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272話目【ウルフとシルバ 3】

南区の城門付近の城壁に60人ほどの冒険者が集まっている。


「お集りの皆様、数ある依頼の中から本件を選んで頂きありがとうございます、

 これより清掃に関する詳細をご説明致します」

『 はい~ 』


都市を守る城壁の清掃ということで今回の集団依頼は依頼主はダナブルの役所、

国章持ちリザードマンでお馴染みのダインさんが代表者らしい。


「前回清掃致しました場所から100メートルを目標とします、

 城壁の内側と外側、それと上側を…」

「なぁウルフ、なんかヤベェ奴が沢山いるけどよ、あれ全部冒険者なのか?」

「みてぇだな、なかなか気合入ってるじゃねぇか」

「(気合っていうか拗らせた感じだけどなぁ…)」


頭の上に輪を浮かべ、上裸で羽飾りを背負ったナルシストナイファーとか、

ゴスロリ魔法剣士のお姉さんなどなど、いつも通り色物が揃っている。


「(あの人まだあれ持ってたのか…)」


いつぞやの鎖鎌もとい、オーダーメイド鎖手斧使い(使えない)もいる、

見た目は派手だが全員漏れなくCランク以下の冒険者である。


「ねぇねぇ、皆は今日の報酬で何買うの?」

「私クレープ、苺とクリームをたっぷり入れて貰うの」

「俺は貯めて魔石買う」

「好きだねぇ~次は雷だっけ?」

「風」

「(結構渋めの依頼だけど子供も割といるんだな)」


チビッ子冒険者も10名ほど参加している。


「おいテメェ等、俺はシルバってんだ、あんま舐めてっと…」

「はいそこまで~、俺との約束破るの早すぎ~」

「んだよ、挨拶してるだけだろ、ウルフはいつもこうしてるぜ」

「おう、最初ってのは大切だからよ、ビシッといかねぇと舐められるぜ」

「いや、そういうのが駄目なんですって…」




ダインの説明が終わったので掃除用具支給。


「紋章を確認させて下さい」

「っち、んなもん持ってねぇよ」

「え?」

「すみませんねぇ~態度悪くて、この人は冒険者ではなくてその子の父親です」

「おうこらクソガキ、勝手にしゃしゃり出てんじゃねぇぞ」

「ははは、いつもこんな感じなんですよ~悪気はないので気にしないで下さい」

「はぁ…そうですか…(肩幅広っ)」

「俺にも道具よこしな」

「依頼を受けた方でなければ報酬は出ませんか…」

「テメェ舐めてんのかおぉん?」

「(いや、無理なもんは無理だろ…騒ぎになるから絡むなよもう…)」


ウルフがお姉さんに対し下方向からメンチを切っている。


「そう言われましても規則ですので…(頭に耳付いてる)」

「金の問題じゃねぇ、オヤジとしての面子の問題だ、俺の息子が初めて依頼受けてんだぞ、

 見てるだけなんてダセェマネ…出来るわけねぇだろこらぁ!」

「どうそ」

「おう」

「ひゅ~決まったなウルフ! マジかっけぇぜ!」

「まぁ、こんなもんは俺に掛かれば朝飯前よ」

「おう、今日は朝飯食ったもんな」

「いやそういうことじゃねぇ、簡単だって意味だ」

「「 う~ん… 」」


手に入れたブラシを自慢げに見せるウルフに目を輝かせるシルバ、

恐喝みたいな感じになっているが只の無償ボランティアである、

言動はあれだが悪いことではないので松本とお姉さんが微妙な顔をしている。








全員で城壁の上へ登り東へ移動。


「(城壁の上って結構幅広いんだな、5、いや8メートル位か?

  ってそりゃそうか、城門って10メートル以上あるもんな)」

「うぉぉぉ高ぇ! ヤベェぞウルフ、ヤベェくらい高ぇ!」

「気を付けろよシルバ、油断してっと落ちるぜ、うぉ…」

「皆さんご苦労様様で~す」

「見回りなんで通して下さ~い」


見回りの衛兵がやって来るとウルフが背中を向けた、

大柄な冒険者の後ろに隠れて口笛を吹いている。


「どうしたんだウルフ?」

「なんでもねぇ、気にすんな」

「悪いことしてるわけじゃないんですから堂々としてればいいじゃないですか」

「黙ってろクソガキ、俺は別にビビってねぇ、これはあれだ、

 ただの癖ってヤツだ、いい景色を見るとつい口笛吹いちまうんだよ」

「そうですか(逆に目立つと思うけどなぁ)」

「へぇ~変わってんなウルフ」


何故か小声で変な汗を掻いているが気にしてはいけない。





暫く歩いていると清掃場所に到着、

タイヤが付いた木製昇降機が20台と大量の樽が並べられている。


「(へぇ~これに乗って城壁の側面を掃除するのか、実績あるんだろうけど木造って怖いな)」


この昇降機は大きく分けて人が乗って上下する足場と、足場を支える土台で構成されている、

足場には落下防止用の手摺りが付いており大きさは横3メートル、縦1メートル程、

土台にはタイヤが4つ付いておりゴロゴロと移動させられるようになっている、


モーターや原動機は付属していないため操作は全て手動、

複数の滑車を経由したロープを操作して足場を上下する仕組みである。


「はいはい~動かすから下がってな坊主」

「あ、すみません」


大人の冒険者達が昇降機を町の外側の城壁に移動させ胸壁にピタリと寄せた。


※胸壁とは城壁の上の凸凹したアレ、

 上の通路で活動する人達を守るための壁面のこと、

 現実の城では凹んだ部分から弓を射ったり、

 梯子を掛けて登って来た敵を槍でツンツンしてたとかなんとか。





「(あれ大丈夫なのか? 土台が軽すぎて人が乗るとひっくり返るんじゃ…)」


松本が何を言っているのか分からない方のために説明すると、

現実のクレーンやフォークリフトが重い荷物を持ち上げてもひっくり返らないのは

荷物の反対側に重りが付いるからである、例え重りが付いていても荷物の位置をズラして

バランスが維持できなくなるとひっくり返る、油断は禁物、メッチャ危険。


この昇降機は木製でどう見ても重りに該当する物が見当たらない、

現状では乗った人の重さでひっくり返る可能性が非常に高い、

城壁の高さから昇降機と人が落下するとそれはもう大惨事である。



「外すぞ」

「指挟むなよ」


テコの原理で昇降機を片側ずつ持ち上げ移動用のタイヤを外す、

安定させるためにしっかりと接地させると、空の樽を土台に乗せ水を入れ始めた。


「(なるほどぁ、重りを水で補えば移動が楽になると、魔法あっての考えだな)」


松本の考えつく危険性はちゃんと織り込み済みである、

平均的な大人2人程度なら1つの昇降機に6個の樽で大丈夫らしい、

足りない場合は樽の上に板を乗せもう1段樽を積むことで対処できる、

とは言え、昇降機自体が木製なので強度的な心配が残る、高所作業に油断は禁物である。





「ふむ、明らかに色が違う、ここが前回の掃除の端か」

「そうだよ少年、過去と現在の境界線さ」

「はぁ…」

「ごめんね君、コイツ何言ってるか分からないでしょ」


ナルシストナイファーとゴスロリ姉さんが大量のベルトとロープが積まれた台車を押して来た。


「そこは先週掃除したばかりだから今のところ城壁の中で一番綺麗な場所だね」

「もしかして前回も参加されたんですか?」

「そうだよ、これは約束された依頼なのさ」

「はぁ…予約制の依頼ってことですか?」

「違う違う、この時期になると定期的にある依頼ってこと、

 ちょっともうさ~説明するの面倒だから普通に喋りなよ、それか黙ってて」

「これが普通だよ、なんたって僕は光の戦士なのだから」


ナルシストナイファーが両手を広げると頭上の輪が光った、

どうやら光鉱石が仕込まれており背中から伸びている棒を介してマナを送る仕組みらしい、

光る輪と白い羽のせいで光の戦士というより天使である。


「(ダナブルの冒険者って変な人多いよなぁ…)」

「コイツさ、ヤルエルさんの演劇を見てからこうなんだよね」

「割と最近ですね」

「浅いよね~話が通じないからやめろって言ってんだけどさ」

「…、光よ、僕に闇(否定的な意見)を退ける力を!」

「うわぁ!?」

「眩しっ…」


増した光でナルシストナイファーの顔が白飛びしている。


「人前で全力で光らせるなって言ったじゃん!」 

「ふふふ、何を慌てているんだい? 僕は光の戦士、輝くのは当然じゃないか」

「迷惑だって言ってんでしょうが! 外せこれ、この…眩しっ!」

「ちょっとやめてよ! 折れる、無理に引っ張ったら折れちゃう、結構高かったんだよこれ!」

「知るかぁ!」

「(う~ん…)」


こういう変な装備品はオーダーメイドなのでそこそこお高い、

実用性、防御力共に皆無な背中の羽も無駄にお高い。


ゴスロリ姉さんもどこぞの水魔法が得意なSランク冒険者から

影響を受けたと思われるの非戦闘向け衣装なので似た物同士である。



「1年ごとに1つの城壁を掃除するから結構な頻度で依頼がでるんだよね、

 作業の進み具合によるけど多い時は週5日とか、少ない時で週3日とか、大体4か月くらい続くよ」

「僕の光の輪…シクシク…高かったのに…」

「(ちょっと可哀想…)」


ゴスロリ姉さんの後ろでナルシストナイファーがへたり込んでいる、

激しい攻防の結果、棒の部分がポッキリと折れたらしい。


「お詳しいですね」

「私達は常連だからね、常連過ぎて現場の指揮を任されるようになっちゃった、君は初めて?」

「はい、あそうだ、お~い、シルバ君ちょっと」

「なんだぁ? どうかしたか?」

「この子は今日は冒険者登録したばかりでこれが初依頼なんです、ほら先輩達に挨拶して」

「おう、俺はシルバってんだ、ガキだと思って舐めてっとぶっ飛ばすぜ!」

「あはは…すみません、ちょっとヤンチャな子なんです、

 そういうの駄目だって言ったじゃん、これからお世話になるかもしれないんだよ」

「何言ってんだオメェ?」

「この依頼は週5日とか3日とかの頻度で4か月くらい続くんだって、

 そしてこの人達は現場の指揮を任されてるの、

 シルバ君がまた依頼を受けるならこの人達に合う機会も増えるの、お世話になるの」

「だったら余計に舐められねぇ方がいいだろ、舐められるとヤベェんだぞ」

「うん、取り敢えず舐められるってのは1回忘れよう、今だけでいいから忘れよう、

 絶対仲良くして貰っといた方がいいから、いろいろ親切にしてくれるかもしれないから」

「そうなのか?」

「そうなの!」

「ははは、ちょっと生意気だけど元気なのは良いね、私はシュトーレン、Cランクだよ」

「僕はニッケル、光のCランク戦士ニッケルさ!」

「Dランクの松本です、ほらシルバ君、もう1回やってみて、メンチ切ったら駄目だからね」

「んだよ面倒くせぇな、俺はシルバ、Dランクだ」

「いいよいいよ~最後によろしくお願いしますも付けてみようか」

「よろしくお願いしま~す! これでいいのか?」

「ん~まぁまぁかなシルバ君、依頼主によっては態度が悪いと断られるから気を付けて、

 これシュトレーン姉さんからの忠告、はい握手ね~」

「素敵な出会いに感謝を、分からないことがあったら頼っていいよ、僕が君を光の元へ導いてあげる」

「あ、コイツは話が通じないから私に聞いて」

「お、おう…」

「(っち、クソガキめ…)」


戸惑いながら握手するシルバをウルフは複雑な面持ちで見ていた。


『(光のCランク戦士ってなんだよ…)』


一方、他の冒険者達は謎のパワーワードに困惑していた。









「皆ちゃんとベルト巻いた? 甲冑の上からは滑るから駄目だからね」

『 はい~ 』

「ロープは昇降機じゃなくて城壁に引っ掛けてよ、落ちたら死ぬからね」

『 はい~ 』

「それじゃ作業開始、なにか異常を感じたらすぐに知らせること」

『 はい~ 』


常連のシュトレーンが指揮して昇降機部隊が降下開始。


「ほら離れて、危ないから乗れるのは大人だけなの」

「子供は踏み入ることの許されない禁断の場所なのさ」

『 ブゥ~ 』

「はいはい駄目だって、そんなにブ~ブ~言っても駄目~ダインさ~ん!」

『 ブゥ~ 』

「子供達は危ないから駄目です」

「はい下がってね~、あれは大きくなってからね~」


現場監督に抗議する子供達はダイン達によって排除された。


「シルバ君は乗りたくないの?」

「だってロープ切れたらヤベェじゃん」

「馬鹿かテメェ、死にてぇのかクソガキ」


ヤンチャでもその辺りは堅実らしい。


「シュトレーンさん、俺達より低い位置になりますけど水流して大丈夫ですか?」

「凄い勢いで流さない限りは大丈夫だよ、この穴から外に出て城壁を伝ってくから」

「了解です」

「それじゃ上の掃除よろしくね~」

「僕達の再会は必然、涙は不要なのさ」


右手を掲げたシュトレーンとニッケルは降下を始め、

最終的に親指を立ててゆっくりと視界から消えた。


「(え? ターミ〇ーター?)」



現在は20台の昇降機が外側の城壁に並んでいる、

1つの足場が3メートル、そこからブラシを伸ばして左右に1メートル掃除すれば、

1台の昇降機で掃除出来る幅は5メートル、20台並んでいるので合計100メートル、

今回の目標である100メートルに丁度達しているので1度の降下で外側の掃除は終わり、

上って来たら昇降機を移動させて内側の城壁も掃除する流れである。






「おいおいシルバ、残った半分はガキだぜ」

「舐められるわけにはいかねぇ、やろうぜウルフ!」

「おうよ!」

「「 うぉぉぉ! 」」

「あ、1回水流してからの方がいいですよ、乾いてると掃除し難いですし埃が舞うんで」

「うるせぇ!」

「わかってんならさっさとやれやクソガキィ!」

「はいはい」


そんな感じで上側部隊も掃除が開始され…


「はぁ…はぁ…キチィ…」

「弱音吐くんじゃねぇ…はぁ…はぁ…舐められるぜ…はぁ…」

「(そりゃ真面に食べないんじゃこうなるよなぁ…)」


10分もしない内にシルバとウルフは力尽きた。


「無理しない程度に行きましょう、集団依頼は皆で1つの目標を達成するものです、

 誰が足りない分は他の誰かが補う、少しくらい周りを頼っていいんですよ」

「(クソガキ…)らしいぜシルバ」

「ってことは何もしなくても金貰えんのか? やったなウルフ!」

「うん、そういうことじゃないからね、何もしなかったらお金貰えないから、

 ヤルエルさんの加点と減点の説明思い出して」


役所の人達が目を光らせています。





「ほっほっほ…」

「なぁウルフ、アイツヤベェよ、全然休まねぇしヤベェくらい早ぇ」

「他の奴等の倍くらい動いてんじゃねぇか? なんなんだあのクソガキは…」


みたいなことや。


「屈んで何やってんだオメェ、ウンコか?」

「排水穴が詰まってるから棒で突いて解消させようとしてるの、

 ここだけ水溜まってるでしょ、多分もう少しだと思うんだけど…」

「どけクソガキ、こういうのは気合で何とかすんだよ、俺が手本を見せてやる」

「え? じゃぁ、はい」

「頼むぜウルフ!」

「おう、行くぜぇ! おるぁぁ!」

「お、通ったみたいですね」

「たりめぇだ、俺はやると決めたらやる男なんだよ」

「うぉぉぉ! やっぱウルフはカッケェな!」

「うわぁぁ!? なんか泥が降って来た!?」

「ちょっとやだぁ!? 口に入ったんだけどぉぉ!?」

「「「 あ… 」」」


みたいなことがありながも掃除は進み、

城壁の上側は昇降機の設置場所を残すだけとなった。


「いや~人数が多いから早く終わりましたね」

「(半分くらいクソガキがやったんじゃねぇか?)」

「(化物かよ…)」

 

水も流さないといけないのでマナ的にも体力的にもチビッ子達には大変な仕事、

足りない分は他の人が補うということで大人達と松本が奮闘した。


水で流す役は慣れている魔法職の人に任せて

松本はブラシを担当し全体の約1/4をゴシゴシしたそうな、適材適所である。



昇降機部隊も外側の城壁の掃除が完了したので設置場所をズラして2度目の降下を開始、

上側を担当していた者達は数名を残して下に降り、

昇降機部隊が残した地面から2メートル程の側面の掃除を始めた。


「上より苔が多いな、この辺りは日当たり悪いのか?」

「お、見ろよシルバ、スライムがいるぜ」

「コイツ旨そうだよな、食えねぇのか?」

「俺は昔食ったぜ、腹減り過ぎて仕方なくだけどな」

「マジかよヤベェなウルフ、旨かったか?」

「ヤベェくらいマジィ」

「マジかよ、魔法の粉の肉味とどっちがマズイんだ?」

「あ~どうだろうな? 俺は肉味飲んでねぇから分からねぇけど、スライムは土の味がしたな、

 腹壊すから絶対に食うんじゃねぇぞ、マジヤベェからな、下手したら死ぬぜ」

「お、おう、ヤベェんだなスライム」

「(なんちゅう会話や…悲し過ぎるだろ…)」


松本は苔を落としながら背中で泣いた。





依頼を終えた3人はギルドに戻って来た。


「ヤベェ…見てくれウルフ、ちゃんと銀色が25枚あるぜ、これ俺の金だってよ」

「おう、やったじゃねぇか、ヤベェ奴に取られねぇようにしまっとけ、

 クソガキはいくら貰ったんだよ」

「俺は35シルバーですね、10シルバーも追加で貰えるのは珍しいです」

「(そりゃあんだけやってりゃなぁ…)」

「(あんま羨ましくねぇ…)」


頑張った人が加点される実例を見せてやる気を促そうとしたのだが反応はイマイチ、

何事もやり過ぎは駄目である。


「なぁ何買う? ウルフは何が欲しいんだ?」

「馬鹿野郎、コイツはなシルバ、オメェが汗かいて必死に稼いだ金だ、

 俺のことなんて考えんな、全部オメェのためだけに使え、好きなもんを好きなだけ買えばいいんだよ」

「おう、ウルフは何が欲しいんだ? 肉だろ? 肉買おうぜ!」

「おぉん? 話聞いてたかシルバ?」

「聞いてたぜ、だから俺の好きに使うんだ」

「お、おう? おん? いいかシルバ、その金はだな…」

「あ~おほん、お金の使い道は取り合えず置いておいて、

 昼飯にしませんか? もう1時過ぎてますし2人共お腹減った…」

「あ? 昼飯なんていつも食ってねぇよ、舐めてっとぶっ飛ばすぜ!」

「うるせぇぞクソガキィ! 今息子と大事な話をしてんだろうが!

 どうしても食いてぇってんならテメェだけ勝手に食えクソがっ!」

「(昼飯に親でも殺されたんか…)」


昼飯を提案しただけなのにメッチャ切れられた。


「そんなに怒らなくてもいいじゃないですか、ほらこれ、

 俺が朝用意して来た昼飯です、ちゃんと3人分ありますよ」

「朝飯食わせてくれたのに昼飯も食わせてくれんのか? オメェ良い奴だな」

「おいシルバ、タダ飯食わせる奴は良い奴なんかじゃねぇ、マジでヤベェ奴だ、絶対に信じるんじゃねぇぞ」

「はいはい、俺のことは信じなくていいですから、座って食べましょ」


ギルド内の椅子に座って昼食。


「旨ぇなウルフ」

「まぁな」

「どうしたんだ? なんか元気ねぇな、そんなんじゃ舐められるぜ?」

「なぁシルバ、オメェ今幸せか?」

「おう、旨ぇ」

「そうじゃねぇよ、幸せかって聞いてんだ」

「よく分かんねぇな、幸せってなんだ?」

「嬉しいとか楽しいとか、旨ぇとか気持ちいいとか、そんなんがヤベェくらい続くことだ」

「そうなのか? ウルフはなんでも知ってんな」

「…んなことねぇよ、それよりどうだ? 幸せか?」

「幸せだ、今日は朝飯も昼飯も食っただろ、依頼は楽しかったし、金を手に入れた、

 これがヤベェくらい続くといいな」

「そうか、良かったな」

「やめろよ、食いずれぇって」

「おらおらおら」

「やめろって、へへへへ…」


頭を鷲掴みにしてワシャワシャするウルフ、

撫でるというには少々乱暴だがシルバは楽しそうである。


「(いいよねぇ~こういうの))」


ソーセージサンドを齧りながら松本はほんわかした顔で2人を見ていた。


「シルバ君これからどうする? 時間的にはもう1個くらい依頼を受けられるけど」

「今日は疲れたしもういいや、それより店に行きてぇ!」

「店って何の?」

「飯とかいろいろだ、金でなんか買いてぇ!」








てなわけで、大通りから少し離れた庶民的な店のある通りにやって来た。


「今後のこともあるから1度に全部使わない方がいいよ」

「黙ってろクソガキ、好きなもん買えシルバ、

 無くなってもまた稼げばいい、オメェにはそれが出来んだからよ」

「おう!」


シルバは食パン1斤と卵10個とハム1塊を購入した。


「食いもんばっかじゃねぇか」

「いいじゃないですか堅実で、シルバ君はしっかりしてますよ」

「ったりめぇだクソガキ、俺の息子を舐めんじゃねぇ」

「残りはシルバー7枚とブロンズが…え~と22枚か、くっそ~服って高ぇんだな、全然買えねぇ」

「ははは、また依頼を受ければ買えるよ」

「でもよ~依頼受ける時って綺麗にしとかねぇといけねぇんだろ? 

 なぁ、この服もうちょっと借りてていいか? 毎日洗ったら乾かねぇよ」

「っけ、どうせ汚れんだ、気にすんじゃねぇシルバ」

「今日みたいな掃除の依頼ならそれでもいいですけど、食べ物を扱う依頼だと絶対駄目です、

 どんな依頼があるかはその日次第ですし、清潔感があった方が依頼主に好印象なんで

 いつも綺麗にしといた方が間違いはないですよ、

 でも偉い! シルバ君は偉い! 俺の言ったことちゃんと覚えてて偉ぁぁい!」

「「 … 」」

「オメェはヤベェなクソガキ…」

「急にデケェ声出すよ…怖ぇよ…」

「ぬぅぅん…俺は今猛烈に感動しているぅぅ!」


拳を握り締め松本がプルプルしている。


「そして偉いシルバ君にはその服をあげちゃう」

「マジでか! オメェいいヤツだな、やっぱ金持ちなのか?」

「違うって…焦らなくていいからさ、頑張ろう」

「おう! ん? おぉ! 俺ちょっとあの店に行って来る!」


シルバは向かいの雑貨店に走って行った。


「なんか欲しい物でもあったんですかね?」

「さぁな、おいクソガキ、いや…マツモト」

「えぇ!? (遂に俺の名前を…)」

「なんだその顔は? ビビってんのか?」

「いや、まぁ…ある意味ビビってると言いますか」

「それよりマジな話をしようぜ、1度しか言わねぇからよく聞きやがれ」

「はい」

「…今日はありがとな」


照れくさそうに目線を逸らして頬をポリポリしている。


「いえ、気にしないで下さい、でもどうしたんですか急に? 似合わないですよ」

「うるせぇ! いいか、テメェのことはまだ信用してねぇ、

 タダ飯を食わす奴はヤベェ、これはマジだ、俺はこの考えを曲げる気はねぇ」

「無理に変える必要はないですよ」

「まだ俺の話は終わってねぇぞ、黙って聞きやがれ」

「…」

「シルバは今日1日で色んなもんを手に入れた、金、金の稼ぎ方、冒険者の知り合い、

 全部俺じゃ与えてやれねぇもんばっかだ、だからよ、そこはマジで感謝してんだ」

「少しでも力になれて良かったです」

「テメェはガキのくせにスゲェな、それに比べて俺は碌なことを教えてやれねぇ、

 与えてやれるもんなんて…マジでよ…」

「良くないですよ~そういの、シルバ君の父親としてもっと胸張って下さい、

 因みに、俺はウルフさんのこと凄いと思ってます」

「っは、嫌味にしか聞こえねぇっての」

「本当なんですけどねぇ、もっと信用してくれてもいいんですよ?」

「ふざけんなクソガキ、タダ飯食わす奴はヤベェって言ってんだろうが、

 やっぱテメェ俺を舐めてんな、おぉん!」

「お、舐められたのかウルフ? ヤベェぜそれ」

「なんでもねぇよ、それよりシルバ、買い物は終わりか?」

「おう」

「そうか…なら、ちょっと付いて来な、丁度いい機会だからよ、

 オメェに見せとかねぇといけねぇもんあるんだ」


真剣な顔のウルフはシルバと松本を引き連れて行った。






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