260話目【内政の行く末】
「はぁ? 我に皇帝を退けだと?」
「はい、合わせてツキヨ参謀にも退いて頂きたく思います」
「っふ、おいふざ…」
「ふざけたことを口にするなこの愚か者共が!」
キキン帝を押し退けてツキヨが目の前の3人を怒鳴りつけた。
「貴方達はもう3本柱じゃないのよ、
過去の栄光に縋り続ける只のみっともない罪人
この場に留まることを許されただけでも感謝すべきなのに、
そのうえキキン帝に退位を進言するなど…思い上がりも甚だしいわ!
兵士達、さっさと捕らえて地下牢に戻しなさい」
「マツバ様もでしょうか?」
「当然です、彼は死を偽り2人の脱獄を手助けしたのよ、
加えて虚偽の情報を広めキキン帝を貶めようとした大罪人です、
皇帝とはキキン帝国そのもの、皇帝の権威を軽んじ貶めることは
国の根幹である等級性を否定することに繋がります、そのような思想は…」
「お待ち下さいツキヨ参謀、私達は決してキキン帝を軽んじてなどおりませぬ、
敬意を払っているからこそ、こうして作法則り進言させて頂いているのです」
「黙りなさい! 外地住みの低等級者じゃあるまいし、
法を司る元宰相が自らの行いの意味を考えなかったとでも?
それこそ許されるべきではないわ」
「…、キキン帝、どうかご決断を」
「この期に及んで…」
「控えよツキヨ参謀」
今度はツキヨの言葉をキキン帝が遮った。
「ですがあまりにも…」
「マツバはどうしても我の口から聞かねば納得できぬらしい、
ならば皇帝として正式に答えてやろうではないか、
1度しか言わぬので心して聞け、ん断るぅぅ! ん退かぬぅぅ!」
『 … 』
すごぶる腹立つ顔でおちょくるキキン帝、
一同反応に困り室内が静寂に包まれた。
「ふはははは! どうだこれで満足か? 好き好んで手放す馬鹿が何処にいる、
我はこれからもキキン帝国の皇帝としてあり続けるぞ、なぁツキヨ参謀?」
「はい、参謀としてご助力致します」
「…どうかご再考を」
「ふん、くどいぞ、おい兵士達連れて行け、抵抗するようなら殺しても構わん」
「どうやらここまでのようじゃな」
「こうなることは分かっていたけどねぇ、もういいだろうマツバ?
アンタは十分手を尽くしたよ」
「…無念だ、私ごときでは御心を動かすこと叶わず、あとは2人に任せよう」
沈黙を保っていたトドとスギエダが立ち上がり、
遅れて立ち上がったマツバは2人の後ろに退いた。
「おい何のつもりだ? 誰が立って良いと言った?」
「何をしてるの! 早く取り押さえろと言っているでしょ!」
急に焦り出したツキヨの指示で兵士た達が3人を取り囲んだ。
「ほっほっほ、何やら慌ただしいの~
ほれどうした? もっと近くに寄らねば捕えられぬぞ?
後ろの客人達は手出しせぬ約束じゃ、遠慮せずに飛び込んで来るが良い」
「馬鹿共が、何を恐れる必要がある、相手は骨と皮だけの萎びたジジイだぞ」
「トドではなくスギエダを警戒しなさい!
少しでもおかしな素振りを見せたら躊躇せず殺して!」
兵士達とキキン帝はトドを意識しているが
ツキヨはスギエダを危険視している様子。
「マツバなんてどうでもいい、只のデブのオッサンに何が出来るっての、
それよりスギエダよ! 早くなんとかしなさい!」
「(酷い言われようだ…)」
杖を構えながら更に兵士達を捲し立てるツキヨ、マツバはどうでもいいらしい。
「タマニさん俺達マジで何もしないんすか?」
「そういう指示だ、黙って見てろ馬鹿」
「おん!? 馬鹿でも何でも良いっての、俺はトド将軍を…ってちょ!? ダダ兵士長?」
「オデは将軍を信頼してる、クダマキも信頼しろ」
「信頼はしてますけど、それとこれとはあだだだだだ!?」
「静かにしろ、殺すぞ」
「いやダダ兵士長が!? 俺の腕をぉぉぉ折れるマジでぇぇ!?」
「おいダダ」
「分かったかクダマキ?」
「は、はぃ…」
助太刀?しようとしたクダマキは制止された。
一方、戦争中止を宣言させ役目を終えた各国代表は
後ろで控えていたトトシス、テイジン、ラリーと合流して事の成り行きを傍聴中。
「国王、1人だけズルいですよ」
「私が持って来たパンだ、ズルくなどない」
「いいなぁ~ワシも食べたい、ケルシスちゃんちょっと頂戴」
「おい離せ、これは私のパンだぞ」
「ズルいですよ~」
「ちょっとだけでいいからさ~」
だったのだが…ケルシスが何処からともなくパンを取り出したことで
トトシス、テイジンとの間でパン争奪戦が勃発。
「(確かに僕達の出番は終わったけどさ…ジャムまで持って来てるし…)」
「(目の前で大変なことが起こっているのですが…)」
「(テイジンさんはパンよりも国の行く末を案じて下さい…)」
真面な感性を持ったシルトア、シャガール、ラリーが目を細めている。
「そんなに騒ぐんじゃないよツキヨ、私が誰かを傷つけるために魔法を使う筈ないだろう、
怪我したらどうするんだい?」
「追い詰められた人間は何をするかわかったもんじゃない」
「はぁ~みっともないねぇ、本当にみっともないよ」
「はぁ? 私の何処がみっともないってのよ、
アンタの方が往生際が悪くてみっともないじゃいの」
「参謀になったのならもう少しどっしりと構えないと駄目だろうに、
簡単に取り乱したら下の者達が不安になっちまうよ、
ま、所詮器じゃなかったってことかねぇ」
「減らず口を…黙りなさいこのっ…」
「黙るのはアンタの方だよ! 人質を使わないと何も出来ない卑怯者のくせして、
逆らえない相手に好き勝手言って偉くなったつもりかい!」
「なっ…」
「おい兵士達、さっさとソイツを…」
「いい加減にしなカエン! いつまでその椅子に座っているつもりだい?
アンタは皇帝じゃない、皇族ですらない、ツキヨの息子だろう」
「うっ…」
「全部わかってるんだよ、4等級として鉱山で働いていて、
数年前まで母親であるツキヨの顔すら知らなかったんだろう、
折角マツバが引き際を用意してやってったのに強情なんだから」
「いや…俺は…我はだな…」
図星を付かれてキキン帝の目が泳いでいる、
兵士達がざわざわし始めた。
「おほん、落ち着きなさい兵士達、
今のは元宰相のマツバがキキン帝を貶めるために広めた虚偽の情報です、
証拠も無い状況で真に受けてはいけません」
「(ツキヨ!? まだイケるのかコレ?)」
落ち着いて説明するツキヨに希望を見出すキキン帝。
「どうだかねぇ? 地下牢に捕られられた者達にも伝えてあるから
後で信じるかどうか訊ねてみたらどうだい?」
「っち、余計なことを…」
「(あ、駄目かコレ?)」
やっぱり駄目っぽいので頭を抱えるキキン帝、忙しそうである。
「ツキヨよ、お主クサウラと手を組んでおるじゃろ」
「なんのことかしら?」
「認めんでも良いが話は最後まで聞いた方が良いぞ、
アズラ様の死に関してクサウラが関与した証拠があっての、野営地は今頃大騒ぎじゃ」
「あらそう、私とキキン帝には関係のない話です、
ですが皇族を手に掛けるなど許されることではありません、
クサウラ将軍が関与したかどうかは正式に調査を行い…」
「話は最後まで聞けと言うとるじゃろ、
お主はクサウラと手を組み、ビスマス様が亡くなられた後、
ご息女のトリフェン様とご子息のアズラ様を手に掛けた、
その上で息子のカエンを皇族と偽り、キキン皇に仕立て上げ国の実権を握った」
「妄想力が逞しいことね、知ってるかしら? そういうのを陰謀論って言うのよ」
「最近の若者は我慢弱くていかんの~、大事なのはここからじゃぞ」
「ちょいとトド、ツキヨは55歳だよ、若者じゃなくて立派なババアさ」
「黙れババア、アンタだって52歳でしょ」
『 う~ん… 』
スギエダよりツキヨの方が年上である、因みにマツバは60歳。
「クサウラは野心の塊のような男じゃ、決して誰かの下では満足せん、
皇族殺しの罪をお主等に擦り付けて皇帝になるつもりじゃ、
ほっほっほ、組んだ相手が悪かったの~時期に乗り込んで来るぞ」
「「 は? 」」
「証拠ならここにあるよ、聞いてみるかい?」
スギエダが水晶玉を取り出してマナを込めた。
『あの~戦争を止めるってどうやって?』
『え?』
『それが出来ないからこうなってる訳で』
『あ…』
『あ…て、オタル兵士長ちゃんと考えてる?』
『可能な限り…』
『心配するな、俺が終わらせる、この書簡を使って無理やりにでもな』
『それは!? キキン帝に反逆するってことですよ?
カエン様は正式な皇族ではありませんけど
皇帝であることには変わりありませんし…』
『いいさ、元々気乗りのしない任務だった、俺は将軍だからな、
国民を守ることこそが仕事だ、そしてお前達兵士を守ることも俺の仕事だ、
そのためなら皇帝殺しの罪くらい背負う覚悟はある』
再生された音声は 『256話目【決戦前夜】』 での1コマ、
クサウラとオタルとターニアの会話を、
テントの外で盗み聞きしていたシルトアが水晶玉に録音(録画)したもの。
使われた水晶玉はクサウラが偵察に向かうイナセに渡したもの、
精霊様の貴重なお言葉を記録した水晶玉はシルトアが大切に保持している。
「おい今の声は…」
「嘘でしょ…」
「なんと哀れな」
「青ざめちゃってまぁ」
「そりゃクサウラじゃからの、同情するわい」
血の気の退いたツキヨとカエンを元3本柱が憐れんでいる。
「(ま、僕に掛かればこんなものですよ)」
一方、右後方ではシルトアがフフンと胸を張っている。
「ここにおる兵士の中にもクサウラの手の者が混じっておるじゃろ、
既に準備は整っておるということじゃ、
まぁ、見慣れた老いぼれもおるから全員ではなさそうじゃがの」
囲みに参加していない端の方の老兵が剣を掲げてアピールしている。
「おいどうする? なぁ?」
「(兵士の大半はクサウラ側に付く…誰が信頼できる人は…そんなの分かる訳ない…)」
「このままじゃクサウラに殺されるぞ、都合の悪い存在を生かしておく筈がない」
「(そんなこと言われなくても分かってるわよ、だから考えてるんでしょ)」
キキン帝がコソコソと話をしようとするもツキヨはイライラしながら思案中。
「おいって、聞いてるか?」
「(捕まれば死罪もある…そんなの嫌よ、なら…いっそのこと…)」
「む!?」
ツキヨの持つ杖の光に呼応してトドが一早く前へと出た。
魔法が放たれるまでは一呼吸程の猶予しか残されておらず、
両者の距離はおよそ6~7メートル、
トドが槍を投げたとしても発動前の阻止は不可能である。
右後方でシルトアとケルシスが反応しているが
2倍ほど離れており2人の力量をもってしても阻止は不可能、
残された選択肢は放たれる魔法の相殺だけなのだが、
それには条件が限定される。
放たれる魔法が個人を対象としたライトニングであり、
狙われるのがスギエダとマツバであれば
練度による魔法の速度差でギリギリ相殺が可能、
当てるのも至難の業だが2人なら間違いなく成功させるだろう。
狙われるのがトドであれば流石に速度差があっても間に合わない、
その場合トドは少なくとも致命傷を負う、運が悪ければ死ぬ。
もし、放たれる魔法が集団を対象としたフレイムなら最悪である、
フレイムは爆発する性質上、使用者があらかじめ威力と爆発位置を定めて放つ、
速度はライトニングよりも遅いが打ち抜こうものならその場で爆発する、
どうあがいても大惨事は免れない。
『 … 』
張り詰めた緊張感の中、一呼吸の後、杖先から放たれた魔法は火球、
取り囲んでいる兵士達ごとスギエダ達を吹き飛ばす絶望の赤い光。
「っち…」
「(間に合え!)」
ケルシスが顔を歪めて舌打ちし、
シルトアは氷の防御壁を展開すべく媒体となる水魔法を放った。
ツキヨ自身が巻き込まれないことを考慮すると、
最大でも直径5メートル程の威力で、
爆発するのはスギエダ達の真上か少し通り過ぎた位置と予測される。
シルトアの水魔法はスギエダ達を覆う形で放たれているが、
まだ展開しきれておらずもう暫く時間を要する、
凍らせて防御壁が完成するのは更に数秒後、
残念ながら間に合わないだろう。
シルトアは最速で行動したが水魔法と氷魔法は得意分野では無い、
これがもし、水魔法に長けたタレンギであれば間に合った可能性が高い、
氷魔法に長けたネサラであれば容易である、
練度よって生まれる僅かな差が明暗を分ける事態となった。
「そいっ」
赤い光がツキヨとトドの中間に差し掛かった時、
しなる槍先が火球をすくい上げ軌道が90度変化した。
「…は?」
『 !? 』
ツキヨの視線が上に流れた数秒後、
火球が爆ぜて爆風と光が一同に降り注ぐ、
兵士達が身を屈める中、トドが爆炎を払い除けて姿を現し、
流れる水のように滑らかな動きで下段に槍を構えた。
「肉体は歳と共に衰えど、技は時と共に鋭さを増す、
我、至高の皇帝、ビスマス様の飛槍なり」
台詞も決まり渋さ爆発の元将軍。
「あっぁぁマジでこれっ…ああぁぁぁぁあ…」
後ろの方で転げ回るクダマキが悶死寸前である、
あと老兵が端の方で剣を構えて渋い顔をしている、多分トドの友達。
「そんなことって…」
「(すげぇ~、俺も使ってみてぇ~)」
スギエダは茫然としており、キキン帝は初めて見る魔法に興味津々、
あわや打つ手無しの大惨事かと思われたが
齢70歳の力無き老兵が見事に状況を覆して見せた。
「なんだ今のは? 武器で魔法を跳ね返せるか?」
「マナを纏わせれば可能らしいですけど」
「ほう、今度試してみるか」
「凄く難しいみたいですよ、僕1人しか出来る人知らないです」
その1人は槍のノルドヴェルである、
マナの扱いに長けていないと出来ないので
近接職にこそ必要だが魔法職の方が向いているというジレンマ満載な技術、
フレイムはタイミングを間違えると巻き込まれるのでかなり危険、
避けた方が無難である。
精度はノルドヴェル程では無いが実はミーシャも出来たりする。
※ミーシャは戦闘に攻撃魔法を用いないゴリゴリの近接職だが
回復魔法を常時展開し続けながら痛みを我慢して戦うという
魔法職が聞いただけで卒倒するような
イカれた魔法職寄りパワー系マッチョである。
「あの~シルトア様、何か怒っていらっしゃいますか?」
「別に、全然怒ってないです、シャガール様の気のせいですよ」
「それであればよいのですが…(絶対怒ってますね…)」
「(確実に怒ってる…)」
不機嫌そうなシルトアが腕を組みながら足のつま先で床を叩いている。
「やれやれ、槍を取り戻しておいて正解だったな、この氷はスギエダか?」
「私は氷魔法は習得してないよ、後ろのお客人が庇ってくれたみたいだねぇ」
「ふむ、後で礼をせねば」
「そうだねぇ、でもまずはこっちを片付けないと、ちょいとツキヨ!
いきなりあんなもの使うなんてどういうつもりだい?」
「どうもこうも…追い詰められた人間は何をするか
分からないと言ったでしょ、アンタが私達を…」
「勝手に騒ぎを起こして勝手に追い詰められて、
責任までこっちに押し付けるのかい、全部自分のせいだろうに」
「煩い!」
「やめよツキヨ、既にワシの間合いじゃ」
「うっ…兵士達! トドを…トド…を…」
ツキヨを見る兵士達の目は冷たく、誰も動こうとはしない。
「無駄じゃよ、先ほどお主自身が切り捨てたのじゃ、観念せい」
「はぁ~黙って聞いておれば何を言っておるのだ、
おいトド、お前は皇帝の飛槍なのだろう、
だったら我の側に立つべきではないのか?
今なら将軍の地位に戻してやることもできるぞ」
「そ、そうよ、キキン帝の仰る通りだわ、皇帝をお守りしなさい!
だって皇帝の飛槍なんだもの、当然でしょ? さぁ早く!」
「「 はぁ… 」」
キキン帝とツキヨの言葉にマツバとスギエダがやれやれと首を振っている。
「お主等どうやら勘違いをしておるようじゃの、
皇帝の飛槍とは皇帝に尽くす者にあらず、
皇帝が道を誤った際に正す者なり、例え討つことになろうともじゃ…」
「ひぇっ…」
喉元に槍を突きつけられてキキン帝の背筋が伸びた。
「ほっほっほ、理解出来たようじゃな、さてどうする?
お主が皇帝ならばワシはビスマス様より賜った使命を果たさねばならぬ」
「わ、わかった、俺はもうキキン帝じゃない、只のカエンだ!」
「お主はどうじゃツキヨ? ワシと刺し違えるか?」
「はぁ…わかったわよ、もう好きにしなさい…」
「だそうじゃ、スギエダ、マツバ一先ずこれで良いじゃろ」
「うむ、2人の処遇は後程決めるとしよう」
「よくやってくれたねぇトド、取り敢えず地下牢に…」
「すみません、ちょっといいですか?」
話が纏まりかけたところに不機嫌そうなシルトアが入って来た。
「その人達はもう皇帝でも参謀でもないってことですよね?」
「そうだけど…」
「国内の問題は解決したってことですよね?」
「一つの区切りではあるがまだクサウラが残っておる故、
完全に解決したわけではない」
「確認なんですけど、少しくらい僕が手を出しても内政干渉にはならないですよね?」
「内政には干渉せんが…どうしたんじゃお主? 凄く不機嫌そうじゃの?」
「全然怒ってないですよ、ただ僕、魔法を悪用する人が凄く嫌いなんです…」
『 ひぇっ… 』
シルトアが発する不穏なオーラで兵士達が壁際に散った。
「魔法は精霊様から賜った素晴らしい力で」
「「 あばばばば… 」」
「便利だけど扱い方を間違うと危険なんです」
「「 あばばばば… 」」
「それを人に向けて使うなんて…反省して下さい!」
「「 ず、ずみません…あばば… 」」
「本当に理解したんですか? 本当に?」
「「 ずみません…ずみませんでした… 」」
『 (うわぁ…) 』
風魔法で壁に貼り付けにされ、
ツキヨとカエンは魔法の恐ろしさを身を持って理解させられた。
「ほら入りなって…」
「ぬぐぐぐ…」
「今更抵抗するんじゃないよ…大人しく…」
「ぬぐぐ…」
「スギエダよ、助けが必要か?」
「頼むよ…栄養が足りないから力が出なくてねぇ…」
「では、ん? んん!?」
「ふんぬぐぐ…」
「なんという力強さ…トド手を貸してくれ」
「2人掛かりの上に人年寄りの手を借りるとは、
なんとも不甲斐ない話じゃの~どれ一気に押し込むぞ」
「「「 せ~の! 」」」
「ぐやぁぁ!?」
その後、全力で抗うツキヨを3人掛かりでアダマンタイトの牢屋に押し込み。
「なぁ、俺もさっきの個室の牢がいいんだが」
「あ? 殺すぞ」
「えぇ…(なんだコイツ、いきなりヤベェ…)」
「口裏合わられると面倒なのに同じ場所に入れるわけないだろ、馬鹿が」
「いぐぞ」
「うぉわ!? おい下ろせ! 恐ろしいわ、自分で歩けるっての!」
「おいダダ、それ以上喚くようなら地面に叩きつけろ、静かになる」
「わがった」
「(あばばば…コイツ等ヤベェ…)」
「それじゃトド将軍、俺達コイツを東の地下牢にぶち込んで来るっす」
「うむ、宜しくの~」
連行されるカエンを見送り一段落したので休憩。
トドの友達の老兵がオニギリとお茶を配ってくれた、
どうやらスギエダの状態をトドから聞いて手配してくれていたらしい。
「後はイナセ君次第か、ふむ、具は肉であったか」
「クサウラとどっちが勝つと思うかい? おや魚、なんだか久しぶりの味だねぇ」
「分からんの~どちらが勝ってもおかしくはない、お、ワシのは青葉じゃ」
「「「 旨い 」」」
長椅子に腰かけ3人横並びでオニギリを頬張っている。
「ちょいとトド、アンタが息子を信じなかったら誰が信じるんだい」
「仕方なかろう、実際分からんのじゃ、実力は拮抗しておる、
そういう者達の戦いは一瞬の迷いが勝敗を分けるのじゃ、
ワシが知る以上の何かを隠しておればクサウラが勝つことも十分考えられる」
「その何かとは?」
「ほっほっほ、それが分かれば苦労はせんわい」
「回復魔法が使えるとかじゃないかい?」
「そうじゃな、一方だけが傷を癒せるとなれば戦局が大きく傾く」
「他の兵士を連れている可能性も考えられるぞ」
「並みの兵士長程度なら問題にならん、2人の実力は抜きんでておる、
案外攻撃用の魔法を隠し持っておったりしてな、
そういう努力を惜しまんヤツじゃがらの~クサウラは」
「へぇ~…」
「ふむ…」
「ほう…」
「「「 旨い 」」」
3人横並びでお茶を啜っている。
「皇族は途絶えたけど国を率いる者は必要だよ、
もしクサウラが勝ったらなら、どうするかい?」
「選ぶのは国民だ、私はただ国の再建に努めるのみ」
「マツバはクサウラが皇帝になってもいいっていうのかい?」
「良いも悪いもない、私個人の感情など…」
「はぐらかすでない、嫌なら嫌と言えばよかろう」
「そうだよ、トリフェン様とアズラ様のこと、許せる筈がないんだからねぇ」
「う、うむ…まぁそうなのだが」
「ワシはの~、感情を抜きにして考えれば有りじゃと思っておる、
あれ程人の扱いに優れた者はそうおらん、国を率いるだけの力はある」
「まぁねぇ」
「うむ」
「じゃが感情を含めると無しじゃ、イナセが敗れたとなれば尚更、
結果は分り切っておるが敵を討たねば気が済まん」
「良い父親だよアンタ」
「いずれにせよキキン帝国内でクサウラを止められる者がおらぬ以上、
私達が選べるものでは無い、他国に助力を求めれば話は別であるが…」
視線の先でシルトア達が老兵からオニギリを受け取っている。
「おいトトシス、1人で2個取るな、品格を疑われるだろ」
「国王こそさっきパン食べたばかりじゃないですか、
エルフが大食いだと勘違いされると困ります、そのオニギリは私が預かっておきます」
「ふざけるな、絶対食べる気だろお前」
「食べません~オニギリなんて誰も食べません~、うまうま」
「いや思いっきり食べてるじゃないですか、あ、僕の具はキノコの煮物だ、
珍しいな、シャガール様は何が入ってましたか?」
「茹で卵のようです」
「いやそれ殆ど卵じゃないですか、具とご飯の比率おかしいですよ」
「ほほほ、初めからはみ出ておりましたよ」
「来るな! これは私のオニギリだぞ!」
「私が預かっておきますから! 国王~!」
ケルシスとトトシスのオニギリをめぐる攻防が空中戦へと発展している。
「「「 う~ん… 」」」
「如何なる結果になろうとも自国の行く末を他国に委ねるべきではない」
「そうだねぇ、知らせを待つとしよう」
「なに心配はいらんよ、ワシはイナセを信じておるからの~」
国の行く末はイナセとクサウラの戦いに託された、
空席となった皇帝の椅子に座るのはいったい誰なのか、
それは次話の結果次第である。
「あれ? 何か…地面が揺れているような?」
「ん? …微かに感じますね」
「何やら揺れとるらしいぞ、マツバ感じるかの?」
「いや、私は感じぬ」
「気のせいじゃないかい? 私も感じないよ」
「え? …シャガール様揺れてますよね?」
「はい、微かにですが、お茶も…ほら波打ってます」
「「 ? 」」
何故がシルトアとシャガールだけが揺れを感じていた。
想像以上に長くなってしまったので松本の本格的な出番はも少し先である。




