269話目【カンタルへの旅路】
ジリジリと照り付ける太陽、吹き付ける砂、
ここはカード王国の南西に存在する砂漠地帯。
今回は時系列を少し巻き戻して、
1000年前に栄えたとされる古の王都、カンタルを目指す一同の話である。
「「「 あっつぅ~… 」」」
石畳の上でプリモハ調査隊のニコルとラッチ、
ハイエルフのリテルスが氷魔法で首元を冷やしている。
「ははは、日向に出ただけで大袈裟だよ」
「根性が足りねぇぞ2人共、お嬢を見習え~」
「お~ほっほっほ! この程度の暑さなんともなくってよ~!」
よく見ると頬に当てた右手で氷魔法を使用しているので
プリモハも結構いギリギリらしい。
「フルムド伯爵は平気そうですね」
「僕は慣れてるからね、それにまだ41度だし」
「まだ?」
「これ以上暑くなるんですか…」
「私はまだまだ平気です、お~ほっほっほ」
「真夏には50度近くなるからね」
「ほ…」
プリモハの引きつった笑顔のまま動かなくなった。
「そこまで行くと流石にキツイから夏場は作業を中断してダナブルに戻るけどね、
さぁ、早いとこポニコーン達を休ませてあげよう」
「あ~いいっすよフルムド伯爵、俺達がやりますんで、
ラッチは餌、ニコルは水やり用のバケツ持って来てくれ」
「「 はい~ 」」
「ジェリコ、私も手伝います」
「いや、お嬢はお茶淹れといて下さい」
「チーズ食べさせようとする人は駄目です」
「ポニコーンに何かあったら砂漠で立ち往生ですよ、勘弁して下さい」
「う…」
プリモハ調査隊が両手で作った×を押し付けている。
「ほんの出来心ではありませんか! 私はただ暑い中頑張ってくれている
ポニコーン達を労おうと、少しでも美味しい物を分けてあげようと…」
「「「 駄目~ 」」」
「むぅ…たった1度の過ちをいつまでも…
皆が汗を流している時に私だけに楽をするなど認められません!」
「「「 駄目です~ 」」」
「むぅぅぅ…」
バツを押し付けられてプリモハがプリプリしている。
「まぁまぁプリモハちゃん、ここから先は強化魔法を多用するからそっちで頑張ってよ、
馬車が大きくなったから僕1人だと大変なんだ」
「強化魔法が使えるのはフルムド伯爵とプリモハさんだけです、頼りにしてますよ」
「おほん、そういうことなら仕方ありません、最高のお茶を淹れるとしましょう!」
「お嬢~冷たいの頼みますよ~」
「適当にお茶請けもお願いしま~す」
「後ろの人達の分もお願いしま~す」
「分かっていますとも、お~っほっほっほ!」
プリモハアは高笑いしながら馬車の中に入って行った。
「私は上空から周辺の確認をしてきます」
「お願いします、もしこれくらいの大きさの8本脚の魔物がいたら
2匹ほど捕まえて来て貰えませんか?」
「魔物ですか? そんなに簡単に捕まるものなのですか?」
「凄く大人しい魔物ですから大丈夫です、
岩場の影などに数匹で固まっていますので見つけやすいかと思います」
「分かりました、では」
「おわ…」
リテルスが浮き上がると砂塵が舞った。
「す、すみません…決してわざとでは…」
「ここでは良くあるとこです、気にしないで下さい」
「すみません…」
申し訳なさそうにリテルスが飛び去った。
馬車の側面に取り付けられた箱を開け、
中に折り畳まれた取手を展開し反時計回りにクルクル回すフルムド伯爵、
側面上部に取り付けられた細長い筒から布が垂れて来た。
「いろいろ便利になったけどこの機能が一番有難いかも」
所謂、キャンピングカーなどに設置されているサイドオーニングと呼ばれる物、
布の端に空いた2つの穴に支柱を刺して地面に固定する仕組み、
日光を遮る物が少ない砂漠では重宝される機能である。
「見た目が派手になって重くなったのはアレだけど、やって貰って良かったな」
特に重宝されているのが馬車の前面設置されたオーニングである、
支柱はポニコーンと馬車の接続部に設置するようになっており、
移動中も御者席とポニコーンの上空を覆えるようになっている。
「はぁ…はぁ…フルムド伯爵、手伝います、はぁ…」
後ろの馬車から丸いフォルムの女性が走って来た。
「凄い汗!? 影に入って下さいハムレツさん」
「す、すみません、私汗かきなもので、はい…手伝います」
「これくらいは僕にやらせて下さい、いつもは採掘班の皆とやってるんだし」
「でも…」
「それよりもちゃんと水分と塩分を摂らないと倒れますよ」
「その辺りは大丈夫です、はい、ちゃんと塩持ち歩いてますから」
「(小分けじゃなくて袋ごとだ…)」
汗を拭いながら塩を見せるハムレツ、恐らく5キロくらいある。
「これ便利ですよね、私暑がりなので日影があるのは凄く有難いです、はい」
「雨も凌げるから他の馬車でも増えるんじゃないかな、取り付けも簡単みたいだし」
よく見ると後ろの幌馬車にも前面側のみ突貫工事で取り付けられている。
このオーニングは砂漠移動を考慮してカプアとハンクが開発した新製品、
フルムド伯爵の馬車を趣味全開で弄り回してたがちゃんと考えていたらしい。
因みに、後ろの幌馬車にはトールの盾を探す際の人海戦術要員、
調査班(インドア派)の方々が4人乗っており、
帆の内側を覗くとプリモハ調査隊考案の楽々移動術の教えに従い、
ハンモックが装着されている。
ずっと幌馬車だと大変なので調査班の4人とプリモハ調査隊の4人が
1日交代でフルムドの豪華馬車に乗ることになっているそうな。
「ハムレツさんが参加するとは思いませんでした、
やはり調査班としてはトール様の盾が気になりますか?」
「勿論です! エルルラさん程ではありませんが
私にもシード職員として何かを成し遂げたい気持ちがありますので、はい! それに…」
「それに?」
「最近ちょっと太り過ぎちゃってて、ドーナツ先生に運動するように言われまして、はい」
「え~と、それはつまり…」
「砂漠だと食べ物も限られますし汗も一杯かくので少しは痩せるかなぁ~と、はい」
「うん、まぁ、無理だけはしないで下さい!」
「頑張ります、はい!」
トナツの方が太っているのでイマイチ説得力に欠ける助言である。
「そういえばハムレツさんの背中の杖は随分と立派ですよね、
今の支給品ってそんな感じなんですか?」
「これは私の私物です、一応は元冒険者ですので、はい」
「そうだったんですか、数が少ないとはいえ魔物はいますから、頼もしいです!」
「いやあの、全然強くはなくてですね、Bランク止まりでして、
中級が扱えるのも火と雷だけでして、すみません…はい…、
戦力としては数えられても困ります、はい…」
「あいや…なんか僕の方こそすみません…」
「いえいえ…」
「いえいえ…」
「ねぇ、あれどうしたんだろ?」
「「 さぁ? 」」
日陰でペコペコし合う2人をプリモハ調査隊の3人が不思議そうに見ている。
「まぁ、大抵の魔物はプリモハ調査隊に任せれば大丈夫だと思いますから」
「それはもう、私に期待するよりは確実です、ご存知ですかフルムド伯爵、
ニコルさん達が衛兵を辞めた時にギルド長が直々に勧誘に行ったらしいですよ、はい」
「え!? そうなんですか?」
「はい、パトリコさんから聞いた話なので確かな情報です、はい」
「へぇ~知らなかった(ペニシリがプリモハちゃんを任せるくらいだから当然か)」
ギルド長に推薦したものパトリコだったりする。
シード計画職員は研究者の集まりなので戦える者は殆どいない、
近接戦闘力で比較するとプリモハ調査隊の3人の次に強いのはロダリッテ、
その次は恐らくリンデル主任である。
魔法に関してもプリモハ調査隊の3人以外は極めて一般的、
プリモハとフルムド伯爵は強化魔法のお陰で防御面で抜きんでているが
1撃の攻撃力はハムレツの方が上である。
※パトリコは正規の職員ではないのでノーカウントです。
「私があの3人より優れているのマナに対する感覚だけです」
「それってリテルスさんみたいにマナの濃度を感じられるってことですか?」
「流石にハイエルフ並みとはいきませんが普通の人よりは分かります、
ダナブルに比べるとこの辺りのマナは随分と薄く感じます、はい」
「凄い! 今回の目的にピッタリじゃないですか、一緒に頑張りましょう!」
「頑張ります! はい!」
ハムレツのやる気に比例して汗が増した。
「ふぅ…フルムド伯爵の杖はご自分で購入されたのですか?」
「いえ、これはシード計画に参加した当時に支給された物です、
小さくて持ち運び易いので使い続けていますが、
ハムレツさんの杖に比べたら大したことないですよ」
「え?」
「どうかしましたか?」
「それ多分ですけど、凄く高価なヤツだと思いますよ、はい」
「え?」
プリモハの杖と同様にダナブルの職人による高性能な杖である、
今回の任務用に支給されたのは後ろの馬車の面々が装備しているナイフと杖、
戦闘経験の無い素人達なので扱い易いそれなりの品、
戦闘要員はあくまでもプリモハ調査隊の3人である。
お茶の準備が出来たので一服、お茶請けはチーズの乗ったクラッカーだった。
「よいしょっと」
フルムド伯爵が地図が張られたボードを透明な土台に掛けた。
「あれ? 浮いてる?」
「たぶん強化魔法だと思います、はい」
「あ、そうか、便利だなぁ」
「すみません皆さん、お茶を飲みながらでいいので聞いて下さい、
今はこの辺りでカンタルまでの道のりは残り1/4程度となりました」
『 おぉ~ 』
「ですがここから先は注意が必要です、
街道が途絶えるためこのまま道沿いにカンタルを目指すことはできません、
また、砂が風によって流されることにより地形が常に変化し続けています、
そのため周囲の風景を頼りに進むことも出来ません、
皆さんの後ろの砂丘も以前はありませんでした」
「はい、アントル様」
「どうぞ、プリモハちゃん」
「何か目印になるものは無いのですか?」
「少しですがあります、分かり易いのはこの辺りにある大岩と、
この辺りにある大きなサボテンです、砂丘の上に少しだけ見えているヤツがそうです」
「上? 地図の距離から考えると随分と大きいようですけど…」
「大きいですよ、大きなサボテンですから」
『 ほう 』
不毛な大地だと思われたが何やら独特な生態系が存在しているらしい。
「少し移動距離は増えますがサボテンを目指して南下し、
そこから方位磁石を頼りに西のカンタルへを目指す、
これが最も迷い難い移動方法になります、
ですが街道を外れて砂漠を横断するため魔物との遭遇率も上がります、
中には非常に危険な魔物もおり…」
「はい、フルムド伯爵」
「どうそ、ラッチ君」
「それはリテルスさんが持って来たそこに転がってる魔物のことでしょうか?」
日陰の隅でモゾモゾしている30センチ位の魔物に一同の視線が集中する。
「いえ、これは非常に大人しい魔物です、噛みついたりしないので心配いりません」
「はい、フルムド伯爵」
「どうぞ、ニコルさん」
「なんて言う魔物ですか? 見たこと無いんですけど」
「正式な名前は不明です、私達はミドリクマムシと呼んでいます」
「はい、フルムド伯爵」
「どうぞ、ジェリコ君」
「もしかして食べるんですか?」
『 んん!? 』
ジェリコの質問で一同が目を見開いた。
「いえ、食べません」
『 っほ 』
一同は安堵した。
「とうか食べられません、お腹を壊しますので遭難して食べ物に困っても
絶対食べないで下さい、3日間くらい起き上がれなくなります」
「(食べたんだ…)」
「(経験があるんだ…)」
「(発掘班は体張ってるなぁ…)」
因みに、食べたのは当時発掘班メンバーだったロダリッテである。
「大丈夫かロダリッテ!?」
「だから止めようって言ったじゃん!」
「あばば…おぇ…」
「うわぁ~また胃液吐いた!? 死んじゃうってこれぇぇ!?」
「震えが激しくなったよ!? 白目向いてるし、誰か助けてぇぇ!」
「あばば…もうダメ…」
「ロダリッテさん気を確かに!」
それはもう壮絶な経験だったそうな。
『ミドリクマムシ(仮名)』
砂漠とかしたカンタル周辺に生息している謎の魔物、
体毛はなく緑色でズングリした見た目、手足が8本ある、
目と耳が見当たらず、動きが遅く、日影に数匹で固まっていることが多い、
いったい何を食べて生きているのかも不明で、
どうやって繁殖しているのかも不明、
たまに抜け殻があるので脱皮をすると思われる、
お腹を下すので人は絶対に食べてはいけない、
先駆者曰く、草を磨り潰して苦い汁で煮詰めたような味がする、らしい。
「はい、フルムド伯爵」
「どうぞ、リテルスさん」
「では何故私に捕まえて来るように依頼したのですか?」
「身代わりになって貰うためです」
『 ほう 』
「僕達採掘班が危険な魔物に襲われた際は攻撃せずに
周囲を強化魔法で覆い相手が立ち去るまで耐えるようにしています、
長ければ数時間掛かりますが確実で安全な方法です、
空腹を多少満たせれば早めに諦めてくれるので食料を差し出すこともあります、
可愛そうですがミドリクマムシはその代わりです、
この地で食料を失うことは極力避けなければなりませんので、
ミドリクマムシを見つけた際は積極的に捕まえて下さい、
常に2~3匹確保しておくと安心です」
『 はい~ 』
「砂漠では戦闘も極力避けて下さい、
足場が不安定なため僕達のような素人は真面に剣を扱えません、
また、魔法の使い過ぎも危険です、大気中のマナが少ないため
リバイブの効果は期待できません、休息をとりマナの回復を待つか、
急を要する際はマナポーションを利用する必要があります、
準備はしてありますが限りがありますので温存した方が良いでしょう、
ですが、これはあくまでも戦闘に関する注意事項です、
それ以外のことに関しては魔法の使用を惜しまないで下さい、
特に水分補給と体温管理は命に直結します、困った際は周囲を頼って下さい」
『 はい~ 』
「それと最後に最も重要なことですが、絶対にポニコーンを守らねばなりません、
サンドランナーの場合も同様です、移動手段を失うことは遭難を意味します、
砂漠を歩いて横断することは…」
「はい、フルムド伯爵」
「どうぞ、ハムレツさん」
「あの、何か飛んで来てますけど、はい…」
『 ん? 』
ハムレツの指さす先に目を凝らすと太陽の中に影が見えた。
「ヒポグリフです! 皆さん動かないで!」
後方の馬車を目掛け影が襲い飛来し砂埃が舞う、
ポニコーンを掴もうとした鍵爪が透明な壁に阻まれると
ヒポグリフは羽ばたいて再び上空へと飛び去った。
「危なかったぁ…まさかここまで出て来るなんて、助かりましたハムレツさん」
「はぃ…」
「お~い大丈夫か~? 目の焦点が合ってないぞ」
「ハムレツさ~ん?」
いきなりの衝撃でハムレツの魂が抜けかけている。
「一瞬しか見えませんでしたが今のヒポグリフですか、大きな鳥のようでしたが…」
「上半身が鳥で下半身が馬です、毒とかはないらしいのですが、
今みたいに一瞬で獲物を攫って行きますので真面に戦える相手ではありません」
「なるほど、上空を旋回していますね、私が行って追い払う手もありますが?」
「危険です、群れる魔物ではありませんがつがいの可能性もありますので」
『 !? 』
「今度はこちらのポニコーンを狙って来ましたね」
「リテルスさん、ミドリクマムシをお願いします、強化魔法を一部解除して外に出します」
「分かりました」
「お待ちください!」
妙に顔の濃いプリモハが待ったをかけた。
「飛ぶというのであれば飛べなくすれば良いだけのこと、
足場が悪いというなら固めてしまえば良いだけのこと、
ここはこのプリモハ調査隊に任せて頂きましょう!」
「え? でもミドリクマムシがあるから…」
「行きますわよ!
『 はい、お嬢! 』
「あちょっと…」
『 がっ!? 』
勢い良く飛び出した4人が透明な壁に激突した。
「僕が全部覆ってるから危ないってって言おうとしたんだけど…大丈夫?」
「大丈夫っす…根性なんで…」
「「「 うぅ… 」」」
『 (痛そう…) 』
顔を覆う4人に目を細める一同、ジェリコに至っては流血している。
「本当にやる気なの? 危ないよプリモハちゃん」
「当然です!」
「別に危険を冒さなくても待っていればそのうち…」
「アントル様、お言葉ですがこの程度の危険は私達の旅時では良くある話です、
光魔法無しで魔族の襲撃を退けた実力…今こそ示して差し上げます! 行きますわよ!」
『 はい、お嬢! 』
「あちょっと…」
『 がっ!? 』
再び透明な壁にぶつかった。
「まだ解除してないから…」
「こ、根性ぉ…」
「「「 うぅ… 」」」
『 (う~ん…) 』
顔を覆う4人に一同が目を細めている。
「「「 ジェリコ頑張れ~ 」」」
「こっち来いヒポグリフ~!」
街道の上にジェリコを立たせ、残りの3人は離れた位置で強化魔法の壁の中に待機中。
「来たよジェリコ~」
「しっかりね~」
「おうよ! どっせいぃぃ!」
迫って来た鍵爪に合わせジェリコが剣を振る、
4中3本を切断されたヒポグリフが砂塵を巻き上げながら上昇しようとすると
透明な壁にぶつかり体制を崩した。
「今だラッチィ!」
「はいはい、行ってニコル!」
「ちゃんと止めてよね!」
「任せといてよ」
ラッチが水魔法でヒポグリフを包み込み、続いて氷魔法で拘束、
走り込んだニコルが槍を振りかぶる。
「おりゃぁぁ!」
寸断されたヒポグリフの首が石畳に転がった。
「周囲を警戒して~まだいるかもしれないわよ~」
「「「 はい、お嬢~ 」」」
暫く警戒したが追撃が無かったので討伐終了。
「あんなにあっさり…あの人達が戦うのは初めて見ましたけど、
やっぱり凄いですね、はい」
「そ、そうですね(僕とは経験が違い過ぎるなぁ…)」
「いや~お見事、随分と息の合った戦い方をされますね、はははは!」
活躍した3人に目が行きがちだが
ニコルが走り出す直前に囲っていた透明な壁を解除するなど、
プリモハも目立たないところで絶妙なアシストをしている、
強化魔法は効果が視認し難いので分かり難い。
「プリモハ調査隊スゲェ~」
「流石はシード計画最強の武闘派集団」
「只のチーズ好きじゃなかったんだ」
「お~っほっほっほ! お~ほっほっほっほ!」
「「「 (お嬢楽しそうだなぁ) 」」」
「良くってよ~! 良くってよ~ほっほっほ!」
賛辞を受けてプリモハ有頂天である。
「マズイ…」
「硬い…」
「臭い…」
「まぁ、ミドリクマムシを食べてるからね…」
ヒポグリフは絶望的に美味しくなかった。
その後はヘビとかサソリとかを蹴散らして1日後に大きなサボテンに到着。
「下から見ると更にでっけぇ~な、これ本当にサボテンか?」
「ジェリコさん、フルムド伯爵が危ないからあまり近ずくなって言ってましたよ、はい」
「そうなのか?」
「はい、上から…ひゃっ!?」
「うわっ…っぺ、砂が口に…なんだ!? なんか爆発したのか?」
舞い上がった砂塵が晴れるとジェリコの横にギザギザの生えた棒が現れた。
「ん? ハムレツさん、こんなのさっきまでなかったよな?」
「あ、あの…抜け針が…たまに落ちてくることあるからって…はい」
「え…」
「1本抜けると周辺の針も抜けるって…はい…」
「は、走れハムレツさん! うぉわ!? マジでヤバいぞこれ!」
「いやぁぁぁ!? 私の走るの苦手なんですよぉぉ!?」
「死にたくなければ走れ! 根性だ! 根性ぉぉ!」
「いやぁぁ!?」
みたいなこともあり、ハムレツがやつれてから3日、
街道を離れてからは4日後の夕方に一同は砂に埋もれた都市へと辿り着いた。
「水晶玉の映像で見て知ってはいましたけど…」
「何もないわね」
「砂だな」
「砂だね」
プリモハ調査隊の反応が示すとおり都市と呼べるものが何も見当たらない、
水場が無ければ建物もない、あるのは砂と岩と魔物の骨がチラホラ、
唯一人工物っぽい物は地面から突き出た円錐状の何かである。
「ははは、全部砂の下に埋まってるからね、
風化してて分かり難いけどこの直線状に並んでいる岩が城壁だよ」
『 へぇ~ 』
「すみませんフルムド伯爵、発掘班の方達は? はい」
「砂の下です、外は魔物に襲われる危険がありますから遺跡を利用して生活しています、
あの突き出ているのは屋根の一部で、その裏に馬車ごと入れる地下への入り口があります」
『 へぇ~ 』
「以前、砂を取り除いていくつかの建物が見えるようにしたのですが、
ダナブルに戻っている間に半分以上埋まってしまいまして…今ではご覧の通り、
ははは…砂ってかなり厄介なんですよ、はぁ…砂嫌い…」
『 (めっちゃ苦労してそう…) 』
「下手に地盤を動かすと倒壊する恐れがありますので
遺跡の中では土魔法を使わないで下さい」
『 はい~ 』
「リテルスさん、マナはどうですか?」
「今までの中ではこの周辺が一番薄いかと」
「そうですか、では皆さん、ここが僕が治める領地です、
1000年前に栄えた王都、そして恐らくトール様の盾が眠る場所、
領主として歓迎します、ようこそカンタルへ!」
『 おぉ~! 』
かつての繁栄は闇に消え、砂の下にて静かに眠る、
世界を救いし勇者の想いと共に。




