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298話目【魔王討伐戦、開始】

時は少しだけ戻り、魔王討伐部隊が出発する前。


「現在、魔王が巨大なモギの形状となっているのは取り込んだ核の影響です、

 核となっているのは以前ウルダを襲った巨大モギの血、

 正確には解体時に流れ出た血が染み込んだ土ですが、

 その核を破壊することで元の状態に戻ると考えられます」

『 ふむふむ 』


机に広げられた紙を指差しながら図を用いてカルニが説明中、

話されている内容の重要性と描かれている絵の緩さに

天と地ほどの高低差があるが気にしてはいけない。


「次に元の状態の魔王についてですが、

 不安定な形状の内側に特殊な部位が存在しています、

 この部位は光魔法で全体を消滅させた際も残り続け、

 ケルシス様とシルトアさんのフレイムを打ち消すような反応を示しました、

 また、再生する際の起点となっていますので

 魔王を構成している膨大なマナの塊であると考えて間違いないでしょう、

 この魔王本来の核とも呼べる部位を破壊することで

 魔王を討伐することが出来る筈です」

『 ふむふむ 』

「この部位は極めて高濃度なマナですので迂闊に触れると危険です、

 武器にマナを纏わせれば別でしょうが物理的な攻撃は効果がありません、

 また、魔法による攻撃も打ち消されるため直接的な破壊は難しいと思われます」

『 う~ん… 』


一同が一斉に困った顔になった。


「一方で、魔王本来の核以外の部分に関してはフレイムで十分な効果が得られます、

 魔王はマナの集合体ですのでマナを全て消費させてしまえば存在出来ない筈です、

 再生した部分をその都度攻撃し、こちらのマナ消費を抑えつつ魔王のマナを削る、

 この作業を繰り返すことで魔王本来の核を間接的に破壊、

 最終的には魔王討伐が可能だと考えます」

『 ほう 』


一同がパッと顔を上げた。


「あくまでも現時点で得られている情報を元に立てた予測ですので、

 実際に上手くいくかは分かりません、魔王のマナ量が不明な点も不安要素です、

 ケルシス様のお話にあったように空にある謎の亀裂と繋がっていた場合は

 終わりの見えない消耗戦となります」

『 う~ん… 』

 

再び一同が困った顔になった。





そんな感じで浮き沈みの激しい会議で決まった作戦のざっくり概要は次の通り。


・第一段階としてモギ状態の魔王の核(モギの血)を破壊して弱体化させる。

・第二段階として元に戻った魔王に対しマナを消費させる消耗戦を仕掛ける。


魔法職(ルドルフ、タレンギ、ケルシス、シルトア)がメイン戦力として攻撃に集中、

近接職(ゲルツ、ノルドヴェル、マダラ)は護衛と魔法によるサブ戦力を担当、

バトーは最前線での盾役、カルニは後方で作戦指揮と強化魔法による援護を担当、

光魔法の上級が扱えるミーシャは最後尾で戦闘エリアの確保とカルニの護衛を担当。


同行するハイエルフ2人は魔王へ攻撃は極力行わず、

負傷者の救出や飛行する敵が現れた際の対処、

ウルダへ戻りマナポーションを補充するなど

主力達が魔王に集中できるように裏方作業を担当。

 

ミーシャは回復魔法のエキスパートでもあるため、

当人達では時間が掛かる傷を負った場合の衛生兵役、

魔法職並みにマナ保有量が多いのでマナポーションが切れた際のマナ補充役、

バトーが負傷した際の代役も兼任。


ミーシャが盾役になった際は光魔法担当がいなくなるのでマダラが穴を埋める予定、

もともと少人数の精鋭部隊なのでカツカツフォーメーション、

流石に光筋教団員を同行させる訳にはいかないので仕方がない。


「これカルニの奢りってことでいいのよね?」

「ちょっとルドルフ…こんな時にお金なんて取るわけないでしょ、

 馬鹿なこと言ってないで早く食べて」

「あまり沢山食べると動けなくなるのではないかミーシャ?」

「だははは、長い戦いになるから食わねぇ方が動けなくなるぜ」

「そういうマダラさんは相変わらず肉ばかり食べてますね」

「(う~む、流石に酒は無いか…)」

「久しぶりのハムバターサンドはどうなのノル?」

「あら、私昨日食べたわよ」


やることは決まったのでパパっと腹ごしらえ。


「ほんのり塩味が芋の甘味を引き立ている、焼き芋も旨かったがこれもなかなか」

「僕にも少し下さい」

「仕方ないヤツだな、少しだけだぞ」


なお、ケルシスは塩茹した芋である。






こうして297話目【英雄の素質】の冒頭に繋がることとなるのだが、

ここからは魔王討伐部隊がハイエルフ便で上空へと消えた理由と

ゲルツ将軍が案じていた作戦の詳細を説明。



モギ型魔王は元の魔王に比べて攻撃性、攻撃範囲、移動速度が著しく向上しているため、

光魔法で魔族を掻き分けながら近づこうものなら、

先手を打たれてガッツリと痛手を負うことになる。


ただでさえ部の悪い戦いなのに初手から躓くわけにはいかないということで、

こちらが先手を打ち、尚且つ安全に接近、そして効率よく核を破壊する、

そんな夢のようなご都合主義全開の方法を無理やり実現しようした結果…


「皆準備いいわね~? 先行くからちゃんと突っ込みなさいよ~」

『 … 』

「ちょっと聞いてんの? お~い!」

『 … 』

「そんなんで魔王倒せると思ってんの? おらぁ! 気合入れなさいよ!」


宙に浮いた氷の箱に死んだ目で座る一同に向け、

ハイエルフ便に吊られたルドルフが激を飛ばすという、

なんとも奇妙な光景が誕生することとなった。


まぁ、正しくは浮いてる様に見えているだけで、

強化魔法で作られた透明な板の上に氷の箱が乗っているのだが、

黒い雲に手が届きそうなくらい高所なので

強化魔法を認識出来ない一同からすれば生きた心地はしない。


「(提案しなきゃ良かった…)」


なお、唯一強化魔法が認識できるカルニは

同乗者の命と作戦の成否、しいては世界の行く末という、

責任を重量魔法で加速させメルトダウン寸前にしたみたいな重圧が

のし掛かっているため生きた心地がしないらしい。


「おいシルトア、あんなので本当に大丈夫なのか?」

「一応カルニギルド長が魔法で強化してるらしいので大丈夫な筈ですけど」

「軽い衝撃で砕けそうだぞ、もっと氷を厚くした方がいいのでないか?」

「あまり重くすると勢いがつき過ぎるとかで…」

「いやしかし…私なら絶対アレには乗らん」

「静かにして下さいケルシス様…皆に聞こえちゃいますから…」

『 (怖い…) 』


本当に強化されてるか分からないのも恐怖ポイントである。






因みに、この氷の棺桶もとい、氷の箱は横2列席の縦長タイプ。


「(本当に大丈夫なのだろか…)」

「(ぁ~…空気が薄い気がする…)」


席順は1列目にバトーとカルニ。


「(こんなに高い場所だとは思わなかったわ…)」

「(お尻冷えちゃうわね…)」


2列目にノルドヴェルと制作者のタレンギ。


「(寒ぃな…)」

「(恐ろしい…)」


3列目にミーシャと巨体に押されて斜めになったマダラ。


「(う~む…やはり酒を貰うべきだったか…)」


4列目に不安そうな顔で座るゲルツ将軍といった順である。




ではこれでどうやって先制攻撃、安全な接近、効率良い核破壊を

実現するのかというと次のとおりである。


・ハイエルフ便で吊られたルドルフが上空から奇襲を仕掛け上級魔法を使用、

 魔王の大部分を消滅させ、同時に核(モギの血)の破壊も狙う。

・その隙に上級魔法の範囲外で待機している地上班が

 氷の箱で強化魔法で作られたスロープを滑り降り戦場へ乱入、

 合流した後に本格的な魔王討伐開始。


つまりは超フルパワー型強襲合流作戦である。


ただまぁ、流石にそんなに都合よく全ての要望が叶うなんてことはないわけで、

ルドルフが上級魔法を使用するには射程圏内まで近付く必要があり、

フルパワーにするためには座標を定めてから相応の溜めが必要となる。


ほぼ確実に気付かれるため実際の先手は魔王側、

てなわけでルドルフが上級魔法を溜めてる間は

ケルシスとシルトアが魔王の対空攻撃である黒い刃を防ぐ手筈となっている。


危険ではあるが地上を薙ぎ払う広範囲攻撃に備えなくて済むだけマシ、

なにより味方を巻き込むため使い処が難しい上級魔法を

初手に持ってくるのはいろいろと利点が大きい。


但し、初手なら見方が巻き込まないと言ったがそれは嘘である、

今回はハイエルフ便による高速離脱前提なので、

普段は掛けているリミッターを解除した正真正銘のフルパワー版、

巨大モギ戦の時より苛烈になるので逃げ遅れた場合は

ルドルフ達が巻き込まれて大変なことになる。




そして安全な接近に関してもそんなに生易しい物ではない。


上級魔法を確認後に氷の箱が乗っている強化魔法の床を解除し、

その下に設置されているスロープ状のコースを滑り降りるのだが、

ブレーキが存在しないという致命的な問題を抱えている。


しかもコースは魔王に察知されないために途中までしか用意されていないので、

高速移動中のカルニが設置をミスすると全員仲良く地面にダイブすることになる。


なお、コースは床の左右に壁があるミニ四駆コースタイプ、

カーブなんて危険ゾーンはないのでマグナムトル〇ードする心配は多分ない。


上から見ると直線だが横から見ると曲線、

最初は急だが降りるにつれて緩やかに角度を変え、

徐々に地面と平行に近づき、最後は少し角度を上げて減速、

そのままコースを飛び出して氷の箱から飛び降りた一同を

タレンギが水のクッションでキャッチする予定、

異世界版ジェットコースターと考えると分かり易い。


コースの最後の部分に水を溜めて緩衝材にする手もあるが、

角度が急すぎると突っ込んだ衝撃が強すぎてクラッシュするし、

浅すぎるとハイドロプレーニング現象みたいに表面を滑って止まれない、

調整が難しいのでタレンギクッションが採用された。


安全とは言い難いが魔王の攻撃を受けながら

チマチマ接近するよりはマシなので贅沢を言ってはいけない。


「(う~む…)」


ゲルツ将軍が案じていたのは主にこの辺りである。







「ちょとシルトア、頭が2つあるじゃない、何処がモギなのよ」

「知りませんよ~文句は魔王に言って下さい」

「いやアンタがモギって言ったんでしょ、左の後ろ足もなんかグニャグニャだし」

「最初は頭自体なかったんです~じゃ聞きますけど他になんて言えば良いんですか?」

「え~…モギっぽいヤツ」

「…同じじゃないですか」

「違うわよ! 私のはっぽいヤツだから!」

「えぇ…同じだと思いますけど…」

「2人共集中しろ、そろそろ魔王の攻撃範囲内だぞ」

「えぇ!? もう?」

「化物だと言っただろ、それよりルドルフ、何処まで近付くか指示を出せ」

「最低でもあと200メートルは近付きたいわ、欲を言えば300だけど」

「なら300だ、やれるなシルトア」

「それやれないって選択肢はありなんですか?」

「無いな、やれ」

「はい…ルドルフさん、魔王の攻撃を防ぎ続けるのは精神的にも負担が大きいです、

 何度も出来ることじゃないですから1回で決めて下さい」

「っは、言われなくても今までで一番デカいの食らわせてやるわよ」

「では始めるぞ、お前達! 王である私を信じてついて来い!」

「「 はい国王! 」」


ケルシスが先行しルドルフ突貫。


「攻撃速度は向こうが上だ! 手数で押し返せ!」

「下手に避けられると当たります、僕達の後ろから出ない下さい!」


1発でも相殺し損ねると即死という

精神をゴリゴリに削られる防衛戦を繰り広げること約3分。


「待たせたわね、いつでもいけるわ!」

「よし! ルドルフが攻撃した後に全力で離脱! 魔王の攻撃に当たるなよ!」

「エクス…プロォォォォド!」


魔王の頭上に火球が出現し収縮した後に膨張、

青白い厄災となって辺り一面を焼き払った。


『 のわぁぁぁ!? 』


全力で離脱した一同は爆風に吹き飛ばされグルングルン。


『 ほぁぁぁぁ!? 』


かと思ったら爆心地へと流れ込む空気に引き戻され、

間髪入れずにグルングルン、揉みくちゃにされている。


一方、フルパワーエクスプロードを受けた魔王は

魔法を相殺する本来の核に遮られた部分以外は消滅、

9割以上の体積を失い沈黙した。







「行きます!」

『 はい~…ぃぃぃいい!? 』


そして異世界ジェットコースター発進、

見えないスロープを滑走しながら青い炎が燻る目的地へと突き進んで行く。


『 あばばばば… 』


やや角度が急過ぎたらしく降りるというより落下に近い。



「む…み、皆聞け! 魔王が再生を始めた!」

「マジかよ早ぇな!」

「核は健在ということか、マダラよ、カルニギルド長に詳しい状況を伝えよ」

「シルトア達が再生を阻止しようとしているが徐々に大きくなっている!

 攻撃を受けながらでは手数が足りぬようだ!」

「い、今を逃せば更に合流が難しくなります!

 攻撃を受ける可能性はありますが信じてこのまま進みましょってわぁぁぁ!?」

『 !? 』

「だ、大丈夫です! 気にしないで下さい!」

『 (怖い…) 』

「まぁ、どっちにしろ止まれないしね」

「あら、妙に落ち着いてるわねターレ」

「重要な仕事があるもの、冷静じゃなきゃ魔法が乱れちゃうわ」

「らしいぞ、カルニも見習ったらどうだ?」

「気が散るから黙ってて! バトーは前見て攻撃に備える!」

「お、おう…」


※カルニは途切れたコースの制作が始まったのでとても集中しています。


『 ぉぉぉお!? 』


地面と平行に近づくと魔族を跳ね飛ばしながら直進。





「国王! 来ました!」

「何としても押さえ込め! 広範囲攻撃だけはせるな!」

「ルドルフさんもっと頑張って下さい!」

「やってるでしょうが! マナ切れ寸前から回復したばかりなのよこっちは!」


ケルシスとシルトアが魔王の攻撃を防いでいるので攻撃役はルドルフ1人、

某サイヤ人王子のグミ撃ち並みにフレイムを乱発しているが

流石に1馬力では力不足、というよりカバーできない範囲があり、

魔王は既に半分くらいの大きさまで再生している。


「さっきのが直撃しといて何で核が残ってんのよ! 

 ミーシャじゃあるまいしふざけんじゃ無いっての!」

「でもなんか形が変ですから少しは壊せたんじゃないですか?」

「全体に散らばっていたのだろう! 合流してから残りを破壊すればいい!

 そのためにも今は再生させるな!」

「あ~もう! フレイムじゃ間に合わない! もう1発エクスプロードを…」

『 やめろ!(て!) 』


流石にそれは危険が過ぎるというもの。





「今生えたのは多分前脚だな」

「タレンギさんそろそろいけますか?」

「いつでもどうぞカルニギルド長」

「バトー一時的に無防備になるから…」

「分かってるさ、信じてくれ」

「皆さん準備して下さい! 跳ねさせます!」

『 はいぃぃ 』


角度が上がり少し減速した後に氷の箱射出。


『 とう! 』


からの一同離脱。


『 うぉっぷ… 』


宙に浮いた水の塊を経由して一同が決戦の地に降り立つと、

黒い衝撃波が壁となって押し寄せて来た。


『 !? 』

「おう!」


一早くバトーが前に飛び出し光の防護壁を展開。


「ぐっ…ぉ…」


衝突と同時に両足が地面めり込み2本の線を引きながら後退。


「んん…っ……はぁ!」


盾を持った左手に右手を重ね気合と共に押し返しすと衝撃波の壁に穴が開いた。





「す、凄い!」

「本当にアレを止めるとはな」

「バトーなら当然でしょ、んじゃ私は予定通り下に行くから援護宜しく~」


バトーが消滅させたのは円状に広がる衝撃波の一部なので

上空から見ると欠けたドーナツみたいになっている、

残っている衝撃波は現在も魔王自身と周囲の魔族が巻き込みながら拡大中である。


「ん!? おいまた脚を上げようとしてないか?」

「ルドルフさんアレ止めて下さい!」

「そんなもんバトーに任せとけば大丈夫だって」

「連続は流石にマズいですよ!」

「国王! 遠くに飛行する魔族を確認! 大型の鳥のような魔族もいます!」

「ルドルフさんを抱えたままでは対応が難しいかと!」

「くそっ、こんな時に…私が相手をする! 

 シルトアは部下達を援護してルドルフを合流させろ!」

「りょ、了解です! 一旦魔王の攻撃範囲から出ます! 

 このまま僕を盾にしながら退いて下さい!」

「「 はい! 」」

  

ケルシスは上昇して戦線から緊急離脱、

シルトアとハイエルフ便は魔王と距離を放してから降下。





「!もう1撃来るぞ! 全員固まれ!」

「させはせぬ! ぬぅぅああ!」


バトーの前に出たゲルツが振りかぶった大槌を叩きつけると

雷撃が発生し生き物のように唸りながら魔王の左前脚から胴体を貫通、

一呼吸遅れて風穴に帯電していた雷撃が拡散し巨体が2つに割れた。


「前脚は削いだぞ! 攻め立てよ!」

「タレンギさんを守りつつ手の空いた方はフレイムで攻撃! 

 どんな反撃があるか分かりません! 絶対にバトーより前には出ないで!」

『 了解! 』


バトーを盾にしてタレンギ、ノルドヴェル、マダラが攻撃開始。


「今のが雷の魔集石の本当の威力ってこと?

 事前に確認した時とはまるで別物じゃない」

「来たかルドルフ、奇跡の結晶だけではこうはならぬ、

 タルタ王の卓越した技術と我の鍛え抜いた肉体があってこそだ、

 威力だけならお主の上級魔法と良い勝負をするであろう」

「残念だけど私のエクスプロードの方が上ね、魔法の中で一番威力が出るのは火魔法なのよ」

「ふん、相手に花を持たせることを知らぬようだな、だがそれで良い、

 火の精霊様に認められし者に敗北は許されぬ」

「なら魔王にも勝つしかないわね、周りを巻き込み難いから

 ゲルツ将軍の攻撃はかなり有効よ、あとどれだけ使える?」

「ドワーフは人間よりもマナ量が少なくてな、

 既にかなりのマナを消費しておる、回復せねば2激目はない」

「マナポーション1個で1発なら切り札として十分、聞いてたでしょ~カルニ」

「えぇ、ゲルツ将軍はマナを回復して周囲の警戒をお願いします、

 ルドルフはタレンギさんと一緒にフレイムで攻撃、

 一番得意魔法なんだからきっちり仕事してよ」

「私はずっと仕事しっぱなしだっての! …でもまぁ、ようやく地に足付けて叩き込めるわ、

 おらバトー! 私が全力を出せるようにしっかり守んなさいよ!」

「おう! 任せろ!」


21時48分、魔族の襲撃が開始されてから約4時間弱、

なんとか予定通り合流出来たので本格的な魔王討伐戦が開始された。





「人間や亜人種の魔族を見ていつかは現れると思っていたが…

 鳥ともとれぬ化物と手を組みおって、それが誇り高きエルフの末路か!

 本来であれば部下達に任せるところだが、

 エルフを束ねる王として私が直々に手を下してやる!」


ケルシスはハイエルフっぽい魔族&クーコックっぽい大型魔族と場外乱闘開始。





「(あ~暇だぜ~…)


一方、一番後方で戦闘エリアを確保しているミーシャは、

上腕二頭筋を光らせながら大斧(月隈の爪)で首をトントン中。



「(もう少し近付けば魔族いねぇんだけどなぁ…)」


魔王の周囲に存在する空白地帯で戦い続けるのは流石に危険すぎるので却下である。









同時刻、ダナブルにあるシード施設の最下層、

守り人の部屋と箱舟があるフロアでは。


「だいぶ下がって来たがまだ上よりは高いな、

 一定以上の濃度を越えない限り魔族にはならないらしいが…

 いや、奴等の元となるマナは目に見えない、油断すべきではない、

 昇降機の搬入扉の隙間を塞ぎ終えたら念のため光魔法で…」


守り人の部屋の前でマナ測定器を握りしめたリンデルがブツブツ言っている。


「主任、通路内の魔族は全部倒したっぽいっす」

「…ぽい…だぁ? なに曖昧なこと言ってんだこらぁ!」

「ひぇ!?」


血走ったバキバキの目で壁ドンされルーベンが小さくなった。


「不確かな報告、気の抜けた確認、その油断が! たった1人の慢心がぁ!

 箱船を危険に晒すと思えぇぇ…」

「は、はひ…すみませんっす…」

「もう1度上から下まで確認! マナ濃度の測定も忘れるなぁぁ!」

「は、はいっすぅぅ!」


ガタガタ震えるルーベンは階段側へと走っていった。


「こら~あんまり息をするんじゃない! 

 全ての通気口を塞いでるから空気は有限なんだぞ~!」

「はいっす~…(んな無茶な…)」


とんでもない要求をしている。


「終わりましたリンデル主任、はい、確認をお願いします」

「ふぅ~…了解ぃ…」


覇気を纏ったリンデルはハムレツが出てきたシャワー室へと移動、

隅々まで確認しマナ濃度を測定すると両手で大きな〇を出した。


「取り敢えずは良し」

「(怖い…)」


口元は笑っているが目がバキバキなので余計に不気味である。




何故リンデルがバキバキなのかというと、

今から箱舟の中身が無事か確認しなければならないからである。


そんなものいつも通りパパっと開けてサクッと確認すればいいじゃない、

と思うかもしれないがそんなに簡単な話ではない。


現在、ダナブルは魔族の襲撃されている最中であり、

シード計画施設内も例外なくその影響下、

つまり大型魔族の発生を警戒しなければならない状況、

ダナブル内で最も大型魔族の核になりやすい物が集まっているのは集団墓地、

そして2番目は様々な品が収められている箱舟である。


箱舟の中で大型魔族がフィーバーしてしまうと

魔王に滅ぼされた際に生き残った人達へ託さなければならない品々が破壊され、

文明復興への希望が潰えることになってしまう。


前身の組織が長年かけて収取した種も、現組織が収集した歴史を伝える遺物も、

技術伝承のために記録した映像も、全ての労力と時間が水の泡となり、

シード計画自体の存在意義が失われる一大事。


だが幸いなことに魔族の襲撃が開始される前に

ノアが魔族の襲撃の原理を考察したことで1つの仮説が浮上した。



「色のついたマナ(魔族の元となるマナ)を侵入させなければ

 魔族や大型魔族の発生を防げるのでは?」



てなわけ箱舟は外部との繋がりを完全に遮断、

箱舟のあるフロアは通気口を全て封鎖する処置がとられ、

更に各班の部屋や食堂があるフロアは通気口を種博物館の出入口のみに制限中。



マナの海の底から溢れた色のついたマナが魔族となるなら、

魔族未満の状態のマナにも光魔法の効果がある筈、

ということで唯一の通気口(出入口)に光魔法(シード計画職員)を

配置することで魔族と色のついたマナの侵入を防いでいる。


施設内で活動している職員達が酸欠になるとマズいので

施設の奥に大型扇風機みたいな魔道設備を設置し、

種博物館の外まで排気管を伸ばし空気を循環中。


そのため種博物館の奥にある秘密の地下施設への扉が解放されてしまっているが

外は大変な騒ぎとなっているので職員以外が侵入して来ることは無さそうである。



この試みは奇しくもウルダの地下避難所で実行されている方法と酷似しており、

実際に目に見えて成果が出ているので恐らく正解だと思われる。


念のため箱舟の様子を確認するために、

守り人の改造で手が離せないカプアやクルートンの代わりに

何でも屋のリンデルとルーベンが駆り出されたのだが、

いざ下のフロアに降りてみると魔族が大量に湧いていたため絶句。


「駆逐してやる!! ここから…1匹残らず!!」


エレン・イ○ーガーみたいな言葉を残して戻ったリンデルは

戦闘要員と雑務要員を招集し再度突撃、

魔族を排除して侵入経路を調査中というわけである。


万が一にでも魔族の元となるマナを箱舟に入れてしまうと

大型魔族が湧きかねないのでそりゃリンデルもバキバキになるというもの。



「フシュ~…」

「(この人たぶんダリアより強い…)」

「(武器を使わないとは村渡むらわたりみたいな人だな…)」


なお、ストック、ダリア、ハムレツと共に

戦闘要員で呼ばれた武闘派ロダリッテは手刀で魔族を制圧したそうな。


※『村渡むらわたり』は賢者の末裔達の呼び方でガチムチカンガリュウのこと。


魔族の侵入経路と思われる昇降機の搬入扉の隙間を粘土みたいなヤツで目張して、

マナ濃度を確認、念のため隅々までストックの光魔法を照射、

更にマナ濃度を確認してようやく箱舟に着手することになった。


「何かが動くような音はしないな…」


トナツから借りてきた聴診器で内部の音を確認中。


「よし、全員整列! 今から行うことをもう1度説明するぞ!」

『 はい~ 』

「扉を開けたら全員急いで中に入る!」

『 はい~ 』

「中に入った後は直ぐに扉を閉めてマナの侵入を最小限に!」

「 はい~ 』

「魔族がいたらストックさん、ダリアさん、ハムレツさん、ロダリッテが排除!

 私、ルーベン、アンカーさんマナ濃度測定! 1匹たりとも魔族を許すな!」

『 はい~ 』

「あ、主任!」

「どうしたぁルーベン!」

「こんなところにブリリ虫が」

「…、可哀想だから捕まえておいて後で逃がしてあげなさい」

「でも畑を荒らす害虫っすよ?」

「絶滅するとそれはそれで困るから、但し! 箱舟中に入れるのは駄目ぇ!」

「了解っす!」


芋農家のハルカなら悪・即・斬である。


「よし! 全てにおいて異常なし! 全員退出!」

『 はい~ 』


こうして箱舟の安全は守られた。



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