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268話目【松本命名す、他】

シード計画施設内、食堂、時刻は7時30分。


「おぉぉ~、つ、遂に…遂にこの時が…」

「ごめんねハンク、昨日試してみたら起動しちゃった」

「立ち会えなかったことは少々残念ではありますが、

 いやしかし、これで今までの苦労が、

 破損と爆発に耐えた日々が報われたかと思うと」

「そうそう、予算を無駄にするなとか、バターを放置するなとか、

 これでもうリンデルに小言を言われなくて済むと思うと」

「「 ばんざ~い! ばんざ~い! 」」


カプアとハンクに合わせて守り人が無言で手を上げている。


「おいこらカプア、私が悪いみたいな言い方はよせ」

「まぁまぁ、今日は記念すべき日なんだしさ、

 ちょとくらい許してよライドニングリンデル」

「おぃぃぃ! その呼び方恥ずかしいから止めろって言ってるだろ!」

「く、苦しい…降ろしてライトn…」

「何回言ったら理解するんだお前は! この、この~!」

「うぐぐ…」

「主任~!?」


朝っぱらから締め上げられてカプアが青ざめている。


「リンデル主任、ここはどうか私に免じて」

「あ、うん(喋るんだ、ってそりゃそうか)」

「大丈夫ですかカプア主任? お怪我は?」

「いや~助かったよ、守り人君」

「くぅぅ…声を聞くと更に感動が…」


感極まったハンクが泣きだした。


「(カプアさん元気そうでよかった)」

「(ちょとだけ目が腫れてる、気づかなかったことにしとこ)」


松本とトナツは食堂の端でお茶を片手に傍観中。





暫くすると他の職員達も出勤してきた。


「誰だ~食堂の真ん中に甲冑置いたヤツは?」

「なにこれ?」

「カプア主任とハンクがいるし特殊な装置じゃないのか?」

「凄い固い甲冑とか? 魔法を跳ね返したりして」

「私は対大型魔族専用装置とみた」

「誰が入ってんの? お~い名を名乗れ~」

「名はありません」

『 うぉ!? 』


いきなり喋った守り人に一同ビクッとした。


「驚かすなよ~お前ルーベンだろ」

「いや、この大きはペンテロさんでしょ」

「意外とクルートンさんかもよ? 小さくて非力な人でも戦える凄い装置なんだよ」


守り人を知らない職員達からすると厳つい甲冑である。


「違うよ、確かに僕は小さくて非力だけど」

「んげ…クルートンさん、すみません…」

「いいよいいよ事実だし、それよりカプアさん、これ守り人だよね?」

「あ~言っちゃった、ちょっとクルートンさん早いって、

 初めて見る人達に自然に受け入れられるか試してたのに~」

「あ、ごめん、だって知らなかったからさ…」

「ロダリッテさん、今守り人って言ってませんでした?」

「言った」

「開発は中止になったと伺っていたのですが」


ハルカ、ロダリッテ、ペンテロもやって来たのでカプアが事情を説明した。


「へぇ~じゃぁこの甲冑は魔道装置なのか」

「しかも心があるんでしょ、凄くない?」

「凄い」

「ヤバい」

「白い」

「格好いい」

「硬い」


職員達の思考がフリーズしかかっており語彙力が貧弱になっている。


「っは、皆簡単に騙されすぎ、もっとちゃんと考えれば分かるでしょ、

 完全自立型の魔道装置なんて造れる筈がないじゃん、

 誰かが入ってるに決まってるんだから」

「(エルルラさんったらまた…)」


髪を掻き上げながら現れたエルルラが異議も申し立てた、

何故かクルートンが頭を抱えている。


「違いますよエルルラさん、これは守り人です、

 指示装置にはイオニアさんが残してくれた研究成果を利用してまして、

 大気中に漂っていた意思のあるマナを水晶球に取り込んで…」

「おだまりゃぁハンクゥ!」

「うごっ…」

『 えぇ… 』


エルルラの手刀がハンクの喉にめり込んだ。


「1000年後まで語り継がれる人類史に残る偉業なんて、

 私は絶対に認めない、認めないんだかりゃぁぁぁ!」

「はいはい、そこまで、悪い所出てるよエルルラさん、ハンク君大丈夫?」

「うごご…」

「ちょっと背中の魔増石からマナを放出して短時間なら飛行できそうだからって、

 両手両足の魔増石で姿勢と着地の制御ができそうだからって、

 私は認めないんだかりゃぁぁ!」

「一番しっかり観察してるくせに、他の人の功績を羨ましがっても仕方ないよ」

「嫌だ! 認めたくない! 絶対ペンテロさんが入ってるんだ!」

「私はここにいます」

「じゃぁルーベン、ルーベンが入ってる、そういうことにする!」

「まだ言ってる…本当は理解してるんでしょエルルラさん」


発狂気味のエルルラがクルートンになだめられている。


「カプアといい、ロダリッテといい、はぁ~何でウチの女共はこう厄介なんだか…」

「私は別に厄介じゃないでしょ」

「いやお前が一番だろ、次勝手に予算を使い込んだら本当にバターにするからな」

「あの~リンデル、因みにどうやって?」

「バター製造機に牛乳と一緒に詰めてグルングルン回す、私がやる」

「ひぇっ…」

「とにかく何とかしてよ、もう直ぐロックフォール伯爵がいらっしゃるんだから」

「分かってるって、見せたげて守り人君」

「了解しました」


守り人が顔と胸のプレートを開け内部構造をお披露目。

 

「ほら、エルルラさん」

「すみませんでした、最初から分かってました、悔しかっただけです」

『 う~ん… 』


エルルラは虚無顔で謝罪した。


「いや~朝から賑やかっすねぇ~」

「ルーベンさんは近くで見なくていいんですか?」

「俺は主任の付き添いで箱舟に行った時に何回か見てるんで」


ルーベンは松本とトナツと一緒に傍観中。





そして暫くの後、ロックフォール伯爵到着。


「カプア主任、良く決断してくれました」

「いえ、時間掛かっちゃってすみませんでした」

「ハンクさんも、よく完成させてくれましたね、ここに至るまで大変だったでしょう」

「私は主任達の背中を追いかけていただけで、恐縮です!」

「私がこの施設を立ち上げた際に掲げた2つの目標、

 箱舟と守り人が魔王の復活を前にして達成されました、実に喜ばしいことです」

『 おぉ~ 』

「守り人さん」

「はい」

「貴方には大変な責務を担って頂かなければなりません、

 ですが魔王が討伐される可能性も残されていますし、

 あまり身構えず気楽に行きましょう、ようこそシード計画へ、歓迎しますよ」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

『 おぉ~ 』


ロックフォール伯爵と守り人は互いの存在を確認すように固い握手を交わした。


「カプア主任、カード王へ報告せねばなりませんので

 今日中に守り人さんの…ふむ、なんだか味気ないですね、

 守り人とは種族や役職のようなものですし、名前が必要でしょう、カプア主任命名を」

「だってさ、守り人君、名前は何がいい?」

「私が決めても良いのですか?」

「自分の名前なんだから当然でしょ、ほら考えて」

「う~ん…なんでも良いのですか?」

「いいよ」

「それでは」


守り人が食堂の端を指差した。


「彼に決めて貰います」

「「「 ん? 」」」


顔を見合わせる松本、トナツ、ルーベン、互いに違うと手を振り合っている。


「絶対俺じゃないっす」

「僕でもないと思うな」

「えちょっと…」


ルーベンとトナツが左右に距離を取った。


「え? いやそんな何の脈略もなくねぇ…俺じゃないですって」

『 … 』


左右に逃げようとする松本を守り人が指で追っている。


「ではマツモト君、命名を」

「えぇぇぇ!? ちょとロックフォール伯爵…」

「ふふふ、間違いなく歴史に残る名前です、責任重大ですよ」

「(嫌ぁぁぁ!? プレッシャーがががが…お腹痛い…)」

『 … 』

「あの……ノアさんでお願いします」

「了解です、私はノアと名乗ります」

『 おぉ~! 』


守り人の任命が完了し一同から拍手が沸き起こった、

恐らくノアの箱舟から連想されたっぽい。


「なんか女性の名前っぽいっすね」

「マツモト君、名前の由来は?」

「いやあの…ふと頭に浮かんで来たんですよ、ノアの2文字が…あはは…

 (もしかしてイオニアさんの方が良かったのか? 

  いやしかし、カプアさんがどう思うか分からんしなぁ…失敗したか?)」


左右に戻って来たルーベンとトナツに詰められて、松本は安直な考えを後悔した。






時間は流れて16時、トナツの診療部屋、

バトーから届いた手紙を確認中。


「へぇ~じゃぁマツモト君のいた村の人達は全員ウルダに避難したんだ」

「みたいですね、獣人の人達も一緒だと書かれてます、

 レム様はポッポ村の森に残ったみたいですけど」

「まぁ、精霊様はそうだろうね、魔王の脅威は関係ないし」

「寂しがってなければいいけすけど、お茶とかまだあるのかな?」

「お茶飲むんだ」

「飲みますね、紅茶が好きですよ、パックの安いヤツですけど」

「へぇ~レム様って意外と庶民的なんだね、最高級のヤツが好きだと思ってた」

「いや、好きなのかもしれませんけどね、俺が買えないから安いヤツなだけで」

「え? レム様への献上品ってマツモト君が買ってたの?」

「まぁ、献上品とかそういう堅苦しいヤツじゃなくてですね、

 どちらかというとお裾分けみたいな、

 家が隣なんで置いておくと勝手に飲みに来るんですよ」

「へぇ~(どういうこと?)」

「だから留守にしてる間に切らさないようにと思って、

 この間、あ、ウルダにいた時の話ですけど、送っておいたんですよ、

 でも、う~ん…獣人の人達が使ってるって言ってたし、皆で飲んだら無くなってるかも」

「マツモト君の家を獣人の人達が使ってるってこと?」

「そうですよ、獣人の里とポッポ村が交流を始めたって言ったじゃないですか、

 それの仮拠点みたいな感じです、なんか勝手に改装されたらしいんで

 今がどうなってるかは俺にも分からないです」

「そうなんだ(勝手にいろいろやられ過ぎだと思う…)」

「まぁでも大丈夫か、村の人達も差し入れしてくれるって言ってたし、

 光筋教団が持って来た献上品もある筈だし」




一方その頃、レムは。

 

「お、あったあった、あったよワニ美ちゃん」

「…」

「いや~ゴードン君から言われてたことすっかり忘れてたよ、

 でもこれでまたお茶が飲めるよ、あ、クッキーもある」

「…」


松本の家に保管されていたポッポ村からの差し入れを見つけて喜んでいた、

光筋教団からの献上品はポッポ村のレム小屋に保管されているのだが、

全部魔法のプロテインなので手を付けていないらしい。




「もう1個の手紙にはなんて?」

「友達からなんですけど、え~と、ふむふむ、ウルダ祭についてですね」

「ロックフォール伯爵が招かれてたウルダのお祭りだよね、確か年2回あったと思うけど」

「それです、毎年5月と10月に行われるみたいなんですけど、

 魔族の騒ぎで延期になってたらしくて」

「今はどの町も大忙しだから仕方ないよ、周辺の村から避難してくる人達を

 受け入れるために城壁を拡張してるって話だし」

「ん? そんな大きな工事してましたっけ?」

「ダナブルは建物の収容人数を増やす方法を取ったから城壁はそのまま、

 あちこちで家を立て替えてたでしょ」

「あ~アレはそういうことだったんですか」

「そうそう、完成した家を見せて貰ったけど結構広かったよ、地下にも部屋あったし」

「へぇ~凄い」


新築なので松本の住むオカマ寮より綺麗で丈夫である。


「5月の予定だったんですけど1ヶ月ズレて先週行われたみたいです、

 自由参加の闘技試合があって、それの結果報告ですね

 ヒヨコ杯の優勝はレイル君、2位はラッテオ、3位はカイ、同じく3位は知らない子だな」

「ヒヨコ杯って?」

「子供の試合のことです、大人の試合はミノタウロス杯で、

 住民同士のイザコザを解決するためのケロべロス杯ってのもあります」

「そんなのもあるんだ」

「ケロべロス杯はイザコザの内容も発表されるので面白いですよ、

 え~と、ミノタウロス杯の優勝はメグロさん、2位はドーフマンさん、

 3位はロジさん、同じく3位はゴードンさん、う~んこれは…」

「どうかしたの?」

「いや、自由参加なので誰でも参加可能なんですけど、

 優勝したのはウルフ族の人で、3位はポッポ村の人です」 

「マツモト君の知り合い?」

「はい(今回のミノタウロス杯も荒れたみたいだなぁ…アクサスさんは負けたのか?)」


アクラスはロックフォール伯爵からの依頼で水上都市リコッタへ出張中である。


ニャリモヤも参加したが3回戦でメグロに敗退、

バトーはカルニの厳命により不参加、

代わりに出場したゴードンはベルクを破り決勝トーナメントに進んだが、

ドーフマンに場外へ押し出されて敗退、

アクラス不在で優勝を期待されたロジだったがメグロの素早さに手も足も出ずに敗退、

大剣を扱いきれていない弱みが強調された一戦となった。


決勝はメグロとドーフマンの対決となったが、

本業がチームの盾役であるドーフマンが勝てるはずもなく、

メグロの猛攻に防戦一方となり勝敗が決した。


因みに、カルニ軍団は今回も奮戦したが

それぞれ4強と対戦し華々しく散ったそうな。




「あと、闘技試合とは関係ないですけど友達の父親がキノコの押し売りで

 衛兵に取り押さえられたらしいです」

「えぇ…」


正確にはキノコの天ぷらをキノコ嫌い達に無理やり食べさせようとして、

出店を強制撤去されたらしい。


「(まぁ、シメジの父ちゃんならあり得るか…)」


誰よりもキノコを愛しキノコに人生を捧げた男が

キノコの天ぷらを習得したがために起きた悲しき事件である、

奥さんにボコボコにされ晩御飯のキノコを抜かれて反省したらしい。



喉が渇いたので松本はお茶を、トナツはコーヒーを食堂で補充。


「「 飴芋下さい 」」

「はいよ~」


ついでに2人共も飴芋を購入して部屋に戻って来た。



「ルーベンさん元気そうでしたけど、赤い目の竜って何か進展あったんですか?」

「あ~あれね、ちょっと面白いことになってるよ」

「ほう」

「竜ってマナの海に住む伝説の魔物でしょ、

 昔からある言い伝えだけど実際に見たって記録はないの」

「ほうほう」

「今回赤い目の情報があったから同じ赤い目を持つ

 ストックさんとダリアさんに聞いてみたんだけど、竜は魔物じゃなくて精霊様なんだって」

「え? 何の精霊様ですか?」

「分からないけど、多分マナとかじゃないかな、精霊様は世界を構成する要素の1つだし」

「なるほど、マナの海に住むマナの精霊様、あり得なくはないですね」

「ダリアさん達の村には大きな竜の壁画があって、描いたのは賢者本人らしいよ」

「そりゃルーベンさんも元気になりますね」

「うん、凄く前のめりになってた、嬉しそうだったなぁ」


目から発せられたキラキラがストックとダリアに刺さっていたらしい。


「フルムド伯爵達からは何か連絡はないんですか?」

「まだ何もないよ、もうそろそろカンタルに着く頃じゃないかな?」

「そもそもなんですけど、カンタルって街道が繋がってるんですか?」

「1/3くらいまでは繋がってるけど、そこから先は石畳が崩れ始めて

 最後は只の砂漠になるんだって」

「それってどうやって進むんですか? 馬車ですよね?

 あんな細い車輪だと埋まっちゃうと思いますけど」

「普通は砂漠用のソリをサンドランナーって魔物に引っ張って貰うんだけど、

 フルムド伯爵は強化魔法が使えるからさ、地面を固めてそのまま進めるんだ」

「はぇ~便利ですねぇ、飴芋旨い」

「「「「 ドーナツ先生~ 」」」


なんて話をしていると賢者の末裔ファミリーがやって来た。


「いらっしゃい」

「あ、マツモト君だ」

「久しぶりだな、最近見なかったが何処かいってたのか?」

「ちょっと泊まり込みでチーズのお世話をしてました、皆さん診察ですか?」

「いや、ストックだけだ」

「別に病気じゃないよ、ドーナツ先生から定期的に来るように言われてて」

「ストックさんだから心配はしてないけど一応ね、

 魔道義手って人体に鉱石を埋め込んでるわけだし、急に壊死とかし始めたら怖いからさ」

「なるほど、邪魔になりそうなんで俺は隣の部屋に行ってます」

「ニチとゼニアも一緒にいっておいで」

「あまり騒がないようにな」

「「 はい~ 」」


というわけで、隣の部屋に移動。


「マツモト君、このキラキラしたのなに?」

「飴芋、甘いヤツだよ」

「食べられる?」

「食べられるよ、1個ずつしかないけどどうぞ」

「「 甘い~ 」」

「(ほほほ、子供の笑顔はいつ見てもええのじゃ)」


孫にお菓子をあげるお爺さんみたいな顔をしている。


「マツモト君、あの変なヤツは?」

「ハダカハゲデブデバネズミって名前の魔物だよ」

「…ちょっとだけ可愛いかも」

「え~全然可愛くない、変だよ、ゼニアお姉ちゃんも変だよ」

「この変なところが可愛いいのに、ニチには分からなくてもいいもん」

「変だよ、絶対美味しくないよ」

「(美味しくない?)」


魔物は狩って食べるもの、それが未開の地で生活する賢者の末裔スタイル、

人形が大きいので食用にし易い中型の魔物だと勘違いしているらしい。


「鳴き声は、ンボ…」

「「 ボ 」」

「違う違う、最初にこう沈む感じで、ンボ…」

「「 ンボ… 」」


因みに、ハダカハゲデブデバネズミの寿命は30年程、

魔物園にいた個体は16歳なので松本達より年上である。





ストックの検査が終わり賢者の末裔ファミリーが帰ろうとした時、

身なりの整ったガタイの良い初老の男性が扉を開けた。


「お取込み中失礼します」

「いらっしゃい、アンダースさんが来るなんて珍しいね」

「主は少々取り込み中でして、私が代理として要件をお伝えしに参りました」

「(おいストック、この人は誰だ? 知ってるか?)」

「(ロックフォール伯爵の執事の人、僕達何回か会ってるから)」

「(そうだったか?)」

「(そうだから静かにして、失礼だよ)」


ダリアとストックがコソコソしている。


「さて、ダリア様」

「な、なんだ? ロックフォール伯爵の執事の人だろ、もちろん知ってるぞ」

『 (う~ん…) 』

「実は1週間程前にルコール共和国より書簡が届きまして、

 あなた方に関する重要な報告が御座います」

「なんだ?」

「ルコール共和国にて賢者の末裔と思われる方々が20名ほど保護されております」

「ほ、本当か!? 誰だ? シシリか? ハッテか? 族長は無事なのか?

 何故もっと早く教えてくれなかったんだ、凄く心配してたんだぞ!」

「ちょっとダリア、1回落ち着こう、ほら座って」

「これが落ち着いていられるか! 放せストック!」


アンダースに詰め寄ったダリアをストックが引き離そうとしている。


「このような反応が予想できましたので、

 無用な心労をお掛けしないようにと敢えて秘密にしておりました、

 主の心使いとご理解下さい」

「ぬぅぅ…」

「すみませんアンダースさん、ほらダリア座って」


ダリアしぶしぶ着席。


「ルコール共和国で保護されている方々はこちらの水晶にてご確認頂けます、

 問題はここに記録されていない方々です」

「それなら村に戻っていると思います」

「そうだ、皆丈夫だからな、あれ位生き延びているに決まっている」

「私もそう願っております、賢者の末裔の方々は何名ほどいらっしゃるのでしょうか?」

「子供まで入れたら150人位です」

「なるほど、近頃は魔族の出現が増加しております、

 またいつ襲われるか分かりませんので早急に避難を促すべきかと」

「よし、行くぞストック」

「いいけど、ゼニアとニチは?」

「危ないから置いていく」

「「 えぇ~一緒に行きたい 」」

「駄目、危ないからここに残って」

「それには及びません、お2人が向かわれては村に辿り着くまで2ヶ月以上掛かるでしょう」

「ならどうしろと? 私は絶対に見捨てんぞ」

「カード王国が誇るSランク冒険者、空のシルトア様が帰還されました、

 あの方に御依頼すれば半日も掛からずに情報を伝達することが可能です」

「本当か?」

「本当です、あの方は人間でありながら並のハイエルフより優れておりますので、

 実際に大陸を1日で往復した実績が御座います」

『 おぉ~ 』

「ダリア様とストック様には今一度村の正確な場所をお教え頂きたいのと、

 賢者の末裔の方々を説得するためのお言葉を水晶玉に記録して頂きたいのです」

「わかった、協力しよう」

「皆ダナブルに来るんですか?」

「時間が許すのであれば歓迎させて頂きたいと考えております、

 ですが、現状は一番近いルコール共和国へ避難されるのが得策かと」

「そうですね」

「よし、先ずは村の場所の確認だ、皆リンデルさんの部屋に行くぞ」

「「「 おぉ~ 」」」

「それでは失礼します」

「「 はい~ 」」


賢者の末裔ファミリーとアンダースが退出した。


「大陸を1日で往復って凄くないですか?」

「うん、かなり凄い」

「例えるならどれくらい凄いですか?」

「僕がドーナツを止めるくらいかな」

「なるほど、俺が筋トレを止めるくらいですか」

「僕も1度でいいから空を飛んでみたいな」

「俺もです、こういうのって何歳になっても夢見ちゃいますよねぇ」

「うん」


この日は『264話目【騒動の後日談】』でシルトアがキキン帝国を出発した同日、

王都に帰還してカード王に一連の報告を伝えた後、

各都市の領主へ伝達している最中である。


ダナブルに来たのが運の尽きということで、

この後は守り人の起動報告を再びカード王に持ち帰えることになり、

その後は賢者の末裔の村を探すために旅立つことになる。


類まれなる才能を持つが故に便利屋としてこき使われる悲しき僕っ子、

シルトアはカード王に懇願して1日休みを貰ったそうな。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] 読み直していてレム様って火が使えないじゃないのかなと思ってどうやってお茶を飲むのかな、水出し麦茶みたいな感じですかね 初期は貝も肉も温められず困ってたもんなぁ
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