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28話目【ウルダ祭 1 『ケロべロス杯』開幕】

ラッテオ、カイ、ミリーの3人と別れ広場へ戻った松本。

5段の観戦用の足場は全て埋まり、一番手前の手すりには子供達がぶら下がっている。

足場を確保できず通路に溢れた人達は子供を肩車している。

北側の豪華な観覧席の日除けの下では、複数のテーブルで身なりの整った男女がグラスを傾けている。


「マツモト!こっちだ、上だ!」


観戦場所を探す松本にバトーが声を掛ける。

広場に隣接した酒場の2階、屋根付きのテラス席から手を振っている。

酒場から摘み出されそうになったが、バトーが迎えに来て何とか合流できた。


「よくこんな席が確保できましたね」

「ここの店主と私は知り合いでね、融通聞かしてくれたのよ」

「それって、他の人から反感買うんじゃないですか?」

「別に俺達だけが占領してる訳じゃねぇしな、大丈夫だろ」


テラス席にはテーブルが2つあり、片方は松本達、もう片方は町民で埋まっている。


「それにもし『ケロベロス杯』に呼ばれたらルドルフが参加するから気にするな」

「なんで私なのよ」


不満そうに果実酒を飲むルドルフ。


「俺達3人は参加するが、お前だけ不参加だろ。それに店主と知り合いなのは、お前だ!」

「「「「はっはっはっはっは」」」

「勝手に言ってなさいよ、その時は力で解らせてやるわよ」


笑う3人を尻目に果実酒を煽るルドルフ。





ステージの上に町長が上がると、一段と騒がしくなる。

町長は片手を上げ、人々を抑制し、北側の観覧席から順に四方に礼をする。


「お集りの皆様、大変お待たせ致しました。年2回のウルダ祭、秋の部の開催を宣言致します!

 美味しい食べ物や飲み物を片手に、3日間に渡る力の祭典、是非お楽しみ下さい!」


湧き上がる歓声、力の祭典ウルダ祭、遂に開催である。

町長と入れ替わり司会の女性がステージに上がる。

短い杖を持ち、緑の髪、強気な目、ローブを羽織っている。


「へぇ~あの人が司会ですか?」

「そうだ、ああ見えてウルダのギルド長でな、背中にギルドの紋章があるだろう」


女性のローブには盾形の外枠の中に芋のシルエット、その上に重なり、交わった2本の剣が描かれている。


「…あれは…芋…ですか?」


目を細め訝しむ松本


「そうだ芋だ。ウルダは農業が盛んだからな。芋がこの地域のシンボルだ」

「盾と剣がギルドのシンボルで、そこに各地域のシンボルが加わるのだ。

 ギルドに所属した者は紋章を所持するからな、紋章を見れば何処のギルドが拠点かわかるってもんだ」

「私とミーシャは王都『パルミジャーノ』が拠点のギルドに所属しているから、紋章はこんな感じよ」


ルドルフは首から下げたアクセサリーを、ミーシャは左腕のワッペンを見せてくれる。

交わった剣の下に王冠のシルエットがある。 流石は王都、カッコイイではないか。


「ギルドの拠点は移せるからミーシャとルドルフも以前は芋だった。もちろん俺も芋だ!」

「なるほど…」


胸を張るバトー、観客席の北側では町のシンボルマーク、芋の旗がなびいている。





「それでは皆様! 町長に代わりましてウルダのギルド長『カルニ』が司会を務めさせて頂きます!

 1日目『ケロべロス杯』スタートです!」


カルニの声が町に響き、歓声が上がる、主に町民の歓声が凄い。


「あの~? 司会の人の声、なんで響いてるんですか? あの人が大声ってわけじゃないでしょうし」

「あれは風魔法の応用で空気を振動させてるの。市長の声も聞こえたでしょ? 簡単じゃないんだけどね」

「凄い人なんですね。カルニさんって」

「まぁね、ステージに強化魔法を掛けてるのもカルニだからね、伊達にギルド長じゃないのよ」

「おまえがカルニを褒めると気持ちわるいな…」

「なんか悪い物でも食べたんじゃないのか…」


ビールを飲みながらミーシャとバトーが引いている。


「いいでしょ別に! お互い嫌いなわけじゃ無いんだから! 方向性が合わないだけよ!

 これはね、魔法使いとしての命題なの! 脳筋共は黙ってなさいよ!」

「酷い言われようですね…」

「俺はカルニの方が正しいと思うぞ…やっぱお前おかしいって…」

「サポートして貰えると前衛としては有難いからな」

「それは一般人の話でしょ! あんた達みたいなパワー系共に普通のサポートがいるわけないでしょ!

 それに、サポートされることを前提に戦うヤツは所詮二流よ。自分の身は自分で守る、その上でのサポートよ!」

「「「ごもっともでございます」」」


テーブルを叩きながら力説するルドルフ。

ステージとは別の場所で、別の熱が上がっている。





「第一試合は冒険者と鍛冶屋の戦いです! 挑戦者は鍛冶屋! 挑戦理由は冒険者が料金を踏み倒したこと!

 それでは両者、ステージへ!」


西から冒険者、東から鍛冶屋がステージに上がる。受付の際に揉めていた2人だ。

冒険者は盾と木刀、鍛冶屋は両手で木製ハンマーを持っている。


「頑張れよー2人共ー負けるんじゃねーぞー」

「料金払えバカヤロー!」


歓声の中に罵声が混じっている。


「それでは勝負、はじ…」

「ちょっと待ったー!」


司会の声を遮り、東側ステージ端で禿げ頭の男が叫ぶ。右手でステージに片手の木製ハンマーを置いている。


「あぁーっと、ここで『ちょっと待ったコール』だー! 第一試合から早速波乱の幕開けだー!」


禿げ頭の男はステージに上がり、鍛冶屋の横で盾と片手ハンマーを構えている。

観客から歓声と罵倒が上がる。




えぇぇぇぇぇ!?

なに『ちょっと待ったコール』ってぇぇぇぇぇぇ!

昭和の恋愛ゲームかよぉぉぉぉぉぉ!

普通にステージに上がってるし…1対1の対戦じゃないのか…



白目を向いて驚く松本の肩をミーシャが叩く。


「これが『ケロべロス杯』よ! 対戦者の関係者が乱入することが可能なのよ。

 当人同士の問題を解決させるた為の対戦なんだが、当人同士だと強い方の意見が一方的に通っちまうからな」

「そこで力の差を埋めるために助っ人が入るんだ。あの冒険者に理と人望があれば助っ人が来るんだが…

 あの様子じゃ無理そうだな。日頃の行いが悪いとああなるぞ」

「あんな風に武器をステージに置いて参戦の意思を示すの。あの冒険者じゃ2人相手に負けるでしょ。

 まぁ、鍛冶屋が負けそうになったら更に助っ人が入るかもね」

「この手の勝負は始まる前から決まっていてな、余程の実力がなければ覆せない。

 負ければ大衆の前で制約を結ばされ、反故にすればそれなりの制裁が待っている」

「特にアイツは冒険者だからな、ギルド間で情報が共有され今後冒険者は続けられなくなる。

 しっかり稼いで金払えよー! なーっはっはっは!」



なるほど…これは対戦という名の公開審判だ…

対戦を拒否すれば、問答無用で負けとなり、ステージに上がった時点で顔と問題を知られる。

対戦を申し込んだ側の意見が正しくても、負けたなら結果に従うしかない。

力なき者が一矢報いる為に大衆に判断を委ねる。

理と人望なき者は1人で多数の前に立たねばならない。三つ首の獣、地獄の門番ケロべロス。

『ケロべロス杯』とはよく言ったもんだ。





関心する松本を他所に、ステージ上では冒険者が2人にボコボコにされている。

ヘロヘロになった冒険者に鍛冶屋のハンマーが迫る。

まともに当たれば死に兼ねない危ない攻撃…


ガキーン!


木製のハンマーからは考えにくい音が響き、歓声が上がる。

冒険者の体を光が覆っている。


「な、ふざけんじゃねぇ! 俺はまだやれる、まだ負けてねぇ!」

「なに言ってんの、そこまでやられといて。 仮にも冒険者でしょ、潔く負けを認めなさい!」


カルニに食って掛かる冒険者、鍛冶屋達は矛を収めている。


「そうだー! 潔く負けを認めろー!」

「往生際が悪いぞー! 大人しく金を払えー!」


冒険者の様子を見て観客から罵声が飛ぶ、客観的に見て勝敗は決していた。


「このっ、好き勝手いいやがって! 俺はまだ…」

「いいえ、あなたは負けたのよ」


カルニの杖の一振りを受け、冒険者がステージから弾け飛ぶ。

西側の観客席に弾け飛んだ冒険者は観客の目の前で透明な壁にぶつかり下に落ちる。

広場が静まりかえる…弾け飛んだ冒険者にケガはなさそうだ。




静けさの中、パチパチと北側の豪華な観覧席から拍手が響き渡る。

その様子を見てカルニが司会を再開する。


「さーてぇ! 第一試合! 勝者は~鍛冶屋ー!」

「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」

「いいぞー鍛冶屋ー! よくやったー!」

「かっこよかったぞー! 禿げー!」

「カルニ姉さーん! かっこいいー!」

「こっち向いてカルニ姉さーん!」


観客の歓声に対し鍛冶屋と助っ人禿げが手を振っている。

中にはカルニの熱狂的ファンが混じっているようだ。


ポロ…

状況が理解できない松本の口から獅子唐が落ちる。


「あのー、な、何が起こったんでしょうか? 誰か解説を…」

「カルニは司会と審判を兼ねてるんだ。対戦だと、どうしてもお互い熱くなるだろう?

 さっきみたいに負けが確定している状況で致命傷になりそうな場合は、人に強化魔法を掛けて事故を防ぐんだ」


バトーの説明を受けながら獅子唐を拾う松本。


「カルニに強化魔法を掛けられたら負けってことよ。まぁ普通はその前に負けを認めるんだけど、

 往生際が悪いとああやって場外に落とされて、強制的に負けを確定させられるの」

「なっはっは! 久しぶりに会ったが、カルニは変わっとらんな、相変わらず苛烈だ! 

 すみませーんビールお代わり!」

「相変わらず、ルドルフと違い女の子に人気があるな。 すみませーん、俺もビールを1つ」

「あのね、私だって弟子の1人や2人位いるんだから。 串10本追加でー」

「バトーさんの弟子はポッポ村に一杯いますよね。 すみませーん、ジュースと水を下さーい」

「そうだな、ポッポ村はいいぞ、村人が強いからな!」

「お前そればっかだな…」

「「はっはっはっはっは」」


バトーと松本が笑う。


「お待たせしましたー、ビールとジュースと水でーす」

「おぅ、ありがとう!」

「ありがとう、ほらマツモト、ジュースと水だ」

「ありがとうございます!」


受け取ったジュースをテーブルに置き、落とした獅子唐を水で洗う松本。

松本の様子を見てルドルフが眉をひそめる。


「マツモト…あんたもしかして、落とした獅子唐…食べないわよね?」

「食べますよ。踏んだわけじゃないので、これくらいの洗えば平気ですよ。普段森に住んでるんですよ?」

「な? 逞しいだろ?」

「いや…逞しいのか? これ…」


※危険ですのでマネしいないでください。松本は特殊な訓練を受けています。


「お待たせしましたー串焼きでーす」


ステージには新た対戦者、テーブルには串焼き、ウルダ祭はまだまだ続く。



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