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46話目【ウルダ祭 19 カイとミリーと両親と芋】

「どうしたのマツモト君? 怪我したの?」


松本が右尻を回復している松本にカイが声を掛けた。

不思議そうに松本を覗き込んでいる。


「ん? カイか。いやちょっと、さっきの試合でお尻を集中的に攻撃されちゃって…」

「へ~、お尻を狙うなんて変わった戦い方だね」

「まぁ、変わった試合だったよ。特にマツモト君がね…」

「?」


よく解らず気の抜けた顔をするカイ。

そのまま知らないでいて欲しいと思う松本。


「カイはまだ残ってるの?」

「うん! 次勝てば4位以内に入るから賞品が貰えるよ。ラッテオは?」

「凄いね! 残念ながら僕はさっき負けちゃったんだ。マツモト君はまだ残ってるよ」

「俺は次の試合に勝てば賞品が貰えるかな~」

「てことは、2人共勝つと僕とマツモト君が戦うことになるのか…

 昨日は助けて貰ったけど、今日は敵どうしだから全力で戦うよ!」

「その時はヨロシク、俺も賞金欲しいからね、負けないよ~」



罪悪感を感じる会話だな…

すまんカイ、俺は負けないといけないから、君とは戦えないのだ。

無垢な少年を裏切ってるようで、なんとも居心地が悪い…

うわぁ…ラッテオも微妙な顔してるな…



耐えきれずにラッテオが会話を変える。


「それより、ミリーはどうしたの?」

「ミリーは2回戦で負けちゃった。賞品が貰えないから拗ねてお母さん達の所で焼き芋食べてるよ」

「残念。何が欲しかったんだろ?」

「ケーキだったよ、大きいヤツが欲しかったみたい」

「カイは何にしたの?」

「僕は本当は格好いい剣と盾が欲しかったんだ、『ヒヨコ杯』用のヤツ。

 けど、ミリーがケーキって書いてたからケーキにしたよ。5段くらいある大きいヤツ」

「へぇ~、カイは妹想いの良いお兄ちゃんだね」

「へへへ、そんなことないよ~」


ラッテオの言葉に照れるカイ、クネクネしている。


「ミリーが4位以内に入れないのは分ってたからね、頑張ってプレゼントしようかなって」

「でもなんで、そんなに大きなケーキが欲しかったんだろう? ミリーって誕生日だっけ?」

「いや、違うよ。家族で誕生日の人はいないよ。食べたかったんじゃない?」

「ミリーお菓子好きだからなぁ」



大きなケーキに憧れるのは分かる。

俺も大好き、結婚式のケーキとか憧れるもん。

まぁ、人の結婚式に参加して食べる専門だったけどね…

3万円のケーキか…人生であれより高いケーキ食べたことなかったな…



「ラッテオとマツモト君は何にしたの?」

「僕は雷の魔石。負けちゃったけどね」

「俺は…」



そういえば、俺書いてないな…カルニに連れていかれて出しそびれた。

まぁ、負けるから書いても意味なかったけど…そうだな、欲しい物か…



「俺は布団かな。枕とシーツも付いた布団一式」

「なんか…現実的なものだね、生活用品っていうか…」

「もっと、普通に手に入らない物とか、自分で買えない物とか無かったの?」

「ふっふっふ…まだ若いな少年達よ。人生の3分の1は睡眠、布団は大事だよ」

「僕と同い年なのに、なんかお爺ちゃんみたい…」

「マツモト君って本当に8歳なのかな…」


疲れ難い子供にはなんとも理解できない話だが、1度オジサンの体を経験してる松本には重要な話である。

睡眠はとても大事、世界が変わろうとも人間は変わらないのだ。



「そろそろ僕は戻るよ、2人共応援してね」

「頑張ってねカイ、賞品は目の前だよ」

「カイ頑張れー、ケーキが待ってるぞー」


程なくしてカイがステージに上がった。 

カイは剣と盾、対戦相手は剣のみだ。

体格はカイより大きく、年齢も上のようだ。

松本は連戦になるため休憩が設けられ、ラッテオと一緒にカイの応援に来てる。

焼き芋を持ったミリーの姿もある、横の2人は恐らく両親だろう。


「それでは試合始めー」


カルニ弟子の合図により北東ステージで第3ブロックの最終戦が開始された。

この試合に勝った者が第3ブロックの代表として、上位4名の決勝トーナメントに出場する。

勝てば希望した賞品と決勝トーナメントへの切符が手に入る。

負ければ何も得られない、この試合の勝者と敗者には大きな差があるのだ。


ステージ上の2人は互いに牽制し合い、迂闊に攻撃しない。

選手の緊張が伝わり、北東ステージ周辺の観戦者も声を潜めている。


「流石に慎重だねマツモト君、2人共迂闊に攻撃しないよ」

「賞品が掛かった試合だからね、絶対に負けたくない筈さ。

 俺の1回戦の相手なんて新築の家を希望してたみたいだし、俺達の希望なんて可愛いものだよラッテオ」


先に攻撃を仕掛けたのは対戦者だった、カイは首への攻撃を注意し盾を上げる。

剣が盾に当たるがカイの態勢は崩れない。



はー、凄いなカイ。

ゴンタと戦った時も感じたけど、攻撃より防御が得意なんだな。

忍耐力がある、ゴンタ戦では散々攻撃されてたけど効打はなかったって言ってたな。

普通の子供の攻撃なら体制は崩れないみたいだし、剣と盾の技術は確実に俺より上だな。

ありゃゴンタが強すぎたな、『ヒヨコ杯』5連覇チャンピオンは伊達じゃなかったわけだ。


「ハァ! ヤァ! ハァ!」


対戦者が何とかカイの防御を崩そうと攻撃を仕掛けるが、正面からではカイは崩れない。

防御に徹するカイは、動きを観察し反撃の隙を探している。



「僕らのブロックとは違って、しっかりした試合だねぇ。

 この2人は泣くことはないから、首に剣当てるか、降参させるか、場外に落とさないと勝敗が決まらないよ」

「いや、俺達のブロック以外、殆ど泣いてないと思うよラッテオ…」


カイ達の試合を見て第4ブロックの異質さを再認識する松本とラッテオ。




カイの防御が崩れない為、一旦攻撃を止める対戦相手。

その隙を見逃さず攻撃に移るカイ、1歩踏み込み、右手の剣を対戦者の首元へ剣を振る。

反応した対戦者がカイの剣を弾く、剣を弾かれたカイは右半身を開き、少し態勢を崩した。

挑戦者は前に出てカイの盾に右肩を当て、剣から左手を離し、カイの盾を掴む。


「ダァァァァァァァ!」

「うわわわわわ!?」


対戦者は体を密着させたまま、盾越しにカイを押して行く。

ステージ端が近付き場外を背負うカイ。

対戦者の方が力が強く、態勢が崩れたカイでは止められない



「場外が近いよー、押し返してカイ!」

「横に逃げてー! 正面はマズいよー!」


カイの危機にラッテオと松本が声を上げる。




「カイお兄ちゃん、止まってー!」


カイの背後から、妹のミリーが声を上げる。

普段は静かなミリーが大声を出したため、驚いた松本とラッテオが振り向く。

視線の先のミリーは右手に焼き芋を持ったまま両手を前に突き出し、カイを止めようと念を送っている。


「止まるのよ、カイー!」

「踏ん張れ、カイー!」


隣の両親もミリーと同じポーズで念を送っている。

突き出される3個の食べかけの芋、ミリーの芋が一番大きい。


「押すのよー!」

「押すんだー! もう少しだぞー!」


ミリー達とは別方向から声が聞こえ、振り向く松本とラッテオ。

北東ステージの対岸では対戦者の両親が念を送っている。

ステージ外では、親族達による目に見えない攻防が開始された。



「止まってー!」

「押しなさーい!」


白熱する場外戦、ステージ上ではカイの足がステージの淵に掛かる。

一瞬で決しそうな勝敗、ギリギリで耐えるカイに、ミリーと両親の念にも力が入る。

 

「「 押してー! 」」

「オリャー!」


両親の念を背中に受け、対戦者が一気に押し込む。


「「「 止まってー! 」」」

「ぐぬっ…」


押し込まれるカイの背中に、全力で念を送るミリーと両親。額に血管が浮いている。


「…ぅ…っだぁ!」

「うわっ!?」


カイが剣を捨て、左手に持つ盾を両手で掴む、盾を右側に振りながら、体を左に避けた。

盾に当ていた右肩がずれ、突然、力が空振る対戦者。


「わわわわわわ!?」

「わわわわわわ!?」


カイと対戦者がステージ淵に並び、両手を回しバランスを取っている。


「お兄ちゃん耐えてー!」

「耐えるのよカイー!」

「踏ん張れカイー!」


中腰で念を送るミリーと両親は、ステージ内にカイを押し返そうと死力尽くしている。

握る芋にも力が入る。



「戻ってー、落ちちゃ駄目よー!」

「返ってこーい!」


一方、対戦者の両親は素早く両手を動かし、念を引き戻している。



「耐えるんだカイー! 踏ん張ってー!」

「なんとか耐えてー! もう少しだよー!」


ラッテオと松本の声援を皮切りに会場から声が上がる。


「わわわわわわ!?」

「わわわわわわ!?」


ドサッ!

ドサッ!


対戦者が場外に落ち、カイはステージに倒れ込んだ。

30秒の長きに渡ったバランス勝負は、カイの勝利で幕を閉じた。


「リングアウトー! 決着でーす」


「やったー! すごーいお兄ちゃん!」

「よくやったわー! 頑張ったわねーカイ!」

「流石は俺の息子だ! よくやったぞカイー!」


盛り上がるミリーと両親と芋。


「惜しかったわねー、よく頑張ったわ!」

「頑張ったからな、お父さんがプレゼントを買ってやろう」


対戦者は父親から賞品を貰えるようだ。



ステージを降り、ミリーと両親に揉みくちゃにされるカイ。

声を掛けようと思ったが、楽しそうな家族を見てラッテオと松本は身を引いた。


「お祝いは後にしよう、マツモト君」

「そうだねラッテオ、今は必要なさそうだ。それに、俺もそろそろ試合の準備をしないと」

「頑張ってねマツモト君、僕とカルニさんだけは応援してるよ」

「2人の期待に応えられるように頑張るよ」


松本、ラッテオ、カルニ。

3人の戦いの終わりも近い。

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