302話目【作戦を変更せよ】
中央司令所の端、丸いテーブルにて
ルート伯爵、デフラ町長、モントが食事中。
「町の外へ出る許可ですか?」
「そ、それと馬車を1台お借りしたい…所存ですぞ…」
モントの椅子の後ろからオドオドした顔のラインハルトが
デフラ町長に対してお伺いを立てている。
「「 … 」」
そして何故かラインハルトの後ろにはオドオドした顔の
ギルバートとグラハムが顔を覗かせている。
「ふむ…詳しい理由を聞かねば判断できません、
少し場所を変えましょう、伯爵、モント、失礼します」
「い、今直ぐにというわけではありませぬ故!」
「食事を続けて頂きたいであります!」
「はぁはぁ、申し訳ないんだな! 我輩達が出直してくるんだな!」
席を立ったデフラ町長を3人が慌てて制止した。
「ですが先程重要な用件だと」
「そ、それはそうなのですが…」
「はぁはぁ、世界の今後に関わる話ではあるっぽいんだな」
「? 少し曖昧な物言いですね」
「実は小生達も頼まれた側でありまして、細かいところまでは知らないのであります」
「なるほど、事情は分かりました、その辺りも踏まえてお話を伺います」
「さ、先程も言いましたが今直ぐでなくとも大丈夫ですぞ、
ほ、本人が動けるようになるまで2~3時間はかかる見込みです故」
「食事を終えてからでも全く問題ないであります」
「はぁはぁ、スープが冷めてしまうんだな、どうか席に座って欲しいんだな」
「いえ、行きましょう、概要だけでも先に伺っておけば食事を取りながら考えられますので」
「「「 いやいやいやいや… 」」」
「(俺のスープも冷めちゃいそうなんだけどね…)」
ラストリベリオンを背負ったモントが居心地悪そうにスープを見つめている。
「あのさ~デフちゃんに用があるならもう少し近付いて話した方がいいんじゃない?」
「はぁはぁ、それは無理なんだな…」
「お、恐れ多いですぞ…」
「モント氏は小生達に死ねと?」
「(えぇ…)」
この世の終わりみたいな顔で首を横に振られた。
誤解を招かないように説明しておくと、
3人がオドオドしている相手はデフラ町長ではなくルート伯爵である。
食事中の領主の前に堂々と立つのは不敬ということで、
少しでも目立たないようにと同業者のモントの背中に隠れている。
「(普通にしてもらった方が良いがの、逆に気になるて…)」
当然隠れきれる筈がないのでルート伯爵からはガッツリ見られている。
何故こんな状況になっているのかというと、
ラストリベリオンの3人が蘇生後の松本から…
・意志を持ったマナと遭遇したこと。
・理が不完全なせいで魔王が出現していること。
・理を正せば魔王が今後復活しなくなること。
・このままでは魔王討伐が厳しいこと。
・でも旨くいけば魔王が討伐出来て理も正すことが出来ること。
・そのためには魔王討伐部隊に情報を共有して
作戦を変更して貰う必要があること。
・説明を裏付ける根拠が示せないため信じて貰うには
1度死んで生き返った自分(松本)が説明するのが効果的であること。
といった説明を受け、更に…
・魔王討伐部隊の戦闘は激し過ぎるので合流は無謀だが、
風魔法での音声拡張なら遠距離での対話が可能なので
ギルバートにも協力して欲しい。
・時間が無いので馬車の使用許可と外出許可を取って欲しい。
といった感じの要望?を女医と助手に取り押さえられる
松本の言葉から汲み取ったからである。
その時の様子がこちら。
「戦闘が凄く激しいんで合流は無理です、でもある程度近づけば…」
「おいこら、体中から糸が生えた状態で何処行こうって?」
「私の聞き間違いですよねぇ? 心臓にも糸が入ったままなんですよ?
肺にも腸にも、先ずは取り除くべきですよねぇ?」
「いやあの…あんまり時間が無くてですね…今すぐにでも行かないと…」
「そのまま行ったらまた死ぬって言ってるんだ!
麻酔を打てぇ! 私が抑えてるうちに早くぅぅ!」
「はい先生!」
「そ、そんな時間ないんですって! やめて! やめてぇ!」
「動くなぁ! 医者に逆らうんじゃない!」
「先生もっと大人しくさせて下さい! 暴れてると針が刺せません!」
「俺は戦ったり出来ないんで大丈夫です! 情報を伝えに行くだけですから!
ギルバートさんの風魔法なら遠くからでもやれる筈なんで!
カルニさんも同じことできるんでぇ! 離れてても会話が成り立つんでぇぇ!」
「行くなとは言ってない! 糸を取り除いてから行けと言ってるんだ!」
「何時間も動けなくなるじゃないですか! やめて! 誰か助けてぇ!」
「たった2~3時間だ! 大して変わらんだろ!」
「いや変わりますよ! その時間が惜しいんですって!
ダナブルから向かって来てる人を迎えに行って貰わないといけないですぅ!
戦ってる人達もどんどん疲弊するし! 彼だっていつまで耐えられるか…」
「先生! もうどこか適当に打ちましょう! 針が折れたら取り出せばいいです!」
「やれぇ! 今すぐにやれぇぇ!」
「いやぁぁ! やめてぇぇ!」
「おんどりゃぁ!」
「いだぁ!? ば、馬車の準備を! お願いしま…ふぅ…」
「はぁはぁ…やはりコカトリス製の麻酔は効くな…」
「即効性ですからね」
「「「 (マツモト氏…) 」」」
てなわけで、虚ろな目でグデングデンになった松本に敬礼しつつ、
友の望みと世界の命運を託された?3人は覚悟を決めて診療所を退出。
肩で風を切りながらデフラ町長の元へと突撃…したのだが、
声を掛けたところで食事中であることに気が付き失速、
更にルート伯爵が同席していること気が付き絶句&後ずさり、
でも根が真面目なので託された使命を果たすべく、
モントの背中に隠れて要件を伝え今に至る。
「はぁはぁ、モント氏はよく堂々としてられるんだな」
「伯爵と同席するなど小生なら絶対に無理であります」
「そ、その大胆さ、恐ろしいですぞ」
「だって俺が今任されてる役割って伯爵の警護だからさ~、
コソコソ隠れてたりしたらもしもの時に役に立てないでしょ、
だからちょっとくらいの不敬は許して貰えるってわけ、ですよね伯爵?」
「うむ、緊急時に礼儀など気にしておられん」
「ほら、伯爵もこう言って下さってるんだし、
別に立って話すくらいで大丈夫だって~デフちゃんもそう思うよね?」
「賛同はしますが…モント、その呼び名で呼ばないようにと、
何度も言ってるじゃないですか」
「まぁまぁ、硬いことは無しにしようよ~、緊急時だよ?
礼儀なんて気にしてる場合じゃないって」
「いや、それは上の立場の者が言うから意味があるのであって、
モントが言うのは違うと思うぞ」
『 うんうん 』
「あらら…」
ルート伯爵の的確なツッコミに全員が頷いている。
「まぁ、そういうことでデフラよ、私に気を使わなくてもよい、
食事を取りながら話を聞いた方がその後の手間も省けるだろう」
「「「 え? 」」」
「分かりました、ではお言葉に甘えてこの場でお話を伺います」
「「「 えぇ… 」」」
最も望まない形での着地に絶望の3人、
でもやらないとそれはそれで不敬にあたるので
チームリーダーのラインハルトが普段の3倍くらい言葉を詰まらせながら説明した。
「つまり、貴方達が外出と馬車の使用許可を求める理由は、
不完全な理を正す方法を魔王討伐部隊へ伝えるため、ということですか」
「そ、その通りですぞ」
「ふむ…」
千切ったパンを口に運ぶと目を閉じて額を人指し指でトントン、
要点とパンを飲み込んだデフラ町長はルート伯爵へと視線を向けた。
「事実であれば確かに直ぐに取り掛かるべき重要案件ですが、
根拠となるものが何1つありません、
この話を元に方針を変更するのは危険だと思います」
「うむ、私も同じ考えだ、だがマナの声のくだりは少々気にならんか?」
「ですね、ラインハルトさん、マナの声を聞いた方のお名前は?」
「マ、マツモト氏ですぞ」
「おん? ん!? んん…」
反応したモントが喉を抑えて苦しみ出した、
どうやら飲み込んだパンが引っ掛かったらしい。
「んぐ…ふ~危なかったぜぇ…」
スープで流し込んで窮地を脱出、ついでに完食。
「ねぇライちゃん、今のマジ? マツモトってポッポ村の?」
「そのマツモト氏ですぞ」
「何か知っているのですかモント?」
「いや、知ってるもなにも…ねぇ?」
「何故私を見るのだ?」
「いやだって、デフちゃん昨日会ってるんで、
っていうか伯爵も会ってる筈ですよ」
「私も? ふむ…思い当たる節は無いがの? デフラはどうだ?」
「マツモトという名前に聞き覚えはあるのですが、
…、何故か昨日の記憶の中に全く思い出せない部分がありまして…」
「疲れとるんじゃないか? と言いつつ実は私も同じような感じでの、
記憶の一部が不自然に抜け落ちておる気がする…」
「かなり慌ただしかったですからねぇ、
精神的な疲労が影響しているのかもしれません」
「自覚しておるよりも疲れておるのかもしれんの~、
責任のある立場で倒れるわけにはいかん、お互い気を付けんとな」
「(いや~多分違うでしょ…)」
額にシワを寄せながら目頭をモミモミする2人対しモントが目を細めている。
尊厳に配慮して『合う』という言葉を使用したので
余計に真相から遠ざかってしまったが、
2人が出会ったのはボロボロの松本の遺体である。
「(そういうの2人共慣れてないもんねぇ…)」
ケルシスから手渡されそうになったデフラ町長は勿論、
直ぐ近くで見ていたルート伯爵が受けたショックも相当なもの。
つまり2人に発生している記憶の欠損は、
疲労によるものはなく松本のマッドネスアタックから
精神を保護するための自己防衛反応である。
なお、平然と対応していたロイダ子爵には
全く影響が出ていない模様、精神力の高さが窺える、
一説では伯爵随一の精神力を誇るレジャーノ伯爵と比肩するとかしないとか。
「この話やめない? 無理に思い出さない方がいいって」
「そうもいきませんよ、必要な情報は可能な限り取得せねば」
「思い出せそうな思い出せんというのも気持ち悪いしの、
知っておるなら勿体ぶらずに教えてくれ」
「伯爵がそう言うなら従いますけどね~、
せめて食べ終わってからの方がいいと思いますよ」
「何故です?」
「時間は有限だぞモント、話すのだ」
「了解です、でも聞いてから文句言わないで下さいよ、
デフちゃんもスープ飲めなくなっても知しらないからね」
「しつこいですよ、あとその呼び方やめろと言ってるじゃないですか」
「まぁまぁ、落ち着つくのだデフラ、ほれモント」
「はいはい~んじゃお答えしますよ~、
マツモトってのは昨日シルフハイド王が運んできた…」
「「 うっ… 」」
記憶を呼び覚ますキーワードによってパンドラの箱が解放、
飛び出して来たトラウマにシバかれた2人は渋い顔で動かなくなった。
「も、申し訳ないのですが…」
デフラ町長は口元を抑えならがら皿を遠ざけ食事リタイア。
「き、貴族たるもの…領主たるもの…食料を無駄になど…」
ルート伯爵は気合で押し込んで完食、
上に立つ者のとしての矜持を守り切り真っ白な灰になった。
「(だから言ったのに…)はいはい、ちょとごめんよ~」
「「「 あ、はい 」」」
モントが立ち上がり後ろにいた3人を遠ざけると、
背もたれを抱き抱える形で向き合うように座り直した。
「さっきの話のことでちょっと気になったんだけどさ~いいかな?」
「「「 どうぞ 」」」
「俺の聞いてる話だとマツモトは昨日ウルダに到着して、
町に入る前にバトちゃんと一緒に南の草原に向かった筈なんだよね、
そこで運悪く魔王と出くわしてやられちゃったらしいんだけど、
ライちゃん達いつ話したの?」
「つ、つい先ほどですぞ」
「またまた~そういう冗談やめてよ~マジで俺あんま好きじゃないんだよね、
2人があんなになっちゃうくらい惨い状態でさ、可哀想でしょ、内臓とかも…」
「「 うっ… 」」
「あ、ごめん…悪気はないからね…」
後ろから聞こえた苦悶の声には振り返らずに謝罪。
「じ、冗談ではないですぞ」
「小生達もよく分からないでありますが、マツモト氏は生き返ったであります」
「「「 は? 」」」
「はぁはぁ、生き返った直後は心臓が動いてなかったりで大変だったんだな、
はぁはぁ、ラ、ラインハルト氏がライトニングで
無理やり動かしてなんとかなったんだな」
「危険を承知でその身に受けると言ったマツモト氏の覚悟たるや、
そ、そしてそれを支えたギルバート氏とグラハム氏の献身さたるや、
拙者1人の男として、こ、心が震えましたぞ」
「いやいや、覚悟を語るのであればラインハルト氏こそであります、
1つ間違えば友の命を奪いかねない場面での細やかなライトニング捌き、
小生にはマネの出来ない素晴らしき行いであります」
「はぁはぁ、体も心も痺れたんだな、あれこそ誉なんだな」
「ちょ、ちょ~っと待って、ちょと待って君達、1回俺の話聞いて貰っていい?」
「「「 はい 」」」
「流石に聞き間違いだと思うんだけどさ~生き返ったって言った?」
「「「 はい 」」」
「「「 … 」」」
あまりにも澄んだ瞳での即答にモント達が顔を見合わせている。
「あの…すみません、その…生き返ったとはどういう状態を…、
歩きまわっているとかそうことでしょうか?」
「はぁはぁ、歩いてはいないんだな」
「歩いてはいないのですか…(う~ん)」
「左足を失ってるので歩けないであります、でも元気であります」
「あの状態で元気……(うっ…)」
「(恐ろしい…)」
デフラ町長とルート伯爵の中で
松本がとんでもないホラーモンスターになっている。
臨死状態からの蘇生はある程度認知されているので理解できるが、
流石にボロマツは次元が違うので全く理解できない様子、
実際に生き返っているだが、これはまぁ仕方がない、
むしろルート伯爵やデフラ町長のように
思慮深い人の方が飲み込めない話である。
「確か診療所だったよね? 俺確認してくるよ」
「駄目であります、今は傷口を縫い合わせてあった糸を
取り除いてる最中であります」
「はぁはぁ、先生が許可するまで誰も入れないんだな」
「そなの? んじゃデフちゃん、準備だけでも進めといたら?」
「信じるのですか?」」
「この3人とは付き合い長いからよく知ってんだよね~、
こういう話で人を騙すタイプじゃない、俺はこの決断に命を掛けるぜ」
「…」
モントの瞳の奥を確認したデフラ町長は小さく頷いた。
「伯爵、備える分には問題ないかと」
「うむ、そうだな、ラインハルトよ」
「は、はひ…」
「ハイエルフの方々が補給を取りに来た際に
水晶玉を持たせることも可能ではあるのだが、
どうしても直接赴く必要があると思うかの?」
「マ、マツモト氏はそのつもりでしたぞ、
細かいやり取りが必要になるかもしれませんし、
や、やはりマツモト氏が直接向かった方が良いとは思いますぞ」
「うむ、デフラよ、馬車の準備にはどれくらい掛かるかの?」
「常に待機させてありますので直ぐにでも出せます」
「ならばあとは人員か、対話が目的であるならば戦力は絞っても良いだろう、
町の防衛を手薄にするわけにはいかんしな、モントなら誰を向かわせるかの?」
「ギルちゃんは行くんだよね?」
「勿論でありあす、友としてマツモト氏の力になるであります」
「ひ、1人で行かせるわけにはいきませんぞ」
「はぁはぁ、凄く危険なんだな、だから皆で行くんだな」
「ラインハルト氏、グラハム氏」
「「「 我ら生まれた日は違えども 死す時は同じ日同じ時を願わん! 」」」
『 う~ん… 』
そんな感じで話は進み、最終決定は松本を待ってからということになった。
そして、約1時間後。
「ふぅ…ふぅ…お世話になりました」
「あぁ、気を付けてな(なんて強情な子供なんだ…)」
「お大事に~(頑張りますねぇ…)」
診療所の扉が開かれ地面を這いつくばる松本が出て来た。
「…マ、マツモト君? マツモト君ですか?」
「あ、トネル君久しぶり、レイル君も」
「見て下さいレイル! 本当にマツモト君ですよ!」
「えぇ! 良かったですねトネル兄さん!
大変な怪我を負われてはいますがちゃんと生きてます!」
出待ちしていたトネルとレイルの歓喜の声で中央指令所がザワ付き始めた。
「トネル君、ここに偉い人達がいるって聞いてるんだけど、
誰か決定権を持ってる人知らない?」
「最終決定権はちt…ルート伯爵がお持ちです、アチラにいらっしゃいますよ」
「ありがと、俺ちょっと急いでるから行くね、ふぅ…ふぅ…」
「「 … 」」
右腕と短くなった左腕で体を引き寄せ、
息を切らせながらズルズルと地面を張って行く。
「マツモト君…も、もしかして下半身が動かないのですか…」
「そんな…っく…なんて痛ましい…」
「え? いや、違う違う、違うからね、そんな哀しそうな顔やめて、
なんか居たたまれない気持ちになるから」
「「 …ん? 」」
「麻酔がまだ効いてるだけだからねこれ、
切れればちゃんと足も動くから大丈夫大丈夫、ですよね先生?」
「あと1~2時間もすればちゃんと動けるようになるぞ」
「まだかなり効いてる筈だから普通は寝とくんですけどねぇ、
どうしてもって聞かないんで好きにさせてるんです」
「「 えぇ… 」」
とにかく時間が惜しいので気合で動いているらしい。
実は抜糸作業後の輸血が終わったばかりなのだが、
麻酔の効果が薄れ始めたのをいいことに診療台から脱走しようとしたので、
呆れた女医と助手が仕方なく出口まで運んだそうな。
※麻酔を挿した時に折れた針もちゃんと摘出されました。
その後、直ぐにやって来たルート伯爵達に事情を説明し、
正式に作戦を変更することが決まった。
「よろしくお願いします」
『 お願いします~ 』
伝達部隊は松本、ラストリベリオンに加え、
要請を受けて待機していたアクサスが参加、
それに伴いウルダの防衛指揮権はカルニ軍団に移行。
「ミリー、お~いミリー、聞こえる~?」
「!?」
「ねぇカイ、これマツモト君かな?」
「ミリーの名前を呼んでるしマツモト君なんじゃない?」
「俺だよ~マツモトだよ~」
「あ、やっぱりマツモト君だって」
「みたいだね、どこにいるんだろ?」
「ちょっと怪我しちゃったけど俺ちゃんと生きてるよ~」
「…マツモト? 本当に?」
「ちょっと用事があるから今から出掛けて来るけど、
それが終わったらちゃんと会いに行くから~元気出してミリー、
カイとラッテオもミリーのことよろしく~それまた~」
「? 何だったんだろ?」
「さぁ? ミリー聞いてたってうわ!?
お母さん、お父さん、ミリーが笑いながら泣いてるんだけど…」
「「 えぇ!? 」」
「マツモト生きてた…生きてたぁぁ…」
「ミリー!? どうしたのミリー!? 大丈夫!?」
「哀しいの? 嬉しいの? どっちなの? お父さん分かんないよ!?」
「うぁぁぁ…」
ギルバートに協力してもらい避難所の端からサラッと生存を報告、
本当なら直接会って謝りたかったが
託された物があるので自分だけの都合は後回しにした。
「ありがとう御座いますギルバートさん、
時間が無いと言いつつ我儘言ってスミマセンでした」
「いやいや、ほんの数分であります、
他に心配してる人はいるのでありますか?」
「もう1人いますけどその人は大丈夫です、強い人なんで、出発しましょう」
てなわけで馬車に乗り込み出発、
アクラスが槍の槍の輝きで安全を確保しつつ、、
ラインハルトが手綱を操作、グラハムとギルバートは前後を警戒、
依然として麻酔が効いている松本は荷台でゴロンゴロン。
「小生等はルート伯爵の指示を受けているであります!
速やかな開門を望むであります!」
城門を通過し魔族の波に逆らいながら進行。
「はぁっ!」
「す、凄い威力ですぞ」
「はぁはぁ、流石はアクラス氏なんだな」
途中で2度大型魔族に遭遇したが、
何れもアクラスの雷撃で接近する前に消滅させたため被害は無し、
1度も減速すること無く40分程走り続け、
戦闘音が聞こえる場所までやって来た。
「どうですかマツモト君?」
「かなり力が入るようになってきました、ちょっと試してみます、ふん」
「「「 眩しっ… 」」」
麻酔の効果も殆どなくなり松本の光魔法が復活。
「うん、いけるな、やれます」
「それでは予定通り進めましょう」
『 はい~ 』
松本とギルバートが馬車を降りて少し離れた場所に待機。
「はぁはぁ、それじゃやるんだな、危ないから動いたら駄目なんだな」
「「 はい~ 」」
「うぉ!?」
「あややや…」
グラハムが杖を光らせると地面が隆起して2人は15メートル程上に移動。
「はぁはぁ、保持するのもマナを消費するんだな~!
はぁはぁ、出来るだけ早めに終わらせ欲しいんだな~!」
「了解で~す!」
松本が右手を握り込み上腕を光らせて安全を確保、
ギルバートが戦闘が行われている場所に向け
杖を杖を構えて目を細めながら感覚を調整。
「え~おほん、小生はCランク冒険者チーム!
ラストリベリオンのギルバートであります!
魔王討伐部隊にお伝えしたい作戦がありますので!
聞こえていたらカルニギルド長による返事を頂きたいであります!」
『 … 』
耳を澄ませて待つこと約1分。
「聞こえてるわ! 続けてギルバート!」
『 おぉ 』
戦闘音を切り裂いて聞き慣れた声が返って来た。
「いや~これ程の距離は初めてだったので自信がなかったのでありますが、
小生程度の実力でもなんとかなるものでありますな」
「(普通に凄いのでは?)」
10キロ程離れているので普通に凄い、
単純に音声を増幅するのではなく、
方向を定めて遠くに響かせる特殊な技術が使用されている。
ついでに言うとグラハムも凄かったりする、
地面を隆起させる際は周りの土を寄せ集めるので、
隆起させた分だけ周りの地面が凹むのが普通なのだが、
馬車が停車している部分は影響を受けていないので
高い出力を保持しながら細かい制御を行っている。
そして繊細なライトニング捌きで
見事に松本の心臓を再起動させてみせた
チームリーダーのラインハルト。
これがCランク冒険者チーム、ラストリベリオン、
これが補助系依頼でコツコツと技術を磨いていた者達の底力である。
視点は変わって魔王討伐部隊サイド。
「おうカルニ、作戦変更か?」
「それは聞いてみてからね、無理な内容なら拒否するわ」
「でもよ~正直このままだとキツイぜ」
「まぁね…そろそろ次が聞こえる筈だから静かにしてミーシャ」
「おう」
「カルニさん! 俺です! マツモトです!」
『 !? 』
「いろいろあってさっき生き返りました!」
『 はぁ!? 』
「だはははは! だってよバトー! やったな!」
「あぁ! どうなってんだろうなまったく!」
「ちょと煩い! 静かにして2人共!」
「ねぇターレ、本当にあの坊やだと思う?」
「あり得ないわね、ルドルフもそう思うでしょ?」
「あり…得るかも?」
「何を馬鹿なことを言っておるのだ、死者は生き返ったりはせん、
名乗るだけなら誰にでも可能だ、のうマダラよ?」
「あ、すみませんゲルツ将軍、声に集中してたので聞いていませんでした」
「静かにして下さい! 何か話してますから!」
「本気で言ってるのルドルフ?」
「いやまぁ…マツモトだし? あり得えなくはない…かも?」
「はぁ…悩むようなことじゃないでしょ、
私はゲルツ将軍と同じ考えよ、死んだ人間が生き返るなんて変だわ」
「だはははは! 確かに悩む必要はねぇよなバトー!」
「あぁ! 絶対に生き返ってるぞ! なんたってマツモトだらな!」
「「 だはははは! 」」
「煩ぁぁい! だから声が聞こえないんですって!
ただでさえフレイムの爆発音が煩いんですから静かにして下いよ!
ほらもう! なんか言ってるけど全然分かんなくなっちゃったじゃないですか!」
『 すみません… 』
カルニにカチキレられて静かになった。
「カルニギルド長、僕達が本人かどうか確認して来ます、
ついでにもう1度最初から話して貰うように伝えてきますよ」
「あ、助かりま~す」
シルトアとケルシスが出撃。
「2人が戻って来るまで全員戦闘に集中!」
『 はい~… 』
「次声が聞こえたら絶対に喋らないこと!」
『 はい~… 』
5分もせずに戻って来た。
「あの~本物でした…」
「間違いなく私が回収した子供だったぞ」
『 あ、はい 』
松本慣れしていない者達は深く考えるのを辞めた。
「今から話す内容は意志を持ったマナから伝えられた情報です!
取り敢えず一通り話しますので最後まで聞いて下さい!」
この辺は前回の意志を持ったマナとの会話を
なぞることになるのでちょっと割愛。
「これまでは犠牲を払いながら魔王を討伐することで
マナの海に蓄積した色付きのマナを減少させ亀裂を閉じて来ました!
ですが逆だったんです! 理を正すためには亀裂が開いた状態を維持して
今よりも大量の色付きのマナでこちら側を満たす必要があります!」
『 (なるほど) 』
「そのために皆さんにやって貰いたいことが2つあります!
1つはダナブルから向かって来ているノアさんを急いで連れて来て下さい!
亀裂を開いた状態で維持できるのはノアさんだけです!
白い甲冑姿なので直ぐに分かると思います!」
『 (ほう) 』
「伝え忘れましたが絶対にノアさんを攻撃しないで下さい!
非常に危険です! くれぐれも慎重に接して下さい!
ノアさんはルーンマナ石とルーン魔増石を所持しています!
少しでも扱いを間違えばカード王国が吹き飛びます!」
『 えぇ… 』
まるでノア自身に難のある危険人物みたいな言い方だが、
動く核弾頭状態なので違ってはいない。
「もう1つのやって貰いたいことはノアさんが到着してからの話になります!
この作戦はこちら側だけでは達成できません!
亀裂の向こう側にいる彼の協力が必要になります!
ノアさんが到着して準備が整ったら彼に合図を送るために
魔王に存在するマナの海との接続点に何かしらで衝撃を加えて下さい!
接続点が見つからない場合は赤い光を探して下さい!
接続点の先に彼が待っていてくれるなら赤い光が見える筈です!」
『 (彼?) 』
「正直なところ作戦が成功するかどうかは賭けになります!
彼はかなり疲弊していて今この瞬間に消えてしまっても不思議ではありません!
本来なら存在し続けていること自体があり得ないことなんです!
そしてノアさんもまた普通ではあり得ない存在です!
いろいろな条件が重なって今があります!
信じて貰えないかもしれませんがこの条件が揃うまで4000年掛かりました!
4000年間希望が繋がれてきた結果なんです!
悔しいですが俺は作戦に参加できません! 俺の役割はここまでです!
実際に命を掛けるのは皆さんですから最終的な判断はお任せします!
でも最後に1つだけ! 意志を持ったマナと俺からお願いです!
どうか彼の力になって下さい! 以上です!」
1分ほどしてカルニの声が返って来た。
「マツモト君! その彼ってのは何者なの?」
「彼の名はサンジェルミ! 前回の魔王と戦った光の3勇者様の1人であり!
そして最後に残った賢者です!」




