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32話目【ウルダ祭 5 子供達の戦い】

「みなさん、速やかにお戻りください! 次の対戦が控えております!」


カルニがステージに集まった人達に解散を呼びかけている。

デフラ町長は一足先に観覧席に戻り、来賓の貴族と話をしている。


「フフ、大変人望がおありのようですね、デフラ町長」

「ハハ、私があるのではなく、挑戦者が無かったのですよ。ここまで激しいのは初めてですが…」

「確かに。 先の挑戦者が得た待遇と、求めたものは大差ありませんからね」


貴族の空いたグラスにワインが注がれる。


「ロックフォール伯爵、確か魔道義足は貴殿の収めるダブナルで開発されたと聞き及んでおりますが?」

「デフラ町長は博識でいらっしゃる。 私の領地には変わり者が多いですからね、私を含めてですが…」

「あぁ、いや、そのようなことは…」

「フフフ、これくらい軽く躱せなければ貴族の相手は務まりませんよ。

 お気になさらずに、私は好きでやっておりますので。

 それに、その変わり者達のおかげで新しい技術が確立されたのです」


グラスを回し、ワインの香りを楽しんでいる。


「失礼とは存じますが、便宜を図って頂くことは可能でしょうか?」

「先程の者は提示された代案で納得しておりましたが?」

「えぇ、ですが根本的な解決にはなりません。かと言って町から大金を援助すれば町民から不満が出るでしょう」

「なるほど、公けに援助は出来ない、そこで外部からの支援が欲しいと」  

「もちろん、料金はお支払い致します。 内々の処理になりますが…」

「フフフ、あなたが町長で民は幸せですね」

「町民あっての私ですから」

「考えておきましょう。ただし、この祭りで美しい物が見られたらですが…」

「はぁ…美しい物ですか?」

「フフフ、美しい物が好きなんですよ。このワインのようにね」

「何にせよ、感謝致します」


光にかざしたグラスの中で赤い宝石が輝いている。




「さぁ! 次の対戦は下剋上を掛けた1戦! 挑戦者は少女! 挑戦理由はお菓子を買うため!

 対戦相手はなんと『ヒヨコ杯』5連覇のチャンピオンー!」

「なにぃぃぃぃぃぃぃ!?」


会場に響くアナウンスに驚き、手すりから身を乗り出す松本。

ステージ上にはミリーとゴンタの姿がある。お互い木剣と盾を持っている。

東側ステージ横で何も持っていないカイが肩を落としている。



おぃぃぃぃぃ! なんでミリーィィィィィ?

カイじゃないのかよぉぉぉぉ!



「なに? あれがマツモトの芋友か?」

「女の子じゃないか、マツモトも隅に置けないな」

「あんたねぇ、女を口説くのに焼き芋は無いでしょ…」



芋友じゃなくて妹なんですけどぉぉぉぉ!?

さっきまでカイが戦う流れだったじゃん!?

どういうことぉぉぉぉぉ!?



ステージ上のミリーは木剣を持った右手をグルングルン回している。

困惑したゴンタが、カイを手招きする。



「おいカイ、お前達2人で戦うんじゃないのかよ…」

「そうだったんだけど、さっき焼き芋食べたらミリーが張り切っちゃって…剣と盾取られちゃって…」

「お、おう…」

「一応、この後に僕が戦うんで…」

「そ、そうか…」


困惑したままステージ中央に戻るゴンタ。



「勝負、始めー!」

「ヤー! ヤー! ヤー!」


ゴンタが構えた盾をミリーが木剣で滅多打ちにしている。

今まで食べ損ねてきたお菓子への憤りを感じさせる。


「キャー、可愛い~」

「お菓子のためよ、頑張るのよー」

「食べすぎちゃ駄目よー」


母性を刺激された女性陣から応援が届く。

ゴンタは対応に困っている。


「ヤー! ヤー! ふぅ…」


盾を滅多打ちにし疲れたミリーが額を拭う。

困り顔のゴンタが剣と盾を置き、ミリーを両手で持ち上げる。


「ふぅ~ん! ぬぅぅぅん!」


バタバタと手足を動かし暴れるミリー。


「んぎゃぁぁぁ、ぎゃわいぃぃぃ!」

「お姉さんがお菓子あげちゃうぅぅ!」

「もっと、もっとちょうだいぃぃぃ!」


四方の観客席で母性が見悶えしている。


「イヤー! うぅぅぅ… イヤー!」


ステージ端で場外に降ろされそうになり必死に抵抗するミリー。


「ああああああ、これっ、ああああああああ!」

「も、もうだめぇぇぇ!」

「お菓子を! 今すぐお菓子をぉぉぉ!」

「ぎゃぁぁぁ胸が苦しいぃぃぃ!」


抵抗の末、ミリーはリングアウトし、母性は悶死した。

ゴンタは終始、困惑していた。


「リングアウトー! 奮闘しましたが挑戦者の敗北です! 手当てが必要な方は名乗り出て下さい!」


観客席から担架で運ばれて行った者達は満足そうな顔をしていた。




「ビール2つと追加のフライドポテトお持ちしましたー」


空皿が下げられ、フライドポテトが並ぶ。


「なんか対戦相手じゃなくて、観客がダメージを負ってるんですけど…」

「可愛かったが、残念だったな…お、ポテト旨いぞ」

「まぁ、本命は兄の方なので…あのチャンピオンはこの町の子供達のボスで力で周りを従わせているんです。

 それが嫌で反抗したんですよ、負ければ今より悪くなりますけどね」

「勝てる見込みはあるわけ? 塩薄いわね…ちょっと足しなさいよ」

「塩が薄く感じるのお前が飲みすぎなんだよ…勝つのは無理じゃねぇか? ずば抜けて剣術が優れてれば別だがな。

 対格差はそのまま力の差だ、特に子供だとな」

「あのチャンピオンは大きいからな、助っ人はいないのか?」

「反抗すればどうなるか皆知ってますから、難しいかもしれませんね。

 ポテト美味しいけど…さっきも芋食べましたよね」


松本達がポテトフライをつついていると、次の試合のアナウンスが流れた。



「次の試合も『ヒヨコ杯』チャンピオンへの挑戦です! 挑戦者は少年! 挑戦理由は妹にお菓子を買うため!

 それでは両者、ステージへ!」


先程とは違い、真剣な顔をしたゴンタとカイが木剣と盾を持って対峙している。


「ミリーの時とは違うぞカイ。俺様はチャンピオンだ、その俺様に歯向かったことを後悔させてやる!」

「やってみないとわからないだろ! お前を倒してミリーにお菓子を買うんだ!」


向かい合う2人は闘志を剝き出しにしている。


「ちょっと待った、僕も混ぜてくれないかな」


東側ステージに木剣を置くラッテオを見てカイが驚く。


「ラッテオ? どうしたの?」

「いやー、ゴンタに逆らったカイとミリーを見てね、僕も頑張ろうかなと思って」

「おい、ラッテオ…ゴンタ『様』だろ? 間違えるなよ」


睨みつけるゴンタを、正面から睨み返すラッテオ。

城壁の外で松本と話をした臆病な少年は、そこにはいなかった。


「いや、間違ってないよゴンタ。僕も言いなりになるのは嫌なんだ」

「ラッテオ、本当にいいの? もし負けたら…」

「自分で決めたんだ、自分変えないといけないんだ」 

「わかった。一緒に頑張ろうラッテオ」

「俺様もよくわかったぞ、怪我しても知らないからな!」


カイの左側に両手で木剣を持ったラッテオが並ぶ。


「助っ人がステージに上がりました! チャンピオンとの力の差を覆せるかー! 勝負始めー!」


「おらぁ!」


試合開始の合図と同時にゴンタがラッテオに剣を振る。

受けたラッテオは衝撃で倒れ、ゴンタの追撃を倒れたまま防いでいる。


「やめろー!」


ゴンタの背後からカイが剣を振るが、振り向いたゴンタが盾で防ぐ。

すかさず反撃に出たゴンダの剣を盾で防ぐが、防戦一方になるカイ。


「最初の威勢はどうした! 攻撃してみろ!」


力の差は歴然であり、2対1なのに勝負になっていない。

人数差を押し返すチャンピオンに会場は沸いている。



「こりゃぁ、ちょっと力の差が有り過ぎるな。チャンピオンの方が力も技も上だな」

「身長差もあるからな、チャンピオンは顔への攻撃を警戒する必要がない。

 数を活かさないと勝機は無いぞ子供達」

「力も技も負けてるなら気合でなんとかしなさいよ!」

「子供に無茶言うなよ、ルドルフ…バトーじゃないんだからよ…」



正直、ここまで差があるとは思わなかったな。

あの横暴な態度がまかり通るわけだ、『ヒヨコ杯』5連覇は伊達じゃない。

頑張れカイ、ラッテオ。




防戦一方に思われたカイはラッテオの様子を伺っていた。

立ち上がったラッテオはゴンタの背後に周り、カイと反対側に移動する。


「いくよカイ!」


声を掛けると同時にゴンタの右足に剣を振る、声に反応し振り返るゴンタの左足にカイが剣を振る。

ゴンッ! バン…

ラッテオの攻撃は盾で防がれたが、左足にカイの剣が当たった。


「クソッ!」


ゴンタが悪態を付く。

カイの体制が不十分だったためダメージは殆どなかったが、

防戦一方だったカイとラッテオの攻撃が初めて当たった。


「常にゴンタを挟んで移動し、一緒に攻撃するんだ!」

「わかったよラッテオ!」

「もう1度いくよ!」


ラッテオの合図に合わせて同時に剣を振る2人。

ゴン! バンッ!

ラッテオの攻撃は防がれたが、カイの剣はゴンタの太ももに当たった。


「いってぇ!」


痛みに顔をしかめるゴンタ。 

この試合初めての有効打が決まる。2人は数の利を活かし始めた。




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