44話目【ウルダ祭 17 ラッテオ対クルミちゃん】
地方都市ウルダがウルダ祭で盛り上がる頃、ポッポ村の隅では数人の村人がポージングを練習していた。
レベッカとゴードンの姿もある。
「サイドポーズ…からの、バックポーズ。 …どう?」
「私はもう少し胸板が厚い方が好みかな~」
「何ぃ!? 今…俺のこと、好みって…」
「はいはい、それ何回目よ。 もう少し格好よくなったら考えてあげるわよ」
「本当? おーい、バトー筋トレ手伝ってくれー!」
男がバトーを呼ぶが返事がない。
代わりに、光を放つゴードンから返事が返ってきた。
「フンッ! バトーならマツモトと一緒に、フンッ! 町に買い出しに行ってるぞ」
「うお!? ゴードンさん、村の中で光魔法使わないでくださいよ、皆で決めたじゃないですか」
「いやーすまねぇ、最近調子良くてな。昨日レム様に褒められて嬉しくてよ」
「えー本当? 凄いじゃない!」
「凄いですね、俺なんてまだ筋力が足りないって言われたのに…」
「伊達に最初に習って無いわな、フンッ!」
「うお!? 驚かさないでくださいよ、ゴードンさん」
「流石にもう村の中では光らせねぇよ、目に悪いからな」
ポーズを取るゴードンを見て、男とレベッカは目を覆ったが今度は光らなかった。
3人は薪に腰掛け、汗を拭きながら話を再開する。
「しかし、今回の買出しはバトーか…」
「どうしたんだ?」
「この前、モギ肉のウィンナーをマリーさんが仕入れて来たじゃないですか」
「あったな、俺も食べたぞ」
「美味しかったわねぇ、モギ肉ウィンナー。また食べたいわ~」
「レベッカ、今度俺が仕留めてくるよ。そしたら付き合ってくれるかい?」
レベッカの手を取る男、真剣だがレベッカに軽くあしらわれている。
「楽しみにしておくわ、モギは1人じゃ仕留められないでしょうけど」
「だっはっは、おめぇの恋はいつ実んだろうな」
「頑張ってるんですけどね~、なかなか振り向いてくれないんですよ~」
男は笑いながら肩を落としす、どうやらいつもの事らしい。
「それで、モギ肉ウィンナーがどうしたんだよ?」
「マリーさんが町で聞いた話だと、どうもそのモギは仕留められて無いらしいんですよ。
あれ仕留めそこなった尻尾の肉だとか」
「そうなのか? でもまぁ、その感じだと逃げていったんだろ?」
「そうなんですけど、最近4つ先の村で目撃されたみたいなんです」
「いいじゃない! こっちに来てくれればモギ肉が食べられるわよ! 美味しいわよ~」
レベッカの頭の中ではモギ肉が香ばしく焼けている。
ポッポ村では松本達が仕留めたムーンベアー以降、まとまった肉が手に入っていなかった。
「俺は出来れば来てほしくないなぁ…モギ肉とレベッカの心は欲しいけどね」
「チャンスだろ? 頑張れよ」
「そうよ、モギ肉持ってきてよ」
「それがね、そのモギ凄く大きいらしいんですよ。
通常の3~4倍あるらしくて、ウルダの冒険者総出で戦ってようやく撃退したとか。
怪我人も出たらしいから、バトー不在のポッポ村には来て欲しくないですね」
「そんなでけぇのか、冒険者って強いんだろ? 今来られるとキツイな」
「ようやく村の再建が終わりそうなのに今はマズいわね、残念だけどモギ肉は諦めましょ」
「そうだよレベッカ、俺はモギ肉より君の方が大切なんだよー」
「私はモギ肉の方が大切よー」
レベッカ姉さんは肉食である。
「まぁ、バトーとマツモトなら大丈夫だろ。さ、仕事すっかな」
「「はいー」」
ポッポ村は今日も平和である。
一方、ウルダではラッテオの『ヒヨコ杯』3試合目が始まろうとしていた。
対戦相手はクルミちゃん、カルニからの依頼で勝たせないといけない相手である。
しかし、クルミちゃんは6歳、ラッテオより4歳年下で体格、技術共に格下である。
南東ステージ横で松本が心配そうに応援している。
頑張れラッテオ、後は俺達が上手く負ければ任務達成だ。
全然いい方法が思い付かないけど、とにかく何とか頑張れぇぇぇ!
「それでは試合始めー」
カルニ弟子によって試合開始が告げられる。
向かい合うラッテオとクルミちゃんは、互いに張り詰めた表情をしている。
絶対に勝ちたいクルミちゃん、絶対に負けたいラッテオ。
目的は正反対だが利害は一致しているという、歪な緊張がラッテオを苦しめる。
(どーしよう、クルミちゃん攻撃してくれないかな…クルミちゃーん僕のここ隙ありますよー)
盾を下げ左半身を晒すラッテオ、しかしクルミちゃんは攻撃してこない。
それもそのはず、昨日ゴンタ戦で奮闘したラッテオはガチガチに警戒されていた。
「あたた…昨日の試合で左腕痛めちゃって盾が上がらないや…」
(クルミちゃーん! ここ! 左のここだよー!)
左腕をさすりながら、それとなく囁くラッテオ。
ラッテオの囁きを聞き、盾を上げるクルミちゃん、顔の右半分だけ盾から出ている。
警戒レベルが上がり、防御が硬くなった。
(なんでー!? 殻に籠っちゃったんだけど…お願いだから攻撃してクルミちゃーん!)
さながら、達人同時の立ち合いのような、一瞬の油断が勝負を決するような…
そんな緊張感を感じ取り、観客達も固唾を呑む。
(だめだー絶対に攻撃してくれない! こっちから行くしかない! 上手くいってよー!)
ラッテオが前に出て剣を振る。
クルミちゃんは身構え、直立で硬直している。
「いっくよー!」
「っひ!?」
クルミちゃんが構える剣を目掛け、思いっきり振り切るラッテオ。
剣を勢いよく弾かれ、右後方に回転しながら倒れそうになるクルミちゃん。
(ここだー! 回ってクルミちゃん!)
倒れそうなクルミちゃんを追いかけ、体を密着させる。
クルミちゃんが持つ盾を右手で掴み、勢いよく回転方向に振るラッテオ。
(剣を離さないでよー!)
「っきゃ!?」
態勢を崩し右足を中心に回転するクルミちゃん。
一周して来た剣を全力で受けに行くラッテオ。
「いたー!」
「いたい…」
剣はラッテオの首に当たり、ラッテオとクルミちゃんは倒れこんだ。
「剣が首に当たりましたー試合終了でーす」
一瞬の決着、優勢だった少年の敗北に観客は沸いた。
「いやー油断はいけねぇな、首大丈夫かー?」
「女の子が隙を突いたのよ。カッコイイわよー」
「少年の油断じゃねぇのか?」
「女の子の技術よ!」
クルミちゃんの勝因は観客達の間で議論の的となった。
「ふふ…私の眼は誤魔化せませんよ。その一瞬の判断力、やはり私の後を継ぐのは君しかいないようですねぇ」
元北の知将、トネルだけは真実を見抜いていた。
拍手に送られステージを降りる2人。
「凄い、完璧だよラッテオ。尊敬する」
「最初はどうしようかと思ったけど、うまくいってよかったよ。いてて…」
喜ぶクルミちゃんと反対方向のステージ端で、松本とラッテオが小さく喜んでいた。




