4話目【神の御心にて】
「ぉ…ぃ…」
「ぉーい…おきなさーい…」
「起きないわねぇ…天使ちゃん達ちょっと叩いてみて」
「「 わかりましたー、せーの… 」」
パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!
「いったー!? えぇ!? 痛いんですけどー!?」
「いやそこまでビンタしなくてもいいのよ天使ちゃん達…まぁ起きたからいいか」
眼を覚ました松本の目の前には、大人の女性と2人の子供がいた。
大人の女性は髪が腰まであり、髪と目は金色、衣服は白く清潔感がある。
子供達は2人共よく似ている、おそらく双子だろう。
髪は短く薄い水色、前髪に隠れており目は見えない、背中に羽が付いており子供らしい服装と言える。
「(? なんだこの人達?)」
自分の体を確認するが特に異常はない、服装は前山の部屋にいた時と同じ。
ポケットを探ると飴が出て来た、UFOキャッチャーのハズレである。
「(…飴、何処だココ?)」
周辺を見渡すと室内には一人用の大きな机、壁際に黒電話とFAX、
壁の一面は本棚があり背表紙の厚い本が並んでいる、
天井は高く床はそれほど広くはない、およそ8畳と言ったところ、
壁の一面はガラス張りになっており、外にはパラソルとテーブルと椅子が3つ。
「(…テラス席だ、オシャレ~)」
地面に胡坐をかいている松本に大人の女性が語り掛ける。
「初めまして人の子よ。神です。」
「(…神? 初対面で神とな?)あーはいはい神ね、はいはい、話進めてもらっていいですか?」
松本の脳裏には高額な壺が浮かんでいる。
「なんか投げ槍じゃない人の子よ? もう一回やり直すからちょっと目を閉じなさい」
そう言うと神?は距離を取りこちらに振り返った。
「目を閉じなさい人の子よ」
「はいはい目ですね、閉じますとも(…なんだコイツ?)」
松本が目を閉じると何処からともなく神秘的なメロディーが聞こえて来た。
瞼越しに光を感じる。
アァメェェィングレェエェェィス…アアメェェィン…
「さぁ、目を開けなさい人の子よ」
「はぁ…うっ眩しっ…」
眩い光に目を細めると神?のシルエットがかろうじて確認できる、
後光を背にした姿はあまりにも神々しく直視することは出来ない、
光が強すぎるだけの気もするが触れてはいけない。
「人の子よ、私は神、全知全能の…」
スンッ…と神?のセリフの途中で後光が途絶えた。
「神様~ブレーカーが落ちました~」
「えぇ? 今大事なセリフの途中なのよ? ブレーカー上げて上げて」
「了解で~す、上げますよ~」
「(眩っ…)」
カッ! っと再び後光に霞む神?、再び目を細める松本。
「私は全知全…」
スンッ…と再び途絶える光。
「神様~またブレーカー落ちました~」
「うそーさっきより短いわよこれー、ちょっと何とかならない?天使ちゃん」
「無理だと思います~」
「えぇ…どうしよっかなぁ…どう?さっきのでイケたと思う?」
「イケてますよ神様~! 万物を超越した神々しさでしたよ~! 間違いないですよ~!」
「ほんと~? まぁ天使ちゃん達にそう見えたなら人の子なら間違いないか!」
「「 間違いないですよ~! 」」
「じゃちょっと話進めるから片付けお願いねぇ~」
「了解で~す」
「照明つけますよ~」
奥の方で会議を終えた神?が戻って来た。
「とまぁ神ですけど何か?」
明るくなった部屋に立つ神?は自信に満ち溢れていた。
「いや、ちょっと…」
「何か? 神ですけど? 何か?」
有無を言わせぬ神?の後ろで子供がラジカセとライト(白熱球)を片付けている。
もう一人の子供はカーテンを開けている。
「あの~さっきの演出って…」
「神! なんですけど! 何か質問でも?」
「すみませんでしたぁ! あなた様こそ全知全能の神様であらせられます!」
いろいろ突っ込みどころがあるが話が進まないので松本は空気を読むことにした。
「よろしい! 話を進めましょう、ざっくり説明すると人の子よ、
今いるここは天界、そして、あなたは死んだのです!」
声高らかによく分からないことを宣言する神?。
「…なるほど、なぜ死んだのですか? 私の記憶では友人と食パンをチンッ!してシァッ!していたはずが?」
「人の子よ、天使の可愛い絵の描かれたトースターを使ったでしょう?」
「まぁ使いましたけど? ゲームセンターの景品のヤツ」
「そのトースターが爆発したのです、あれは人の世にあってならぬ物、人の子が使えば大変危険です、
あなたも身をもって体験したでしょう? それゆえ私が回収したのです」
自信に満ち溢れた顔で神?は語る。
「(…どういうこと?)」
松本の頭上に?が浮かんでいる。
「全く理解が出来ませんが…回収したのは良いとしてなぜ爆発を?」
「うっ…て、天界とは他の世界と切り離された空間、
天界に入るには生物でいう死を経験しなければなりません、物も等しく同じです」
一瞬、神?の顔に焦りが見えた気がした。
「こ、細かいことは置いておいて、まぁとにかく現状あなたは死んでいるの!
そして死んだ者は魂の泉に還り次の世界へ生まれ変わる、そうして世界は回っているのよ!
だから魂の泉へ還るための書類にサインして欲しいのよぉ‼」
早口でまくし立て書類のサイン欄を指さす神?
何故か眼が血走っている。
「さぁ! 今すぐサインを! ココに今すぐにぃ‼」
「(えぇ…なにこの人怖ぁ…書いてある文字も読めないし…連帯保証人とかじゃないのかこれ…)」
松本の警戒レベルが上昇した。
「すみませーん、天界急便でーす!」
ピンポーンと聞きなれたチャイムの音と共に男性の声が聞こえてきた。
「「 は~い! すぐ行きま~す! 」」
トトトトトと心地よい足音を立て走って行く子供達、暫くすると荷物を持って戻ってきた。
松本の後ろでゴソゴソと開封している。
「やった~!トースター戻ってきた~!」
「これでまたパンが焼ける~!」
「早速外で食べよう、苺ジャムまだ残ってたかなぁ?」
後ろから子供達の嬉しそうな声が聞こえてくる、何やらテラス席でパンを食べるらしい。
「…あれが噂の危ないトースターですか?」
「そう、危険だから私が回収したの、それより早くサインしなさい人の子よ!」
「いや、ちょっと…なんか危なそうで…」
「な、なにも怪しいことなんてありません、神の言葉を疑うとは不遜ですよ人の子よ」
「(…そもそもその神ってのが怪しいんだっての)」
「何も疑うことなく速やかに快くサインしなさい、大丈夫、私は神、全知全能の神なんですから!」
「…詐欺の間違いでは?」
「神パーンチ!」
「あだぁぁ!? ちょっといきなり何するんですか!?」
「神を疑う不遜な人の子には、神フラーッシュ!」
「ぎゃぁぁ目がぁぁぁ!? 目がぁぁ!」
神パンチと神白熱球でサインを強要される松本。
「ふふふ、さぁ大人しくサインするのです人の子よ」
「いやだぁぁ! 絶対いやだぁぁ!」
松本と神がサインを巡り不毛な争いをしているころ、
テラス席では子供達がトースターにパンをセットしていた。
「「 楽しみ~ 」」
ジジジジジ…
椅子に座り足をプラプラさせながらパンが焼けるのを待つ子供達。
「神様がボタン押し間違えたときはびっくりしたよ~」
「爆発したときはもうダメかと思ったけど結構頑丈なんだね~これ」
「うぅぅんっ! ジャムの蓋が空かないぃぃ!」
「ほう、オジサンに貸してみなさい子供達よ、ところでさっきの話なんだけど…」
さっきまで室内にいたはずの松本が子供達からジャム瓶を受け取っている。
「なっ!? いつの間に! 天使ちゃん達ー! 知らないオジサンとしゃべってはいけませんよー!」
神?が血走った目で走り寄ってくる。
ジジジジジ…
チンッ!
シァッ!
「オラァ!」
トースターから飛び出したパンをすかさず投げつける松本。
「ぐわぁぁ! 目があぁぁ! 目が熱ぅぅぅい!」
焼きたてのパンを顔面に受け神?が悶絶する神?。
「「 神様~! 」」
「いや~すまなかったね子供達よ、すぐ次のパン焼くから待っててね~、その間飴ちゃん食べるかい?」
「「 わ~い! 」」
「それでさっきの話の続きなんだけど…」
神?の妨害虚しく満面の笑みで語られる真実、子供達の頬は丸く膨らんでいた。