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270話目【ウルフとシルバ 1】


11時30分、ダナブルのギルド、

依頼を終えた松本が受付にやって来た。


「これ完了の印です、お願いします~」

「どれどれ、お、高評価だ、追加の報酬が出るよ~、

 基本報酬の27シルバーと追加が3シルバーで合計30シルバー、確認して」

「はい~」

「君みたいに頑張ってくれる人が居るとギルドの評判も上がるからさ、

 次もこの調子で頑張ってね」

「頑張ります~」


なんて会話をしつつも受付を離れて再び掲示板の前へと移動。


「(お、朝よりも新しい依頼が増えてるな、建築資材の運搬と運び入れ、

  1時間10シルバーか、体鍛えられそうだしアリだな、よし)」


依頼書を剥がして先程とは別の受付へ。


「すみません、この依頼受けたいんですけど」

「え? 君さっき依頼終わったばかりだよね? また受けるの?」

「はい、お願いします」

「いいけど…あまり無理しないでよ、子供なんだし、はいこれ詳細ね」

「有難う御座います~、ふむ、南東地区か、今から行けば13時からイケるな」

「もう直ぐお昼だしご飯食べてから行けば? そこの売店で買えるよ」

「ふふふ、その必要はありません、俺にはこれがありますんで」

「あそう…」

「ふふふふふ」


自家製卵サンド(薄ハム入り)2個を自慢げに見せつけて松本は去って行った。


「ここで新人の受付を狙うとは、流石に手慣れてるなぁマツモト君は」

「なんのことですかヤルエルさん?」

「これ見てよ」

「受付記録? え!? 3日で5件も依頼受けてる…」

「同じ人のところに行くと止められるってわかってるから避けたんだよ、

 因みに僕は昨日と一昨日対応したから朝から避けられてる」

「な、なんて姑息な…ギルド長~今からでも止めた方がいいですか?」

「確かウルダでもそんな感じだったんだろヤルエル?」

「まぁ、そうですね」

「なら別にいいだろ、好きにやらせとけ」

「えぇ~でもこれ、時間制の依頼ばかりで報酬金額的に殆ど1日中やってますよ?」

「補助系依頼なら心配いらんだろ」

「でも学校とか、う~ん…親は何も言わないのかな?」

「金が必要なことだってある、ここはカード王国が誇る自由都市ダナブルだぞ、

 自由にやらせとけって、それにあの坊主は評判いいからな、だはははは!」

「ちょっと、それでいいんですかギルド長!」

「いい! ギルド長特権だ、だはははは!」

「(まぁ、マツモト君だしね、いいか)」

  

ヤルエルは心配するのを止めた。


「(いや~午前中は3シルバーも追加報酬貰っちゃったしラッキーだったな、

  次の依頼も頑張りますか~)」


守り人が起動してから早4日、

松本は魔物園で散財しきって寂しくなった財布の中身を復活させるべく

冒険者として依頼に勤しんでいた。









「午後は44シルバー、1日で74シルバーか、ふむ、なかなか…ん?」


そして時刻は夕方、依頼を終えた松本が色物街に戻って来ると

新世界の前に住民達が集まってワイワイしていた。



「ねぇこの人形私のかな? 私のだよねきっと?」

「いや分かんないけど…」

「何願ったのか知らねぇし」

「え~私のだよたぶん、ちゃんとお願いしたもん!」

「は~い、名前が書いてあるでしょ、ここに」

「「「 ん? 」」」

「やっぱり私のだ~! 嬉しぃぃぃ!」

「「 (う、煩い…) 」」

「他の人のを持って行ったらだめだぴょんよ」

「はいはい、皆ならんで~名前を呼ばれたら取に来るのよ~」

「呼ばれなかった人は残念、また来年に期待して~」


なにやら山積になった荷物を新世界のメンバーが配布しているらしい。


「オタマさんお疲れ様です~」

「あらオマツ、今帰り?」

「えぇ、これは何事ですか?」

「見て分からない? 幸運がやって来たの」

「ほう、幸運ですか?」

「え? ちょっとちょっと、鈍すぎぃ~、オマツが運んで来たんでしょ」

「え? 俺が? 建築資材なら運びましたけど」

「この、ニブチン」

「あた」

「ニブチンチン」

「あた」


オタマに2発デコピンされた。


「幸運を運ぶ金栗、忘れたの?」

「あぁ~あれですか」 

「ママが言うには冒険者達が置いてったそうよ」

「へぇ~差出人は誰なんですか?」

「分かってないわねぇオマツ、そういう野暮なことを気にする男はモテないわよ、

 知らなかったり見えなかったりする方が魅力的なことって、あるでしょ?」


オタマが唇に人差し指を当てて

スカートのスリットから生太腿をアピールしている。


「(う~ん、チラリズム)」

「皆喜んでるんだし良いじゃないそれで」

「そうですね」

「次行くわよ~雷の魔石を欲しがったのはだ~れ~?」

「は~い! はいはいはい!」

「俺~! 俺だって! 俺俺!」


パーコの掛け声に合わせてゴブリンと人間の男の子が飛び跳ねている。


「どちらの坊やかしらねぇ~、ん~~…」

「「 ん~… 」」

「あ~ん、タウル君!」

「やった~! ありがとう金栗~!」

「え~俺もお願いしたのに~! 嘘だ~!」

「ジャジャ~ン、もう1個ありま~す! こっちはトート君~!」

「いよっしゃ~! これで俺も雷魔法が使えるぜ~!」


雷の魔石をゲットした子供2人が大喜びで飛び跳ねている。


「次ぴょんよ~お布団を欲しがったのは誰ぴょん?」

「多分ワシ等じゃないかのぉ? なぁバァさん」

「そうだといいわねぇ、ジイさん」

「正解ぴょん、モジャ~重いから家まで運んであげるぴょん」

「は~い!」

「助かるの~」

「ありがとねぇ、モジャヨちゃん」

「いやんもう、困った時はお互い様でしょ~」


老夫婦と2セット分の布団一式を抱えたモジャヨは歩いて行った。


「どんどん行くわよ~! 元気出していきましょ~!」

『 おぉ~! 』

「盛り上がってますねぇ」

「うふふ、アゴミはああいうの纏めるのが得意なのよ、

 付いて来なさいオマツ、良いもの見せてあげるから」

「え~なんですか?」

「硬くて長くて凄いヤツ、気になるでしょ~」

「ほほう、意味深ですね」


絨毯ロールを掲げるアゴミの横を通りすぎ新世界の店内のカウンターへ、

オタマが装飾の施された細長い箱を開けると銀色の棒が現れた。


「え!? 何でここに…」

「うふふふ、なかなか可愛い反応するじゃないオマツ~、合格」

「いや、だってこれネネ様の槍…」

「の複製品よ、本物な訳ないでしょオマツ」


緑の角瓶を持ったパローラママが裏から出て来た。


「不用意に触ると大変よ~5本限定のオリハルコン製、1本300ゴールドだ・か・ら」

「ふぁ!? ささささんびゃ…」

「オマツをからかうのはその辺にしてあげて、カタカタ震えて可哀想だわ」

「は~いママ、反応が良いからついね」

「え?」

「ミスリル製の15ゴールドの方よ、ウチみたいな一介のオカマの花園が

 そんな高価なもの買えるわけないでしょ」

「っほ…15ゴールドでも十分高いですけどね、しかし良く出来てるなぁ~、

 (そういえば本物は白色だったような? それ以外は見分けが掴んな)」

「皆にネネ様の槍を見せてあげようと思って買ったの、

 こういうの子供達好きそうでしょ、特に男の子は」

「あ~ん、ママったら優しいぃ~、アタシ惚れちゃうぅ~」

「皆喜びますよぉ~マツモト感激ぃ~」

「仲良いわね2人共」


松本とオタマがクネクネしている。





そんなこんなで幸運の贈り物も配り終え、オネェ達は開店準備中。


「や~とう! とうっ!」

『 おぉ~ 』

「次私やりたい! 私!」

「駄目だよ、次はポポロの番」

「アルはその次だ、皆で決めただろ」

「え~私も早くネネ様の槍触りたいよ~、お願いポポロ…」

「ぼ、僕は後でいいから、アル先にどうぞ」

「いいの! やった~!」

「おいポポロ、甘やかすなよ~順番なんだぞ」

「そうだよ、アルのこと好きだからってさ~」

「ち、違うよ!? そんなんじゃっないって!? アルのことなんて全然好きじゃないから!」

「ぇ…」

「あわわわ…ち、違うよアル、今のはそんなつもりじゃ…」

「どうすんのポポロ?」

「俺達知らないよ」

「そんなぁ…お願いだから助けてよ~」

「(ふふふ…甘酸っぱいねぇ、青春だねぇ)」


一方、松本は店のテーブルに肘を付きながら子供達を見てニヤニヤしている。


「はぁ~皆願いが叶って羨ましいわ~、

 私も来年こそは筋肉モリモリな彼を捕まえないと」

「モジャは前向きね~こんなことなら私も恋人じゃなくて何か物にしとけばよかった」

「あらやだ女々しい、そんな考えだからパーコは駄目駄目なのよ、アゴミを見習いなさい」

「ずっと寂しかったけど…一途な思いが彼を射止めたの…アタシ今幸せ~!」

「「「「 幸せぇ~! 」」」」

「クネクネしてないで手を動かすぴょん、今日は開店が遅れてるぴょんよ、

 オマツもそこにいるなら手伝うぴょん!」

「はい~」


立ち上がってラヴが付き出したホウキを受け取ろうとすると

男の子達の争う声が聞こえて来た。


「おい離せよ! 次はアルの番だぞ!」

「知るか、これは俺のだ!」

「また君? たまには仲良くしようよ」

「折角パローラママが買ってくれたんだぞ、喧嘩すんなよ」

「そうよ、皆のなんだから手を放しなさいよ」

「うるせぇな! 俺のったら俺のなんだ! 邪魔してっと…」


何やらイキリ散らした襟足長めの人間の男の子と

ゴブリンの男の子が槍を取り合っているらしい。


「すみませんラビさん、掃除はまた今度ということで」

「あ、ちょっと待つぴょんオマツ」

「これこれ喧嘩はいかんよ君達、オジサンが話聞こかっ!?」

『 ひぃっ… 』


ヤンチャ坊主の拳が松本の顔にめり込んだ。


「あたたた…」

「ぇ…っは! 馬鹿が、急に飛び込んで来るからだっての」

「君ねぇ、いきなりそういうのは良くないよ…」

「うるせぇ! これで分かっただろ、俺を舐めてるヤツには容赦しねぇ、

 お前達もこうしてやろうか? お? おぉん?」

「…、君ちょっとアレだね」


シュッシュっと拳を突き出して威嚇するヤンチャ坊主に

松本の中の何かが反応した。


「どうやらオジサンの…」

「早くしねぇとお前もこうっ!」

『 うわぁ… 』


鼻血を流しながら立ち上がった松本の顔に再び拳がめり込んだ。


「ぇ…」

「うん…これはもう間違いないね」

「うぉ!? (なんだコイツ…普通に喋ってる…全然ビビってねぇ…)」

「…君はアレだね、オジサンのセンサーに引っかかってるね」

「お、おい、なに人の手を掴んでんだ…」

「ちょっと、向こうに行こうか」

「ひぁ!? あばばば…」

『 ? 』


突き出した拳の後ろから滲み出る狂気に当てられてヤンチャ坊主ご乱心である。


「は~い、君にはオジサンから大切な話があるからねぇ」

「あわわわ…」


ガタガタ震るヤンチャ坊主は無慈悲にも引きずられて行った。





「ありゃ~、ママ~オマツが例の子供を引きずっていったぴょん、どうするぴょんよ?」

「モジャ、ちょっと様子を見て来てくれる?

 子供同士の可愛い喧嘩ならほっといてもいいけど、

 父親が出て来て荒っぽくなりそうなら止めてあげて」

「は~い、モジャ行きま~す!」

「「「 行ってら~ 」」」


元気よくモジャヨが飛び出して行った。


「ねぇママ、あの親子どうにかならないの? 

 あまりこういうこと言いたくないけど皆迷惑してるわ」

「いろんな人に絡んでるみたいよ~ペケ爺さんもパン取られたって言ってたし」

「そんなに不安がらなくても大丈夫よ、ね、ラヴ」

「最近の若者は軟弱ぴょんねぇ~、パンなんて昔は3日に1度は取られてたぴょん」

「ラブ盛り過ぎ~、いくら色物街でもそんな筈ないでしょ」

「そんなに荒んでたらパーコ怖くて外歩けな~い」

「きっと私の体が目当てで酷いことされちゃうんだわ~ん」


パーコとアゴミがクネクネしている。


「嘘じゃないぴょん! 沢山取られたぴょん!」

「はいはいラヴ、これでも飲んで落ち着きなさい」

「ん~ニンジンジュースぴょんか?」

「ルコール共和国産から仕入れたミカン酒よ、甘酸っぱいお酒、好きでしょ」

「イェ~イ! 好きぴょ~ん!」


ラヴがウキウキでカウンターに座った。


「昔はいろいろと大変だったの、衛兵も頼れなかったし」

「え~ちょっとママ、さっきの話って本当なの?」

「3日に1度は流石に大袈裟だけど、揉め事は日常だったわ」

「アゴミちょっとショック~」

「住民同士で食べ物を奪い合うなんて嫌よ~男の取り合いならいいけど~」

「何言ってるぴょん、パーコは勘違いしてるぴょん」

「ちょっとラヴ、私にだって好きな男を奪い合う権利くらいはあるわよ~、

 相手が受け入れてくれるかは別だけど」

「そっちじゃないぴょん」

「中には残念な人もいたけど、殆どの人達は支え合って生活してたわ、

 そうしないと生きていけなかったから、必然だったのね」

「一番暴れてたのは貴族と金持ちに雇われてた奴等ぴょん、

 アイツ等は何してもお咎めなしだったから余計に質が悪かったぴょん」

「なにそれ初耳なんだけど」

「わざわざお金使ってまで嫌がらせしてたってこと? 陰湿過ぎぃ~」

「昔の話よ、そういう人達はロックフォール伯爵に追放されたからもういないわ、

 それよりアゴミ、ペケ爺さんは笑って話したなかった?」

「そうねぇ、怒ってはいなかったわ」

「あの頃を経験してる人達は分ってるのよ、問題を起こす人の大半は余裕がないだけか、

 何かに必死なだけ、パンは取られたんじゃなくてあげたのね、きっと」

「「「 へぇ~ 」」」

「でもママ、今は昔とは違うぴょんよ~、

 ジェリコがいたらあの父親は絶対ボコボコにされて根性叩き直されてるぴょん」

「ふぅ…そうねぇ、そろそろ私が話をしないと駄目かしらね」






そしてモジャヨが様子見中の松本は。


「おうおうおう、人の息子を連れて何してんだクソガキ? おぉ~ん?」


案の定ヤンチャ坊主の父親と遭遇していた。


「ウルフ! 助けにきてくれたのか!」

「たりめぇだ、あとオヤジと呼べって言ってるだろ、怪我はねぇかシルバ?」

「うん、大丈夫」

「そうか、それよりオメェ舐められてねぇだろうな? 

 1度舐められたらオメェあれだぞ、マジやべぇぞ」

「大丈夫だ、舐められてないって」

「本当か? なんかビビッてるように見えたぜ?」

「それは…ちょと目が怖かっただけで…」

「馬鹿オメェ、目を逸らしたら負けなんだよ、絶対に弱みを見せるなって言っただろ」

「え…もしかして俺舐められてる?」

「おうよ、見てみろこのクソガキを、ふざけた顔してんだろ、オメェを下に見てんだよ」

「マジかよ!? 俺舐められてんのかよチクショ~!」

「(いや、舐めてるんじゃなくて呆れてんだよ…なんだその見た目は…)」


ウルフと呼ばれた父親に目を細める松本、

髪型は銀色のリーゼントで上裸の上に白色の特攻服っぽい服を羽織っており、

腹と両拳に包帯なのかバンテージなのかよく分からない白い布が巻かれている。


「(まさかこの世界でお手本のようなコテコテヤンキーに出会うとは…、

  なんか肩幅広くね? まさか肩パットか?)」

「おら、離れろクソガキ」


ウルフが松本を足で追い払い、屈んでシルバと目線を合わせた。


「いいかよく聞けシルバ、今から俺はマジで大事なことを言うぜ、

 マジでお前これ、よく聞けよ、マジで大事だからよ」

「おう」

「舐められんのはヤベェ、舐められんのだけはマジでヤベェ」

「マジかよぉぉ!? 俺ヤベェよぉぉ!」

「(マジとヤベェと舐められるなしか言ってないな…)」


語彙力はわりと低いらしい。


「俺もう舐められてるんだろ? どうしたらいいんだウルフ?」

「いやオヤジって呼べって、もう父ちゃんでもいいぞ」

「(っていうか襟足長すぎだろ…あとリーゼントとちゃうんかい! 

 なんだその髪型は? 犬か? 犬なのか?)」


首の後ろで縛った襟足?が腰まで伸びており地面に付きそうである、

見上げていた時にリーゼント見えた髪型には三角耳が2つ付いており、

横から見ると犬の頭部のような形をしている。


「あの~すみませんウルフさん」

「うるせぇぞクソガキ、今息子と大切な話してんだろうが」

「取り込み中に申し訳ないんですけど、その髪型はいったい…」

「おん? 俺の髪型がどうしたって? おぉ~ん?」

「どういうコンセプトで…」

「コン? コ…コンセ? なに急に難しい言葉使ってんだテメェこらぁ!」

「えぇ…」


なんか急にキレられた。


「このイカした髪型は俺の生き様を表してんだ、シルバーウルフって知ってっか?」

「知りません」

「サントモール周辺にはホワイトウルフって魔物がいてよ、

 普通の奴は群れて狩りをするんだが銀色の毛が生えたシルバーウルフだけは

 群れずに1匹で狩りをする、俺と同じで強ぇからだ、どうだ? イカしてんだろ?」

「え~と、つまり頭の上のそれはシルバーウルフを模していると」

「おうよ、こっちは尻尾だ」

「そうですか…(頭に狼乗せたヤンキーねぇ…)」


襟足をずらすとの背中に狼のマークがちらりと見えた。


「あともう1ついいですか?」

「おん? 言ってみろ、舐めてっとぶっ飛ばすぜ」

「ウルフさん肩幅が妙に広い気がするんですけど」

「何がよ? おん? 全然そんなことねぇだろ馬鹿野郎、おぉ~ん?」

「いや、おんじゃなくて、全体的に細いのに肩幅だけが…、

 っていうかどっちかというと華奢ですよね?

 大胸筋全然ないどころか若干アバラ浮いてますし、それ絶対肩パット…」

「うるせぇ! なにゴチャゴチャ言ってんだテメェこらぁ!」

「えぇ…」


メッチャキレられた、肩パットは触れられたくない秘密らしい。


「お~し分かった、テメェ俺を舐めてんな、

 いいかシルバ、舐めれた時どうするか教えてやる、しっかり見とけよ」

「おう!」

「おいクソガキ、俺と俺の息子を舐めたとこ、詫び入れろ」

「ウルフ、詫びって何だ?」

「ごめんなさいして何か物寄こせってことだ、あとオヤジって呼べ」

「なるほど、分かったぜウルフ」

「おう、全然分かってねぇな」


シルバが満面の笑顔で拳を突き出している。


「いや、謝らないといけないのはシルバ君の方だと思いますよ、

 他の子達から無理やり槍を奪い取ろうとしてましたし、

 止めに入った俺は殴られたんですけど?」

「おん? どういうことだ?」

「俺スゲェ物見つけたんだ! ネネ様の槍!」

「おん? それってっとあれか、クリクリクッキーの時の」

「そうそれ! 売ったら絶対金になるぜ! あたっ…」

「馬鹿オメェ、そんな物に手を出すんじゃねぇ」

「(お、見た目はアレだがちゃんとしてるんだな)」

「なんでだよ、欲しい物は脅して奪えって言ってただろ!」

「おう、そうだ」

「(…ん?)」 


ちゃんと注意するかと思ったが何やら雲行きが怪しい。


「だがそりゃ飯とかの話だ、ほら今日の分」

「やった~パン! 俺腹減ってたんだ」

「好きなだけ食っていいぜ」

「マジかよ! 凄ぇなウルフ、昨日のキノコと同じ方法で手に入れたのか?」

「おう、まぁ俺に掛かればこんなもん朝飯前よ」

「ん? もう直ぐ夜飯だぜ? これ夜飯じゃねぇのか?」

「いや夜飯だけどよ、今のはあれだ、簡単だって意味なんだが…まぁ気にするな、

 それよりコツはな、こう相手の目を見て睨みを利かせんだ、

 正面からこうとか、上から見下ろすようにこうとかな、下からもイケるぜ」

「スゲェ~マジ怖ぇよ! 俺ちびっちまいそうだ!」

「だろ、俺みたいに傷があると相手がビビり易いぜ」

「くっそ~俺にも傷があればなぁ」

「(そんな小さい傷ではビビらんと思うけどなぁ…)」


ウルフが左目の上の傷を指差してアピールしている、

裂傷の痕っぽいが1センチくらいなのでそこまで迫力はない。


「そしてもう1つのコツは相手が取られても諦める物を狙うんだよ、

 食い物とかタオルとか、1つずつだ、同じヤツから沢山はヤベェ、

 あとあまり高ぇ物もヤベェ、直ぐに衛兵に捕まっちまうからな」

「分かった、たから槍は駄目なんだな」

「おう、そうだ、呑み込みが早ぇな、頭いいぜオメェ」

「へへっ」

「(いや全然良くねぇよ、何教えてんだコイツ…)」


頭を撫でられてシルバが照れくさそうにしている、松本の中で狂気が増した。


「あのクソガキを殴ったてのは本当か?」

「おうよ! しかも2発、鼻血出してたぜ」

「手は痛くなかったか?」

「ちょっと痛かったけど平気だ、回復魔法あるし」

「そうか、よくやったぜ、だが次からは簡単に殴るんじゃねぇぞ」

「駄目なのか? 前は殴れって言ってただろ?」

「駄目じゃねぇよ、だが拳ってのは安売りするもんじゃねぇんだ、

 舐められてコイツをやっとかねぇと今後ヤベェことになるって時に使うんだ、

 そうじゃねぇと衛兵に捕まっちまうからな」

「分かった」

「いいかシルバ、殴る時はマジで覚悟決めろよ、マジヤベェくらい大事なことだぜこれは、

 殴る時は殴られる時だ、相手のクソ野郎も殴り返してくるからな」

「マジかよ、俺痛ぇのは嫌だぜ」

「ビビってんじゃねぇ馬鹿野郎! いいか、殴り合いになった時は絶対に退くな、

 どれだけボロボロになろうが骨が折れようが関係ねぇ、

 最後まで殴り返して相手をビビらせんだ、そうじゃねぇと舐められちまうからよ」

「お、おう…俺頑張る」

「(いや、なにそれっぽいこと言っていい感じの雰囲気だしてんの、

  衛兵を気にするなら最初から殴らなければいいだろ、

  っていうか当たり前のように恐喝を推奨してんじゃねぇよ)」


松本の狂気が増大した。


「てなわけでよぉクソガキ、俺は舐められたら容赦しねぇんだわ」


ぬるりと立ち上がり松本を見下ろすウルフ。


「今すぐ詫び入れろ! 頭を地面に擦りつけて、家から肉持って来いこらぁ!」

「おらぁ!」

「膝がぁぁ!?」


イキリ散らしたウルフの左膝に松本の右フックが炸裂した。


「ウ、ウルフゥゥ!?」

「し、心配すんなぁ…こっち来るんじゃねぇ…」

「でもウルフ、足プルプルしてるぜ!?」

「ちょっと油断しただけだ…あと父ちゃんって呼べぇぇ…」


弱みを見せるは男の恥と言わんばかりに

立った状態でメンチを切りながら膝を回復させている。


「ふぅ…ふぅぅぅう…」


歯を食いしばってプルプルしているので結構キツイらしい。


「(野郎…なかなかいい拳してやがるぜ…)」

「おいアンタ、さっきから話を聞いてれば子供に何教えてんだよ」

「(うぉ!? なんてメンチ切りやがる…よく見ると傷も凄ぇし…)」


メンチではなく狂気、松本ではなく久しぶりの狂王である。


「っへ、どうやらガキだと思って舐めてたのは俺の方だったみてぇだな、

 いいぜ、本気でやってやんよぉぉ!」

「おらぁぁ!」

「膝がぁぁ!?」


ウルフの右膝に狂王の左フックが炸裂した、

ついでに何かが軋む嫌な音がした。


「子供に常識を教えるのが親の役割とちゃうんかいこらぁぁ!」

「この…クソガキてめぇ!」

「常識に子供も大人もあるかボケェ!」

「ぐほぁ!?」

「ウ、ウルフゥゥ!?」

「ふざけた髪型しやがっておらぁ!」

「おふぅ!?」

「肩パットこらぁ!」

「ぐふぅ!?」

「うわぁぁ!? や、やめろぉ! ウルフから離れろぉぉ!」

「(えぇ…荒っぽいことってそっち!? ちょっとオマツゥゥ!?)」


馬乗りになってウルフをボコボコにする松本はモジャヨによって引き剥がされた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 松本の魅力が凝縮された話だった
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