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295話目【帰還】

「た、大変なことになってしまいましたぞ…」

「はぁはぁ、先日の襲撃よりもかなり激しいんだな…

 戦闘音が聞こえるから既に何処で大型魔族が沸いてるんだな…」

「多くの村が魔族によって壊滅させられたと聞き及んでおりましたが…、

 これを光魔法無しで乗り越えるのは不可能であります…」


ギルドの入り口で闇を退ける光に照らされながら

ラストリベリオンの3人が絶望的な顔をしている。


空に黒い雲が出現してから約1時間、

バトーがギルドに到着したのが約5分前、

その僅かな時間の間にウルダは魔族の波に飲まれ

光魔法無しでの行動は困難となっていた。


太陽が遮られ薄暗くなった町の中では

戦闘中や移動中を除き主に2つの場所で光が確認できる。


1つは冒険者が守りを固めている避難所の入り口、

もう1つは衛兵が監視を続ける城壁の上、

何れも非戦闘員である光筋教団員の協力を得て、

安全地帯を確保しつつ各々の役割を遂行している。




「はぁはぁ、バトー氏と一緒だった人達が無事に避難できたか心配なんだな」

「ア、アクラス氏が共に向かわれからきっと大丈夫ですぞ」

「その通りであります! アクラス氏が戻るまで

 ここは責任を持って小生達が死守するであります!」

「「「 我ら生まれた日は違えども 死す時は同じ日同じ時を願わん! 」」」


杖を掲げて気合を入れる3人だが

現在進行形で魔族の侵入を防いでいるのは

後ろでバックポーズを決めている光筋教団のマッチョである。


「おふっ!? 痛いんだな…」


影から湧いた魔族に腹をチクッとされグラハムが前屈みになった。


「ギ、ギルバート氏、援護を」

「任せるであります、この!」


杖で叩くと霧散した。


「だ、大丈夫ですかなグラハム氏?」

「はぁはぁ、大丈夫なんだな、傷は浅いんだな」

「つ、追撃があるかもしれませんからな、

 ギルバート氏は油断せずにそのまま頼みますぞ」

「了解であります、大型魔族は無理でありますが、

 普通の魔族であれば日陰者の小生でも倒せるであります」


杖を振りかぶったまま次に湧いて来る魔族を警戒するギルバート。


「…」

「はぁはぁ、もう回復したから大丈夫なんだな」

「い、意外と出ないものですな…」

「そうでありますね…」


毎回湧くとは限らないらしい、だとしても油断は大敵である。







そしてギルドの奥にある応接室。


「喜べ皆、我々の盾が無事に戻ったぞ」

「っち…こんのぉ大馬鹿がぁぁ!」

『 !? 』


マダラと共に現れたバトーを見るやいなや、

椅子にふんぞり返っていたルドルフが立ち上り杖で殴りかかった。


「っ…」

「避けなかったってことは少しは反省してるみたいね」

「おいやり過ぎだぜルドルフ、血が出てんじゃねぇか」

「黙ってなさいミーシャ! 止めなかったアンタも同罪なのよ!」

「お、おう…」


杖を向けられてミーシャが顔を背けた。


「バトー、私は外へは絶対に行くなと言ったわよね、

 なのにアンタは忠告を無視して…もう少しで最悪の事態になるとこだったわ!

 盾を置いていけば自分が戻らなくても誰かが代わりを務めてくれるとでも思ったの?

 甘えんじゃないわよ! 全然自覚が足りてないじゃない!」

「もうやめてルドルフ、済んだことに拘ってる場合じゃない、

 既に魔族の襲撃は始まってるのよ」

「カルニが言わないから私が代わりに言ってやってるんでしょうが!

 よく聞きなさいバトー! これはチーム戦なの! 身勝手な行動はチームを危険に晒す!

 失敗すれば私達が死ぬだけじゃない! 世界が滅ぶのよ!」   

「そこまでだ、カルニギルド長はやめろと言った、

 纏め役の指示に従えないなら君もバトー君と同じだぞ」

「ぬがぁぁ! 気安く触るんじゃないわよ!」

「(火に油だったか…)」


肩に置いた手を振り払われてマダラ耳と尾が垂れた。


「いい加減に落ち着いたらどうなのルドルフ? 

 そんなに怒鳴られたら耳が痛くなっちゃうわ」

「ターレの言う通りよ~無事に戻って来たんだからいいじゃない、

 それともシルトアとケルシス様が戻って来た時も同じことするつもり?」

「2人は偵察、個人的な我儘とは違うでしょ」

「今この瞬間、この場にいないなら同じよ、

 襲撃が始まってどれだけ時間が経ってると思ってるの?」

「そうそう、その辺を偵察してたなら戻らないのは変だわ、

 かなり遠くまで行ってるか、作戦を後回しにして勝手なことをしてるか、

 どっちかしらね~? ま、あの2人に限ってやられたなんてことはないでしょうけど」

「(お2人は落ち着き過ぎでは…)」


なんて言いながら化粧を直すタレンギとノルドヴェルにカルニが目を細めている。


「例の子供は見つかったのかバトー?」

「あぁ、無事に連れ帰った、すまないミーシャ…」

「おん? 何がよ?」

「何でミーシャだけなのよ、謝るなら皆にでしょ」

「俺はマツモトを護れなかった…」

「は?」

「おい、いきなり変なこと言うなよ なんかオメェさっきから暗ぇし…」

「魔族に追われていたことは先の報告で聞いておる、

 先日とは比べ物にならぬ程激しい襲撃、マナは満ち空は闇に覆われた、

 これでおらぬと考えるのは無理があるであろう、

 バトーよ、魔王と遭遇したか?」


ゲルツ将軍の質問により一同の視線がバトーに集中した。


「魔王かと問われれば疑問が残りますが、それに近い脅威と対峙しました」

『 !? 』

「何でそれを先に言わないのよ!」

「静まれルドルフ! お主が感情に任せ声を荒げていたからであろう」

「ぅ…」

「とにかく座ってバトー、何があったのか詳しく教えて欲しい、

 急いでルート伯爵に情報を共有しないと」

「その必要はない、さっきアクラスに説明して向かって貰った」

「そう、助かるわ、それならこっちに集中できる」


カルニに促され腰を下ろしたバトーは草原での出来事を語り始めた。







そして暫くの後、

北から時計回りに数えて5番目となる南側の避難所では。


「魔族の襲撃が始まっています! 絶対に外へは出ないで下さい!」

「出入り口と換気口からの侵入を防がなければなりません!

 光魔法を扱える方はご協力をお願いします!」

「何が大型魔族の核となるかは分かりません! 

 持ち物に異変を感じた場合は直ぐに破壊して下さい!」

「思い入れがあるものだとは思いますがご協力をお願いします!

 全員の安全のためです! 繰り返しますが

 持ち物に異変を感じたら直ぐに破壊して下さい!

 衛兵や冒険者を呼んでいては間に合わない可能性があります!

 1人1人が責任を持って対応をお願いします!」


衛兵達の呼びかけにより避難所内の緊張が高まる中。


「ずびびぐぇ…無事で良がっだぁぁぁ…ぐぇぐぇ…」

「ミリィィ…ぐぇぐぇ…私の可愛いミリィィ…ぐぇずび~…」

「ぐすっ…良かった…ミリーが生きてて…ぐすっ…」

「…」


無事に送り届けられたミリーはズビズビの家族と再会を果たしていた。


「へへ、カイのヤツ泣いてやんの」

「いいじゃん泣いたって、ぐす…ヤバい俺も泣きそう」


蚊帳の外で温かく見守っているハイモとシメジも涙ぐんでいる。





バトーと入れ替わりで馬車を任されたアクラスは

迫る魔族から逃れるように大通りを北へと駆け上がり、

中央広場沿いの建物を利用して作られた指令所直通経路へと侵入、

伝令用のポニコーン待機場で下車し、ルート伯爵とデフラ町長に報告、

ミリーとモジャヨはそれぞれの避難所へと案内されたという流れである。


モジャヨは衛兵によって案内されたが、

ミリーは指令所に居合わせたトネルによって案内される形となった。



「本当に良かった、今だから言うけど

 笛が鳴って避難所に連れてこられた時はもう駄目だと思ってたんだ」

「おいラッテオ、…実は俺も」

「俺も俺も、っていうか皆考えてたでしょ~ぐす…」

「俺は全然考えなかったぜ、マツモトに頼んだなら見つかるに決まってるからな」


ラッテオ、ハイモ、シメジの横でゴンタが胸を張っている。


「何で一番最後に来たゴンタが偉そうにしてんだよ」

「そうそう、俺達ミリーのことマジで心配してたし、

 いろんな場所を探しまくって滅茶苦茶頑張ってたんですけど~」

「うるせぇ! トネルが来るのが遅かったんだから仕方ねぇだろ!」

「人のせいにしてんじゃねぇよ、ゴンタの足が遅かっただけだろ」

「っていうかマツモトに頼んだのだって俺達なんですけど~」

「悪かったな足が遅くて、俺だって間に合ってたら頼んでたっての、

 でもよ、ミリーを見つけたのはマツモトだろ?

 お前等も頑張ったかもしれねぇけど最後はマツモトだよな」

「あん? やんのかゴンタ?」

「俺達は何もしてないのと同じって言いたいわけ? はぁ~…ちょととさ~…」

「おん?」

「おんおん?」

「お~ん?」

「ちょ、ちょと3人共落ち着いて…(えぇ…喧嘩しようとしてるの…)」


ラッテオが困惑しながらも場を収めようとしている。


「そ、そうだトネル君、マツモト君は? 僕お礼が言いたいんだけど」

「確かに、ハイモ、ゴンタいいよね?」

「あぁ、くだらねぇことしてる場合じゃねぇしな」

「おいトネル、なんでマツモトいねぇんだ? 俺も久しぶりに会いてぇよ」

「…ぁ、…」


口にしかけた言葉を飲み込んだトネルは眉を潜めて下を向いた。


「トネル君?」

「どうしたトネル?」

「もしかしてウンコ我慢してんのか?」

「マジ? 俺達に気を使わないで早いとこ行った方がいいって」

「お気遣いは感謝しますがウンコではありません、マ…マツモト君は…」

「マツモトは?」

「あ~マツモトがウンコに行ってんのか」

「いえ、そうではなくて…、……」

「トネル、マツモト君は先に指定の避難場所に行ったんでしょ?」

「そ、そうでした、すみません皆さん直ぐに思い出せなくて」


丸みを帯びた女性が肩を叩くとハッとしたトネルはぎこちない笑顔を見せた。


「おいシメジ、誰だこの人?」

「トネルとレイルの母ちゃんだよ、ゴンタ会ったことないの?」

「ねぇ、家とか行ったことねぇし」

「俺も初めてだな、っていかなんでシメジは知ってんだよ」

「俺は学校でたまたまバッタリ、父ちゃんも見たことあるよ~」

「「 へ~ 」」

「(なんかフワフワした感じの人だなぁ)」


トネルとレイルの両親はルート・ニーナ伯爵夫人とルート・キャロル伯爵、

家の方針で身分を隠して生活する子供達の前に

ウルダで最も有名な夫婦が堂々と現れる筈がないわけで、

この女性はルート家に仕える使用人である。


彼女の名はチャチャピヨ、庶民生活中のお母さん役、兼、サポート役、

丸みを帯びた緩い空気を纏っているが

伯爵の実子を任されるだけあって相当な実力者、

全ての中級魔法を会得しており冒険者換算だとAランクの上澄みに位置する、

モントと同じで爪を隠した能ある鷹タイプである。


因みに、表向きは35歳としているが実年齢は30歳(独身)

本人が1人っ子であることからトネルとレイルのことは

息子というより年の離れた兄弟として接している。




「同じ村の人達が避難されているのでマツモト君はそちらに向かいました」

「ちぇ、なんだよ会うの楽しみにしてたんだぜ」

「まぁまぁゴンタ、騒ぎが治まったらまた会えるって、元気にしてたよ~」

「なんかデカくなってたぜ、ダナブルで食い過ぎでゴンタみたいに太ったのかもな」

「ハイモ君あれ多分筋肉だよ…マツモト君ってほら、滅茶苦茶筋トレするから…」

『 !? 』

「何だ今の…」

「怖ぇな…」


衝突音と何かが崩れるような音が響き渡り避難者達がざわつき始めた。







一方その頃、魔族の襲撃を受けている地上では。


「おいなんだ今のデケェ音は?」

「シシ報告しろ!」

「いや分からんて! ここからじゃ何も見えないから!

 音的に遠かったから少なくとも辺りじゃないと思う!」

「なら目の前のコイツに集中だ! エントとシシで上半分を吹き飛ばせ!」

「いいのかよリーダー? 路地裏だぞ?」

「早めに倒さねぇと光筋教団の人達が危ねぇ! 俺達と違って戦闘慣れしてねぇんだぞ!」

「俺はベルクに賛成! コイツが暴れる度に周りに被害が出てる!

 いつ建物の下敷きになってもおかしくねぇよ!」

「確かに守りながらも限界か…いや守られてるのは俺達の方か?」

「やるよエント! とにかく上を吹き飛ばせばいいんだよねリーダー? フレイムでいいの?」

「あぁ! 一時的に攻撃を無効化するのと核を探す範囲を狭めるのが目的だ!

 俺とホルンが突っ込むから出来るだけ威力は抑えろ! 

 爆発したらナナヤマさん達は光魔法を強めてくれ!」

「ヤー!」 

「俺は左側! シシは右側だ!」

「はいよ~!」


北区の一角では南西のピーマンが大型魔族と交戦中。







そして南西の城壁の防衛を任されているカルニ軍団達は。


「オリー被害は?」

「建物が15〜20ってとこ、あ、もう1つ潰れちゃった…」


オリーが双眼鏡で音の発生源となった場所を確認している。


「避難所の入り口は大丈夫そう?」

「そっちは離れてるから大丈夫」

「大型魔族は見えないの?」

「今のところいなさそう、小さい魔族はウジャウジャしてるけど」

「いったいどういう攻撃? 魔法とかじゃなかったよね? シグネ何か見た?」

「見てない、エリスは?」

「私も見てないよ、外には…うぉ気持ち悪っ!?」


城壁の下の覗くと光魔法の影となった部分に魔族がビッシリ張り付いていた。


※カルニ軍団にも漏れなくマッチョ姉さん同行して

 安全地帯を形成してくれています。


ベルク達に比べてあまり危機感が感じられないが、

既に城壁の外に沸いた大型魔族を2体処理しているのでちゃんと仕事はしている。



「おらぁ! こんの! 気持ち悪いんじゃこらぁ!」

「やめなよエリス、体力の無駄だって」

「杖で叩いたところでいくらでも湧いて来るんだから」

「ん? もしかしてあれが原因? ちょと皆、わかったかも」

「なんか見つけたのオリー?」

「うん、木」

「「「 き? 」」」

「木がある」

「「「 … 」」」

「そりゃ木はあるでしょ、通りに植えてあるもん」

「違うって、それじゃない木が瓦礫の下敷きになってんの、たぶん丸々1本」

「うん? シグネどういうこと?」

「木がぶつかって家が崩れたってことじゃない?」

「どうやって? 地面から這い出た木が自分からぶつかりに行ったとかは無しよ」

「なら……落ちて来たとか」

「…はぁ?」


ステラがシグネに向ける目がアホを見る目になった。


「んにゃぁぁぁ!?」

「「「 !? 」」」


望遠鏡を覗いたエリスが奇声を上げたせいで3人がビクッとした。


「(ポージングが崩れるから驚かせないで欲しい…)」


ついでにマッチョ姉さんもビクッとしていたらしい。


「いたぁ! 絶対アイツでしょ! ってまぁぁぁ!?」

「えぇ…どうしたの急に…」

「ねぇステラ、エリスが壊れたんだけど」

「いや壊れてはないでしょ…もとから馬鹿っぽいだけで」

「なに暢気なこと言っての! 早くあれ撃ち落として! 早く! でりゃぁぁ!」 

「「「 ? 」」」


エリスの放ったライトニングを3人が首を傾げなら追う。


「クソっ外れた…」

「「「 …ぃい!? 」」」


暗い空を舞う広葉樹に気が付くと顔を強張らせた。


「うわぁぁぁ!? 何で!? 何で木!?」

「当たれぇぇ! 当たりなさいよ!」

「ふざけんな馬鹿野郎! 落ちろよぉぉ!」

「間に合え、間に合え、間に合えぇぇ!」


カルニ軍団が全力で迎撃するも撃墜には至らず、

城壁の外にから放物線を描いて飛来した木は

阻止限界点を突破し町の中へと吸い込まれて行く。


『 嫌ぁぁぁ!? 』


カルニ軍団が頭を抱えて断末魔を上げると、

地面から太いライトニングが立ち上がり木を消し炭にした。


「た、助かったぁ…」

「今のライトニングなんか変じゃなかった?」

「分かる、棒みたいになってたし向きがちょっとズレたよね」

「あれ本当にライトニング? 太すぎでしょ」






疑惑のライトニングの発生地では。


「ふぅ…どうにか防げましたか」


ポニコーンに跨ったアクラスが胸を撫で下ろしていた。


「威力を持続しながら操作するのはマナの消費が激しいですね、

 2本同時に使用するのは集中力的にも厳しい」


当然普通のライトニングではなく雷の魔集石の槍によるもの、

アクラスは光の魔集石の槍もあるので安全地帯はセルフ管理である。







「って、安心してる場合じゃない! アイツを倒さなとまた飛んで来るわよ!」

「それって大型魔族のこと? 何処にいるのよ?」

「ちょっと待ってよ、え~と…何処だ? あ、いた、

 シグネこれ覗いてみて、このまま位置を変えずに」

「ほう」


エリスが持った望遠鏡をシグネが覗くとズングリした大型魔族が見えた。


「コイツかぁ、あちょっと、エリス貸して、ドンドン移動してる…あ!?」

「今度はどうしたのシグネ?」

「オリーこれ見て、早く、動かしちゃ駄目だからね」

「ほう」


シグネが持った望遠鏡をオリーが覗くと木を引き抜こうとしている大型魔族が見えた。


「え? 嘘? それイケんの? ヤバくない? 

 ちょと貸してシグネ、…え? いったわぁ…えぇ…はぁぁぁ!?」

「私にも見せて、オリー交代」

「いやそんな暇ない…ヤバいから…」

「いいから見せてって、敵を知らないと対策出来ないでしょうが」


オリーの顔をどけてステラが覗き込むと、

ハンマー投げのようにグルングルンと巨木を振り回す大型魔族が見えた。


「つ、杖を構えろぉぉ! 次が来るぞぉぉ!」

『 だりぁぁぁ! 』


なんとか撃墜に成功した。





「はぁはぁ…こんなん続けられたらもたないって…」

「なんであんな遠くに沸くのよ! 絶対魔法届かないじゃん! この卑怯者!」 

「どうしろっての!? ポニコーン借りて行く!?  全員でシバキに行くぅ!?」

「落ち着いてエリス、取り敢えずは次の木を…あ…」

「なに? もう飛んで来てる?」

「いや、討伐されたっぽい…」

「「「 え? 」」」

「なんかよくわかんないけど…一瞬で細切れになっちゃった…」

「「「 …はい? 」」」







そして場所は戻って避難所内。


「トネル、そろそろ戻りましょ」

「はいお母さん、皆さんもご家族が心配されているでしょうからそろそろ」

「だな」

「いやいや、ちょっと待ってよゴンダ、戻るってどうやって? 

 外は魔族が沢山いて大変なことになってるんだよ?」

「なんか外に出なくても移動できるってトネルが言ってたぞ」

「え? そうなのトネル?」

「はい、但し、特別な場合でなければ避難所間の移動は許可されません、

 今回で言えば私達などですね」

『 へ~ 』


マナ濃度の急上昇に伴いミリーを捜索していた一同は、

一番近かった南側の5番避難所に駆け込んだため、

ゴンタ、ハイモ、シメジは本来の避難所に戻れず家族と離れ離れになっている。


「ラッテオ君とカイ君とミリーちゃん以外は別々の避難所になりますから、

 暫くは会えなくなります、マツモト君とも暫くは、

 いえ、もしかするとかなり長く会えなくなるかもしれませんね…」

「なに暗い顔してんだトネル、別に今日が最後ってわけじゃねぇだろ、な、ゴンタ?」

「おう、ウルダにはSランク冒険者の人達が集まってんだ、魔王なんて楽勝だぜ」

「騒ぎが収まったらまた一緒に冒険者やろうぜ~、

 ラッテオもチームに入れてあげようか?」

「いや、僕はいいよ、それより皆、ミリーのことありがとう」

「「「 おう 」」」

「いえ、私は何もしていませんから…」

「お~いカイ、ミリー」

「俺達行くから~」

「元気でな~」

「ぐす、ありがとう皆~」

「「 ばびばぼうぼばびばびばぁぁ… 」」

『 (うわぁ…) 』


ぐしゃぐしゃな顔のミリパパ、ミリママに見送られながら、

トネル達は全ての避難所を繋ぐ指令所へと移動。







「夜を待たずして魔族が現れました、

 今までのように朝を迎えれば終わりという考えは通用しないと思います」

「そうだな、草原に現れたという存在はやはり…」

「シルフハイド王のお言葉ですよ、疑う余地はありません」

「あのモギを討伐されたバトーさんが脅威と認めていたのでしょう?

 そこから更になんて…」


ウルダの重鎮達が険しい顔でテーブルを囲んでいる。


「おいあれ、デフラ町長じゃね?」

「ルート伯爵もいるぜ、すげぇ~」

「なんかこの部屋の人達怖くない? 怒ってるとかそう意味じゃなくて」

「情報を集めていろいろな方針を決める場所ですからね、

 外にいる方達と同じようにここの方達も様々な問題と戦っているのです」

「「「 へ~ 」」」

「3番の避難所に行くのは誰だ?」

「あ、俺です」

「6番は君?」

「俺は7番、6番はゴンダだよ」

「姉ちゃんが母ちゃんのとこまで連れてってくれるのか?」

「そういうこと、この場所のことは他の人達には話したら駄目だからね、

 皆が押し寄せたら偉い人達の邪魔になっちゃうから、さぁ付いて来て」

「「「 はい~ 」」」

「じゃぁなトネル、母ちゃんもさよなら」

「レイルにもよろしく~」

「父ちゃんにもな~会ったことねぇけど」


衛兵がやって来てゴンタ、ハイモ、シメジはそれぞれ違う扉へと歩いて行った。


「皆さん元気で、必ずまた会いましょう、また…か、

 お母さん、先程はありがとう御座いました」

「迷っていたわね」

「はい、皆マツモト君を慕ってましたから、

 私が逆の立場なら知っておきたいと考えてしまいました」

「でも我慢した、偉かった」

「偉くなど…冷静に考えればあの場で知らせるべきではありませんでした、

 ミリーちゃんの生還に犠牲が伴っているかもしれないと知れば、

 皆素直に喜べなくなってしまいます、それに…」

「只でさえ不安な状況で余計な不安を煽るべきではない?」

「はい」

「伯爵候補として素晴らしい考え方と対応、100点、

 ニーナ様が知ればお褒めになるでしょうね、

 でも私はもっと子供らしくして欲しいかな、

 トネルはまだ11歳なんだから無理に大人にならなくてもいいんだよ」

「…ありがとう御座います」


頭を撫でられトネルの表情が少し和らいだ。


「お母さん、Sランク冒険者に並ぶ実力者の方が同行していたにも関わらず、

 マツモト君は馬車には乗っていなかったと聞いています、

 何処かで無事でいてくれると思いますか?」

「…正直に答えた方がいい?」

「はい」

「無事じゃないと思う、お友達がいるとしたら南の草原、

 光魔法を習得してたとしても子供1人で堪えられるとは思えない」

「そうですか…」

「厳しいこと言ってごめんねトネル」

「いえ…まだ決まったわけではありませんし、

 可能性が低くても私は無事でいると信じてみます」

「うん、そっちの方がいいと思う」

「ここにいたかトネル」


従兄弟のウォレンが声を掛けた来た。


「何かあったのですか?」

「お前の探してた友達なんだが…その…戻って来た」

「本当ですかウォレン!?」

「待てトネル、あのな…ぁ~くそっ、俺の言い方が悪かった…」

「ウォレン君、後は私から伝えます」

「悪い…」


暗い顔をしたレイルを見てトネルが何かを察した。


「レイル、マツモト君は…」

「亡くなりました」

「今ウォレン君が…戻って来たと…」

「つい先程偵察に出られていたシルフハイド王が戻られて、

 マツモト君の遺体を連れ帰って下さいました」

「確認はしたのですか? 間違いでは…」

「ドーラさんのお世話を担当されているお医者様が確認をされて間違いないと」

「私も…」

「駄目です、私達が確認することは禁止されています」

「ですが、直接確認しなければ私は信じられません」

「駄目だトネル、俺の母上も確認されたがかなり酷い状態らしい、

 とてもじゃないが子供には見せられないって…」

「そう…ですか…」






時を同じくしてギルドでは。



「すみませんカルニギルド長、遅くなりました」

「シルトアさん、無事で良かったです、

 今バトーが遭遇した魔王と思われる存在に付いて話していて」

「そうですか、その話は1度忘れて下さい」

「え? 何故…」

「もうあてにならんということだ」

「あ、ケルシス様も戻られて…ぇ…だ、大丈夫ですか?」

「私の血ではないから安心しろ、いや、少しは混じっているか」


血と体液と土で汚れたケルシスが短くなった右耳を擦っている。


「一体何が…」

「焦らずとも着替えてから全て話してやる、皆すまないが少しだけ待って…」

「魔王は違う形へと変化しました」

「おいこら」

「バトーさんが見た魔王とは既に別物でっ…」

「待てと言っておるのが分からんのかシルトアァ…」

「わ、分かりました…僕が悪かったですぅ…うごご…」


シルトアのコメカミにめり込んだアイアンクローを解いてケルシスは着替えに行った。













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