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48話目【ウルダ祭 21 『ヒヨコ杯』決勝】

「決勝トーナメントに出場する4名が決定致しました!

 10分後より北西ステージと北東ステーにて準決勝戦が行われます!

 各選手は準備を行ってください!」



カルニのアナウンスにより選手と審判のカルニ弟子達が北側ステージに移動し、

それに合わせて観客も来賓客に近い北側ステージへ周辺へ移動する。

各ステージ脇では各選手を保護者達が囲んでいる。



「カイ、あと2つ勝てば優勝だ! お父さん応援してるぞ!」

「お母さんも応援してるから頑張ってね!」

「ミリーも応援する! 頑張ってー!」

「任せといてよ! 賞金貰ったら皆で美味しい物食べよう!」

「「「 やったー! 」」」


カイと家族は豪華な夕食に思いを馳せている。

マツモトとラッテオは身を引き、ステージ脇でパンを齧っている。




「お、そろそろ松本の試合が始まるんじゃないか? カードゲームは終わりだ2人共」

「おうよ、3人で大貴族やるのも飽きて来たところだ。さーて、バトーのお気に入りの実力拝見だな」

「後で続きをやるわよ、勝ち逃げされてたまるもんですか! ところで、そのお気に入りは何処よ?」


カードをテーブルに置きステージを見渡すバトー、ミーシャ、ルドルフ。


「あのステージ脇の4人が選手か? いないな…」

「どういうことだ? マツモトが負ける要素なかっただろ?」

「焦らなくても、直ぐにステージに上がるわよ」

「そうだな、ちょっと飲み物来る、2人もいるだろ?」

「おう、俺は…」

「聞かなくても分かってるよ、ビールと果実酒だろ? 行ってくる」

「頼むわよー」


バトーが戻ってくると準決勝開始の案内が聞こえた来た。


「お? 丁度だな。ほらビールと果実酒だ」

「ありがとよバトー」

「ありがと。 そろそろステージに上がるわよ」


北西ステージに2人の男の子、北西ステージにはカイとクルミちゃんが上がる。


「…いなくねぇか?」

「…いないな」

「…いないわね」


目を細める3人、松本の姿はステージ上に見当たらない。

バトーを見るミーシャとルドルフ。


「おい、バトー…」

「ちょっと、バトー…」

「あいつ…女の子に負けたのか…」


松本の『ヒヨコ杯』は既に終了していた。

なんとも気まずい雰囲気の3人は、松本の試合を1度もまともに見ていなかった。


「村に帰ったらもっと厳しく鍛えないと駄目だな」

「おいやめろ! マツモトが死ぬ!」

「マツモトは子供なのよ! 手加減しなさいよ!」

「手加減がマツモトの為になるとは限らんぞ?」

「「 やめろ! 」」


ポッポ村の最強の戦士、バトー。

若くして頭角を現し、金髪を揺らし威風堂々と戦う。

また、自分の弟子を谷に落とすが如く、厳しく指導することから冒険者時代についた字名は『金獅子』。


金獅子バトー、不屈のミーシャ、爆炎のルドルフ。

彗星の如く現れ、破竹の勢いで暴れ回り、

地方都市のウルダの冒険者界隈を震撼させたのは15年ほど前の話である。




モッチャモッチャ…


「ラッテオ、どっちが勝つと思う?」

「分かってて聞いてるでしょマツモト君」


松本とラッテオは北東ステージの端で、悟りの表情でパンを齧っている。


「それでは準決勝、試合開始でーす」


カルニ弟子達の合図で北西、北東ステージで準決勝が開始される。


「だぁぁぁ!」

「きゃぁ!?」


盾を肩まで上げたカイが飛び出し、左手に持った盾をクルミちゃんの盾に当て、押す。

力負けしたクルミちゃんがバランスを崩し、カイが剣を振る。

クルミちゃんの首に剣が当てられ、開始早々にカイの勝利が確定した。


「首に剣が当てられましたー! 決着でーす!」

「いいぞーカイー!」

「かっこいいわよーカイー!」

「カイお兄ちゃんすごーい!」


カイの賞金が確定し、カイ家族の豪華な夕食が確定した。

クルミちゃんと握手しステージを降りるカイは腑に落ちない様子だった。



「負けちゃた…」

「気にするなクルミ。『ヒヨコ杯』4位だ、十分じゃないか!」

「勝てたら5ゴールドだったけど、残念…」

「賞金は残念だったけど、今回は賞品が貰えるんだろ? やったじゃないか! 賞品は何にしたんだ?」

「へへ~、ベット!」

「ベット? 寝るベットか?」

「そうベット! この前モギに壊されちゃったから」

「そうか、ありがとうクルミ。 本当は大きな縫いぐるみが欲しかったんじゃないのか?」

「うん。また今度にする~」

「そうか、お父さん頑張るからな! ベット来たら一緒に寝ような」

「うん!」


嬉しそうに話すクルミちゃんは、片足の父親と一緒に老婆の元へ向かった。

家族にとって、クルミちゃんの『ヒヨコ杯』4位は久しぶりに明るい話題だった。





もう1つの試合も決着し歓声が上がった。

ステージで観客にアピールする少年、芝居がかった行動に松本とラッテオは見覚えがあった。


暫くして決勝が開始される。

ステージ上にはカイと痛々しい少年の姿がある。

剣と盾を構えるカイ、対する少年は剣のみを右手に持ち、両腕を胸の前でクロスさせ、

空いた左手の親指、人差し指、中指を立て右目を隠している。


「マツモト君、僕なんかあの子に見覚えがあるんだけど…」

「奇遇だねラッテオ、俺も見覚えがあるんだよね…」


ステー上の少年と同じポーズの少年がステージ外から声援を送る。


「いきなさいレイル! 美しく勝利し選ばれし者となるのです!」

「ふふ…お任せをトネル兄さん。「元」北の知将の「元」参謀の力、お見せしましょう!」


パンを齧りながら痛々しい目で見つめる松本とラッテオ。


「マツモト君、僕見覚えがある理由が分かったよ…」

「奇遇だねラッテオ、俺も分かったよ…」


そう、彼の名前はレイル。元北の知将トネルの弟である。

敬愛する兄の影響を色濃く受け、9歳にして中二病を発症している。


レイルは向かい合うカイに話しかける。


「ふふふ…カイ君、君も中々強いようですね。しかし、残念ながら優勝するのはこの私。元北の参謀…」

「『ヒヨコ杯』決勝戦、試合開始でーす」

「ヤァァァ!」

「ぐぅぅ! ま、まだ話の途中ですよ!?」


カルニ弟子の合図と共に剣を振るカイ、セリフの途中だったレイルは防いだものの体制が崩れている。


「ちょ、ちょっと待つので…」

「ハァァ!」

「ぐぅぅ!」


手応えを感じたカイは、立て続けに攻撃する。

レイルは防ぐ度に左右へと振られ、防戦一方になっており、カイの優勢に家族が声援を送る。 


「いいぞーそのままいけーカイ!」

「効いてるわよーガンガン行くのよーカイー!」

「カイお兄ちゃん強ーい!」


カイの猛攻は続き、防戦一方のレイルはステージ脇に追い詰められていく。


「ちょ!? ちょっと落ち着くのです! あわわわ…」

「ハァァァァァァァ!」


かろうじてカイの攻撃を防いで入るが、1度も攻撃出来ずに場外を背負いアタフタするレイル。

レイルの様子を見て松本とラッテオは違和感を覚える。


「マツモト君これって…」

「多分そうだと思う、カイやめろー!」

「レイル君に誘われてるんだよカイー!」



迂闊だった…これは決勝戦なんだ、レイルが弱い筈がなのだ。

しかもこの受け方、これはトネル直伝の…



「あわわわ…」

「ダァァァァ!」


「いけーカイお兄ちゃーん!」

「離れろカイー!」

「止まってカイー!」


渾身の力で上段から剣を振り、勝負を決めに掛かるカイ。ミリーが背中を押す。

必死に警告する松本とラッテオ、自身の優位を信じて疑わないカイは止まらない。


「っふ…流石我が弟レイル。完璧ですね」


絶体絶命のレイルの後ろに立つトネルは、最初の痛々しいポーズを崩さず笑みを浮かべた。


「ここです!」


防戦一方だったレイルは瞬時に体制を整え、左上から振り下ろされる剣を目掛け反撃する。

レイルの狙いは剣ではなく、カイの指。

両手で持つ剣の付け根で、カイの指を打ち、返す2振り目で勝負を決めに行く。


「いったぁ!?」


痛みで右手が緩み剣を落とすカイ。

一瞬のうちの素早い連撃。カイが2振り目を認識したのは剣が首に当たってからだった。


「試合終了ー! 決着です! 首に剣が当てられ、『ヒヨコ杯』優勝者が決定しましたー!」

「2人共よかったぞー!」

「面白かったわよー! おめでとうー!」

「おめでとうー! 新しいチャンピオンの誕生よー!」


歓声と拍手が新チャンピオンの誕生を祝福する。


「素晴らしい攻撃でしたカイ君。また戦いましょう」

「ありがとうレイル君。 君って見てて恥ずかしいけど凄く強かったんだね」

「ふふ、美しいと言ってくれたまえ」


自然と失礼なことを言うカイ、意に介さないレイル。

カイはステージを降り、唖然とする家族の元へ向かう。

ステージ上のレイルは芝居掛かった仕草で観客席に剣を振り、四方に礼をしステージを降りた。




レイルとトネルはステージ横で痛いポーズで向き合っている。


「ふふ…流石は元北の参謀、チャンピオンに相応しい美しい戦いでした。

 これからは選ばし者として、レイルが上に立ち子供達を導くのですよ」

「ふふ…お任せをトネル兄さん。その任務、この選ばれし者レイルが完璧に成し遂げましょう!」


トネルの賛辞を受ける新チャンピオン、どちらも痛々しい。




「残念だったなカイ、でも2位だ立派だぞ!」

「凄いじゃないカイ! ママ嬉しいわ~!」

「カイお兄ちゃん、賞品は何にしたの?」

「ミリー、賞品は貰ってからのお楽しみだよ。それより賞金が5ゴールド貰えるから今日はご馳走だよ!」

「「「 やったー! 」」」


笑顔が眩しいカイ家族。

ご馳走に照らされたミリーの笑顔は光魔法の領域である。


ウルダ祭2日目『ヒヨコ杯』は全試合を終了した。

優勝者はレイル、準優勝はカイ。

表彰式を残すのみである。




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