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31話目【ウルダ祭 4 デフラ町長の戦い】

禿げがステージを去り、華奢な男は担架で運ばれていく。


「あれ? マツモトは焼き芋は買わなかったの?」

「さっき下で知り合いと会いまして、先に頂きました。ミーシャさんご馳走様でした」

「おう、お使い代だ、気にするな」

「マツモトはウルダに来るのは初めてだろ? もしかして記憶が戻ったのか?」


焼き芋を皮を剥く手を止め、バトーが尋ねる。


「ちがいますよ。 午前中、ポニ爺のところで知り合いになりまして、

 『ケロべロス杯』にでるらしいので応援して来たんですよ」

「それで餞別として焼き芋を分けてきたわけか、子供なのか?」

「俺と同い年ですよ。少し考え込んでいましたけど、焼き芋食べたら元気になりましたね」

「焼き芋は旨いからなぁ、元気も出るだろうよ。そりゃ、芋友だな。なっはっはっは」

「男と子供は単純でいいわね… 焼き芋が旨いのは事実だけど」


悪態をつきながら皮ごと焼き芋に齧り付くルドルフ。実にいい食いっぷりである。





「さて、次の対戦はいささか毛色が異なります! 挑戦者は老婆! 挑戦理由は息子の足!

 それでは挑戦者、ステージへ!」


カルニの案内で東側から老婆がステージに上がる。

ステージの外には松葉杖を付く30代の男、左足の膝から下が無い。


「挑戦を受けるのはこの人! 地方都市ウルダの纏め役にして、町民の代表! 我らがデフラ町長ー!」

「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!」」」

「デフラ町長ー! しっかり頼みますよー!」

「いつもありがとう町長ー!」

「デフラ町長ー! よろしくお願いしまーす!」


盛大な声援を受け、デフラ町長が姿を現す。 観客席に手を振り、頭を下げてからステージに上がる。

先にステージに上がっていた老婆は町長と対峙すると頭を下げた。

両者とも武器は持っていない。





「凄い人気ですね、町長」

「デフラ町長は町民から信頼が厚いからな、この対戦もなかなか面白いぞ」

「いやぁ…子供にはつまらんと思うぞ、バトー。実際に戦う訳じゃないからな」


手すりに掴まる松本の頭に寄りかかるミーシャ、結構重い。


「ちょっとミーシャ、見えないじゃない! あんたデカいんだから前に立たないでよ!」

「いててて、引っ張るなって。抜けたらどうすんだ…」


果実酒を片手にミーシャの三つ編みを引っ張るルドルフ。


「あれ? バトーさんあのお婆さんって、人参のお婆さんじゃないですか?」

「ん? ホントだな。 なるほど、切実な戦いのようだな」



いったい何のことだ? あのお婆さんが拳で戦うとは思えないし…





デフラ町長が右手を上げ歓声を止める。老婆が話始めた。


「デフラ町長、ご足労頂き感謝します。お願いしたいのは息子の足の事です。

 以前、モギが暴れた際に息子が片足を失いました。我が家は人参農家で体か資本です。

 このままでは息子は働けず、6歳になる孫の生活も支えられません。

 どうか、息子に魔道義足を与える資金を工面して頂けないでしょうか?」

「どうか、お願いします!」


深々と頭を下げる老婆に続き、ステージ外で松葉杖に体重を掛け息子も頭を下げる。

 

「頭を上げて下さい。他にご家族は?」

「私の夫と、息子の妻は先立ちました。子供はあの子だけです」


ステージ上のデフラ町長と大衆は頭を抱えている。

モギ騒動の後、噂は広がり挑戦者親子の状況を大衆は知っていた。




なるほど、町長への陳情だったのか。

この世界にも義足があることは分かったが、魔道義足とは何だ?

周りの反応を見ると問題がありそうだな…




「あのー? 魔道義足って何なんですか? 義足とは違うんでしょうか?」

「すまない、俺もよく知らないんだ。 普通の義足ならこの町にもあるがな…」

「俺もよく解らねえ、ルドルフ知ってるか?」


呆れた様子で果実酒を置くルドルフ。


「田舎暮らしのバトーが解らないのはいいとして、あんたは知ってなさいよミーシャ…

 魔道義足とは魔法の義足の事よ。10年ほど前に確立したばかりの技術でね、すっごく高いのよ。

 普通の義手義足とは違って、通常の手足と遜色ないの。

 魔法で脳からの信号を感知して、指示信号を受けた義足が動くってわけ」


「「「おぉ~~~~」」」


拍手する3人。


「そんな魔法あるんですか?」

「医療の研究が魔法と合わさって、人工的に開発された魔法なの。

 だから精霊様もいないし魔石もない、使える者がごく僅かで魔法の名前も決まってないわ。

 感覚? 神経? とかの医学的知識が必要らしくて難しいのよ。

 魔法使い界隈じゃ『感覚系魔法』なんてフワッとした呼称で噂されてる程度。

 一応、王都の許可も出て魔道義手、義足は市販されているわ、すっごく高いけど」 

 


人工的な魔法なんてあるんだな、その内義眼も出来るんじゃないか?

しかし、そんなマイナーな魔法まで知ってるとは、ルドルフ姉さんハンパないっす。



「すっごく高いってどれくらいよ?」

「この前みた義手は2000ゴールド位だったわ。二の腕からだったけど」

「にっ!? ゴ、ゴホッゴホッ…」

「ちょっと汚いわね!」


気管にオレンジジュースが入り咳き込む松本。



2000ゴールドォォォ!? 俺の全財産50シルバーなんですけど?

ポッポ村の椅子は30シルバーで売ったんだぞ…磨いたナーン貝の貝殻は17シルバー…

ナーン貝なんてポッポ村で5シルバー…

こりゃ一般人には手が届かないな…


※日本円だと2000ゴールド=2000万円位。 100シルバー=1ゴールド



 

「大丈夫か~?」 


バトーが松本の背中を擦っている。


「2000ゴールドか、ミーシャ買えるか?」

「いや、ちょっと足りねぇ。 今回の報酬次第ではいけるか?」



す、すげぇぇぇぇ! ミーシャさんすげぇぇぇぇぇl!

冒険者って夢があるぅぅぅぅぅ!

ん? 待てよ? 回復魔法があるのに何で義足なんて必要なんだ?

回復できるはずだ、だって回復魔法なんだもの!



「そもそもなんですけど、回復魔法があるのに義足が必要なんですか?」


ルドルフがミーシャを、ミーシャがバトーを見る。

自身を指さすバトーを見て、ルドルフとミーシャが頷く。


「では俺が。マツモト、回復魔法は万能ではない、大事な事だからしっかり聞くんだ。

 裂傷程度なら治るが、失った血液や臓器、手足は治らないと思った方がいい。

 もし、剣などで腕を落とされた場合、落ちた腕を傷口に付け回復魔法で完治可能だ。

 しかし、流した血液は戻らない。体内から離れただけで損傷したわけでは無いからな。

 今度は指を失い、谷に落としたとする。この状態で回復魔法を使用すると傷口は塞がるが、

 失った指は生えてこない。ここを勘違いすると早死にするぞ」

「なるほど、肝に銘じます」



つまり、あの息子の足はモギに食べられでもしたのか…

気の毒だが命があっただけマシか…

あれ?俺がポッポ村で食べたモギ肉って…





「ちょっとまったー」


西側のステージに書類を置き秘書が名乗りを上げる。


「ここでデフラ町長の秘書が参戦です!」


デフラ町長に秘書が駆け寄り、書類を見ながら話し合っている。

秘書からの提案を聞くも首を振り解決策を模索している。

渋い顔をしたデフラ町長が老婆に対峙する。


「只今、我が秘書と話し合った結果を伝えます。

 結論としては魔道義足の資金は援助できません」

「そうですか…」


老婆と息子は肩を落とすが、納得している様子だ。


「魔道義足は大変高価で1000から3000ゴールドほどです。

 町を預かる身として1人の町民のために、この資金を使用することは出来かねます。

 その代わり、通常の義足の資金と共に、月々にいくらかの金銭的支援を行いましょう。

 その支援金でギルドに依頼し、働き手を雇っては如何でしょうか?」


デフラ町長の提案に賛同する者からパチパチと拍手が送られる。

全員ではないが7割ほど賛同しているようだ。


「「ありがとうございます!」」


デフラ町長と町民に老婆と息子が頭を下げている。


「では金額などは後程話し合いましょう」


秘書共にステージを降りるデフラ町長。

会場からは歓声が上がっている。


「デフラ町長がステージを降りました、リングアウトとなります! 勝者は老婆ー! 

 完全勝利とはいきませんでしたが、町からの援助を勝ち取りましたー!」



まぁ、今までより裕福になるのは厳しいだろうが、生活は出来るな。

援助の金額次第では、結果的に魔道義足より高くなりそうだが、

その辺はワザと伏せたのだろう、老婆と息子を非難する者も出てくるからな。

それに、金額を公表すると今後の悪い前例になりかねない。

明日は我が身の労働者達は大半が賛同する事も予測できた…大衆の前でうまく立ち回ったな。

頭の切れる頼れる町長というわけだ。 だがこれは…





老婆と息子が去った後もデフラ町長はステージ脇に待機している。



「さて次の対戦もデフラ町長への挑戦です。挑戦者はDランク冒険者ー! 挑戦理由は活動資金の援助ー!

 両者、ステージへ!」


ステージ上にデフラ町長と、覇気のない冒険者が並ぶ。

ちょっと待ったコールにより、冒険者が5人に増える。


「デフラ町長、俺達冒険者をやってるんですが、うまく依頼を達成できなくて…

 このままだと生活が出来ないんですよ。」

「なるほど」

「そこでなんですが、毎月少しばかり活動資金を援助して欲しいんですがねぇ」


司会を務めるカルニが笑顔で額に血管を浮かべている。

流石はギルド長、プロなのだ。





ほら、早速来た…どうするデフラ町長?




「ふっざけんじゃねぇ!」

「あいつ等、いつも依頼なんて受けないでダラダラ酒飲んでんじゃねぇか!」

「おい、行くぞ!」

「あぁ!」



声に驚き横を見ると、隣のテラス席の客達が立ち上がりステージへと向かっていく。

酒場からは人がいなくなり、松本達だけが残っている。

あっという間にステージは観客に取り囲まれ、ステージは上は町長側の助っ人で埋まった。



呆気にとられる松本

落ち着いて酒を飲む3人。


「あたりまえだ、冒険者は遊び人ではないからな。あいつ等阿保だな」

「依頼がこなせないなら他の仕事をすればいいだけだ、俺みたいにな」

「冒険者は遊びじゃないのよ。 ロマンと冒険に命を掛けられないなら引っ込んでなさいよ!」


助っ人達によりリングアウトさせられ、敗北した冒険者達はカルニギルド長によりギルドを追放されたのだった。

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