしょう」
「対戦者の子供も見事な攻撃でした、将来よい冒険者になるでしょう。
素晴らしい決勝でした、彼らに賞品を贈ることができ光栄です」
「私はこれからステージで彼らを表彰致します。
よろしければ、直接賞品を贈られては如何ですか?」
デフラ町長の申し出に、グラスを置き目を閉じるロックフォール伯爵。
澄ました顔で会話の行く末を楽しんでいる。
「有難い申し出ですが、部外者の私が名誉あるステージに上がってもよろしいのですか?」
「是非お願い致します。
それに、貴族とは時として見栄を張る必要がある…でしたか、
観覧席から手を振るのと、ステージ上で賞品を渡すのでは大きく異なりますからね」
デフラの返答を受け満足そうに微笑むロックフォール伯爵。
「貴族の扱いが上手くなりましたね、デフラ町長。
お言葉に甘えて、選手を讃える名誉を賜るとしましょう」
30分ほどして町長と貴族は観覧席を離れステージへ向かった。
「観客の皆様、表彰式の為にステージを1つに纏めます! 協力をお願いしまーす!」
カルニ弟子達が観客達に助力を求め、4つに分割されたステージは1つになった。
ステージ中央にお立ち台が置かれ、『ヒヨコ杯』上位4名の姿がある。
「それでは『ヒヨコ杯』、表彰式を執り行います!
保護者の方はシャッターチャンスを逃さないでください!」
カルニのアナウンスを受ける前から各保護者達はステージに張り付いている。
「優勝者に賞金を贈呈すのはこの人、我らがデフラ町長ー!」
歓声の中、礼をしてからステージに上がるデフラ町長と2人の秘書。
秘書はゴールドの入った革袋と、装飾の施された木製の剣と盾を持っている。
中央のお立ち台の横に立つと、北側の観覧席から順に四方に礼をする。
促され優勝者がお立ち台に上がると歓声が増す。
デフラ町長が片手を上げ観客を抑制すると、静かになりカルニの声が響く。
「『ヒヨコ杯』の優勝者には剣と賞金10ゴールドが贈呈されます!」
「おめでとう!」
「ありがとうございます」
町長が秘書から剣と革袋を受け取りレイルに渡すと観客から拍手と声援が送られる。
受け取った剣を高く上げ四方に見せるレイル、装飾の施された木剣は太陽の光を受けキラキラと輝いた。
レイルと入れ替わり、カイがお立ち台に上がると、再び歓声が上がる。
「カイー! こっち向いてー!」
「かっこいいわよーカイー!」
「カイお兄ちゃんこっちこっちー!」
ステージに張り付いたカイ家族がお祭り騒ぎである。
「『ヒヨコ杯』の準優勝者には盾と賞金5ゴールドが贈呈されます!」
「おめでとう!」
「ありがとうございます」
町長が盾と革袋をカイに渡すと観客から拍手と声援が送られる。
受け取った装飾の施された木盾を家族に見せると、大喜びしている。
四方にアピールし、キラキラ輝く盾は面積が大きい分、剣より見栄えが良かった。
「さて、今回の『ヒヨコ杯』はこれだけはありません!
来賓の貴族の方より、上位4名は希望する賞品が贈呈されます!
賞品をご提供頂きましたのは、自由都市ダナブルの大貴族、ロックフォール伯爵です!」
歓声に包まれ姿を現す貴族と2人の付き人。
付き人は赤い花束を持っている。
美しい容姿、奇抜なメイク、白を基調とした服に赤いマニュキュアが目を引く
いかにも富豪といったようなイヤらしさはなく、高貴で潔白な雰囲気に混じり怪しい色気が漂っている。
背丈と骨格は男性なのだが、男性も色を覚えるような美しさがある。
礼をしてステージ上がり、観客へ手を振ると
心を鷲掴みにされた子供と女性の一部から熱狂的な歓声が上がった。
「あれがカルニギルド長に依頼したロックフォール伯爵か…」
「変な人だけど不思議な魅力があるねマツモト君」
「俺、貴族って初めて見たよ、皆あんな感じなの?」
「いや、僕も初めて見たから分からない…」
ステージ端で松本とラッテオが目を細めるころ、酒場のテラス席ではバトーがビショビショになっていた。
「「ぶふぅぅ!? 」」
「おわ!? ぐぁぁぁ目に酒がぁぁぁ…」
ロックフォール伯爵の名を聞き、ミーシャとルドルフが酒を噴き出し、
酒まみれになったバトーは目を抑えている。
「何!? ロックフォール伯爵だって!?」
「あのオカマこんな場所に来てたの!?」
「なんだ2人も知っているのか? いたた、ちょっと水くれ」
「ほら水だ、すまんすまん」
ミーシャから水を受け取り、上を向いた状態で目に掛け洗うバトー。
「いやよ、昔変な依頼受けたことあってな、よく解らん奴なんだよ。 水足りるか?」
「私もよ、200ゴールド渡されてハンカチに刺繍入れに行かされたことあるわ」
「200ゴールド貰えたんだろ? いい依頼じゃないか? いたた、ルドルフ水くれ」
「ちょっと上向いて止まりなさいバトー、ウォータ」
「あばばばば」
指を差し水魔法を唱えるルドルフ。
顔の上に水の塊が現れ全身ビショビショになるバトー、テラス席の下には水溜まりが出来た。
「なはははは! 大丈夫かバトー?」
「笑うなよミーシャ、お前達のせいだぞ…あたた、鼻に水入った…」
鼻声で額を抑えるバトー、目が真っ赤である。
「違うのよ、報酬は10ゴールドで、ハンカチに200ゴールドの価値のある刺繍を入れたのよ。
店が指定されてたんだけど、200ゴールドの価値のある刺繍なんて聞いたことも無いから
店主も困っちゃって、終いには首が飛ぶんじゃないかって怯えちゃって…」
「首が飛んだのか?」
「いや、そんなことないわ。
納品したハンカチは到底200ゴールドの価値なんてなかったけど、満足してたわよ。
多分暇な貴族の遊び何だと思うわ」
「俺の時もそんな感じだったな、100ゴールドの人参買って来いって言われてよ。
でもそんな人参なんてないだろ? 困っちまって指定された畑の人参を1本抜いてよ、
畑の持ち主に100ゴールド渡して納品したんだよ。それでも満足してたぞ」
赤い目をパチパチさせるバトー。
「何か変な依頼だな…大丈夫かその貴族?」
「変なヤツなのは間違いないんだけどよ、嫌な感じはしなかったな」
「そうね、不思議と信頼できるのよ。 オカマなんだけど…」
「でも、もうアイツの依頼はコリゴリだな…」
「なんか疲れるのよね…」
ミーシャとルドルフは肩を落とし、ため息をついた。
ステージ中央に立つと四方にアピールするロックフォール伯爵。
「えー皆ん、静粛にお願い致します。私喋りますよー」
カルニの声を聞き静かになる観客、数人の女性が失神し担架で運ばれていく。
「えーロックフォール伯爵よりご提供頂いた賞品は、後日贈呈されます!
花束を賞品の代わりとし、私から贈呈予定の賞品の内容を発表させて頂きます!」
付き人がら花束を受け取るロックフォール伯爵。
「優勝者の希望した賞品は『ヒヨコ杯』練習用の木剣と盾、100セット』です!
あのーこれ複数個なんですけど、大丈夫でしょうか?」
「ふふ…構いませんよ、新チャンピオンは等しく練習できる環境を望んでいるのでしょう。
等しい環境とチャンス、その上で勝利を収める…素晴らしいじゃありませんか。 おめでとう」
「ありがとうございます」
ロックフォール伯爵から花束を受け取り、深々と頭を下げるレイル。
普段の痛い仕草ではなく、気品が感じられる。
観客から拍手と歓声が送られた。
北側の観覧席に座る身なりの整った男女と、松本達と大差無い服を着た少年が拍手を送る。
「素晴らしいぞレイル。それでこそ上に立つ資格がある」
「あれは貴方の考えなの? トネル」
「いいえ母上、レイル自身が考え導いた結果です。家の力を使わず見事に実現させました。
優勝したのは私への餞別でしょう。レイルは立派です、任せても大丈夫でしょう。
私が冒険者になることを認めては頂けませんか?」
「成人したら家を継ぐ約束だったでしょう?
それに、危ないわトネル。ゴンタ君のお父さんがどうなったか知ってるでしょう?」
「知っています。それでも冒険者になり、もっと広い世界を知りたいのです」
「でもトネル…」
トネルを説得しようとする母親、心配なのだ。
「トネル、お前は愚かではないことは知っている。
それ程まで昨日会ったという子供は素晴らしかったのか?」
「ええ、父上。とても衝撃的でした、剣技は皆無、体は私より小さく、年齢は8歳だそうです。
そんな子供がゴンタを負かしたのです」
「それは試合の話だろう? 確かに驚きはしたが…」
「いえ、試合も衝撃的でしたが、その後がもっと衝撃的でした。
20人程の子供を連れて路地に現れたのです、全員パンツ姿でしたが…」
「それは衝撃的ね…」
口元を抑えショックを受ける母親。
「私とレイルもパンツ姿にされまして、説教されました。
彼の説教により、子供達の力による序列制度は崩壊したのです。
私が3年掛けて達成できなかったことを、年下の町人ですらない子供が1日で実現しました。
やっていることは滅茶苦茶ですが、実に衝撃的で不思議な子供です。
ゴンタは変わりました、その少年により大切な事に気付かされたようです」
瞬きせず、父親の目を見続けるトネル。
「許す! トネル、見識を広めて来るのだ。人の上に立つには必要だ」
「父上、ありがとう御座います」
「そんな、あなた…」
「直ぐに町を出る訳じゃありませんよ、母上。私はまだ10歳ですから」
「体は大事にするのよトネル」
母親とトネルは抱擁した。
「準優勝者の希望した賞品は『5段の大きなケーキ』です!」
「えぇぇぇぇぇ!?」
目を丸くして驚くミリーを見てカイは満足そうだ。
「おめでとう」
「ありがとうございます、妹も喜びます」
「なるほど、大きなケーキを送りますよ」
花束を受け取り、レイルを真似して深々と頭を下げるカイ。
「さぁ、次の男の子が希望した賞品は『水の魔石』です!」
「おめでとう。将来は魔法使いになりたいのですか?」
「ありがとうございます、いえ…畑に水を撒くのが楽にならないかなって…」
「ははは! 実用的で良い選択です、頑張るのですよ」
花束を受け取り、深々と頭を下げる少年。
子供らしい賞品が続きホッコリする観客。
「さぁ! 最後の女の子希望した賞品は…ん?…えぇ!?」
メモ用紙を見て目を擦るカルニ、クルミちゃんはワクワクして待っている。
「え…これ…ロックフォール伯爵、すみませんちょっと…」
「構いませんよ、読み上げて下さいカルニギルド長」
カルニがメモ用紙を指さし、ロックフォール伯爵に確認しようとする。
メモを確認することなく許可を出す伯爵。
デフラ町長を見ると頷いている。
「えー…女の子が希望した賞品は『父親の魔道義足』です!」
「「 …え? 」」
『『『 何ぃぃぃ!? 』』
クルミちゃんと父親は絶句し、会場全体が驚き騒めく。
魔道義足は2000ゴールド以上し、他の賞品とは桁が3つ程異なる。
父親から魔道義足の価値を教えられていたクルミちゃんは失神してフラフラと倒れていき、
花束を持ったロックフォール伯爵に抱きかかえられた。
「おやおや、試合の疲れが出たようですね。父親の為に良く頑張りましたね、おめでとう」
ステージ横にいる片足の父親の元に運ばれていくクルミちゃんは、
ロックフォール伯爵の腕の中で目を覚ました。
「う~ん…っは!? はわぁ!?」
目の前の奇抜な化粧の美しい顔に驚きながらも間違いを正そうとする。
「あ、あの…私の賞品…」
「ふふふ、心配しなくても大丈夫ですよ。勿論ベットもあります」
少女に向け、優しく微笑む貴族。母親に抱かれるような安心感を感じる。
「魔道義足は私からのプレゼントです、他の人には内緒ですよ」
「あ、ありがとうございます!」
ロックフォール伯爵の腕から父親の腕に移されるクルミちゃん。
嬉しさと、母親から離れる悲しさで半泣きである。
「すみません伯爵…あの…」
「よい娘さんです、大切ににして下さい」
有無を言わせない伯爵の笑顔を見て父親は口を閉ざした。
「魔道義足は調整が必要です、後日担当の者が参ります。
それと、今度に活かすため使用した際のデータを取らせてください」
「「ありがとうございます」」
手を繋いだ父親と娘は深々と頭を下げた。
ステージ中央に戻るロックフォール伯爵に最大の歓声が送られる。
四方の観客に手を振るとロックフォールコールが巻き起こる。
株を上げた貴族はステージを後にし、町長と子供達もステージを降りた。
「これにて『ヒヨコ杯』表彰式を終了致します!
明日の『ミノタウロス杯』は正午から開催されます!
出場される方は10時までに広場に集まってください!」
「あわわわわ…」
「あうあうあう…」
クルミちゃんを4位まで勝ち抜かせた松本とラッテオは言葉を失っていた。




