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3話目【男達の昼下がり】

場所は変わって前山の家。


「いやーお互いトースターは持ってるけどやっぱり違うよなぁ」

「買おうと思えば買えるんだけど買い替える程じゃないのよねぇ

 アニメで見るタイプの憧れって感じ」


ウキウキで開封する松本と前山、

横には帰り道に購入した食パンとマーガリンが置かれている。


「うひょ~これが大人の力(5000円)で手に入れたトースターか!」

「俺このタイプのトースターで食パン焼くの子供の頃からの夢だったんだよねぇ」

「シャッ! ってなるんだよな? なるよなきっと?」

「そりゃなるだろ~、シャッ! ってなる形してるし」


2人はポップアップ式トースターという言葉を知らなかった。


「ん? このトースターピンク色だったわ、オジサンには似合わんな」

「食パンが焼けるなら何色でも構わん、大事なのは シャッ! だ」


箱の外観には緑色のトースターが描かれていたが実物はピンク色。

外装に可愛い天使が描かれており、パッケージと比べると角が丸いなど違いがあるが

特に問題はない。

2人が楽しみにしていたのは食パンの飛び出す際の『シャッ!』だった。


「このダイヤルが焼き時間か? 2分にセットして…前山、食パンくれ」

「もうセット済みだ、私は今マーガリンを開封している」


仕事のできる男である。



ジジジジジ…


「前山、皿どこにあったっけ?」

「右の上に無いか? ついでにスプーン持ってきてくれ、マーガリン塗る用」

「はいよー、…あったあった」

「松本ーもう焼けるぞー、シャッ!ってなるぞー、見逃しても知らんぞー」


ジジジジジ…


丸いガラス天板のテーブルを囲み、男達は座っていた。

お互い口を開かず、風の音すら煩わしく感じる、そんな重い空気が部屋を満たしていた。

腕を組み少し顔を逸らせ、下目でトースターを見つめる松本。

両肘を付き口前で指を組みながら、上目でトースターを見つめる前山。

姿勢こそ対照的な2人だが、その4つの眼は瞬きせずに見開かれていた…


ジジジジジ…


チンッ! シャッ!


「「 シャッ! 」」


軽快な機械音と共に張り詰めた空気が弾け、香ばしい香りが立ち込める。


「これが38年間の答えか…」

「あぁ…我遂に答えを得たり…」


叶えようと思えば叶う、そんな誰にでもある身近な葛藤。

38年の歳月を経て、男達はその答えを得たのだった。


「いや~思ったよりは飛ばなかったなぁ、まぁそりゃそうか、飛んだら危険だしな」

「お? へぇー食パンの表面に焼き跡で絵が描かれてる」

「ほんとだ、なんだろうこれ? ピースしながらウインクしている天使?」

「女の子じゃないか?」

「いやほら、頭の上に輪があるやん?」

「ほんとだ、まぁトースターの外観といい女の子向けの景品だったな」


マーガリン待ちの松本は食パンの焼き跡を観察していた。


「うひょ~サクサクゥ~」

「マーガリンうめぇぇ~罪深い味がする~」


焼きたての食パンで盛り上がるオジサン2人、

朝食みたいに昼下がりの宴である。


「ちょっとコーヒー淹れてくる、松本2枚目焼いといてくれ」

「はいよ~、俺のコーヒーも頼む、ついでに塩持って来てくれ、次は塩パンにするわ」


1枚目を食べ終え、2度目の『シャッ!』を体験するため食パンを入れる松本。

台所では前山がお湯を沸かしている。


ダイヤルを回した瞬間、トースターが光を放ち松本を包んだ。












あなたも『シャッ!』を体感してみては如何か?

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