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265話目【魔物園 1】

カード王国、自由都市ダナブル。


本日は松本が晴れてチーズ工場を出所する日、

遠く離れた東の地ではキキン帝国の騒動が決着し、

シルトアが巨大メメナシを吸い上げた日と同日である。


「すみませんねぇ~ご迷惑おかけしちゃって、ほら坊やも」

「すみませんでした~」


チーズ工場の入り口で見送りに来た副工場長に対し

オーバーオール姿のオークのオバちゃんと松本が頭を下げている。


「私からもちゃ~んと言い聞かせておきますから、

 ほらお礼は? 何から何まで全部お世話になったんでしょ」

「ありがとう御座いました~」

「この子は昔っからヤンチャでしてねぇ~、でも本当は優しい子なんですよ、

 魔物が大好きで一生懸命お世話するんです、餌あげたり掃除したり」

「(なんのこっちゃ?)」

「ですから今回のことは大目にみてあげて下さい、ほら謝って」

「すみませんでした~」

「本人も反省してますので、あ、そうだ、

 これウチの売店で販売してるクッキーなんですけどね、

 いろんな魔物の形をしてて子供達にとても人気があるんです、

 宜しければ皆さんでどうぞ」


大量のクッキーが入った袋を手渡され副工場長が困惑している。


「それではこれで、さぁ坊や、戻るわよ」

「副工場長お世話になりました」

「お世話になりました~暫く歩くからちゃんと付いて来なさい」

「はい~」


当初の予定では午前中に誰かが迎えに来る予定だったのだが、

時刻は既に昼過ぎである。


「(この人は誰なのだろうか?)」


そして迎えに来たのは何故か面識の無いオークのオバちゃんだった。







「私ね、魔物園を営んでるの、知ってる坊や? 魔物が沢山いる魔物園」

「魔物園って確かユキちゃんの」

「そうそう、ユキジカのユキちゃん、毛を刈る時期になると

 嫌がっていっつも逃げちゃうんだけど、暫くすると自分で戻って来るの、

 あっちこっちで皆に可愛がって貰ってるみたい」

「俺も会いましたよユキちゃん、半分だけ毛が刈られてました」


世間話をしながら大通を北上し像のある中央広場を右折。


「それでカプアちゃんに頼まれて代わりに私が迎えに行ったってわけ、

 まぁ先に頼み事したのは私の方なんだけどね、おほほほほ」

「(なるほど、カプアさんの知り合いなのか)

 何頼まれたんですか? 馬車の修理とか?」

「それもそのうちやらないといけないけど今回は設備の方、

 全体的に古くなっちゃててもういろいろ大変なの、

 魔物を飼うのってお金が掛かるからあまり余裕がなくて、

 カプアちゃんには手伝って貰ってばっかりで申し訳ないわ」

「(飼い猫で5匹すら人間1人分くらいの食費が掛かってたし、

  魔物が沢山いるとお金掛かりそうだよなぁ)餌代とか凄そうですね」

「そうなのよ~、市場で普通に買ってたら無理、

 農家さんに直接交渉して商品にならないモノを安く譲って貰ってるの、

 そしたらたまに無料で頂けたりして、大助かりだわ~」

「ほうほう」

「ところで、坊やはどんな悪いことしたの?」


オバちゃんがズイっと顔を近づけてきた。


「(また突唐突に話題が変わったな…)悪いことなんて別に…」

「カプアちゃんから聞いてるのよ私、正直に言いなさい、怒らないから」


松本の言葉を遮るオバちゃん、

両腰に手を当てて鼻をフンフンさせている。


「(う~む、この人シード計画職員じゃ無さそうだしなぁ、

  カプアさんならてきとうなこと言ってそうだしなぁ…)」

「魔法の粉、盗りに行ったんでしょ、製造元のチーズ工場に、

 欲しいのは分るけどお金が無いなら我慢しないと、

 駄目なのよ! 悪いことなの!」

「(ほらやっぱり、それであんなに謝ってたのか、とういうか鼻息が…)」


オバちゃんの鼻息で松本のまつ毛がなびいている。


「俺はギルドの依頼を受けて仕事してただけですよ」

「本当に~?」

「その話はカプアさんの勘違いです」

「…本当? 嘘付いてな~い?」

「泊まり込みで仕事させて貰ってたんです、殆ど荷物運びですけど」

「あらそうなの? こめんなさいねぇ~私てっきり坊やが悪さしたものとばかり、

 倉庫で反省させられてるって聞いてたから、おほほほ、

 もしかしてお別れの時なんか変な感じになっちゃってたかしら?」

「大丈夫ですよきっと、副工場長は俺の事情知ってますし」

「そ~お? 全然喋ってなかったわよあの人」

「副工場長は無口ですから元からあんな感じです」

「おう坊主、久しぶりだな」

「あ、ボーリスさんこんにちは~」


鳥便局の前を通り過ぎようとした時に、

台車から木箱を荷下ろし中のボーリスに声を掛けられた。


「最近見かけなかったが何処行っとったんだ? 

 ギルドで依頼を受けたってのは聞いとったんだが、

 行方が分かららんくて探しとったんだぞ」

「ちょっとチーズ工場に泊まり込みだったもので」

「チーズ工場に? ほう、よくわからんが…アレだな、

 チーズの世話でもしとったんだろう」

「実は毎日チーズを散歩させたんですよ」

「そりゃいい、今夜嫁さんにも教えてやろう、

 チーズ工場にはチーズを散歩させる仕事があるってな、しかも泊まり込みで」

「「 ははははは! 」」


体を逸らせて大笑いしているとボーリスの肩に

ムッチリしたメクリミミクリ(鳥便の魔物)が降りて来た。


「あれ? それムっちゃんですよね?」

「おう、待ちきれなくて降りて来ちまった、

 こいつは凍ってるから直ぐには無理なんだがな」

「何が入ってるんですか?」

「魔物の肉だ、殆ど大ネズミだな、腐るといけねぇから氷魔法で凍らせてある」

「へぇ~餌ですか、確かに生肉食べてましたもんね」

「ギルドから直接仕入れてんだ、チチリさん1箱持って行くか? 必要だろう」

「駄目よボーリス、町のお金で買ってるんでしょ?」

「問題ねぇ、大ネズミの肉は使い道がねぇってんで、

 ヤルエルが1箱オマケしてくれたんだ、チチリさんとこの鳥達にも食わせてやってくれ」

「そ~お? 助かるわ~」

「(この人チチリさんっていうのか)」


1時間以上話をしていたオバちゃんの名前が判明した。


「ボーリスさんは何で俺を探してたんですか?」

「ん? そうだった、ラポル~坊主が来たぞ、持って来い~」

「ボス~坊主ってどの坊主?」

「卵坊主だ、ライトニングホークの」

「はいよ~」

「(いや、それで通ってるんかい…)」


手紙を持ったラポルさんが飛んで来た。


「はいこれ」

「俺に手紙ですか? 誰からだろう?」

「裏に差出人書いてあるよ」

「ほう、バトーさんと、ラッテオだ、へ~嬉しいな」

「マツモト君さ、役所で住んでる家を登録してないでしょ

 配達先が分からないと戻って来るんだよね」

「あ~なんかご迷惑おかけしたみたいで、すみませんでした」

「今後もあるだろうからやっといたら? まぁ代理の受取人とかでもいいんだけど」

「パローラママ宛に送って貰えれば大丈夫なんですけど、分かります?」

「パローラさんね、分かるよ、こっちで申請しといてあげる」

「お願いします~」


ラポルはムっちゃんの腹に顔を減り込ませてから

建物の中に引っ込んで行った。


「坊主、色物街に住んでんのか? ヤルエルから種博物館の辺りと聞いとったんだが」

「引っ越したんですよ」

「おうそうか、知っとるか? あそこは昔デッケェ火事があったんだぞ、

 いくつか新しい家が建っとるだろう、それがその時に燃えたヤツだ」

「いや~? そんなに極端に新しい建物は無かったと思いますけど?」

「そんな筈ねぇ、俺は燃え跡を見に行ったんだ、勿論嫁さんとな」

「おほほ、もう10年以上も前の話だよボーリス、建物もそれなりに古くなってるって」

「お? そんなに前だったか?」

「前だよ、イオニアがまだ小さかったから間違いないって、

 アンタも随分と…いや、あまり変わらないかも、昔から髭モジャだったし」

「だはははは、嫁さんにも髭を剃ったら誰だかわからなくなると言われとる、

 ほれ、チチリさん1箱」

「それじゃ遠慮なく、ムっちゃんこれ貰ってくわねぇ~」


木箱を差し出すボーリスに対して

ムっちゃんが髭を引っ張って抗議している。


因みに、色物街の火事は18年前の出来事で

色物街の人達が良く集まっている広場が火事現場である、

そのため広場周辺の建物は松本が寝泊りしている建物と比べると新しい。



「(イオニア…イオニアって誰だったっけ、え~と…)」

「行くわよ~坊や、早く早く)」

「はいはい~(あれ? 何だったけな?)」


聞き覚えのある名前を思い出しかけていたのだが

チチリに呼ばれたせいで記憶の彼方に消えてしまった。








そしてダナブルの北東にある魔物園に到着、

と言っても目の前にあるのはサッカーコート4面分はある大きな芝生、

魔物ではなく親子連れがや子供達が遊んでいる。


「せいぃぃぃ!」

「ぐぁぁ!?」


中には結構な大人達が本気で鬼ごっこしており、

全力タックルしていたりもする。


「こんなに広い場所が町中にあったんですね」

「ほら、どうしても鳴き声とか匂いの問題がでちゃうでしょ、

 周辺の家に迷惑かけないようにするとこうなっちゃうの」

「なるほど、ということはアレが魔物園ですか」

「そうそう、周りの芝生は役所の持ち物だから塀の内側だけが魔物園」


芝生の中心にあるカラフルな塀に囲まれた場所が魔物園である、

恐らくサッカーコート1枚分位の広さだと思われる。





芝生の中にある道を進み入場口までやって来た2人、

入場口の上のアーチに梯子が掛かっており、

オークの女性が看板にペンキを塗っている。


「順調そうねロキ」

「まぁね、塀はもう塗り終わったからコレが最後、その子がカプアさんが言ってた子?」

「そうよ、思ってたより悪い坊やじゃなかったわ」

「全然悪くない松本です、宜しくお願いします」

「本当に~? カプアさんから聞いてるんだよ私、嘘ついてるでしょ?」


ロキがハケをフリフリしながら疑いの目を向けてきた。


「もしかしてチチリさんとロキさんって母娘ですか?」

「なんで?」

「同じこと言ってますから」

「えぇ~やめてよ~似てるみたいじゃん」

「嫌がっても母娘なんだから似てくるものなの、服だってお揃いだし」

「作業用なんだから当たり前じゃん、普段のウチはもっと個性出してるから」


今はチチリと同じオーバーオール姿だが、

両耳にぶら下がった髑髏イヤリングに個性の片鱗が見え隠れしている、

マニキュアもカラフルだし髪も白色パーマなので

普段はかなりファンキーなのかもしれない、

いかにも個性を出したがるダナブルの若者といった感じである。


「早くに父親を亡くしたからか気の強い子に育っちゃって、

 ロキったら個性だとか言って棍棒も変に弄ってるのよ」

「買ったままのダサいヤツなんて使ってられないって、

 ウチの棍棒の方が絶対イカしてる、どうマツモト?」


ロキが梯子の下に転がっている棍棒を指差している。


「(鬼の金棒みたいだ)攻撃力高そうですね」

「格好いいでしょ、自分でやったんだ」

「へぇ~」


片手で触れる小ぶりサイズだが円錐状の突起物がトッピングされており、

配色は黒地に金のラインが入ったツートンカラー、グリップ部には革が巻かれ、

円型のグリップエンドには髑髏のアクセサリーが添えられている、

なかなかお目に掛かれないフルチューン棍棒(自作)である、

殴られると凄く痛そう。



「ママ、その箱は?」

「大ネズミのお肉、ボーリスから貰ったの」

「マジ? いいじゃん、今度お礼言っとこ」

「そうして、坊や行きましょ」

「ちゃんと入場料払いなさいよ~マツモト」

「必要ないわよ坊や、カプアちゃんに会うだけなんだから」

「駄目だって、ママは甘すぎ、そういう少しの積み重ねが大事なんだから」

「坊や、ほらいらっしゃい」

「駄目、そこでチケット買いなマツモト」


入場口の内側から手招きするチチリと、

入場口の上から横のチケット売り場を指差すロキ、

母娘の間で板挟みにされている。


「(因みにいくらなんだ?)」


チケット売り場のガラスに張られた料金表を見ると


『大人(12歳以上) 1人5シルバー、

 子供(6歳以上)  1人2.5シルバー、

 チビッ子(0~5歳) 無料』


と書かれている。


「(うむ、お安い、そういえば元の世界でも水族館に比べて

 動物園ってお手頃だったよなぁ、餌代とか賄えてたのだろうか?)

 すみません、子供1人でお願いします」

「はいよ~」


貝殻の財布から硬貨を取り出してチケット購入、

ロキは満足そうだがチチリは申し訳なさそうな顔をしている。


「ふぅ…ありがとうね坊や、ロキのこと嫌いになったんじゃない?」

「いえ、俺も魔物見たかったんで丁度いいです、餌代無くなっちゃうと可哀相ですし」

「偉い! マツモトは分ってるわ~、どうぞ、入って入って」

「お邪魔します~」


ペンキが垂れてこないか警戒しながら入場。






お触りコーナーではしゃぐ親子に頬を緩ませながら奥へと進み、

爬虫類っぽい個別展示コーナーを抜けバックヤードに入ると

カプアが変な箱型の装置をモリモリ組み立てていた。


「カプアさ~ん」

「お、マツモト君久しぶり」

「お久しぶりです、何ですかこれ?」

「卵を温める装置だよ、マナ石で動いて温度と時間を設定できる凄いヤツ」

「へぇ~魔道加熱器みたいなモノですか」

「アレはコレから時間設定を無くして熱量を上げたヤツ」

「じゃぁコレが原型ってことですか?」

「そうだよ、しかも一番最初の試作機、その名も『卵を温める凄いヤツ1号』」

「(安直な名前だな…)」


装置に取り付けられた金属プレートにもしっかり書かれている。


現実世界では孵卵器ふらんきまたはインキュベーターと呼ばれており、

卵を温めてパカっと孵化させるための装置である。


※魔道加熱器はドーラの宿やタレンギの豪華馬車などに

 設置されていたIHコンロみたいなヤツ。



因みに、日本のスーパーで売られている卵は

無精卵なので温めても孵化しないらしい、

極稀に有精卵が含まれているらしいので

興味がある方は試してみてはいかがだろうか?

但し、孵化した命を粗末にしてはいけない、

最後まで責任を全うできる方のみどうぞ。




「それじゃ私は仕事があるから、後はよろしくねぇ~おほほほ」

「「 はい~ 」」


チチリは笑い声と共に撤退。


「…、ちょっとカプアさん、魔法の粉を盗みに行って掴まってるってなんなんすか?」

「仕方ないじゃん、チチリさんは職員じゃないんだし、配線は良しと」

「販売してる光筋教団ならまだ分かりますけど、

 製造元のチーズ工場に盗みに入るって…窃盗団じゃないんですから」

「マツモト君魔法の粉好きだしいいかなって、説明考えるのも面倒だったし、

 そのドライバー頂戴」

「はい(本音でてますやん…)」


まぁ、監禁生活中に松本が常飲していた魔法の粉(肉味)は

トナツが隣の倉庫から持って来たヤツであり、

お金を払っていないのであながち間違いではない。


「ハンクさんは来てないんですか?」

「ハンクは今頃バター製造機を運び出してるんじゃないかな?」

「アレ売れたんですか?」

「売れてないよ、ロックフォール伯爵が役所に教えたら興味持ったみたいで、

 試しに使ってみて良ければ全都市に売り込む予定」

「へぇ~」


ストックが魔道義手の手術を受けるために造られたマナ消費装置の話、

本来の目的はさておき今後はバター製造機として活躍予定、

既にカード王の認可も貰っており、

全都市のバター製造者達が心待ちにしているらしい。








一方その頃、シード計画施設内では。


「重ぃぃ…やはり1人では…」

「手伝おうかハンクさん?」

「はぁ…いえ、大丈夫ですよドーナツ先生、既にリンデル主任に手伝って頂いてます」

「? いないけど?」

「2人では厳しかったのでルーベンさんを呼びに行かれました」

「あ、そういうこと」

「ハンクお待たせ~」

「ドーナツ先生こんちわっす、マツモト君は一緒に来てないんすか?」

「カプアさんが迎えに行きたいって言うから変わったんだ、今日は来ないと思う」

「アイツ…さては逃げたな」

「逃げたっすね、間違いなく」

「(あばば…主任の命が危ない…)」


分解されたバター製造機は台車に乗せられて移動中。







場所は戻って魔物園、バックヤード。


「マツモト君今日暇?」

「まぁ、暇ですね」

「遅くなっても大丈夫?」

「まぁ、大丈夫ですね」

「じゃぁちょっと見せたいモノがあるからさ、一緒に帰ろう」

「了解です」

「私はまだやることがあるから暫く魔物園を楽しんで来てよ」

「手伝いましょうか?」

「ちょっと専門的なヤツだから気にしないで、2時間は掛かると思う」

「了解です、適当にブラブラしてます」





ということでバックヤードから出て魔物園探索開始。


「(デッカイ蛇だなぁ~こんなん巻きつかれたら死にますよ)」


松本を丸飲みできそうな蛇を見たり。


「(ほう、これがマッスルトード、確かにマッスル感ある、

  淡白だけど脂質が少なくていいよなぁ~コイツ)」


馴染みの食材になりつつあるマッスルなカエルを見たり。


「(めっちゃ刈られてる…)ユキちゃん元気かい?」

「モゴモゴ…ッぺ!」

「(う~ん、元気そうだな)」


顔以外の毛が刈られたユキちゃんに挨拶したり。



「はいはい~、皆さん餌あげるわよ~、見たい方は集まってねぇ~」

『 わ~ 』

「お、チチリさんだ」


鳥の檻の中で手を振るチチリに釣られて家族連れに混じって一緒に見物。


「この鳥ちゃん達はケンカバトって名前なの、

 よく屋根の上とかに見かけるでしょ、

 名前の由来を知ってる子はいるかしら?」

『 … 』

「あらいないみたいねぇ~、それじゃよく見てて、ほい」


チチリが生肉を投げると鳥達が一斉に飛び掛かって取り合いだした。


「こんな感じでいつも餌を巡ってケンカしてるからケンカバト」

『 おぉ~ 』

「道端でケンカしてたりするけど、

 危ないから良い子は近寄ったら駄目だからねぇ~」

『 はい~ 』

「あばば…」


ニコニコの親子連れとは対照的に驚愕の松本。


「(ポッポ達って肉食だったんか…)」


オカマ荘で毎朝パンを要求して来る鳥だった。




『ケンカバト』

餌を巡って争う姿から名づけられた中型の鳩みたいな魔物、

雑食で割と何でも食べるが自分より大きい相手は襲わない、

そんなに強くないので自然界より町中を好み人と共存している、

たまに道端に落ちている食べ物を巡ってケンカしている姿が目撃される。







お触りコーナーでモルモットみたいなネズミを触りご満悦の松本。


「(コレは良い耳だ)」


耳の感触が気に入ったらしい。


「ん? ちょっとお前、あらら、お腹の毛が剥げちゃってる、

 (そういえば飼ってた猫も昔剝げたことがあったな、

  アレは確かストレスが原因だったような?)」

「キュル」


ネズミを両手で抱えてお腹を観察していると

つぶらな瞳と目が合った。


「(お前…そんな澄んだ目をしてるのにストレス溜まってるのか…、

  そうだよなぁ、毎日子供達の相手をしてるんだから大変だよなぁ、

  ご苦労様です~)」


そっと下ろして解放した。


「食べた食べた~! お母さん食べたよ~」

「食べたねぇ~、可愛いねぇ~」


親子連れがカピバラみたいな魔物に芋を食べさせて大喜びしている。


「ほう、餌をあげれるとな、何処で買えるんだ?」


周りを確認するとお触りコーナーの近くに

『餌売ってます→』とデカデカと看板が出ていた。


「なるほど、買おう」


財布を握り締めて突撃。




魔物園の入場口の左側にある売店にやって来た、

売店の入口の前にテーブル置かれカット野菜が陳列されている。


「1カップで2シルバーか、お安い、

 こんなんなんぼ買ってもいいですからね、

 料金は中で支払うのか、はいはい、ん?」


小松菜と人参のカップを1つずつ持って入店しようとすると、

売店の横側にもう1つテーブルがあるのに気が付いた。


「んん? コレはいったい…」


テーブルの上には品物が3つだけ、

足を組んだ下半身みたいな妙に艶めかしい人参と、

全力で走っているみたいな躍動感のある大根と、

力こぶを作っている腕みたいなマッチョな芋、

何れも台座に置かれカラスケースに入れられている。


「(20シルバーか、う~ん…)」


展示品かと思ったが値札が置かれている、

しかもやたらと高い、丸々1個と考えても高い。


そもそもカット野菜も1カップで2シルバーは高かったりする、

普通は丸々1個で1シルバー前後、

フランスパンが1本で2シルバーとかである、

松本が安いと言ったのはあくまでも魔物園価格、観光地価格の話。


「(確かに面白い形ではあるが…買う人いるのか? しかも…)」


『撮影禁止!』の立札と水晶玉に斜線が引かれた絵が添えられている。


「(何故? 見せたいのか見せたくないのか…謎だな)」


テーブルも売店の正面ではなく側面にあるので

どちからというと気付き難い位置、

強気な値段設定の割に謎の品物である。


「ふむ、まぁいいか」


良く分からないのでカット野菜を買うことにした。



「すみませ~ん、これ2つ下さい」

「お小遣い大丈夫なのマツモト?」

「あれ、ロキさんが店員してたんですか」

「何でもやるよ、ここはウチの家だからね」

「ここに住んでるんですか?」

「そうだよ~産まれた時からずっと魔物と一緒、それより1個にしといたら?」

「2つ買いますよ、どっち食べるか分かりませんし」

「まぁ、ウチとしてはお金使ってくれた方が助かるけどさ、

 流石に怒られるんじゃない?」

「俺が自分で稼いだお金なんで大丈夫ですよ、冒険者やってるんで」

「へぇ~偉いじゃん、それじゃ4シルバー」

「はい~」


カウンターに置いた4シルバーをロキが回収。


「ウチもやってるよ、たまにだけど」

「冒険者ですか?」

「そうそう、人数合わせで混ぜて貰ってる、

 訓練とかしてないから弱いんだけどさ、

 集団依頼なら別にウチが戦わなくてもいいじゃん、

 棍棒だけ持って参加すんの、んで討伐した魔物の回収が主な仕事」

「ははは、いいですねそれ」


オークは力が強いので荷運び要員らしい。


「この間はソルジャーアントの討伐だったんだけど、

 素材も売れたし中々いい稼ぎになったよ、マツモトも今度誘ってあげようか?」

「俺は補助依頼専門なんで」

「ん? てっきり討伐依頼が好きなのかと思った、その個性はどうしたんだ?」

「この傷はコカトリスに襲われた時にちょっと」

「よく生きてたな、コカトリスはマジでヤバいって、ここじゃ絶対飼えない」

「ははは、飼ってたらパトリコさんが飛んできそうですね」

「ははは、確かに、あの人イカしてるよな~、憧れるわ」


ムキムキマッチョ義手のパトリコさんは個性の固まりです。


「そういえば20シルバーの人参とかって買う人いるんですか?」

「あれはさ~、お、丁度来てる」


手元を確認したロキが外に出て行くと、

眼鏡を掛けた人間の女性が食い入るように大根を眺めていた。


「はぁはぁ、いい…今にも走り出しそうな躍動感が…いい!」

「どうする? 買っちゃう? 明日には痛んじゃうかもよ」

「はぁはぁ、買う!」

「はい毎度あり~」

「うひょひょひょ~!」


20シルバーを支払い大根を手に入れた女性は興奮気味に走り去って行った。


「あの~今のは一体…」

「世の中には変わった個性の人がいてさ、こういうのが以外と売れるんだよね~」

「なるほど(流石は自由都市だな)」

「あの人は常連、気に入った野菜の写真を集めてんだって」

「それで撮影禁止ですか」

「そういうこと、買って欲しいからね、

 外から見えるようにワザとこの向きで置いんの、上に水晶玉あるでしょ、

 アレが店内の水晶玉に繋がってて来たら直ぐに分かる仕組みになってる」

「へぇ~(監視カメラってことか)」

「元は農家さんから箱単位で安く仕入れたヤツだし、

 入場料も貰えるからいい儲けになるんだ」

「(う~む、賢い)」


マニア向けのニッチな商品だった。

 







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