271話目【ウルフとシルバ 2】
「はい注目~! カットウェル衛兵長から皆に緑の角瓶のお裾分けよ~!」
『 おぉ~! 』
「そんなに無駄使いして大丈夫なんですか衛兵長?」
「ははは、彼女からたまにはお店にお金を落とせと言われててね、
日頃頑張ってくれている君達への感謝の意味もある、
さぁ、代金は俺が出すから好きなだけ飲んでくれ」
『 あざっす! 』
「いや~ん、彼女想いの彼って素敵、ノルが羨ましいわ~ん」
「いやいやモジャヨさん、これは部下想いってやつですよ、カットウェル衛兵長最高~!」
『 最高~! 』
「今から各テーブルに持ってくぴょん、皆感謝して飲むぴょんよ~!」」
『 カットウェル! カットウェル! カットウェル! 』
カットウェル衛兵長の計らいで非番の衛兵達と一般客が大盛り上がり中である。
「パローラママとラヴさんも飲んで下さいね」
「ありがとうカットウェル衛兵長、頂くわ」
「ノルが来たらちゃんと伝えておくぴょん」
パローラとラヴがグラスを掲げて挨拶していると
裏から酒抜きスープの具(貝)とパンを持った松本が出て来た。
「まだ早い時間なのに盛りあがってますね~」
「彼が来る時は大体こうよ、16時位から他の場所で始めてここが最後、
22時には解散して明日の仕事に備えるの」
「部下を纏める立場は大変ぴょんねぇ~」
「へぇ~(良い上司だな)」
「ラヴ、緑の角瓶の料金は半分にしといて」
「わかったぴょん」
「(こっちは良いママだな)」
松本は慣れた様子でカウンターの内側に着席。
「はい、オマツはモモ茶よ」
「今日は俺もお酒が欲しい気分なんですけど」
「はいはい、大人になってからね、ちゃんとお礼を言いなさい」
「カットウェル衛兵長、ありがとう御座います~!」
「ははは、元気そうだな少年」
グラスを掲げると笑顔で手を振ってくれた。
「少し凄まれたからって自分から殴りかかるのは感心しないわね、
いくらオマツが鍛えてても相手は大人よ、大怪我をしてたかもしれないわ」
「ご心配をお掛けしたようで、すみませんでした」
「オマツが力を誇示したり、不用意に暴力を振るう人間じゃないのは知ってるつもりよ、
何がそんなに気に食わなかったのかしら?」
「いろいろです、いろいろですよ、子供に恐喝を教えたり、暴力を推奨したり、
んもう…思い出したらイライラして来た…モグモグ…」
「そんなにヤケになるなんて相当みたいね」
「一番許せないのはこれですよ」
「どれ?」
「これ」
「あら、味が染みてて美味しいわ」
パローラの鼻先にフォークに刺さった貝を刺しだすと食べられた。
「あのウルフって父親もそうでしたけどシルバって子供も痩せてました、
パンが夜飯だって言ってましたし、ちゃんと食べさせてないんですよ、
体が不自由で働けないとか、森の中で食べ物がないとか、
そういうどうしようもない状況なら仕方ないですよ、
でも違うじゃないですか、ここは町で食べ物はいくらでもあって、
子供の俺ですら食うに困らない位はお金を稼げてます」
「そうね」
「自分1人なら別に何したっていいですよ、責任と結果さえ背負えばですけど、
どうやって生きようが死のうが自由、好きな事だけやってればいいです、
でも子供がいるならちゃんとやらないと駄目じゃないですか、
護ってあげて、食べさせてあげて、教えてあげて、それが普通です、当たり前の親ってヤツです、
何が舐められるなだっての、ふざけんじゃないよ全く…モグモグ…」
「普通、普通ね、オマツの言うことは正しいわ、
でも普通ってのは意外と贅沢なものなのよ、その普通に手が届かな人も沢山いるの」
「確かに…、でもなぁ~どうしても許せないんですよね~、
自分の子供を大切に出来ない人とは合い慣れないというか、
見てみぬふりしか出来ない自分が腹立たしいというか、
それを強要する社会が憎いというか、まぁ只の愚痴になちゃうんですけど」
「優しいのね、優し過ぎて報われないタイプ、
そういうのは深く考えない方がいいわ、でないといつか自分が壊れちゃう」
「パローラママの経験談ですか?」
「私は弱いから直ぐに受け入れたわ、世の中どうしようもないことがあるって」
「俺もです、こんな青臭い正義感、はぁ…独りよがりだって分かってはいるんですけどね~、
子供も育てたことが無いヤツが何言ってんだって、怒られちゃいますよね、ははは」
「…」
「どうかしましたか?」
「オマツって本当は同い年なんじゃないの?
なんだか私生活で疲れきったオジサンと話してる感じがするわ」
「あははは…ピチピチの8歳児捕まえて何言ってるんですか、どうぞ」
「遠慮しとくわ、お酒にパンは合わないの」
言葉のセレクトがオジサンのそれである、
半分に千切った食パンは残念ながら拒否された。
「あの親子は普通から溢れちゃった側、いろいろと必死なのよ」
「何か知ってるんですか?」
「全部ね、子供の方はすぐに調べられたけど、
父親がちょっと特殊で時間が掛かっちゃったわ、知りたい?」
「知りたいです」
「知ってどうする気?」
「わかりませんけど、あのままじゃ良くないので、聞いてから考えるじゃ駄目ですか?」
「そうねぇ~どうしようかしらねぇ~」
「パローラママ今日は一段と綺麗ですね、肌の張りが凄い、
あれ? 髪型変えました? 似合ってますよ~淑やかな大人の色気を感じる」
「あら本当~可愛いオマツだから特別に教えてあげようかしら、髪型は変えて無いけど」
「いぇ~い、パローラママ最高~」
「はいはい、茶化さないの、父親の本名はアサリよ」
「へぇ~ウルフは偽名だったんですか」
「最近名乗り始めたらしいわ、アサリは私が見つけてあげられなかった可哀相な子供、
ジェリコとニコルとラッチのお兄さんみたいな感じね」
「ん? それはどういう…」
「は~い! 皆~注目~!」
モジャヨが右手を上げて勢い良く立ち上がった。
「カットウェル衛兵長が歌をご所望よ~! 準備して~!」
「「「 は~い! 」」」
モジャヨ、アゴミ、パーコ、オタマがステージに上がりライトアップ、
流れるメロディに合わせお客達が手拍子を鳴らす。
「私は知っている、言葉にするのは簡単だけど…」
『 ひゅ~ 』
オネェ4人組バンド『センシティブ・新世界』が贈る待望のシングル、
『~私らしく、愛~』は西区の大通りにある水晶玉専門店で販売中です。
「その時からずっとですか?」
「そういう人もたまにいるのよ、ここまで長いのは珍しいけど…」
松本とパローラの秘密の会話は渦巻く熱気の夜に溶けて行った。
そして翌朝、色物街のとある家。
「んごご…」
「すぴぴ…」
埃っぽい屋内の床でウルフとシルバが寝息を立てている、
古ぼけたテーブルの上にウルフの上着とボロボロの鞄が1つ置かれており、
その上に半分のパンが乗っている。
備え付けの棚には何もなく、天井には光輝石のライトもない、
閑散としており生活感が全く感じられないので、
誰も住んでいない空き家に勝手に入り込んで寝床にしているっぽい。
「んごご…」
「すぴぴ…」
「ぐぎゅぅぅ…」
寝息に合わせてウルフの腹の虫が鳴いた。
「んご…んあ? あぁ…ん? ふぁぁ~…起きろシルバ、朝だぜ」
「ぐぅぅ…」
今度はシルバの腹の虫が鳴いた。
「ったく、どんな返事の仕方だ、ほら起きろって」
「んあ? どうしたウルフ?」
「(寝ぼけててもオヤジとは呼ばねぇか…)朝だぜシルバ」
「へへっ、へへへ」
「おいおいどうした? 何かいい夢でも見たのか?」
「なんでもねぇ、気にすんな」
「そうか、顔洗おうぜ」
「おう!」
台所に移動して水魔法で顔を洗い寝癖を整える。
「うは~サッパリだぜ、ウルフは髪長くて大変そうだな」
「いつものことだから慣れたもんよ、こうやって櫛でササッとな、どうよ?」
「最高! くぅ~格好いいぜ!」
「ふふん、だろ?」
「ところでよ、その櫛に塗ってるのは何なんだ?」
「果物の種から作った油に花の煮汁を混ぜたヤツだ、
これ塗ると髪がツヤツヤになってビシッと決まるんだよ」
「へぇ~それ花の匂いだったのか、誰かから取ったのか?」
「いや、自分て作った、こういうのはマジ高けぇんだ、
使ってるのは劇場に行くような金持ち達で…」
「じゃぁ売れば金になるのか?」
「あのな~シルバ、昨日言ったけどよ、取った物を売るのはヤベェんだぜ、
高くは売れねぇし、買うヤツ等に舐められてヤベェことになる、
そうなったらオメェ、マジでヤベェんだぞ、衛兵に捕まるよりもヤベェんだ」
「お、おう、わかった」
「本当か? 取っていいのは?」
「生きるのに必要な物だけだろ、分かったって…」
「ははは、拗ねるなよ、ほら飯にしようぜ」
「おう!」
自慢のウルフヘアーを維持する整髪料は自作らしい。
『ウルフの自家製整髪料の作り方』
・その辺の飲食店のゴミから果物の種を搔き集め洗って乾燥させる。
・殻がある種は剥いて中身を出す。
・細かく砕いて蒸す。
・蒸した粉砕種を布で絞ると種油の完成。
・劇場裏のゴミ箱から花を搔き集めて洗う。
・花を煮詰めて煮汁を作る。
・種油と煮汁を混ぜると整髪料の完成。
※種油がメインなので煮汁を入れ過ぎないようにしましょう。
香り付け程度なら数滴で十分、比率でセット力が変わるので用途に合わせて要調整。
※その時に集められた材料で品質が大きく変化します、
可能であれば材料を厳選しましょう。
「なぁウルフ、本当にパン食べないのか?」
「必要ねぇよ、夜飯はまた取って来てやっから全部食っちまえ」
「でもよぉ…昨日の夜も俺しか食べてないぜ?」
「っは、俺くらい強さになると3日間飯を食わなくても問題ねぇ、
シルバーウルフだって毎日飯が食えるわけじゃねぇんだぜ」
「そうなのか?」
「おうよ、自然ってのはマジでヤベェんだ」
半分のパンを巡ってそんな会話をしていると扉がノックされた。
「ウ、ウルフ…」
「っち、無視だ無視、静かにしとけばそのうち帰る」
「でもよ…さっきより強く叩いてるぜ…」
「気にすんな、直ぐに開けねぇってことは持ち主じゃねぇってことだ、
隣のヤツが様子を見に来たんだろ」
「あ、止まった」
「な? 言った通りだろ?」
「スゲェやウルフ、何でも知ってんだな」
「ま、こういうのは慣れっこよ、俺が何年こうして…」
自慢げなウルフを他所にガチャリと鍵が開いた。
「「 ん? 」」
「ふぅぅ…」
扉を軋ませながら現れたのは棍棒を担いだ小さなシルエット、
朝日を背負う影の中で2つの狂気渦巻いており、
顔が見えなくともあからさまに存在を示唆している。
「あば…あばばば…」
「テテテテメェこらクソガキィ!? 何しに来やがった? 朝っぱらからカチコミかおぉん!?」
「ついてこい…」
「ひぃっ…」
「なに人の息子をビビらせてんだこらぁ! 詫び入れろおらぁ!」
「ふぅぅ…いいから大人しくついてこい…」
「うるせぇ! 誰がテメェの言うことなんぞ…」
「ふんっ!」
狂王が棍棒を振り下ろすと部屋中の埃が吹き飛んだ。
「ついてこい…」
「「 はい… 」」
ウルフとシルバは大人しくついて行った。
3人はオカマ荘の隣の2軒隣の家にやって来た。
「入れ…」
「「 はい… 」」
「おい、お前達に一番足りない物は何だ?」
「金…」
「圧倒的な力…」
「違うだろ…常識…倫理…他者を思いやる心…その他諸々…」
「「 … 」」
「だが一番足りていないのは…そう! タンパク質だろうが!」
「「 …は? 」」
「お金を稼ぐために必要な物は何だ? 健康な肉体、つまりはタンパク質だ!
圧倒的な力のために必要な物は何だ? 筋肉、つまりはタンパク質だ!
常識も倫理も思いやりもその他全てに必要な物はタンパク質だろうが!」
「「 … 」」
「君達に今一番必要な物は?」
「「 タンパク質… 」」
「はい、良く出来ました、ということで朝食を食べます、椅子に座って下さい」
「(うぉ…なんだコイツ…)」
「(ヤベェ…マジヤベェよ…)」
急に元に戻った松本に2人が戸惑っている。
ソーセージと卵をササっと焼いて皿に乗せ、
あらかじめ準備してあったトマトとレタスのサラダと一緒にテーブルへ、
1センチ幅に切ったフランスパン中央に置けばほぼ準備完了。
「旨そうだなウルフ! これ食っていいのか?」
「駄目だ、絶対に手を付けんなよシルバ」
「え~なんでだよ、旨そうだぜ、それにウルフの分もあるしよ」
「怪しいだろ、クソガキが俺達に飯を食わせる理由なんてねぇ、
いいかシルバ、タダで飯を食わせてやるってヤツが一番ヤベェんだ、絶対に信用すんな」
「別に何も企んでないですよ、はいこれで最後です」
「なんだこれ? コーヒーか? 俺まだ9歳だぞ」
「タンパク質が沢山入ってる凄い飲み物だよ、
ビタミンとか他の栄養も含まれてるから君達にこそオススメの商品、
光筋教団で売ってるこの魔法の粉を水に溶かしたヤツね」
「チョコ味なのか?」
「これはね、こっちは肉味」
「肉!? 俺肉味が飲みてぇ!」
「凄くマズイから止めといた方がいいよ」
「何言ってんだお前、肉がマズいはずないだろ、だって肉だぜ」
「はい、じゃちょとこれ飲んでみて、俺の肉味だから」
「マジかよ、うひょ~!」
「おいシルバ聞いてんのか? タダ飯は…」
「おぇぇ…気持ち悪…飲む肉マズイ…」
1口飲んだシルバが絶望的な顔をしている。
「おいおい大丈夫かシルバ!? 吐け、吐き出せ!
テメェクソガキ、人の息子に何飲ませてんだこらぁ!」
「肉味です」
光筋教団員の中でも肉味を選ぶ者は極僅か、常人には到底受け付けられない代物である。
「さぁ、冷める前に食べましょう」
「食おうぜウルフ! な! 俺食いてぇよ!」
「っち、仕方ねぇな…」
ウルフが渋っているが朝食スタート、
因みに、サラダは1人1皿、ソーセージは1人4本、
目玉焼きは1人1個、パンは取り放題である。
「美味しいかねウルフ君?」
「旨ぇ! 肉旨ぇ! やっぱ肉は飲むもんじゃねぇな」
「それはなりより、野菜もちゃんと食べるように」
「トマト旨ぇ! 久しぶりに食べたぜ!」
「俺が言うのもなんだけど食事は大事だよ、人の体ってのは食べた物で作られるからね、
特に子供の頃の食事は成長に大きく関わってくる、
魔法の粉を1袋あげるから1日3食飲むといいよ」
「肉味はいらねぇ…」
「いやチョコ味だから、安心して」
「マジかよ、やったぜ! なんだオメェもしかして意外といいヤツなのか?」
「おいシルバ、マジでよく聞け、マジヤベェくらい大切なことを言うぜ」
「おう!」
「タダ飯を食わせるヤツを信じるな、舐められるぜマジで、
シルバ、マジだぜ、絶対に信じるんじゃねぇ」
「お、おう、分かったぜウルフ…」
「…」
あまりにも真剣な目で凄まれシルバが少し委縮した、
そんな姿を松本は悲しそうな目で見ていた。
「おほん、え~シルバ君、君お金を稼ぎたくはないかね?」
「おいクソガキィ…表に出ろや…」
「お、おい…ウルフどうしたんだよ…怖ぇよ…」
「落ち着いて下さい、別に悪いことさせようとは思ってませんよ、
冒険者として依頼をこなせば子供でもちゃんとお金を稼げるって話です、
実際に俺は両親がいませんけど自分で生活費を稼いでます」
「…、テメェ…マジなのか?」
「マジです、2軒隣に大きな家あったじゃないですか、そこの1室を借りて住んでます、
俺は他の人より多く依頼をこなしてるから参考になりませんけど、
昨日の稼ぎは74シルバーでした、普通の子供でも20シルバーくらいは稼げる筈です、
このパンは1本で大体3シルバーとかで売ってます、ソーセージは10個で6シルバーでした、
贅沢は出来ませんけど1日に20シルバー稼げばご飯が食べられます」
「74シルバーって凄ぇ! オメェ金持ちだったのか!」
「いや、お金持ちじゃないからね、財布の中身スカスカだから、
そんなにキラキラした目で見るの止めてシルバ君…」
キラキラが松本に刺さっている。
「シルバ君冒険者やる?」
「やりてぇ! 俺も金稼ぎてぇ! 金稼げたらもっと飯食えるぜウルフ!」
「お、おう…そうだな」
「でも冒険者になるには登録料と紋章代が必要なんだよね、2ゴールド」
「んだよ、金が必要なのかよ、持ってねぇよそんな大金、クソがっ」
「君が本当にやりたいなら、真剣に依頼をこなして真面目にお金を稼ぎたいなら、俺が出すよ」
「マジか!? いいのか!? 2ゴールドだぜ!? 2ゴールドって言ったらオメェ、
凄ぇ大金だぜ!? 好きなだけ肉買えるんだぜ!?」
「(肉かぁ、子供ってこういう例えが可愛いんだよなぁ)
その代わり今後は他の子供達に突っかかるの止めること」
「おう! 約束するぜ! ウルフも一緒にやろうぜ冒険者!」
「いや…俺は…」
「今回はシルバ君だけね、俺お金無いから」
「え? そうなのか? 金持ちじゃないのか?」
「違うからね、2ゴールドギリギリだから、俺も結構カツカツだから」
2ゴールド消費すると松本の財布の中身は
数枚のシルバー硬貨とブロンズ硬貨しか残りません。
「依頼によっては清潔感が大事だからさ、食べ終わったら体洗って服着替えて来てよ」
「俺服これしか持ってねぇぞ」
「着替えは俺の服用意してあるから使って」
「わかった、楽しみだぜ~!」
食事を終えシルバは風呂(水)に向かい、松本は皿を洗っている。
「おいクソガキ、マジな話しようぜ」
少し低めのトーンでウルフが話しかけて来た。
「一体何が目的だ? 俺達に飯を食わせて、
その上シルバに金を渡してテメェに何の得がある?」
「信用できませんか」
「ったりめぇだ! 俺はタダ飯を食わせるような奴が嫌いなんだよ、
人の弱みに付け込んで助ける振りして利用する、マジでクソだぜ」
「この家、変だと思いませんか? 誰も住んでないのに掃除が行き届いてて
食器とランプがあって食べ物がある、実は2階には布団が2つあるんですよ」
「おいこら、なんの話してんだ?」
「ある人から頼まれて昨日俺が掃除して運び込みました、
食器とか布団はその人がウルフさん達のために用意していた物です、
俺がご飯を食べさせてシルバ君の費用を負担するのも同じ理由、単純に応援したいからですよ」
「ますます信用出来ねぇ、舐めんじゃねぇぞクソガキ」
「俺はクソガキじゃなくて松本です、そしてウルフさんはアサリさんでしょ」
「な…」
「そしてシルバ君の本当の名前はナス君、その人から全部聞きました、
ウルフさんがタダ飯を食べさせる人を嫌いに理由も、
冒険者になれない理由も知ってます」
「ぅ…」
「安心して下さい、俺はウルフさんをどうこうしようって気はありません、
真実を話せなんて言いませんし、俺のことも信用しなくていいです、
でもシルバ君にはお金を稼ぐ方法は必要な筈です、違いますか?」
「まぁな…」
「今日のところはウルフさんが教えてあげられない部分の手助けということで、
割り切って付き合って下さいよ」
「っち…仕方ねぇな、だがこれだけは言っておくぜ、
シルバに何かしようってんならマジで許さねぇ、俺が全力でぶっ潰す、分かったかクソガキ」
「いや、そこは松本って呼ぶところでしょ」
「うるせぇ、調子こいてんじゃねぇぞ」
「あとやっぱりそれ肩パットだったんですね」
「違ぇって言ってんだろクソガキィ! やっぱりテメェ俺のこと舐めてんなおぉん!?」
「(そんなに指摘されたくないのか…)」
「お? ウルフ舐められてんのか? ヤベェだろそれ」
「おうよ、見てなシルバ、今からこのクソガキに分からせてやるからよぉ」
「そういうのはまた今度にして下さい、依頼は争奪戦なんですから、
シルバ君は早く服着て、出発するよ~」
「おう!」
昼飯のソーセージサンドを鞄に詰めてギルドへ移動。
「ようこそギルドへ! 歓迎するよチビッ子冒険者!
冒険者とは自由都市ダナブルで最も自由な職業ほにゃらら~」
赤い羽根の付いた兜を被ったヤルエルから
テンション高めな説明を受けシルバの冒険者登録が完了した。
「なぁウルフ、冒険者って魔物と戦ったりするんだろ? ってことは強ぇのか?」
「まぁな、俺程とは言わねぇがそこそこ強ぇ、気ぃ抜くと舐められるぜ」
「マジかよヤベェな、ってことはあれだな、マジヤベェんだな!」
「おうよ、どの依頼を受けるかで上か下かが来まる、
記念すべき1発目だ、気合入れてビシッと行けシルバ!」
「おう! 俺はこれにするぜ! 12ゴールド貰えるヤツ! どうだヤベェだろ!」
「うん、ヤバいね、確実に死ぬね、Aランク以上の討伐依頼だからねそれ」
ヒュドラ討伐の依頼書だった。
「俺達が今日受ける依頼はこれです」
「あぁん? 城壁の掃除?」
「ふざけんなよ! こんなん受けたら舐められるだろ!」
「俺達はDランクで子供だから受けられる依頼は限られてるの、
これなら集団依頼だから2人で一緒に受けられるし、報酬も3時間で25シルバーだよ、
あと依頼に舐められるとかないからね」
「嫌だ、俺は強ぇから討伐依頼を受ける、掃除なんてやってられっかよ」
「おん? 君強いのかい? 俺にも勝てないシルバ君が強いのかい? ほ~ん…
オジサンそういう無茶は好きじゃないなぁ~、
あんまり命を粗末にするようなこと言うと狂王呼ぶよ? 話しする? 狂王と?」
「あばば…掃除します…怖い…やめて…」
「(コイツの目はヤベェ…マジでヤベェな…)」
松本の理路整然とした説得により集団依頼を受けることになった。




