表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/303

29話目【ウルダ祭 2 浮気者の末路】

ウルダ祭1日目、『ケロべロス杯』は続いている。


「『ケロべロス杯』次の試合はー! 夫婦の対戦です! 挑戦者は妻! 挑戦理由は夫の浮気!

 それでは両者、ステージへ!」


西側から夫、東側から妻がステージに上がる。挑戦者が東側から上がるのが決まりのようだ。


「「「ブゥゥゥゥゥゥゥゥ」」」


ステージに上がる前から夫にブーイングが飛んでいる。

夫は素手、妻は鍋の蓋とオタマを持っている。


「「ちょっと待ったー」」


東側で2人の女性がオタマをステージに置いている。ステージ上の妻に顔が似ている。


「早速の『ちょっと待ったコール』! 挑戦者の姉妹が助っ人に現れましたー!」

「いいぞーやっちまえー!」

「そんな男のウィンナーなんて千切っちゃいなさい!」

「頑張れ浮気男ー! 正念場だぞー!」

「「「ははははははは」」」


面白半分の野次が飛ぶ。ステージに立つ女性3人に対し、夫は既に土下座している。


「すでに勝敗は決しいるように思えますがー! 勝負、始めー!」


「ホントすみませんでしたー! 出来心だったんですー!」

「何が出来心よ! 私の何が不満だったのよ!」

「あんたねぇ! こんな大衆の前で妹に恥かかせるんじゃないわよ!」

「次やったら去勢するわよ!」


ポコポコポコポコポコポコ!

土下座した夫は、ステージ上で3方からオタマで叩かれている。





「…この声…なんでわざわざこっちまで聞こえてくるんですかね?」

「カルニが魔法でワザと拡声してるのよ。祭りも盛り上がるし、みんな好きでしょ、こういう話」


モッシャモッシャ…

テーブルに肘を付きながら、串から口で肉を抜いて食べるルドルフ。



うわぁ…あからさまに興味なさそう…





「ち、ちょっとまった…」


西側でオタマをステージに置いて若い女の子が声を上げる。

挑戦者である妻に少し似ている。


「おーと! ここで夫側に助っ人だー! これは意外な展開だぞー!」


意外な助っ人の参戦に会場がどよめいている。

夫が目を丸くしている。


「ちょっと、あなた誰よ!」

「わ、私は…」

「ちょっと、危ないから入ってきちゃ駄目だって! 俺が悪かったから、ややこしくなるから!」

「ちょっと黙りなさいよ」

「…はいっ…」


立ち上がって女の子を制止する夫の肩にオタマが置かれる。

夫は背筋を伸ば直立不動である。


「上がりなさい! 助っ人に来たからには理由があるんでしょう?」

「はい…」


ステージに上がった女の子をジロジロ見る姉2人、女の子は気まずそうである。

夫は女の子の足元で土下座している。


「この子…なんか、あんたに似てるわね…」

「若い頃の妹に似てるわ…」

「あ、あの…私頼まれて、この人に…」

「「「「あん?」」」


ポコポコポコポコポコポコ!


「やっぱりお前から持ち掛けてんじゃねーか!」

「こんな若い子だまして! どう責任取るつもりなのよ!」

「いい年して何やってんのよ、まったく情けない!」

「すみませんでしたー! だ、だからこの子は関係ないので…」

「「「関係ないわけないでしょーが!」」」


ポコポコポコポコポコポコ!

再びオタマで袋叩きにされる夫。


「さぁ! ギブアップか? ギブアップなのか~?」


「いいぞー! せっかく助っ人が来たんだーもう少し頑張れー!」

「簡単に許すんじゃないわよー! もっとやっちゃいなさーい!」


助っ人の参戦により会場はさらにヒートアップしている。


「いや可哀相だろ、反省してるんだしそろそろ…」

「ちょっとあんた! もしかして私という者がありながら浮気してるんじゃないでしょ~ねぇ…」

「し、してないよ! ホントだって…」


会場のあちこちに飛び火している。





「…なんか…いろいろ飛び火してるんですど…どうするんですかこれ?」

「どうにでもなるんじゃない? 男女に色恋沙汰はつきものよ」


た、達観してるぅぅぅぅ、ルドルフ姉さん半端ねぇぇぇぇ

確かこの人28歳だよね? なんでこんなにそっけないの? 

華の20代だよ? もっと色恋沙汰に興味もっててもいいんじゃないですかぁぁぁ?


「ルドルフ…お前もう少し恋愛感情持った方がいいんじゃないか?」

「そうだぞルドルフ、そんなんじゃお前結婚できんぞ…」

「あんた達に言われたくないわよ! この中で誰か結婚してる人いるわけ? 

 結婚して冒険者がやれますかっての!」

「「「ごもっともでございます」」」


バトー、ミーシャ、ルドルフ、そして松本、全員未婚である。

松本に至っては前世含め恋愛経験なしである。






「違うんです! 話を聞いてください!」


ステージ上の若い女の子の声で会場が静まり返る。

女性陣もオタマを振る手を止める。


「この人に頼まれたのは…一緒にデートして欲しいって…」


ポコポコポコポコポコポコ!


「おらー! なに純愛気取ってんのよ!」

「青春気取ってんじゃないわよ!」

「懐かし! 甘酸っぱい記憶が蘇るわ!」

「本当にすみませんでしたー! あと、思い出は胸にしまっておいてください義姉さん!」


ポコポコポコポコポコポコ!

オタマで叩きながら義姉に青春が蘇る。


「いいぞーわかるぞ、その気持ちー!」

「青春っていいわよね~」

「私はもっと大人の恋の方が好きかな~」


恋愛論で会場が盛り上がる。


「ちょと! 最後まで聞いてください! この人は奥さんを愛しています!」


オタマが止まり、再び会場が静まり返る。


「何? どういうこと?」

「なんで愛してるのに浮気するわけ?」

「それなら余計に質が悪いじゃない」 

「私が頼まれたのは、奥さんの代わりにデートすることで、丘に行ってサンドイッチ食べただけです!

 この人は奥さんが大好きなんですけど、最近デートに誘っても断られていたらしくて…それで…」

「なにどういうこと?」

「あんたデート断ってたの?」

「いや、だって私達もういい年よ? 今更デートで丘や川に行こうって言われてもねぇ…

 恥ずかしいじゃない? 世間の目だってあるのに…」


恥ずかしそうにポリポリと頬を掻く妻。


「あんたねぇ! な~に贅沢言ってんの!」

「そうよ! ウチの夫なんて髪切った事すら気が付かないってのに!」

「すみません! この子にお願いした俺が悪かったんです! 妻もこの子も悪くないんです~やめて下さい~」  

「お願いですから…この人とデートしてあげて下さい」


ステージ上で2人の姉と、1人の若い女の子に詰め寄られる妻。

夫は相変わらず土下座している。


「さぁ! ここにきて明かされる真実! 勝敗は決するのかー!」


会場のは静まり妻の返答が待たれる。


「ちょっと…立ちなさいよ…」

「うん…」


ばつが悪そうに夫を立たせる妻。 姉達はニヤニヤしている。


「もう一回ちゃんと誘って…」


クルクルと髪を弄る妻の手取り、片膝を付く夫。


「今回はホントにごめん。もう浮気はしないよ…」

「そうじゃないでしょ…」


夫の言葉を優しく制止する妻。

見詰め合う2人。


「愛しています。 また俺と思い出の丘でデートしてくれませんか?」

「いいわよ、また一緒にデートしましょう」


「決着ー! 敗北濃厚に思われた戦いを制したのは~夫ー! 

 助っ人による心に響く逆転劇で見事に妻を射止めましたー!」


「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」

「よかったぞー! 2人共ー!」

「末永くお幸せにー!」

「ちゃんとサンドイッチ持っていくのよー!」


恥ずかしそうな妻の肩を抱きながらステージを降りる夫。

幸せな歓声が夫婦の背を押す。


「ったく! なんだったのよいったい…」

「こっちはとんだ赤っ恥よ、やってらんないわよ!」

「いい夫婦ですね」


悪態を付きながらニヤニヤが止まらない姉達。

若い女の子は目を輝かせている。


「あんたにも迷惑かけたわね、悪かったわ」

「せっかくだからウチ来なさいよ。ケーキご馳走するわよ!」

「え、でも…」

「なに遠慮してんのよ!」

「これも何かの縁よ、仲良くしましょうよ」

「では、お言葉に甘えて」


ステージ上では女の友情が芽生えた。

 


「あ、あのー誰か説明を…」

「「「う~~~~~ん…」」」


酒屋のテラス席では独身達が頭を抱えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ