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40話目【ウルダ祭 13 『ヒヨコ杯』準備中につき】

ゴンタと別れた松本は、バトーの待つ酒場へと向かった。


「えーっと、いたいた」


カウンターに見慣れた金髪、モヒカン三つ編み、長髪の赤毛の順で並んでいる。

金髪の左側に座ることにした。


「おはようございます、ミーシャさん、ルドルフさん」

「おはようマツモト。昨日は悪かったわね」

「おう、おはよう。元気そうじゃねぇか、揃ったことだし、飯にしようぜ。

 好きなの頼んでいいぞ、ルドルフの奢りだからよ」


親指でルドルフを指しながらメニューを渡すミーシャ。


「ちょっと、なんで私の奢りなのよ?」

「お前のせいで皆迷惑したんだ、朝飯くらい奢れよ」

「半分はカルニのせいでしょ? 飲み物だけにしときなさいよ」

「中途半端にセコイなお前…誠意と男気を見せろよ」

「私は女なのよ、男気は無いから誠意の飲み物よ」


ミーシャとルドルフの小競り合いを見て、バトーが松本を肘で小突いた。



「あだっ」


バトーを見ると左手でミーシャを指さし、右手はメニューとトントンと叩いている。


「…ミーシャさんの援護を?」

「そうだ、頼むぞ」



えぇ…子供に頼む忖度じゃないぞ…

しかし、背に腹は代えられん。

いくか…


席を立ち、ミーシャとルドルフに声を掛ける松本。


「まぁまぁ、2人共落ち着いてください。俺は別に気にしてませんから」

「ほらみなさい」

「けどよマツモト…」

「別に気にしてませんよ。ちょっと左半身の骨が砕けましたけど」

「うっ…」

「大した事ありませんよ。8歳の子供が死にかけましたけど」

「ちょ…」

「はぁ…まだフラフラする…お肉が食べたいなぁ…でもお金ないし…」


フラフラとテーブルにもたれ掛かり、貝殻の財布を見せる松本。


「あんた、なかなか嫌な言い方するわね…わかったわよ、悪かったわよ! 好きなの食べなさいよ!」

「「「ありがとうございます!」」」

「あんた達ねぇ…」


 

「すみませーん。この『どっちゃり肉サンド、レタス入り』と、お茶を。肉多めでお願いします」

「俺は『どっちゃりチーズ肉サンド、トマト入り』2個と、コーヒーで」

「バトーは2個か、じゃあ俺は『どっちゃり肉サンド』と『どっちゃりエビサンド』それと、お茶を」

「私は『卵サンド』と、果実酒をお願い」

「「「朝からかよ…」」」

「うるさいわよ、どっちゃり3兄弟」


ルドルフの肝臓は無敵なのだ。


「今日は頑張れよマツモト」

「なっはっは、チャンピオンを倒せるかどうか見ものだな、テラスから応援してるからよ」

「それが、チャンピオンは出ないみたいですよ。さっき直接聞きました」

「そうなのか? 残念だな」

「折角、優勝しやすくなったんだから喜んだらいいんじゃない?」

「いや~、いきなり居なくなると、なんか目標がなくなった感じがしてちょっと…」 

「わかるぜ~拍子抜けするよな、やっぱ目標は自分の力で達成しないとな」

「まぁ、仕方ないさ。前抜きに頑張れよ!」

「そうします、布団買いたいですからね」




「お待たせしましたー」


カウンターに並ぶ6個のサンドイッチ。

松本の前に置かれたサンドイッチは、肉が増され中央が膨らんでいる。

耳のある食パンで1枚の厚さは1センチ程、表面に焼き色が付いており、

香ばしく焼けた赤身肉が特製のソースで味付けされ、レタスと一緒に挟まっている。



「「「 いただきまーす! 」」」


4人はサントイッチを手に取り齧り付く。


口の中に広がる濃厚な肉の暴力、シャキシャキとしたレタスの歯応え、香ばしい食パン香り。

旨さのあまり半泣きの松本、記憶の片隅で茹でドングリが手招きしている。


「「「 うんまぁ~い! 」」」


満面の笑みで頬を膨らます4人を見て、厨房の料理長も満面の笑みである。




時刻は午前10時。

中央広場には『ヒヨコ杯』に出場する子供達が集まっている。

トーナメント表には64人の名前が書かれている。

第1ブロックにはゴンタ。

第2ブロックに松本とカイ。

第3ブロックにラッテオとミリーの名前がある。


トーナメント表の張り出された掲示板の前でカルニが案内を始める。


「はい静かにー、皆静かにしてー。

 いつも通り優勝者には10ゴールド、準優勝者には5ゴールドの賞金がでます。

 それとは別に、今回は賞金以外にも上位4名には賞品が出るらしいの。

 今から配る紙に欲しい物を1つだけ書いてこの箱に入れてちょうだい。

 世界とか権力とか右腕に封印された物とかは駄目よ、現実的な物にしてねー」


カルニの弟子達が子供達に紙を配り始める。


「カルニギルド長、ちょっと待ってくれ。皆も聞いて欲しいことがある」


声を聞き、掲示板の前のゴンタに視線が集まった。

ゴンタはトーナメント表の自分の名前をペンで消す。


「皆聞け!俺様は今回は出場しない!」

「え? 本当に? ゴンダ様出ないの?」

「出ない! 5連覇チャンピオンのゴンタ様がいないんだ、賞金、賞品が欲しいヤツはチャンスだぞ!」


西区のトップだった子供がゴンタに確認する。


「ゴンタ、辞めるのか?」

「あぁ、俺様は今年で成人だからな。『ヒヨコ杯』は引退して冒険者になる!」

「そうか、だったら俺も辞める。ゴンタと戦えないなら出る意味がないからな」

「じゃ、俺も」

「仕方ないですね、この北の知将も後輩に席を譲るしましょう。

 4強が不在となれば、賞品が貰える可能性が上がりますからね」


ゴンタの引退宣言により、前回大会の4強が辞退する波乱の展開となった。

商品を貰える可能性が上がり、盛り上がる子供達の横でカルニと弟子達が慌てている。


「ちょっと、君達、本当に辞退するの? 賞品出るのよ?」

「辞退する。いろいろと考えて決めたんだ。冒険者になったらヨロシクな、ギルド長!」

「俺も冒険者になろうかな、俺達でパーティーになろうぜ!」

「いいでしょう、この北の知将が参謀として加入してあげますよ」

「それはいいから、4人共ちょっとこっち来て…」


パーティーとなった元4強を連れ、カルニと弟子達がコソコソと話をしている。

時より松本とラッテオを指さしてはヒソヒソし、戻って来たカル弟子達がトーナメント表を書き直した。


新たなトーナメント表は

第2ブロックにミリー。

第3ブロックにカイ。

第4ブロックに松本とラッテオとなった。



「マツモト君、欲しい物は書いた?」

「いやまだだよ、ラッテオは?」

「僕は雷の魔石にしたよ。それより、もしかしたら僕達、大変なことになったかもしれないよ」

「なにその深刻な感じ…」

「第4ブロックは普通は小さい子供しかいないんだよ、そこに前回の上位4人の内の1人が入る。

 いつもはトネル君が入ってたんだけど、さっき辞退したから…」

「トネル君って?」

「北の知将って言ってる子だよ」

「あぁ、あのチョット痛い子ね…」

「おほほほ、ちょっと、2人共いいかしら」


松本とラッテオの肩がカルニに掴まれる。

肩に食い込む指に、絶対に逃がさない鋼の意思を感じる。


「ほらね…」

「いやな予感がするよ、ラッテオ…」


松本とラッテオは路地裏に消えた。

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