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276話目【カンタルに眠るもの】

『 シュコ~… 』


カンタルを囲む西の城壁から約300メートル外側の位置に

杖を持った白いすんぐり達(発掘班)が集まっている。


マナ測定装置を使用したローラー作戦により、

光の3勇者が使用したとされる伝説盾と手斧の所在が特定されたのが昨日の話、

そんでもって本日は待ちに待った発掘作業の日である。


「ふぅ…少々焦りましたが大丈夫そうですね」


まさに今から発掘作業が始まろうとしているのだが

なにやら上空で監視中のリテルスが胸を撫でおろしている。


眼下には3台の馬車と周りを警戒するプリモハ調査隊の姿、

そして半分に千切れたコブラっぽい魔物が転がっている。


「どうニコル?」

「駄目ですね、砂に潜ってたら判断できません」

「ラッチは良く気が付いたな」

「ふふん、これが僕の研ぎ澄まされた観察力ってヤツね、

 まぁ、真面目な話をすると一瞬砂がうねったんだ」


どうやら発掘班から距離を取って城壁の内側に位置する場所で

待機していたらコブラっぽい魔物に襲われたらしい。


「どう? ヤバそう?」

「襲って来た魔物は倒したみたいです、はい」

「今は警戒中って感じだな」


調査班達が荷台から顔を出して様子を伺っている。


「お嬢、念のため魔法で周辺の砂を払ってみますか?」

「そうね~馬車は強化魔法で囲ってるし、

 アントル様達もこちらの様子に気付いてるみたいだから守りは固めてる筈、

 表面を軽く吹き飛ばす位はやっても問題ないでしょう」

「了解っす、んじゃライトニングで」

「「 あいあい 」」

「お嬢は念のため皆の近くで待機しておいて下さい」

「はいはい」


ジェリコ、ニコル、ラッチが雷撃を走らせ砂を吹き飛ばして行く、

ある程度試して反応が無いので索敵は完了。


「プリモハさん、もう出ても大丈夫ですか? はい」

「構いませんよ、あ、ハムレツさんその辺りに壁が…」

「あだっ…はぃぃ…」

「少し遅かったようですね…」


発掘作業を1目見ようと調査班達が荷台から降りて来た。




「向こうは終わったみたいだ…シュコ~…僕達も始めよう…

 城壁は固定してあるけどくれぐれも慎重に…」

『 はい~… 』

「アンカーさん頼みます…」

「はいよ…それじゃいつも通り俺に合わせてくれ…シュコ~…せ~の!」

『 や~! 』


発掘班達が背中合わせで杖を光らせるとドーナツ状に砂が隆起した。


「いいぞ、外へ!」

『 外へ~! 』


ドーナツが徐々に大きくなり外側へと移動して行く。


「よし止めろ! フルムド伯爵頼みます…シュコ~…」

「了解、…よし、いいよ」

「解除しろ!」

『 はい~… 』


土魔法が解除されると隆起した砂がサラサラと崩れた。


「ほわ~山が出来ちゃった…はい」

「素晴らしい、一度でこれだけの大穴を作るとは驚きです」


地表のハムレツには台形の山が見えているが、

上空のリテルスからは大きな穴が見えている。



突如出現した大穴のサイズは直径60メートル、深さ5メートルといったところ、

これが発掘班が苦悩の末に編み出したハイスピードワイルドワイド発掘法である。


ザックリ解説すると手順は下記の通り。

①強化魔法の透明な床に乗る。

②土魔法を使用し自分達を中心として外側に砂を移動させる。

③移動した砂の内側に強化魔法で透明な壁を設置する。

④土魔法を解除する(強化魔法の壁に遮られれ外側にのみ砂が崩れる)

 ※砂が内側に雪崩れて生き埋めにされる危険を避けられる。

⑤下に降りて目的の深度まで同じ手順を繰り返す。

 但し、③で設置する壁は前回設置した壁よりも内側に設置する。

 ※砂が中心に向けて徐々に低く、段々状になるようにする、

  こうすることで埋め直す時に内側の壁から崩して徐々に穴を埋められる。




「あのさ、カンタルに来た時に崩れる可能性があるから土魔法は使うなって言われたじゃん」

「「「 うん 」」」

「今回の発掘作業で土魔法を使うって聞いた時にさ、え? 使うの? 

 危ないのに使って大丈夫なの? って僕思ってんだけど」

「「「 うん 」」」

「これ見ると納得だよね」

「「「 うん 」」」


ラッチの言葉に同意して頷くプリモハ調査隊の3人、目が点になっている。


「あれ5人でやってんでしょ」

「うん、同じ出力で同じように制御してる」

「豪快なのに細かい作業してんなぁ」

「確かにこれは私達の出る幕ではありませんわね」


流動的な砂漠地帯での土魔法の使用は非常に危険、

息の合ったチームワークと繊細な力加減、

そして些細な異常を見逃さない観察力が必要、

指揮を取るのは発掘班主任のフルムド伯爵ではなく、

元ベテラン土木作業員、アンカー(男、50歳)である。


「砂の雪崩れ込む箇所は無し…下の砂も安定してる…シュコ~…フルムド伯爵大丈夫そうです…」

「了解…降りよう…」

「いぇ~い私これ好き~…シュコ~…フルムド伯爵何か面白い形にして下さいよ~…」

「はしゃぐと落ちるぞ~…シュコ~…俺達には見えねぇんだから…」

「ははは、ちゃんとその辺りは対策してるよ…シュコ~…さぁ僕に付いて来て…」

『 はい~ 』


順々に透明なスロープを滑り降りる発掘班達、どうやら螺旋状になっているらしい。


「外へ!」

『 外へ~ 』


そんな感じで作業は進み周囲を囲む階段状の砂壁は6枚目が完成、

馬車のある地表からは約30メートル下、

1000年前のカンタル基準で言えば地下1階に該当する深さまで掘り進めた。



「そろそろ何かあっていいと思うのですが…フルムド伯爵どう思いますか?」

「う~ん…物が物だから厳重に保管されてるのかも…シュコ~…

 マナの数値は下がって来てるから近付いているのは間違いないです」


測定装置の針は34%を示している。


「とにかくもう少し掘り進めてみましょう…(大きく横にズレてると厄介だな…)」

「了解です…シュコ~…皆刻んで行こう…次の深さは2メートルだ…」

『 はい~…!? 』

「全員固まれ! 何処か崩れたかもしれん!」


ぶわっと舞った砂塵に反応しアンカーが慌て声を上げた。


「驚かせてしまってすみません、私です」


監視役のリテルスが降りて来た。


「実は気になるものが見えまして」

「と言いますと?」

「先程動かした砂の中に人の骨のような物があった気がします、

 木片のような物も、直ぐに埋もれてしまったため確証はありませんが…」

「骨? シュコ~…アンカーさん…」

「この辺りは墓地では無いと思いますけど…シュコ~…」

「ですよね…リテルスさんそれはどの辺りに移動しましたか? シュコ~…」

「あちらの壁の中にあると思います、一番下の段ですね」

「フルムド伯爵…シュコ~…作業を中断して先に探しますか?」

「うん…一応ね…シュコ~…人手がいるので調査班の人達にも参加して貰いましょう…」

「私が伝えに行きます、ですがここまで降りる方法は如何しましょうか?」

「馬車が降りられるように外周に緩やかな螺旋状の坂を作ります…シュコ~…

 見やすくなるように上に砂を撒きますので少々待つように伝えて下さい…シュコ~…」

「分かりました」


とういうことで、壁の一部を崩し全員総出で捜索、

1体の人骨と墓石といくつかの枯れた木片が出て来た。


「加工された感じゃ無いからこっちのヤツは只の木ね」

「こっちの小さいヤツは板状だから木棺の一部だと思う」

「だな、しっかし一部とはいえ良く残ってたな、何時頃から砂漠になったかは分からねぇけど

 それまでは木が生えるくらいは水気がある土地だったってことだろ」


ニコル、ラッチ、ジェリコが木片を観察中。


「アントル様、こちらはトルシュタイン様の御遺体なのでしょうか?」

「ルノテニアという方らしいよ…シュコ~…掠れて読みずらいけど墓石に名前が書いてある…」


一方、プリモハとフルムド伯爵は骨と墓石を観察中。


「プリモハちゃん…この掘られた模様なんだけど…」

「太陽ですわね、どこかで同じ模様を見た気が…え~と…う~ん…うぅぅぅん…」


ギリギリ思い出せないらしくプリモハが額にシワを寄せて踏ん張っている。


「拠点にある石の台座とそっくりだ…」

「そう! それですわ!」


すっきりしたらしい。


「何か特別な意味があるのか…シュコ~…」

「あら? 後ろにも何か掘られています、え~と…太陽の沈む場所に…光は…」

「太陽の沈む場所に光は眠る…シュコ~…闇に抗う者は…伝承を…伝承を辿れかな?」

「伝承? 何かご存知ですか?」

「いや…僕も知らないな…太陽と闇か…闇と言えば魔王とか魔族だと思うけど…

 シュコ~…考えるのは後にしよう…今は発掘を再開しないと…」

「この方はどうしましょう?」

「埋め戻すにしても発掘が終わらないと出来ないし…何か特別な感じがする…

 シュコ~…1度拠点で調べるべきだと思う…」

「わかりました、でしたら丁重にお連れします」


布に包んだ骨と墓石は目を輝かせた調査班により馬車の荷台へ積まれた。


「よし続きだ…深さは2メートル…シュコ~…行くぞ!」

『 や~! 』






発掘作業が再開され直ぐにそれっぽい何かが見つかった。


『 おぉ~ 』


縦横3メートル程の正方形状でコンクリートに囲われており、

入口が見当たらないため部屋というより四角い塊である。


「凄ぇ~本当にあった!」

「これって歴史的瞬間ってヤツだよね? そうだよね?」

「早く調べてぇ~! 中身何だと思う?」

「これだけデカいなら盾と手斧だけってことはないでしょ」

「こういうワクワクって現場じゃないと味わえないよねぇ!」


調査班が暑さも忘れて大はしゃぎしているが発掘班は腕を組んで頭を捻っている。


「上にも横にも入口が無い…」

「下ってことは無いと思いますけどねぇ…」

「下かぁ…下はなぁ…」

「…え? 掘ります? 下側…」

『 いや~… 』


強化魔法でいろいろやれば何とかなる気がするが危ないのでやりたくない様子。


「僕は止めた方がいいと思う…シュコ~…」

『 賛成~… 』


遺跡の下を掘るのはご法度、安全第一が発掘班のモットーである。


「さぁジェリコ! やっておしまいなさい!」

「「 ジェリコ、根性~ 」」

「おうよ! どっせ~い!」


ジェリコがツルハシで側面をしばくとコンクリートが割れて金属性の壁が姿を現した、

ついでにフルムド伯爵もずんぐり装備から脱皮して本体が姿を現した。


「おろ? フルムド伯爵これって」

「箱舟と似てるね、錆とかの劣化が見られないからミスリル以上の鉱石だと思う」

「ほ~昔の人も考えることは同じってことか、1000年近くも昔なのによくそんな技術があったもんだ」

「今より昔が劣っているなんてのは迷信だよ、強化魔法やルーンは確実に今より優れた技術だし」

「確かにそうっすね」

「魔王によって何度も滅ぼされてその度に培った知識や技術が失われて来た、

 過去には僕達の想像が及ばないような凄い時代があった可能性もあるんだ」

『 へぇ~ 』

「でも水晶の記録装置と魔道補助具に関しては今のところ見つかって無いし、

 書物にも記されていないから現代の方が優れていると思う」

『 おぉ~ 』


方向性は違えど両方共マナ関連の技術、

つまりはイオニアとカプアが過去に類を見ない偉大な人物ということになる。






「おいカプア、お前また変な物買っただろ」

「買ってません」

「じゃぁこの経費で申請してる3ゴールドの詳細を教えろ、教えてみろ」

「こ、工具…」

「嘘付くなよ…その後ろの虫はなんだおぉん? この前までいなかったよなぁ…」

「こ、これは近くの森で捕まぐぇっ!?」

「こんな感じで捕まえたのか? そうかそうか、奇遇だなぁ…

 私も見たぞこの虫ぃ…大通りで商人が売ってたなぁ…確か値段は3ゴールド…」

「ち、違う…自分で捕まえた…あと虫じゃなくてヘラクレスギガントカブト…」

「主任~ギガント君用のバナナ買って来ましたよ~ひぇっ!?」

「お前もかハンクゥ…お前もかぁぁぁ!?」

「ちちちち、ちがちが違いままま…私は只餌を買ってくるように言われたたた…ぐぇっ!?」

「おら吐けぇぇ! 大人しく経費を無駄に使ったと認めろこの害虫共がぁぁ!」

「く、苦しい…ライトニングリンデ…うごご…」

「た、助けてノアさん…お願いしますぅ…」

「まぁまぁ、リンデル主任ここは私に免じて」

「守り人は黙ってろ! 経費の管理は考察班主任の仕事だ!」

「はい…」


こんなんでも凄いらしい、歴史に名を残す人物というのはある程度変人である。









外装を剥がすと上面に丸い入口が見つかった。


「いよいよですわねアントル様」

「うん、楽しみだ、でも中に入る前に空気を入れ替えないとね、

 ずっと密閉されてたから澱んでるだろうし、

 もしかしたら僕達の知らない病気が潜んでるかもしれない、アンカーさん頼みます」

「はいよ、俺1人でやりますんで全員下がらせて下さい」

「分かりました」



ということでアンカーを残して全員馬車の近くに退避、

硬く締まった入口のロックをハンマーで叩いて開放準備を整えてから、

澱んだ空気を吸い込まないようにずんぐり装備の吸気口と排出口を塞ぎ、

保管庫の丸い蓋をバールでこじ開けて約1000年振りに開放、

杖と右手を保管庫の中に入れて風を発生させて換気、

ずんぐり装備内の空気が少なくなったら保管庫から離れて休憩し再び換気、

そんな作業を30分ほど繰り返すとアンカーが両手で丸を作った。


採掘班主任でありカンタルを納める立場のフルムド伯爵が最初に中に入るのが筋なのだが、

換気したとは言え少々不安が残るので生身のアンカーが毒見役として潜入、

入りたいと息巻くプリモハをなんとか抑えつつ、10分ほど内部で過ごし安全性を確認した。


「フルムド伯爵、たぶんですけど大丈だと思います」

「ありがとう、無理させてしまってすみません」

「いえ、伯爵を差し置いて貴重な品々を拝見できるなんて光栄ですよ」

「何か異常を感じたらすぐに言って下さい、と言ってもここには医者がいないので

 出来ることは殆どないんですけどね」

「ははは、過酷な環境に適応できてこそ発掘班ってもんです、慣れっこですよ、

 フルムド伯爵こそ入るなら覚悟して下さい、あくまでも参考程度です」

「了解、中は狭いから1度に入れるのは2~3人までかな、僕と一緒に入りたい人は…」

「はいは~い! 私! 私が入ります!」

「まぁ、だろうね」


目からキラキラを発しながらプリモハが両手を上げて飛び跳ねている。


「「「 (楽しそうだなぁ) 」」」


その様子をプリモハ調査隊の3人が柔らかい笑顔で見守っている。



「お~ほっほっほ! 伝説の盾は私が見つけてみせますわよ~」

「もう殆ど見つかってるようなものだけどね」


アンカーと入れ替わりでフルムド伯爵とプリモハが保管庫の中へ。



「リテルスさんはここにいても大丈夫なんですか? 上からヒポグリフが飛んで来るかも」

「先程プリモハさんが上部を強化魔法で覆いましたので大丈夫です、なにより暑くて…」

「お疲れ様です!」


一方、リテルスは馬車の中で休憩中である。




「ねぇねぇアンカー、中どんな感じだったの?」

「盾あった?」

「手斧は?」

「あ~盾はいくつかあったな」

『 おぉ~! 』

「いや、ただなぁ~なんか思ってたのと違ったんだよなぁ~」

「え?」

「何が? っていうか手斧は?」

「手斧は無かった気がする、剣はいくつかあったぞ、キラキラしたヤツ」

『 キラキラ? 』

「おう、キラキラしてた、宝石とかついててな、

 盾もそんな感じでな~んか思ってたのと違うんだよなぁ~」


中を見たアンカーは納得がいかない様子。



「この盾はなんというか…屋敷に飾るような装飾品ですわね」

「うん、こっちの剣とかもペニシリの部屋にありそう、あとは古い金貨に宝石」

「指輪、ネックレス、金で出来た装飾品の防具に、王笏? この箱の中身は王冠のようです」

「いくつかひしゃげちゃってるけど絵画もある、スライムが沸いちゃったんだろうね」

「「 う~ん… 」」

「良い物であることは間違いないのでしょうが…」

「確かに貴重な品だけどねぇ…歴史書とかはなさそうだし…」

「「 う~ん… 」」


保管庫の中の2人も納得がいかない様子で首を傾げている。



「ハムレツさ~ん、何で保管庫の周りをウロウロしてるんですか?」

「暑いですからこっちで一緒に涼んだ方がいいですよ」

「ちょっと気になることがありまして、はい、気にしないで下さい」

「汗かきすぎじゃねぇか? 根性だけじゃ倒れるぜ」

「ちゃんと水分取ってますので大丈夫です、塩も沢山ありますから、はい」

「「「 (小分けじゃないんだ…) 」」」


氷で造った簡易避難所で涼むプリモハ調査隊の前を

汗だくのハムレツが行ったり来たりしている。



「どの盾が正解なのでしょうか?」

「正直どれも魔王に対抗できたとは思えないけど…全部外に出してマナを測定してみよう」

「そうですわね、3人共そこにいる~?」

「「「 はい~ 」」」


全員で協力して保管庫の中身を全部馬車に積み込んだ。


「めっちゃ綺麗! 高そう~!」

「お宝だよこれは、文字通りお宝、盗掘する人の気持ちってこんな感じなのかな?」

「宝石でか~!?、なにこれ!?」

「あまり魅力的な調査対象ではないな…」

「うん、だってこれ所謂財宝ってヤツでしょ…あでも古い金貨ってなんかロマンあるかも」

「この王冠ってさ、いつの王様が使ってたヤツなんだ?」

「いいね、私は歴史的な背景が気になるよ」


煌びやかな成果に各々感想を述べている。


「折角保管してたのにスライムに潰されちゃうんだもん、残念だよね」

「当時は土の中だったんだし仕方ねぇだろ、腐ってねぇだけ凄いぜ」

「無理に戻さない方がいいよジェリコ、修復できるかもしれないんだから」

「分かってる、けど昔の様子が分かる貴重な絵だ、もう少しハッキリ見たい…ん?」

「どうかした?」

「2人共ちょと見てみ」

「「 ん? 」」

「マナの測定結果は全部同じだし、宝石なのかルーンマナ石なのか判別できないし、

 分からないな~トルシュタイン様が使用したとされる盾の名前ってなんだっけ?」

「確か『闇を払う青き盾』だった筈です」

「青かぁ…違う気がするなぁ…」

「そうですねぇ…銀とか金の方が相応しい見た目ですもの…」

「「 はぁ… 」」

「「「 (暗いなぁ…) 」」」


ジェリコ達が絵画を覗いていると溜息を付きながらフルムド伯爵とプリモハが歩いて来た。


「お嬢、ちょっとこれ見て下さい」

「なにジェリコ? もしかして手掛かり?」

「いやそういう訳じゃないんですけど、これって拠点にしてる遺跡じゃないですか?」

「どれどれ?」


折れ曲がった絵画には光の降り注ぐ広間で

黄金の台座の上で輝く全裸の青年に人々が祈りを捧げている姿が描かれていた。


「確かに、台座には元々何もなかったのね、あの建物は光の精霊様を讃える場所だったんだわ」

「なるほど、太陽の紋章が闇を退ける力、つまり光の精霊や光の3勇者様を示すものなら、

 さっきの墓石に刻まれた文字も少しは理解できる」

「太陽の沈む場所に光は眠る、闇に抗う者は伝承を辿れでしたっけ?」

「うん、きっとトルシュタイン様は魔王の復活に備えて、

 未来の人々に自身の使用した武器と盾を残したんだ、

 墓石のルノテニアさんは場所を示す伝承を伝える役割を担ってたけど、

 途中で途絶えて現代まで上手く伝わらなかったんだと思う」

「「「「 なるほど 」」」」


納得の説得力にプリモハ調査隊がポンっと手を叩いた。


「フルムド伯爵~私も中に入ってみてもいいですか~はい」

「どうぞ~もう何も残ってませんけど~」

「ハムレツさんは何か気になることがあるのでしょうか?」

「あるらしいですよ、お嬢達が中に入ってる時もずっと周りをグルグルしてましたし」

「「 へぇ~ 」」

「そういやハムレツさんってリテルスさんと同じでマナに敏感なんだよな」

『 … 』

「プリモハちゃん、ちょっと行ってみよう」

「そうですわね」


保管庫を覗くと汗だくのハムレツが床を杖で叩いていた。


「ハムレツさんどうかしましたか?」

「あ、いや、はい、ここだけ音が違ってですね、下に空洞があるんだと思います、

 それとマナが吸い込まれてるような感じが…はい」

『 !? 』


フルムド伯爵とプリモハが急いで確認すると、9分割された床のうち、

中央の床の端に小さな太陽の紋章が刻まれていた。


「あ、あるぅぅ! 絶対ここの下にあるぅぅぅ!」

「お嬢落ち着いて!」

「感情が高ぶり過ぎてますよ!」

「髪型が大変なことになってますよ! お嬢~!」


プリモハが頭を掻きむしりながら反り返ってるせいで

フルムド伯爵とハムレツが角に追いやられている。



「ありがとう御座いますハムレツさん、僕達だけじゃ見落としてました」

「装飾品の盾を代わりに持ち帰るところでしたわ」

「いえ、恐縮です、はい」

「さてそれでは、ジェリコ! やっておしまいなさい!」

「はい~でもちょっと待ってて下さい」


アンカーからバールを拝借。


「ふん! どりゃぁぁ!」

『 おぉ~ 』


ジェリコが床板の隙間にバールを突っ込んで力任せに引っぺがすと

縦横80センチほどの平たい石板が現れた、

白と灰のマーブル模様で表面は光沢が出るほとに磨き上げられており、

親切なことに金属製のリング状の取っ手が2つ付いている。


「お嬢、これは当たりっぽいっすね」

「そうね、でも病気が怖いから取り合えず空気を入れ替えましょう」

「え?」


中にジェリコを残したまま風魔法で換気、

熱風だと可哀相なのでフルムド伯爵が風を冷やしている。


「(うひょ~涼しぃ~)」


両手を広げて全身で風を浴びるジェリコ、

汗と爽快感があいまってなんだか夏のCMっぽい。







プリモハとフルムド伯爵も中に入り石板をマジマジと観察中。


「アントル様、ここに文字が」

「求めるならば力を示せ、か、何か仕掛けがあるのかな?」

「酸とか毒が飛び出すとかっすかね?」

「どうだろう? 受け渡すために残したのにわざわざそんなことするかな?」

「私の考えでは先ほど運びだした品々は盗掘者の目を欺く偽装で、

 伝承を辿って来た方には試すようなことはしないと思います」

「そんじゃ開けてみます?」

「いやでも、もしもってこともあるし…」

「少し怖いですわね…」

「でも試さないと分かんないっすよ」

「「 まぁねぇ… 」」


埒が明かないのでジェリコが明けてみることにした。


「ジェリコ君気を付けて」

「異変を感じたらすぐにやめてね、私はジェリコの方が大事だから」

「うぃっす、2人も顔引っ込めておいて下さいよ、

 ラッチ、ニコル、2人にあんま覗き込ませないようにしてくれ」

「「 はい~ 」」

「いくぞ、うぉぉらぁっぁ根性ぉぉおっ…」


取っ手を掴み額に血管を浮かせながら引き上げるジェリコ。


「ぉぉぉぁあ…がはっ!?」


石板が1センチくらい浮き上がると白目を剥いて膝から崩れ落ちた。


「…え? 死んだ?」

「ジェリコ生きてる~?」

「…い」

「え!? 何? ヤバい? ヤバいって言った?」

「ジェリコ死にそう?」

「すげぇ重い…1人じゃ無理…根性足りない…」

『 … 』


示すべきは純粋な力だった。





「皆気を付けて」

「異変を感じたらすぐに以下略」


てなわけで、ジェリコに加えてラッチ、アンカー、調査班のマッチョが加わって4人体制で再挑戦。


「「「「 んごごごご… 」」」」


なんとか開放。


「「「「(うひょ~涼しぃ~)」」」」


そして即座に換気。




念願の中身は布に包まれた盾と手斧、

そしてボロボロの小袋が結び付けられたマーブル模様の石筒が入っていた。



「青みががった色味と意味深でそれっぽいそこそこ大きな石! 

 これはもうそうとしか思えません! そうですよね?」


ウキウキで盾を見せつけるプリモハにリテルスとハムレツが親指を立てている。


「お~っほっほっほ! やりましてよ! 皆の汗と苦労はここに報われましてよ~!」

『 いぇ~! 』

「あ、プリモハちゃん、水を差すようで悪いけど一応計測させてもらってもいいかな?」

「どうぞ」

『 … 』


フルムド伯爵が盾の石にマナ測定器をくっ付けると28%を示した。


「凄く薄い、ルーンマナ石で間違いないと思う」

「聞きまして! 皆の想いと努力が光の3勇者トルシュタイン様の盾を見つけましてよ~!」

『 プッリモハ! プッリモハ! 』

「お~っほっほっほ! お~っほっほっほっほっほ!」

『 いぇ~! 』


保管庫の上で盾を掲げるプリモハを歓声と熱気が押し上げている。


「ははは、お嬢幸せそうだな」

「凄い汗かいてるけどね、はしゃぎすぎて倒れなきゃいいけど」

「フルムド伯爵、皆盾に夢中だけどこっちも凄いヤツなんですよね?」

「うん、最後の伝説の武器、昔のドワーフの王様が作った氷の魔集石を使用した手斧だ、

 ルーンには及ばないかもしれないけど僕達からすれば凄い一品だよ」

「「「 へぇ~ 」」」

『 … 』

「ラッチ試しに使ってみたら?」

「え? ぼ、僕が!?」

「だって魔法が一番得意なのはラッチだろ、試してみないと本物か分からねぇし、

 俺は上手く扱える自信がねぇ」

「私も」

「僕だって摩集石を扱ったことなんてないって、ここはやっぱりふさわしい立場の人がやるべきだよ」

「ははは、本当は試したいくせに、僕はいいよ、ラッチ君に任せる」

「え~いいんですか~? 僕なんかが伝説の武器を試しても? 本当に~?」


ニコニコで目じりがだだ下がりのラッチ、嬉しさが顔に出ている。


「え~困っちゃうなぁ~でもやらないと判断出来ないしなぁ~でも心の準備がまだちょっとなぁ~」

「「「 早くやれ 」」」

「あた…」


3人から頭をシバかれた。



「す~は~…いきます、はぁ!」


ラッチがマナを込めて手斧を振ると斬撃を具現化したかのように氷の壁が走った。


『 おぉ~ 』

「本物だね」

「そうですわね、恰好良いですわよラッチ~」

「ありがとうございます~!」


プリモハの言葉に答えて嬉しそうに手斧を振っている。



「その程度かラッチ~! 伝説の勇者様はそんなもんじゃない筈だぞ~!」

「もっとなんか出来るでしょ~! 見せてみなさいよ~!」

「む…せやぁ! 違うな、おりゃぁ! やぁ! ふんん!」


ジェリコとニコルの挑発には行動で返答、

氷塊を飛ばしたり地面を凍らせたり冷気を振りまいたりしてる。


「ぬぅぅぅん!」

『(うひょ~涼しぃ~)』


とりわけ砂漠に不釣り合いな吹雪は一同に大好評の様子。


『(さ、寒い…)』


雪が積もったのでやめた。


「吹雪を発生させるのは上級魔法の領域だよね、凄いよ、流石は伝説の武器」

「まぁ…ちょとやり過ぎだけどな…」

「さぶぶ…砂漠の日差しが有難いなんて…」

「(いきなりであんなに使いこなせるんだ、センスあるなぁ~)あたっ!?」

「お~っほっほっほ! 油断は命取りですわよアントル様! おりゃ! おりゃ!」

「冷たっ! ちょっと…いたぁ!?」


プリモハが雪玉でフルムド伯爵を襲撃している、

若干溶け始めた雪をガチガチに握り込んでいるので雪玉というより氷塊である。






「フルムド伯爵、目的の物は見つかったようですがこちらは?」


馬車から出て来たリテルスがボロボロの小袋が結び付けられた石筒を指差した。


「恐らくは遺灰じゃないかと」

「遺灰? トルシュタイン様のですか?」

「ただの憶測です、太陽の紋章がありますし大きさ的にはそうかなって」

「確認されますか?」

「あまり気は進みませんけど一応は」


フルムド伯爵の予想通り石筒の中には白い粉末が入っていた、

そしてボロボロの小袋には大きさの異なる指輪が2つ、

大きな指輪の内側には『ルノテニア』、

小さな指輪の内側には『トルシュタイン』の文字が刻まれていた。


「私達にとって指輪の内側に互いの名を刻むのは一時も離れないという愛の証、

 1000年前も同じであったならルノテニアさんはトルシュタイン様の想い人ということになります、

 亡くなられたトルシュタイン様は盾と手斧と共に固く閉ざされた保管庫に埋葬された、

 この指輪は愛する人が寂しくないようにとの、せめてもの心使いだったのではないでしょうか?」

「うん、そしてルノテニアさんは伝承を担い、亡くなった後もその役目を全うするために

 保管庫の近くに埋葬されることを望んだ、いつか訪れる人達の道標としてあり続けたんだね」

「伝承は関係ありませんわ、愛する人と共にありたい、死してなお一番近くで寄り添いたい、

 それで良いではありませんか、これは1000年に渡る美しき愛の話なのです!」

「そうだね」


トルシュタインの遺灰が入った石筒と、指輪の入ったボロボロの小袋、

布に包んだルノテニアの遺骨と墓石を石棺に納め保管庫を閉じた。


「頼むぞラッチ、根性で何とかしろ」

「偉大な光の勇者様とその奥さんへ贈るのよ、誠意を示しなさい」

「ジェリコもニコルも煩いって! 凄く集中してるんだから、難しいんだよこれ」

『 頑張れ~ラッチ~ 』

「はい~頑張ります~…」


ラッチが手斧を駆使して作った氷の花を供え、一同は静かに寄り添う2人に祈りを捧げた。


「(長い間ありがとう御座いました、繋いで頂いた希望を無駄にはしません)」





馬車と調査班が穴の外に退避したのを確認しフルムド伯爵が一番内側の強化魔法を解除する、

発掘班が杖を光らせると役目を終えた保管庫は再び砂の中に消えた。


「よし…次を解除しよう…シュコ~…」

『 はい~… 』


どんどん穴が埋まって行き最後の壁を解除しようとした時、

上空で監視していたリテルスが叫んだ。


「何か来ます! 皆さん気を付けて!」

『 !? 』


プリモハとフルムド伯爵が咄嗟に守りを固めると、

衝撃波が砂塵を巻き上げ煽られたリテルスが吹き飛ばされた。


「おいなんだ!? ただ事じゃねぇぞ!」

「何の魔物? ラッチそっちは?」

「まだ砂が舞ってて良く見えない、お嬢壁を厚くして下さい」

「了解」

「すみません、急いでてちょっと勢い付け過ぎました、大丈夫ですか?」


砂塵を吹き飛ばして現れたのは空飛ぶ僕っ子でお馴染みの空のシルトア、

どうやらとんでもない速度で飛行していたらしく、

先程の衝撃波その余波だったらしい、もはや戦闘機のそれである。


「プリモハ様お久しぶりです」

「シルトア様もお久しぶりです、カンタルに来られるなんてどうかされたのですか?」

「はい、緊急事態のため伝言を伝えに来ました、フルムド伯爵はどちらに?」

「アントル様でしたら穴の中心です」

「ありがとう御座います」


シュバっとシルトアが飛び去った、

砂の巻き上げが少ないのでリテルスとの力量の差が良く分かる。



「すみません、見た目が同じで分かり難いのですがフルムド伯爵はどちらに?」

「僕です…ちょっと待って下さい…」


フルムド伯爵が上半身を脱皮した。


「シルトアさんが何故ここに?」

「情報をお伝えに来ました、至急ダナブルへ帰還して下さい」

「え?」

「カード王より各国に対し緊急宣言が布告されました、

 間もなく魔王が復活します、場所はウルダ近辺です」

「ちょ、ちょっと待って、間もなくってどれくらい!?

 しかもウルダってそんな…どこからそんな情報が?」

「カード王からは誰よりも信頼できる情報者としか聞かされていません、

 ですが各国に伝えるということは確証があるということです」

「そうですけど…」

「復活までの期間は長くても1ヶ月、短ければ1週間以内だそうです、

 発掘作業を中断し至急ダナブルへ帰還して下さい、

 僕はSランク冒険者を全てウルダに集結させなければいけませんのでこれで」

「分かりました」

「失礼します」


シルトアは上空へ浮上しとんでもない速さで飛び去った。


「フルムド伯爵…」

「今の話…」

「落ち着いて、魔王の復活は分かっていたことです、

 だからこそ僕達は出来る限りのことをしてきた、そうでしょう?」

『 はい… 』

「ダナブルへ帰還します、リテルスさん! こちらに来て頂けませんか?」

「ここにいますよ、あたた…風に煽られて落ちてしまいました…」

「怪我を?」

「手を付いた時に腕の骨が少々、回復中ですので時期に治ります、

 いやはや…ははは、あれで人間とは恐ろしいですね…」

「治療中で申し訳ないのですが話を…」

「聞いておりました、盾と手斧をダナブルへ運べば良いのですね」

「お願いします、僕達も今日中にここを発ちますが

 魔王の復活までにダナブルへ辿り着けるかは分かりません、

 ロックフォール伯爵には救援は送らないようにと伝えて下さい」

「送らない、で宜しいのですか?」

「はい、無駄な犠牲が増えるだけです、町の防衛に当てるようにと、

 プリモハちゃんも同じ考えだと思います」

「一応ご本人に確認してからで宜しいですね?」

「構いません、行ってください」

「分かりました、皆さんの無事を祈っております」


希望を抱えたリテルスは空を走り、不安を乗せた馬車は砂漠を渡る、

魔王の復活は確実となり世界を闇が覆い隠そうとしている。


だが誰にも分からない筈の情報はいったい何処からもたらされたのか?

そして各地の動きはどうなっているのか? 松本の行方は如何に?


次回からはその辺りの話を語るとしよう。


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