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30話目【ウルダ祭 3 それぞれの想い】

一丸となり夫婦を見送る会場。

豪華な観覧席ではウルダ町長と来賓の貴族が話をしている。


「素晴らしき夫婦愛…すれ違いながらも互いを思う2人…胸に響きましたねぇ」

「はっはっは! 我が町の祭典を楽しんで頂き何よりです。

 宜しければ参加されてみてはいかがですか?」

「フフフ、デフラ町長ご冗談を。先程の試合以上に美しい結末は、私にはとてもとても…

 ですが折角の申し出、何か別な形で参加するとしましょう」


町長の提案を受け微笑む貴族。

その容姿は独特で怪しい色気が漂っている。

骨格は男性、美しい容姿、艶あるの肌に少し奇抜なメイク、

手入れの行き届いた爪にはマニュキュアが塗られており、男女の判別が難しい。

 




「さぁ! 続いての勝負は両者共に挑戦者となります! 1人の男性を巡っての女の対決!

 それでは両者、ステージへ!」


西側と東側から女性がステージに上がる、両者共フィンガーグローブを付けている。

何故か南側中央のステージ脇に華奢な男が立っている。


「両者助っ人はいないようです! 勝負、始めー!」


お互い手の届く距離で睨み合う2人。


「彼は私の物よ! 大人しく諦めなさいよ!」

「私の方が彼にふさわしいのよ! あんたこそ引っ込んでなさいよ!」

「調子こいてんじゃないわよ! オラーッ!」

「やってくれたわね! オラーッ!」

「フフ…僕を取り合って争うのは辞めておくれハニー達…そう、この僕をね!」


お互いの拳を皮切りにボカボカと殴り合う2人。

男は自分に酔いしれている。


「両者、足を止めてのインファイトー! 激しい攻防が続くー!」


女性達の激しい戦いを他所に観客席は男に対して引いていた。




「おいルドルフ、ちょっとあの男ぶん殴って来てくれよ…」

「なんで私なのよ、自分で行きなさいよミーシャ」

「だってよ…近寄りたくないだろ…あんなの」

「マツモト、ちょっと下で焼き芋買ってきてくれないか? 興味ないだろ、この試合…」

「喜んで行ってきます…お金下さい」

「マツモト、私の分もお願ーい。お金はミーシャが払うわ」

「すまんが俺の分も頼むわ、これ4人分な。芋食ったら殴りに行けよルドルフ」

「いやよ、絶対いや!」

「行ってきまーす」


焼き芋を買うため出店に向かう松本。

ステージ上で白熱する女の戦いは組技へと移行していた。


「ぬぐぐ…彼が愛してるって言ってくれたのは私よ!」

「ぬぅぅ…私だって愛してるって言われてるわよ!」

「フフ…そうだよ、僕は2人共愛してるのさ! 僕の愛は海よりも大きいからね!」


男の仕草にさらにひく観客達…若干苛立っている。






「美味しい焼き芋だよ~、甘いよ~、ホクホクだよ~」


広場の外周にある出店から香ばしく甘い匂いが漂っている。


「すみませーん、焼き芋4つ下さい。 できれば甘くて大きいヤツを」

「坊やお使いかい? ウチの芋は全部甘いから心配いらないよ! 大きいヤツを選んどいたからね!」

「ありがとうございます~」


焼き物入った紙袋を受け取った松本を、物陰から羨ましそうにミリーが見ている。



あれはカイの妹のミリーだな、何を見てるんだ? まだ警戒されているのか?

カイもラッテオもいないし、そっとしておいた方がいいか…



ジー…

立ち去ろうとする松本をミリーの視線が追う。

立ち止まった松本が焼き芋の入った紙袋をグルグルと回すと、視線もグルグルと回る。



これは、狙いは俺じゃなくて焼き芋だな…

まぁゴンタにお小遣い取られて、お菓子も買えないって言ってたしな。

可哀相だし、俺の芋を半分あげるか



「あのーミリー?」


ビクッ!?

ミリーが目を見開き驚いている。


「いや、そんなに驚かなくても…俺だよ、松本。さっき城壁の外で会ったでしょ?」

「…マツモト?」

「そうそう松本。城壁の外でゴンタが帰った後、カイとラッテオとミリーにパンあげたでしょ?」

「…パン …あ! …マツモト」



松本よりパンの人で覚えられてるな…

まぁどっちでもいいけどね…ポッポ村だと工場長か全裸マンだし…



「ミリー、カイとラッテオは?」

「…カイお兄ちゃんはあっち」


広場のから続く通路でカイが木剣を振っている。


「気合が入ってるね、カイ。もうすぐ試合なの?」

「マツモト? ミリーも一緒か。あと3試合後だよ」

「ラッテオは?」

「ラッテオはゴンタ様のところだよ、こっちにいたらイジメられるからね」

「なるほどね。 それより焼き芋食べない? 少しだけど」


大きな焼き芋を3つに分け、カイとミリーに配る。


「アヅヅヅヅ… 熱いから2人共気を付けて食べてね」

「さっきパンも貰ったのに…なんでこんなにしてくれるの? 今日初めて会ったのに」

「…お金持ち?」

「ははは、お金は無いよ。これが全財産、50シルバーくらいかな? 服も一番安い服だしね」


綺麗な貝殻の財布を見せる。

松本の衣服はウィンディ姉さんの強制的罪滅ぼし『粗悪な服セット』である。


「じゃあなおさらなんで? 僕達はお礼なんてできないよ?」

「深い意味はないよ、ただ気に入っただけさ。 芋あま~い」

「アツツ…芋あま~い! ミリー気を付けて食べるんだぞ。 気に入ったってなにを?」

「…熱いけどあま~い!」


久しぶりの焼き芋にミリー大満足!


「カイは自分達の状況を変えるために、ゴンタに立ち向かっただろう? それが気に入ったんだ」

「でも勝てるかわからないよ? ミリーも巻き込んじゃって…負けたら明日からパンを2個渡さないといけない」

「…カイお兄ちゃん、私も頑張るから一緒に頑張ろう」

「ミリー…そうだな、弱気になったら駄目だな! お兄ちゃんと一緒に頑張ろう!」



眩し! 頑張れ子供達! 己の力で道を示すのだ!

リスクを背負って進むしかない、その後は結果を受け止めるしかないのだ。

まぁ、これは大人の考え方だな…この子達はただただ必死なのだ。



「ラッテオが助っ人に来てくれるかもよ?」

「ははは、ラッテオは来ないよ! 怖がりだからね。

 それにこの町じゃゴンタ様に逆らったらイジメられるから、ラッテオじゃなくても来ないよ」

「そうか…もう少し俺の芋あげようか?」

「私のもあげる」


申し出を断り首を振るカイ。


「ありがとうミリー、マツモト。なんか元気が出たよ!」

「ふふ、それは焼き芋を食べたからさ」

「…そうかもしれない」

「それじゃ、俺は行くよ。お使いの途中だからね。頑張ってね応援してるよ!」

「ありがとう! 頑張るよ!」

「ありがとう」


手を振りカイとミリーと別れ、広場へと戻る。

角を曲がるとラッテオが待っていた。


「残念、焼き芋は売り切れなんだ」

「僕も食べたかったんだけどね、今度自分で買うことしたよ。決めたんだ」

「焼き芋は美味しいからねぇ、…買えそうかい?」

「わからない、多分買えないと思う」

「そうか…、その時は今度奢るよ」

「はは、一番大きいヤツを頼むよ」

「頑張ってね、応援してるよ!」


苦笑するラッテオの肩を叩き、酒場へと戻る。






「さぁさぁ! 両者息も上がり体力の限界も近そうだー! ステージから落下すると失格だぞー!」


南側ステージ端で女性2人は組み合っている、先に力尽きた方が落下しそうである。


「あんた…し、しぶと、過ぎるわよ…」

「あんたも…そろそろ限界でしょ…楽に、なりなさい、よ…」

「さぁ僕の胸に飛び込んでおいで! この僕の胸に!」


観客の額に血管が浮く。


「も…もう…」

「やった、か、勝った、たたたた…」


1人の女性が力尽き場外へ倒れ込む、すぐさま男が駆け寄り抱きかかえる。

もう1人はステージの端でふら付いている。


「ここで1人がリングアウトー! もう1人は耐えられるのかー?」

「あららららら…らぁぁぁ!」


もう1人の女性も場外に落ちる、すぐさま男が駆け寄り抱きかかえる。


「あーっと! もう1人も場外へ落下! リングアウトー! 決着つかず、引き分けです!」

「ふふ…僕を巡って争うのは辞めておくれ、綺麗な顔が台無しだよハニー達。そう、この僕をね!」


2人の女性を胸に抱き男が鼻高々に声を上げる、それを聞き終始無言だった観客も次々と声を上げる。


「ふざけんじゃねぇー! お前が優柔不断なのが原因だろうがー!」

「ノロケてんじゃないわよー!」

「愛する女達に戦わせて何様よ、この女ったらし!」

「あんたが戦いなさいよバカヤロー!」


男に対して罵声が飛び交う。


「ちょっと待ちな…」


見覚えのある禿げ頭がステージに芋を置く。


「なななんとー! ここで禁断の物言いだー! 決着後の物言いが通るかは観客次第!

 観客のみなさん、準備はいいですかー!」


観客が親指を立てた右手を前に出す。


「決着に納得し、物言いが認められない場合は親指を上に! 決着を不服とし、物言いを認めるなら親指を下に!

 判断はいかに! ギルティ? オア ノットギルティ?」


『『『ギルティー!』』』


満場一致で親指が下。決着に物言いが付いた。


「観客のみんな! 僕のハニー達はもう限界だ、この痛々しい姿を見てこれ以上戦えと言うのかい?

 この、僕のハニー達に!」


観客の額の血管がはち切れそうになっている。

俯く助っ人禿げが怒りに満ちた言葉を捻り出す。


「勘違いしちゃいけねぇな…俺が物言いを付けたのは、その娘達にじゃねぇ…」

「いったい何を言っているんだい?」


禿げの言葉を受け首を傾げる男


「ステージに上がりな兄ちゃん…人の心ってヤツを教えてやるよ‼」


顔を上げた助っ人禿げは憎悪に満ちていた。





「ただいま帰りましたー、ミーシャさん、これお釣りです」

「おぅ、ありがとな。 お?丁度食べごろだな」

「あら、いいじゃない! 齧り付ける温度ね…アヅヅヅ!」

「まだ中は熱いな、だか甘くて旨い!」


鳴り響く禿げコールと時より聞こえる情けない男の声、そして香ばしく甘い焼き芋の香。

祭りは続く。






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