262話目【平地の決闘】
「オタル兵士長…生きてる? よね?」
「ぁ…なんとか…気を抜くと意識が…飛びそうだけど…」
「いいから、立たないで」
虚ろな目で立ち上がろうとするオタルをターニアが抑えた。
「無理に動くと本当に死んじゃうんだから、気分は?」
「気持ち悪い…頭が痛くて…目が…ターニア兵士長は無事か?」
「私は、肋骨が折れてたけど治して貰ったから平気」
「良かった…音が止んだけど…イナセ兵士長は?」
「クサウラ将軍、タラコ兵士長、スジコ兵士長の3人と交戦」
「片腕で3対1…くそ…」
「動くなてって言ってるでしょ! そんな状態で何が出来るの」
「でも…俺はイナセ兵士長を…もしかしたらまだ間に合うかも…」
「無事だから、いや左手はあれだけど…まだ生きてるから」
「え? じゃなんで音が…」
「私を治してくれた人達? 多分オークだと思うけど、
その人達が近付いてちょっと休戦状態になってる、何か話をしてるみたい」
何故ターニアの発言に疑問符が付いているのは、
以前も説明したように国が情報と教育を意図的に制限しているからである、
兵士長クラスでも常識に掛けることが良くある。
割と鎖国的で国境の管理が厳しく、
東の果てでわざわざ旅行する観光地でもない、
役人とか商人とか護衛とかでなけれ他国の者が訪れることが無い、
当然亜人種も住んでいない、キキン帝国は世界で唯一純度100%人間の国である。
物々交換のために飛んで来るハイエルフ(不法入国)や
国境際で顔を合わせるエルフ以外は基本的に出会わないため、
本で読むとか人伝に聞くとかしない限り亜人種の情報を得る機会が無い、
エルフ以外の亜人種を知らずに生涯を終える者も多い。
隣国のルコール共和国にはオークとゴブリンが普通に暮らしているので
今回の騒ぎで雪崩れ込んだ難民達はビビり散らしていたとかいないとか、
因みに、何も知らないカニが初めてオークとぶつかった時は失神したそうな。
「「 こんにちは~ 」」
「(この2人…ヤバいな)知り合いかイナセ?」
「一応は、ペナさん、カルパスさん、何故ここに?」
「ちょっと俺達も参加しようと思って」
「異国のお客人、申し訳ないが…」
「控えて頂くように伝えた筈です」
「(何? イナセお前…)」
「助力は不要、これは私が…いえ、キキン帝国内の者だけで解決すべき事柄です」
「お2人の邪魔はしませんよ~、用があるのは壁の後ろの方達です」
「イナセにの事情も分かる、だが俺達にも俺達なりの事情がある」
「そうですよ~仲間を背中から刺すのはちょっと見逃せません!」
「そうだ、アレは駄目だ、傭兵として許せない!」
拳を掲げて抗議するペナとカルパス、
怒りのあまり握り込んだ拳が震えている、
と思ったが断酒の禁断症状である、つまりは酒である。
「傷が…ペナさん、お気持ちは有難いですが」
「私じゃないですよ~」
「ん? では何故?」
「はぁ…後ろだイナセ」
振り返ると2枚の壁に挟まれた空間の先で
ポニコーンに跨ったマイが両手で握り締めたショートロッドを光らせている、
同じくポニコーンに跨ったカニと
カガ兵士長、マワリ兵士長、サルトバ兵士長、フユキ兵士長がやって来た。
「すごいですねぇ~あれだけ離れた位置から回復するには
マナを沢山消費するんですよ~」
「マイ…」
「(夫婦そろって厄介な、それにアイツ等が来たということは…)」
クサウラが壁を崩壊させると大勢の人が見えた、
ある者はポニコーンを駆り、ある者は走り、
荷運び用の馬車に乗り合わせた者達もいる、
大半の者は歩いているが野営地の半数以上が向かって来ていると思われる。
「(やはり、時間切れか)」
「「 クサウラ将軍! 」」
「タラコ兵士長、スジコ兵士長、お前達はここまでだ」
「そんな!?」
「私達も一緒に」
「手間取り過ぎた俺のミスだ、後は任せておけ」
「待って下さいクサウラ将軍!」
「まだやれます」
「駄目だ、野営地に居た者達は既に疑念を抱いている、
俺とイナセ、どちらの言い分が正しいのか、どちらを信じるべきか、
自分の目で確かめるために向かって来ているのだ、3対1では納得せんだろ」
クサウラに残された選択肢は2つ、
正当性を示し支持を得て皇帝となるか、
圧倒的な力で従わせ暴君として皇帝となるか、
後のことを考えれば当然前者である。
「(邪魔が入った時点で連携は不可能、
安全策を取らずに一気に決めるべきだった、
イナセの傷が塞がった以上は土魔法でマナを無駄にする余裕はない)」
「(判断が早さは流石ですね、ここから先は小細工なしです)」
「異国のお客人、確認だが俺達の邪魔はしないで頂けるのだな?」
「これが国の行く末を決める最後の戦いとなります、絶対に手を出さないで下さい、
どちらが勝とうとも、そしてどちらが死のうともです」
「「 はい~約束します~ 」」
イナセとクサウラは場所を変え仕切り直すことに、
万全の状態での再戦に見えるが中身は結構ボロボロで
イナセは血液を、クサウラはマナを失っている。
マイの遠距離回復はイナセの欠点を補えるが
マナの消費が著しく回数が限られる、
装備に差異はあれど実力と条件はほぼ等しい、
つまりは互いに余力を削り合う消耗戦である。
「おおおおお!」
続々と駆け付ける者達を尻目にクサウラが仕掛ける.
イナセの体重を約80キロと仮定して装備を含めて90キロ、
上振れがあるととして100キロ弱とする。
クサウラの体重を筋肉モリモリの約110キロと仮定し、
ポニコーンの突進力と唸る剛腕と大剣の質量が合わさると
真面に受けた時の衝撃は…
「っく…」
100キロの物体を軽々と宙に浮かし20メートル程吹き飛ばす位である。
イナセが大剣と槍の柄がぶつかる瞬間に両手を引き、
離れる瞬間に押し返すといった衝撃緩和処置を行ったとはいえ、
人が木の葉のように吹き飛ぶのは異常、
もはや車の衝突事故と変わらない。
イナセの攻撃も決して軽くはない、
実際に何度も人を吹き飛ばしており超人の粋にいる。
だが、人馬一体から放たれるクサウラの1撃は比にならない破壊力を持つ、
受け損ねれば武器ごと叩き割られ宙を舞う木の葉が1枚から2枚に増える、
もしくはもっと細かくパッカ~ンと粉砕されかねない。
驚異的な破壊力の源はポニコーンの屈強な足腰ということで、
先に狙って引きずり降ろしたいところだが、
頭、首、胴、尻、前腕、下腿とミスリル製の防具を装備しており、
馬車引きのポニコーンと異なり完全に軍馬仕様、
前後の足先は空いているが動きが早いため
すれ違いざまに狙うのは現実的では無い、
しかも多少の傷ならばクサウラが回復させる。
「おおおおお!」
「はぁ!」
とうことで、旋回して迫る2撃目を避けて狙うのはクサウラ本体。
「ちぃ…」
「そう簡単ではないですね」
槍は防具に防がれ不発、旋回後の3撃目ではイナセが宙に舞った。
「もっと離れて!」
「巻き込まれるぞ、下がれ!」
戦闘エリアがあまりにも広いため観戦者達が距離を取る。
「遠すぎる…今怪我すると治してあげられない」
「仕方ねぇって、近寄る訳にもいかねぇんだ」
「お前が前に出るとかえって邪魔になる、やめとけ」
「許されるのは援護までだぜマイ、アイツ等の邪魔はしちゃいけねぇ」
「そうだよな、見届けるしかないよな俺達」
「(お父さん…)」
マイ達も観戦者達と同じラインで待機、
戦闘エリアの半分くらいまでしか援護できない苦しい状況である。
「なんか私達が何もしなくても進展しましたねぇ~」
「うむ」
「これはこれで良かったですねぇ~」
「うむ」
「いい訳ないじゃない」
「アナタ達が邪魔しなければ…ふざけないで」
離れた位置で様子を伺っていたペナとカルパスに
肩を震わせたタラコとスジコが絡んで来た。
「すみません、でも私達が来なくても同じだったと思いますよ~」
「うむ、イナセの傷を治したのはペナじゃない」
「煩い、人の国のことに口を出しておいて、謝るだけで済むと思ってるの?」
「迷惑です、クサウラ将軍の望みが叶わなかったらどうしてくれるんですか」
「やめましょう、私達が戦う必要は無くなったんですよ~」
「キキン帝国のことはイナセとクサウラが決着を付ける」
「だから何?」
「責任取って下さい、アナタ達の命で」
剣を抜いてやる気満々の2人、
イナセに飛ばされた剣を拾って来たらしくスジコも2本持っている。
「なんだか怒ってるみたいですね~カルパス」
「うむ、相手をするしかなさそうだ」
邪魔にならないように場所を離して不要な戦いが開始されることに。
「あの~男の兵士の方を後ろから刺したのはどちらでしたっけ?
お2人共とても似ているので分かり難くて」
見合わせてタラコが1歩前に出た。
「あ~アナタですね、分かりました~」
「ペナ、一緒にやるのか?」
「私は別の方がいいですけどその人達はどうでしょうか?」
「「 … 」」
「一緒がいいそうだ、ん?」
「駄目ですよ~カルパス、油断したら」
ペナが杖を光らせたので振り向くとタラコとスジコが氷に拘束されていた、
先程まで立っていた位置より近いので
カルパスが目を逸らした瞬間に足音を消して走り出していたらしい。
「嘘でしょ…早すぎる…」
「氷魔法ってこんな…」
正確には水魔法からの氷魔法、
セオリー通りの使い方だが2人の経験が少ないことと、
ペナの練度が高いので氷魔法単体だと勘違いしている。
「何とかしてスジコ」
「やってるけど、硬い…」
タラコは両手共に氷の中のため何も出来ず、
スジコは右手が動かせるので剣の柄で氷を割ろうと叩いている。
「私達が簡単に捕まるなんて、イナセ兵士長並みに危険ってこと?」
「あんなに覇気のない顔しているのに」
それはペナが垂れ目なだけ。
「手が震えてるから油断したわ、っは!? もしかしてそのために…」
「私達と同類、いえ、私達以上に徹底している」
それは断酒の禁断症状、相手を欺くためとかではない。
「終わりか」
「終わらせていいんですか? 私は嫌です」
「「 え? 」」
氷の拘束が解かれた。
「最初に仲間を後ろから刺すのは許せないと言いましたけど、
たまにいるんですよ~そういうことする悪い傭兵が、
私、実はですねぇ~うふふふふ…本当に怒ってるんですよ~」
ニコニコした顔で圧を掛けるペナ、
酒を飲みたいだけじゃなかったらしい。
「迷惑だと言われたが俺達の国も難民で迷惑している、
酒も飲めないし…」
最後だけ小声で頬をポリポリするカルパス、
あまり怒ってはいなさそう。
「うふふ…」
「イナセ達が気になる、早く終わらせよう」
「どうするタラコ? さっきので分かったと思うけど私達じゃ…」
「やるしかない、クサウラ将軍のために」
「そうね、2人で仕掛ける、私が前」
「行って」
カルパスの巨体でペナの視線を遮るように
スジコが走り出しタラコが後ろに続く、
格上の敵に開けた平地で勝つには2人の強みを活かすほかない、
前を走るスジコを壁に見立て、イナセと戦った時と同様に
タラコが死角からの不意打ち刺突特攻を仕掛ける、
狙いは頭、一撃で屠りペナを狙う算段である。
「むん!」
射程距離に入りスジコが目暗ましの攻撃を仕掛けようとした時、
カルパスが足を振り上げて地面に叩きつけた。
「「 !? 」」
「ほい」
「うぐっ…」
足元が揺れスジコがバランス崩すとカルパスに首を鷲掴みにされた。
「その手を放せ! っ!?」
「まだですよ~」
「くそっ…」
「ほい」
「うぐっ…」
飛び掛かろうとしたタラコだったがペナのライトニングに邪魔され中断、
続けて早打ちライトニングが2発飛んで来たため
咄嗟にカルパスで射線を切ろうとすると首を鷲掴みにされた。
「終わりだな」
「そうですねぇ~」
これで不要な戦いは終了、
カルパスは斧すら使っておらず、ペナはライトニングだけ、
狙いは悪くなかったが残念ながら実力差があり過ぎた、
イナセとクサウラを同時に相手したようなものである。
「えい、えい、これが人の痛みですよ~えい、えい」
「「 (痛い…) 」」
観戦に戻る前にカルパスの両脇に抱えられたタラコとスジコは
ペナの震える棍棒でポコポコとシバかれた、
地味に痛そうである。
「すみませんマイさん、オタル兵士長を」
「え?」
「おわ!? どうしたオタル?」
「顔色悪いぞオタル兵士長、お前大丈夫か?」
「いや大丈夫だったら助けて貰いに来ねぇだろ」
「だな」
「実はかくかくしかじかで~」
「えぇ!? 心臓を!? よく生きて…」
「イナセ兵士長が…助けてくれました…」
「喋るなオタル」
「吐きそうな顔してるぞ」
「とにかく輸血しないと、でもここでは無理です、カニ、急いで馬車を借りて来て」
「うん、わかった」
「行かなくていい…大丈夫だ…」
「オタル兵士長、いい加減にしてよ」
「そうだぜ、俺等から見てもヤバいぞお前~」
「目の焦点あってんのか? ほら、これ何本だ?」
「2…」
「4本だよ、駄目だこりゃ」
「俺もここで…最後まで…頼むよ…」
「「「「 … 」」」」
カガ兵士長達がオタルの顔をしげしげと覗き込んでいる。
「駄目です、貴方には今すぐ輸血が必要です、カニ急いで」
「うん」
「いや待った、カニちゃん戻って来な」
「ちょっとマワリ兵士長! なんで止めるんですか!」
「そう興奮するなよターニア兵士長~、本人が残りたいって言ってんだ」
「いいんだなオタル、お前覚悟できてんだな」
「死んでもしらねぇぞ」
「はは…俺は死なないですよ…折角イナセ兵士長に助けて貰ったんですから…」
「ターニア兵士長、分かってやれって、でないと一生恨まれんぞ」
「んんん…んぬぬぬ……わかりました」
オタルは座って観戦、カニはシュバっと戻って来た。
カルパス達が戻って来たころには観戦者が更に増えていた、
戦況に大きな変化はなく疾走するポニコーンが猛威を振るっている。
「せぁ! はぁ…はぁ…」
「呆れるほどのしぶとさだな(決めきれんか…)」
それから暫くの後、度重なる挑戦によりイナセが手綱を切断することに成功、
クサウラが馬上を捨て戦いは地上戦へともつれ込んだ。
「おらぁぁ!」
「っ、そこ!」
「ちぃ…」
大剣が地面を砕き砂塵と鮮血が舞う、
傷を負ったのはクサウラ、
馬上では機動性と破壊力で勝っていたが地上戦ではイナセが手数で勝る。
先ほどまでと異なり攻撃の間隔が短く、時間の密度が高い、
互いに近距離で武器を振り回し血を流すことが増えた。
「クサウラ将軍!? あ、良かった」
「危ない!? 今度はイナセ兵士長が…」
「どっちもギリギリすぎる」
観戦者達はどちらを応援するでもなく、
ただ有りのままの結果を受けて不安と安堵を繰り返している。
「お母さん大丈夫?」
「うん、もう少し…」
「あんまり無理するなよ、よく分からねぇけどマナ切れってヤベェんだろ」
「黙ってろフユキ」
「止めてやるな、分かるだろ」
観戦者が増えるにつれて攻防の激しさが増し消耗戦は加速する。
「お前に俺と同じ覚悟があればぁ!」
「アナタ程の者が何故!」
「「 っ… 」」
槍と大剣が互いを拒絶するように弾き合うと、
2人は武器を地面に付いて息を整えだした。
「「 はぁ…はぁ… 」」
体力の限界はとうの昔に超えていた、
互いに譲れないもののために気力だけで立っていた。
「(そうですか、もう…)」
気が付けばいつの間にかクサウラは傷を癒さなくなっていた。
「(マイ、これ以上は)」
「(イナセ…)」
「(お父さん…)」
イナセは左手でマイの援助を断った。
「1つだけ確認しておきたいことがあります」
「なんだこんな時に?」
「等級性を無くすためという名目でカガ兵士長達を説得したと聞きました、
それは本心なのですか?」
「…っふ、いや、只の建前だ」
「そうですか、残念です」
「俺も聞きたいことがある」
「何でしょう」
「もし俺に勝ったならお前はどうする気だ?」
「どうとは?」
「俺を否定して終わりか? その先に何も求めないのか?」
「私にはアナタ程の野心はありません」
「そうか、つまらんヤツめ」
観戦者達が静かに見守る中、2人は武器を構え直した。
「イナセ、俺が限界だと思っているだろうがそれは違うぞ、
俺は勝つ、例えどんな手を使おうとも、
誰に非難されようとも勝って先に進む」
「アナタの野望は私が止めます」
クサウラの腰の袋が光りイナセに向けて雷撃が放たれた。
「おおおお!」
「甘い」
追撃の大剣を振り上げるクサウラ、
イナセが迫る雷撃を槍先で捕らえ弾き返した。
「何!? うっ…」
「はぁぁぁ!」
雷撃はクサウラを捕らえ動きを鈍らせた、
そして気迫と共に突き出された槍は…
「ぐぉ…」
胸当を貫通し心臓を深々と貫いた。
「まさかな…その技は…」
「父から教わったものです、アナタに気付かれぬよう密かに鍛錬を重ね習得しました」
「考えることは…ごふっ…同じか…」
「今すぐ手当すればオタル兵士長のように助かるかもしれません」
「いや…ごふっ…どちらにせよ…俺は死罪だ…ごふっ…ぬぅ」
大剣を支えに立っていたが耐えられなくなり、
クサウラはこの戦いが始まってから初めて膝を付いた。
「クサウラ…」
「ごふっ…約束しろイナセ…全ては俺が選んだ…ごふっ…はぁ…結果だ…
全ての責任は俺に…ある…ごふっ…他の者達は…」
「私は判断する立場にありません、
調査が行われ皇族を手に掛けた者に死罪になるでしょう」
「お前は…はぁ…いつもそれだ…ごふっ…少しは…」
「ですが、それ以外の者達に関しては罪に問わないと約束します、
それがアナタを止める選択をした私の責任なのでしょう」
「っふ…ふふ…ごふっ…そうか…守れよ…」
「必ず」
イナセに看取られながらクサウラはマナの海へと還った。
観戦者達は歓声をあげることは無く、
戸惑いの中、人望高い将軍を惜しんで只々泣いた。
「クサウラ将軍…約束したじゃないですか…」
「ぅぅ…クサウラ将軍…」
双子は力無く座り込み嘆いた。
「イナセ…何だか寂しそう…」
「うん…」
「死んだのかクサウラ」
「なんかよ、嬉しくはねぇな」
「だな、アイツはいい上司だったよ」
「わかっちゃいるんだがなぁ…憎み切れねぇ俺達はきっと馬鹿なんだろうな」
「オタル兵士長、イナセ兵士長が勝ったよ」
「あぁ…クサウラ将軍…今まで有難う御座いました…」
「そうだね、有難う御座いました」
そして悪事を知る者達も別れを惜しんだ。
「皆好きだったんですねぇ」
「そうだな」
己の野望のために突き進み国を手中に収めようとした男は死んだ、
悪は潰え国は救われた筈なのに、
喜ぶ者は誰1人おらず、悲しみだけが平地を満たした。




