263話目【シルトア、驚きの吸引力】
余りにも長すぎたのでちょっとだけ次の話に分けました、
区切りの関係で文字数のバランスがあばばば…すみません。
「国王、ご報告が」
「ふんふん、ほう」
地上でハイエルフから報告を聞き取り中のケルシス、
時系列的には『260話目【内政の行く末】』で
オニギリが配られた20分後位である。
「そうか、分かっ…あっ!?」
空から急降下して来たトトシスに
オニギリの上から飛び出たウィンナーを搔っ攫われた。
「トトシスお前っ! 降りて来いこらぁ!」
「ふっふっふ、油断しましたね国王、
国外では何時何処から襲撃を受けるとも限りません、
例え職務中だとしても立場を自覚し警戒して頂かないと」
「いやそれはお前の仕事だろ! 私の具を返せ!
折角貰ったオニギリが只のオニギリになってしまったではないか!」
具が無くてもオニギリはオニギリ、
言ってる意味は伝わるが文字にすると変な感じがする、
そして登頂部にぽっかり穴の開いたオニギリは少し寂しい感じがする。
「これは教訓として私が頂いておきます、うまうま」
「ああ~!!」
「(食べ物のことになるとあの人本当にアレだよなぁ…)」
『(う~ん…)』
普段から品性を語っておきながらこれでは
報告に来たハイエルフも目を細めるというもの。
因みにこのオニギリは追加で貰ったお替りオニギリ、
ケルススとトトシスが空中戦を繰り広げているのを見て
トドの友達の老兵が用意してくれた。
「失礼ながらシルフハイド王、その方が運ばれたご報告、
宜しければ私達にもお聞かせ頂けないでしょうか?」
内容を察してマツバがやって来た。
「ふむ、ご苦労だった、お前は休んでいいぞ、
オニギリが欲しいならあのお爺さんだ」
「はい」
「ちゃんとお礼は尽くせよ、あとトトシスに気を付けろ」
「はい…(旋回している…)」
海辺で観光客の食べ物を狙うトビみたいである。
「さてマツバ殿、私からは結果だけ簡潔に伝えよう」
「お願い致します」
「イナセが勝ったそうだ、クサウラは死んだ」
ケルシスが結果を口にすると聞いていた兵士達がざわつき出した、
大半が肩を落とし中には泣きだす者さえ見受けられる。
「うん? なんだ? とても国の乗っ取りが阻止された反応では無いぞ」
「なんか逆というか、これだと僕達が悪いことしたみたいな…」
「私達が考えていたよりも複雑な問題だったようです」
シルトアとシャガールも近づいて来た、
手が震えすぎて髭をネジネジ出来ていない。
「やるせないねぇ、それだけクサウラが認められていたってことだろうけど」
「スギエダよ、多くの者が加担していたことは事実だが、
国民全体で見ればクサウラの行動は認められてはおらぬ」
「将軍を失ったという意味じゃ、イナセは良くやってくれたわい」
スギエダとトドもやって来て主要人物が揃った。
「ともあれ区切りだ」
「そうだねぇ」
「マツバに任せる」
「シルフハイド王、シャガール殿、シルトア殿、
この度はキキン帝国が各国にご迷惑をお掛けしたこと、
心より謝罪致します、そしてご助力頂いたこと、心より感謝致します」
マツバの言葉に合わせて元3本柱が深々と頭を下げた、
これは個人的なものではなく、略式ではあるがあくまでも国として、
キキン帝国が世界に対しての謝罪と感謝を示したことを意味する、
各国代表は3人が頭を上げるまで言葉を発しなかった。
「マツバ様、キキン帝国はこれからどうされるのですか?
カード王とタルタ王に報告しないといけませんので
教えて頂けると助かります」
「そのことに付いては…」
「はぁ~シルトア…シルトアよ…はぁぁぁ…」
シルトアの頭をペチペチ叩きながらケルシスが溜息を吹きかけている。
「まったく、はぁ~…これだから名ばかり代表は、
そんなもの直ぐ決められる筈がないだろう」
「僕だってそんなことは分かってますけど、
仕事なんです、仕事、ちょっやめて下さい…」
「ひょぁぁ~ほぁぁ~」
「いい加減にしないと怒りますよ、ちょっと!」
溜息を振り払いながらシルトアがビキビキしている。
「ほほほ、まぁまぁシルトア様のお気持ちも分かりますよ、
私も難民の方達の処遇についてお聞きしたかったところです」
「私達としても国民の速やかな帰国を望んでおります、
ただ居場所が定まっていないためどのように呼び掛けるべきか思案中でして」
「シャガール殿、難民はルコール共和国中に散っているのだろう?」
「はい、街道に近い領に多い傾向にありますが常に流動しておりますし、
中にはカード王国まで移動された方もいるかもしれません」
「ふむ、ならばルコール共和国内の町…領と言ったか?」
「町でも構いませんよ、呼び方が異なるだけで同じものです」
「全ての町の代表宛に書簡を送ればいい、
ウチの者達に運ばせれば今日中に情報が伝わる、
勿論、コール共和国とキキン帝国の双方が了承すればだがな」
「それはもう、ルコール共和国側としては大変助かります」
「有難い申し出なのですが本当に宜しいのですかシルフハイド王?
ご迷惑をお掛けしたばかりだというのに」
「なに気にするな、隣国たるもの困った時は助け合わねばな、
お~い、長距離に自信のある者、てきとうに3人来てくれ」
「「「 はい、国王! 」」」
自信に満ちた顔のハイエルフがシュバっと3人飛んで来た。
「聞いていた通りだ、ルコール共和国までてきとうに頼む」
「「「 はい、国王! 」」」
「場所とかはその辺りの人にてきとうにアレしてくれ」
「「「 はい、国王! 」」」
『(てきとうだなぁ…)』
曖昧な指示に一同が目を細めている。
「あの、宛先に関しては私がご説明致しますので」
「だそうだ、シャガール殿に聞くように」
「「「 はい、国王! 」」」
「マツバ殿、長距離を飛行するにはかなりのマナを消費するのでな、
すまないがてきとうに食べる物でも持たせてやって欲しい」
「わかりました、ご要望を頂ければ可能な限り対応致します」
「だそうだ、何か欲しいものがあればマツバ殿に伝えるように」
「「「 はい、国王! 」」」
「それとついでに果実酒を頂きたい」
「わかりました」
「…ケルシス様、何でそこだけハッキリしてるんですか?」
「私が飲みたいからだ、お前も一緒にどうだシルトア?」
「いえ、僕はいいです…(自由だなぁこの人…)」
シルトアの冷たい視線など意に介さず
ケルシスは果実酒を手に入れた。
「ズルいですよ国王~!」
「これは私が要望した果実酒だ、お前さっきウィンナー取っただろ!」
「それとこれとは別です!」
果実酒を巡る攻防が空中戦へと発展している。
「(キンキンに冷えてやがるっ…! あ、ありがてぇっ…)」
『 えぇ… 』
地上ではビールを貰ったシャガールが
犯罪すら厭わない顔で涙を流している、
周りは困惑しているが手の震えが止まった。
「気を付けてな~」
「「「 はい、国王! 」」」
ささっと作製した書簡を持ちハイエルフ達は飛び去った、
ついでに野営地の全員に直ぐに戻るように連絡を依頼した。
国の始まりとされる古い休憩所、
傍に植えられた木が花を咲かせ始めおり2分咲きといったところ、
それぞれ『将軍』『参謀』『宰相』の柱の前に元3本柱の3人が座り、
丸い石のテーブルを囲んでお茶を啜っている。
「ようやく終わったね」
「そうじゃな」
「いや、始まりであろう」
3人の視線が空席の『皇帝』に向けられた。
「考えておることは同じようじゃな」
「この地に国が興って以来、支え続けて来た柱が1つ失われた、
他の3本とは違い代わりを据える事など出来ぬ」
「だけど誰かが国を纏めないといけない、今なんだろうねぇ」
風に吹かれ白い花弁が2枚
ひらひらと4つ目の席に落ちて来た。
「満開を待たずして散るか、あまりにも早かろうに」
「仕方のないことじゃ、花はいずれ散る、
1つ、また1つとな、全ての花が最後まで残る訳ではない」
「これから新しく咲く花もあるだろう、散って、咲いて、
そうやっていつか満開になるんだよ、
散って行った花のことは私達が覚えておけばいいじゃないか」
「うむ、そうだな、惜しみながら進むとしよう、
満開になった時またここで語らうのも悪くはない」
「その時はワシはおらんぞ、語られる側じゃな」
「まだまだ頑張って貰わないといけないからねぇ、
散りそうになったら私が無理にでもくっ付けてあげるよ」
「もう年じゃぞ、いい加減楽にさせい」
「「「 ははははは 」」」
ひとしきり笑った後3人は立ち上がり
『皇帝』の柱に向かって静かに頭を下げた。
その後、内政に関わっていた者達や、
地下牢から解放された有識者達を交えて話し合いが行われ、
当面の方針とスギエダが新たな代表者となることが決まった。
実際にはすんなりと決まった訳ではなく、
内政に関わっていた者とマツバ塾生徒(通称マツバ派)はマツバを激押しし、
回復士達と有識者達はスギエダを激押し、
『マツバ連合』対『回復士軍団』による天下分け目の代表戦が勃発した。
始めは理性的に話をしていた両軍だが
トドの「マツバはやらんと言っとるがの~」の声を皮切りに
戦況は激化、激しい言い争に発展し、
やれ「今後回復してやらん」だの、やれ「等級を下げる」だの、
「ブス」だの「ハゲ」だの、
暴言と共にパンとかオニギリも飛び交う大荒れの事態となった。
だが、肝心のマツバ本人が頑なに首を縦に振らなかったため、
マツバ連合が自軍の本丸を落とせず瓦解、
消去法でスギエダが代表に決定したのだった、
これを後に『スギマツ闘争』と呼ぶ。
スギエダは代表を引き受けるにあたり1つ条件を出した、
難民達が戻って来てから全員に賛否を仰ぎ、
7割以上に認められなかった場合は辞退すること。
その際は各々相応しいと思う者を選出して
1番支持が多かった者が代表を務めること、
所謂、代表制、民主制の導入である。
結論から言ってしまえば、スギエダは9割の支持を得て正式に代表となり、
マツバとトドと協力し等級性の撤廃、魔法習得の自由化、職業選択の自由化、
情報制限の撤廃、食事の配給制の見直し、教育制度の構築など、
数百年に渡り国を維持して来た基礎構造を
根底から作り替える大改革を押し進めることとなる。
至高の皇帝ビスマスの目指した先、
トリフェンとアズラも望んでいた理想を叶えるために。
だが、当然直ぐに変えられるものでは無い訳で、それは当分先の話。
「魔王対策として光魔法と回復魔法を全員に取得させるよ~」
『 おぉ~ 』
とまぁ、取り敢えずはここからということで、
スギエダ代表(仮)はシルトア拡声を使って
野営地の人達が戻って来た後に国中に向けて宣言した。
「回復魔法を皆が使えるようになったら回復士は必要なくなるんじゃ」
「私達これからどうすればいいんですか?」
「スギエダ様~」
さらっと宣言したがそれはもう衝撃的な変革な訳で、
直ぐに不安に駆られた回復士達が駆け付けて来て囲まれてしまった。
「まぁまぁ、そんなに心配せずとも大丈夫だよ、
おや噂の怪我人が来たみたいだ、ちょいと空けとくれ」
丁度良く、というか機転を利かせたマイと数人の回復士達が
担架に乗せたイナセとオタルと輸血パックを持ってやって来た、
ついでにカニとターニアも付き添いで付いて来た。
「右がオタル兵士長、左がイナセの分です」
「間違いましたでは済まないからねぇ、念のためもう1度確認しておくれ」
「…、間違いありません、大丈夫です」
「それじゃ私はオタル兵士長を担当するから、マイはイナセ君を頼んだよ」
「わかりました、イナセ手を繰り返し握って」
「はい」
イナセが真顔で左手をニギニギしている。
「随分と顔色が悪いねぇ、脈もこんなに弱っちまって、
手をニギニギして血管を分かり易くするんだよオタル兵士長」
「あい…」
「皆は仕事がなくなると不安に思うかもしれないけど、
そんなことはない、怪我の状態とか症状の確認は経験が必要だろう?
輸血1つとってもそう、手術なんてのは絶対に無理さ」
「いたっ…」
「針くらいで何言ってるんだか、オタル兵士長心臓に穴空いたんだよ」
「それとこれとは別だから…」
「ボロボロなのに無理に動こうとして、全然言うこと聞かないし、
私凄く心配したんですけど」
「ごめんて…怖いから…針刺さってるからやめて…」
若干キレ気味のオタルが笑顔で腕をペチペチ叩いている。
「ははは、それだけハッキリ喋れれば大丈夫大丈夫、
直ぐに良くなるよ、イナセ君が怪我したのは右腕だったっけ?」
「左腕です、いたっ…」
「ちょっとやめてよイナセ、私が下手だと思われるでしょ」
「す、すまない、痛くなかった」
「(嘘だ、お父さん嘘付いた!?)」
父親の嘘を見抜いたカニに電流が走っているが
皆気付いているので大したことでは無い。
「ねぇねぇツッシー、オタル兵士長の傷を治したのってワシの
造ったポーションなんだよ~しかも何十年も前のヤツ、
凄くないワシ? ねぇマジヤバくない?」
「お爺ちゃん、今大事な話してるでしょ~」
テイジン爺さんはツツシに介護されている。
「皆が今まで積み重ねて来たものは無駄にはならない、
これからも薬士の人達と一緒に頑張っていこうねぇ~」
『 おぉ~ 』
こうしてオタルとイナセをの治療をダシに使い
回復士達の不安は一先ず払拭されたそうな。
他国がそうであるように回復魔法が広まっても病院は無くならない、
但し、確実に需要は今よりは減る、
だからこそ職業の自由化と等級性の廃止が必要となるわけで。
「あの者達のためにも頑張らねばの~マツバ」
「うむ、トドよ、兵士はもうよいであろう」
「ほっほっほ、老いぼれは槍より筆か」
「これからは恩恵を受けている者達をいかにして説得するかが重要となる、
私のような若造では力不足は否めん、イナセ君に席を譲り共に尽力して欲しい」
「やれやれ年寄り使いが荒いわい、調査まではやらせて貰うぞ」
「うむ」
トドは兵士を引退し老体に鞭打ち内政へ。
余談だが将軍、参謀、宰相の役職名は継続されることとなる、
皇帝は廃止されたが国名の一部として残った。
「お2人共何やら戦われたとお聞きしましたが」
「イナセさんには関与してませんよ~」
「戦いという程でも無かった」
「ほほ~まぁ先ずはどうぞ」
「「 はい~ 」」
「(染み込んで来る…体に…)」
「(ぐっ…溶けそうです~…)」
『 えぇ… 』
スギエダが回復士達を説得している間、
カルパスとペナはシャガールからお酒を注がれ、
犯罪すら厭わない顔で涙を流していた、
周りは困惑していたが手の震えが止まった。
『(ふふふふふ…)』
「なんかこの辺熱くない?」
「確かに、何でだ?」
『(ふふふふふ…)』
一方、遂に光魔法の布教を許されたラリー率いる光筋教団員達は、
プロテインを得た筋肉の如く、静かにたぎっていた。
その後、スギエダ演説は再開され、
カエンとツキヨを捕らえたこと、クサウラが死んだこと、
詳しいことは調査を進めてから改めて説明すること、
なんて話していると地面が揺れ始めた。
「なんだなんだ!?」
「揺れてる!? すっごい揺れてる!?」
「ん? 収まったか? ほぁぁまた揺れ出したぁぁ!?」
一部の壁にひびが入ったり石像が倒れたリして大慌て、
揺れたり止んだりと不規則に繰り返し、
酷い時には真面に立っていられない状態である。
「あばばばばばシルトア様、やっぱり勘違いでは無かったようです…」
「みたいですね、まぁ僕は浮いてるから平気ですけど」
「だな、何も感じん」
「皆さん大変そうですね、うぉ!? これ辛い…」
浮いているシルトアとハイエルフ御一行は余裕の様子、
ケルシスとトトシスに至っては酒を飲んでいる。
「イ、イナセ~! これだ、俺達が言ってたヤツ!」
「間違いねぇ! アズラ様のってうぉ!? また揺れ出した」
「お、俺やっぱり家族のところに…」
「馬鹿立つな! 止まってからにしろって!」
カガ兵士長、マワリ兵士長、フユキ兵士長、サルトバ兵士長が
焦った様子でイナセの元にやって来た。
「なるほど、この揺れが坑道を崩落させた原因ですか、
何とかして原因を探らなければ」
「無理よイナセ、まだ輸血中だしこんな状態じゃ真面に動けないわ」
「あばばばば…」
「カニなんてこんなになっちゃってるし」
「落ち着けカニ、大丈夫だ」
カニが泡を吹いている。
「あばば…針が動いてる感覚が…」
「大丈夫だからオタル兵士長、また直ぐに止むから」
「あばばばば…ば…」
「あれ? し、死んだぁぁ!?」
泡を吹くオタルをターニアがなだめていたが
揺れが止まる同時に動かなくなった。
「気を失ってるだけだよ、けど参ったねぇ、何とかならないかいトド?」
「ワシにどうしろというんじゃ、足腰立たんわい、
皆建物から離れよ! 崩れると巻き込まれるぞ!」
「一体何が起こっているというのだ?
度々ありはしたがこのように長く激しいのは…」
マツバの言動から分かるように今までも何度か大きな地震があったらしい、
というか、とある理由により
キキン帝国はほぼ毎日微弱に揺れている。
しかもあまりにも頻度が高いためこの地に住む者達は
一定以下の揺れには反応しなくなっている。
んなアホな、流石に気が付くやろ、
と思うかもしれないが実際に何処かの島国が同様の状態であるからして、
慣れとはなんとも恐ろしいものである。
『260話目【内政の行く末】』で
シルトアとシャガールだけが揺れを認識したのはそういう理由。
「ねぇケルシスちゃん、ちょっと飛んでさ~調べて来てよ、
テイジン一生のお願い」
「何度目だそれは、だがまぁ仕方ない、行くぞトトシス」
「はい、国王」
ケルシスとトトシスが上空に上がって行き、
辺りを見回すと直ぐに降りて来た。
「どうケルシスちゃん? 何か分かった?」
「町の外の地面がボコボコになっていたな、恐らくアレが原因だろう」
「地面の下で何かが移動したような感じでした」
「え~なにそれ、マジヤバい…あ、もしかしてメメナシ?」
「何だそれは?」
「坑道に出る魔物で、目が無いからメメナシって呼ばれてるの、
匂いで獲物を探らしくてさ~運が悪いと壁の中から襲われるんだって、
鉱山労働者の人達にメチャメチャ怖がられてるんだよねぇ~」
「「 へぇ~ 」」
「大きさは確かこれくらい…だったっけ?
ワシあんまり見たことないから分かんない」
テイジン曰く両手を広げた位の大きさらしい、多分全長。
「うん? そんなに小さくはないと思うぞ」
「これくらいはありますよね国王、もうっとこう、これくらい」
「「 (同じでは?) 」」
両手を広げるトトシスにシルトアとシャガールが目を細めている、
テイジンの方が身長が高いのでむしろ小さくなっている。
「なんにせよアレをなんとかすればよいのだろう、任せておけ」
「くぅ~流石ケルシスちゃん、ワシに出来ないことを平然と言ってのける、
そこに痺れる憧れる~!」
「ははは、当然だ、国王だからな」
親指を立ててウィンクするテイジンにムフ~と胸を張るケルシス、
国家崩壊レベルの大災害中なのにあまりにも軽い。
「じゃ頼んだぞシルトア」
「僕!?」
『 えぇ… 』
そして代打シルトアへ、一同が困惑している。
「仕方がないだろう、私は結構酒を飲んでしまったからな、
手元が狂ってうっかり町ごと吸い上げたらどうする」
「…え? もしかして上級魔法使えって言ってるんですか?」
「地面の下だと手が出し難いだろ、今ならまだ地表近くで大人しくしている、
深く潜られる前にとっとと引っこ抜いて来い」
「えぇ~ちょっと、自分で言い出したのに無責任すぎますよ」
「っく…酒さえ飲んでいなければ私がやるんだが…、
悔やまれるな、この1口がなんとも悔やまれグビ~ふぅ…」
「(このぉ…)」
悪びれなく酒を煽るケルシスを見てシルトアの額に血管が浮いた。
「…嫌です、僕は今日中にカード王国まで帰りたいんです、
そんなにマナを消費したら途中で力尽きちゃいますよ」
「ほ~ん、ならばキキン帝国の人達がどうなってもいいのだな? お?
薄情なヤツめ、それでもSランク冒険者か?
いや、今は2か国の代表様だったな、立場でこうも変わるとは、あ~情けない、
お前ほどシルフ様の加護に恵まれた者はおらんというのにグビ~ふぅ…」
「ぐぬぬぬぬ…僕が嫌なのはケルシス様が…」」
「まぁまぁシルトアさん、マナなら私が回復しますから、
ここは抑えて、ね? お願いします~」
「ぐぬぬぅ…」
ペナの説得によりしぶしぶシルトア出陣。
『 よろしくお願いします~! 』
「 はいはい~ 」
また揺れ始めると堪らないので一同手を振ってお見送り、
シルトアが上空から見下ろすと城壁の外の地面がボコボコになっていた。
「確かに何かが地面の下を移動したっぽいけど」
情報通りではあるのだが1つだけ気掛かりな点がある。
「なんか大きさが…」
陥没した移動跡がウネウネと続いているのだが、
なんだか縮尺がおかしい、というか明らかにデカイ、
陥没幅は少なく見積もっても10メートル以上ある。
「あそこにいるのか」
移動跡を辿った先にはこんもりとした膨らみが鎮座している、
まるで巨大なコッペパン、いや、短いのでバターロールである。
「絶対疲れるから僕に押し付けたよ…」
バターロールの大きさは全長15メートル、全幅は10メートル程、
中にいる魔物は一回り小さいと思われるがデカいことには変わりない。
「はぁ~これは簡単には上がらないな、
仕方ない、久しぶりに本気を出しますか」
襟元から紐を手繰り寄せキラキラと繊細に光を反射する球体を取り出した、
拡大してみると銀河のような模様の入っており、
角度を変えると眼球のようにも見える。
ドワーフの名匠イド爺さんが造った魔増石のネックレス?
その名も『望まぬ左眼』である。
飛ぶ時に邪魔になるし近接戦闘なんてやらないので
シルトアは杖を持たない、代わりに使っているのがコレ。
左と来たら右があるわけで、
対となるモノが王都バルジャーノの領主であるレジャーノ伯爵、
ではなく、執事であるカーネル(本名パニー)の右目に収まっている。
先に作られたのはカーネル(パニー)の 『忠義の右眼』の方、
シルトアが羨ましがって作って貰ったそうな、
因みに持ち運びを考慮して『望まぬ左眼』の方が一回り小さい。
一般的に杖に魔増石を装着するのは見た目や戦闘スタイルだけでなく、
コントロールを誤りマナ暴走を引き起こした際に簡単に手放せるようにである。
魔増石の利便性は危険性と表裏一体、
危険物とは距離を置くのが世の鉄則なのだが、
未熟な者こそ自身の力不足を補うために
より強力な魔増石を求める傾向にある、
その際は出来る限り距離を放すため身長と同じ位の杖の先端に取り付ける。
逆に熟練者になるとマナの扱いに長けておりお金もそれなりに有るので
質の良い魔増石を腕の良い技術者に加工して貰い、
コンパクトでありながら高いスペックのショートロッドになったりする、
その最たる例がカルニである。
まぁ、杖の形状は好みが分かれるため一概に実力を示すモノではない、
熟練者でも火力を追い求めるロマン砲主義者もいるわけで、
大きな杖に高性能クソデカ魔増石をドッキングする猛者もいる、
その最たる例がルドルフである。
とにかく魔増石は身に付けてはいけないというのが一般常識で、
冗談でもアクセサリーには用いない、
簡単に外せない指輪やイヤリングは特に危険であり、
体内に埋め込むのは論外、たまに実践して一部の無法者が爆発したりする、
そのためクサウラは簡単に捨てれるように
手の届きやすい腰に装着していた。
この『望まぬ左眼』と『忠義の右眼』の特出すべき点は
マナの増幅力ではなく異次元の安定性である、
イド爺さん曰く、複数人が同時に上級魔法を使用してもマナ暴走しないらしい。
確かな目利きと高い加工技術、
特に手作業で真円に近づける技量は圧巻の一言、
イド爺さんあってこその義眼とネックレス?である。
「(大丈夫とは言われてるけど一応ね)」
でもやっぱり怖いので紐を取り付けてみたりして、
上級魔法を使う時は服の外に出してみたりして、
イド爺さんが知ったら拗ねてアゼ酒がぶ飲み案件である。
※元々はネックレス?ではなくチョーカーです、
首に爆弾を縛りつけるのは怖いので
直ぐに切断できるようにシルトアが勝手に紐を伸ばしました
ブラブラすると邪魔なので普段は服の中に入れいます。
「うわ~揺れる~」
「怖いよ~怖いよ~」
「上からくるぞ! 気を付けろ!」
ゴゴゴ…っと再び地面を揺らしながら
バターロールが前進し始めると住民達が大慌て、
外地の建物がいくつか倒壊した。
「コイツ町に向かってる、これ以上近づかれるとマズイ」
急いでバターロールの真上に移動してシルトアが両手を広げる。
「でりゃぁぁぁ!」
胸の球体が光を放つとシルトアを中心に風が渦巻き始めた。
「うわ~風が凄い~」
「怖いよ~怖いよ~」
「ダニー、グレッグ、生きてるかぁ?」
揺れが収まった変わりに今度は強風が住民達を襲う、
外地の建物がいくつか倒壊した。
「うわ~なんか…なにあれ!?」
「怖いよ~! 怖いよ~!」
「狂気の世界の始まりだぜぇ!」
突如として現れた巨大竜巻にビビり散らす住民達、
風の渦が遥か上空まで続き世界の終わりみたいな光景だが
シルトアがコントロールしているので自然発生の竜巻と違って移動はしない、
町の上を通過して破壊限り尽くすなんてことはないので安心して欲しい。
「おぉ~吸ってる吸ってる、準備はいいなお前達、
破片の1つでも町に落せばシルフ様の名を汚すと思え」
『 はい、国王! 』
「それと人間の起こした風に煽られるようなヤツはハイエルフ失格だ、
後でこのシルフハイド王が直々にしばいてやるぞ」
『 はい、国王! 』
但し、巻き上げられたモノはシルトアのコントロール外、
岩が降り注げば間接的に町を破壊するので、
そちらはケルシス率いるハイエルフ部隊の出番、
酒は飲んでもシルフハイド王、しっかり仕事はする、
ここまで見越しての判断だったぽい。
「お~いトトシス返事しろ~」
「グビグビ、グビグビ」
「トトシ~ス!」
一方、巨大な竜巻に圧倒的な力の差を見せつけられ
トトシスはプライドはボロボロ、1人だけ空中でヤケ酒を煽っている。
「来たぞ! 散れ!」
『 はい、国王! 』
「うぃ~! ひっく…」
ハイエルフ達が降ってきた岩を風魔法で弾き飛ばしているころ、
竜巻の中心部、シルトア目線では。
「なかなかしぶとい」
バターロールの外皮が剥がれ中身の全貌が露わになっていた、
全身が黒色のフサフサした体毛に覆われており、
尻尾は短く、尖った鼻、四肢の先端だけツルツルで文字通り肌色、
簡単に言えば巨大なモグラである。
モグラは前足の爪で地面にしがみ付き、
下半身がフワフワと宙に浮いている、力比べ状態である。
「一気に決めないと僕の方がマナ切れになっちゃう、それっ!」
シルトアの気合と共に本日の最大風速を記録、
スポンと引っこ抜かれた巨大モグラが竜巻の中を光と共にグングン上昇して行く。
「おぉ~吸ってる吸ってる、やるな~シルトア」
「「 うわぁぁぁ!? 」」
岩を弾き飛ばしながら感心するケルシス、
ハイエルフが2人程強風に煽られ大変なことになっている。
「これヤバい、ヤバいってこれぇ!」
「怖いよ~! 怖いよ~!」
「気を確かに持てよぉ! 人間、辛抱だぜ!」
地上も中々の大荒れ状態で吹き飛ばされないように
木とかにしがみ付いて耐えている人もチラホラ、
外地の建物がいくつか倒壊した。
「ちくしょぉぉ! 私だって、私だってぴぎゃぁぁぁあぁぁ!」
「ほう、トトシスもやるな~」
ハイエルフが2人減った穴は最大出力のやけくそトトシスが穴埋め、
むしろ1/3くらい1人でカバーしている、なんだかんだ言って優秀だった。
光と巨大モグラが雲の割れ目に消えると風がピタリとやんで竜巻が四散した。
『 お~? ぉぉぉぉおおおお!? 』
一同が見守る中、巨大モグラが落ちて来て地面に衝突、
一段と激しく揺れ内地の建物もいくつか倒壊した。
「はぁぁぁ!」
「ふん!」
失神していたモグラは駆け付けたイナセとカルパスによって
首の辺りをザックリやられて討伐された、
そこそこ町に被害が出たが騒ぎは収まった。
「はぁ~疲れた…」
「いや~お見事ですシルトア様、流石はSランク冒険者、
私初めて上級魔法を目にしたもので、恥ずかしながら感動しております」
「凄いです~私も使ってみたいですよ~」
「どうもどうも…」
グッタリしたシルトアがシャガールとペナに賛辞を贈られながら
マナを回復して貰っている。
「すまないがこっちも頼む、マナを使い過ぎたみたいだ」
「おろろろろ…」
「ちょっと待って下さいねぇ~」
「大丈夫かトトシス?」
「おろ、おろろ…」
「(マナの問題じゃない気がする…)」
「(悪い飲み方をされたようですね…)」
トトシスはケルシスに背中を擦られながら順番待ち中、
マーライオンみたいになっている。
「イナセ、これがメメナシか?」
「大きすぎます、普通は人と同じくらいです」
「なら別の魔物か」
「姿はメメナシに酷似していますので、上位種かもしれません」
「上位種か、珍しい、記念に爪でも貰っておこう、棍棒職人が喜ぶ」
「そういえば今回も背中の棍棒は使用しなかったですね、
この程度の相手には不要ということですか?」
「これは普及用だから使わない、大事にしてる」
「そ、そうですか…(邪魔にならないのだろうか?)」
「棍棒はいいぞ、特にこの辺りの模様が綺麗だ、折角だからイナセもどうだ?」
「考えておきます…(模様?)」
カルパスがうっとりした目で棍棒を布教している。
この巨大モグラ改め、巨大メメナシは
カード王国に現れた巨大モギと同じで
禁断の地と呼ばれている別の大陸から地中深くを移動して来たと考えられる、
コイツの移動のせいでキキン帝国は頻繁に揺れていたっぽい。
「イナセ、輸血…」
「ぅ…」
「お父さん、お母さん怒ってるよ、私も心配してるよ」
「はい、すみません…」
イナセはマイとカニに連れていかれた、
輸血の途中で無理やり飛び出して来たらしい、
他の人達にとっては良い行いでも家族にとっては悪い行い、
難しい立場である。
「はぁ~こりゃまた随分と大きな魔物がいたもんだねぇ…私はおっかないよ」
「この辺りの坑道は全て駄目になってしまったな、
他の場所もいつ崩落するかわからぬ故、調査を行うまで全て閉鎖だ」
「ほっほっほ、ワシ等だけではこの程度ではすまんかったじゃろ、
命があるだけ良しとせねば」
「そうだねぇ、皆、助けて貰ったらちゃんとお礼を言うんだよ」
『 有難う御座います~ 』
町の外で住民達が感謝しているころ、外地のとある一角では。
「ねぇツッシー…」
「なんですかテイジンさん」
「沢山思い出が詰まった家だったんだけどさ~…こんなんなっちゃった…」
瓦礫の前で佇むテイジンとツツシ、
なんとも居たたまれない空気が漂っている。
「哀しい…」
「まぁボロボロでしたからねぇ…壁にヒビ入ってましたし…」
「マジショック…」
「そんなに悲しむ位ならお金持ってるんですし、
もっと丈夫な家に建て直しとけばよかったじゃないですか」
「だってさ~…何処かにいる孫がいつか帰って来るかもしれないし…
家の見た目が変わってたら分からなくなっちゃうでしょ…」
「(や、優しいぃぃ! 孫想いのお爺ちゃんやぁぁ!)
テイジンさん元気出して下さい、オニギリあげますから」
「…具は?」
「味付け昆布」
「いやっほ~う! ワシ味付け昆布大好き~!」
「(た、単純だぁぁ!)」
テイジンは元気になった。
ある程度回復したシルトアが帰ろうとしたが、
新体制のキキン帝国側が各国代表が揃っている好機を逃す筈がなく、
囁かな懇親会という外交に巻き込まれ、
この日は皆仲良くキキン帝国に宿泊した。




