259話目【戦争の結末】
「ハイエルフが何故…」
「直接攻めて来たってこと?」
「嘘でしょ、開戦したの?」
「いやでも、なんか違う気がするけど…」
「タマニさんアレなにしてるんすか?」
「知らん、俺に聞くな」
「じゃぁダダ兵士長?」
「オデも分からない」
唐突に飛来したハイエルフ御一行にざわつく兵士達、
渦中のシルトア達は周りの反応を気にせず運搬用に使用した蔓を片付け中。
「ふむ、ハイエルフの方々に加えてカード王国の使者か、どう思うかのマツバ?」
「ルコール共和国のシャガール殿もご一緒のようだ、
偶然ということはないだろう」
「なんでテイジン爺さんも一緒なんだろうねぇ?
はぁ…ちょいと顔色が悪そうだけど大丈夫なのかい?」
通路端の植木の近くで様子を伺う元3本柱の3人、
スギエダは疲れているので1人だけ丸い飾り石に腰掛けている。
「彼が広背筋を誰よりも愛するエンガワさんと、
彼女が美しい大臀筋を追い求めるイチボさんです」
「ようこそ光筋教団へ、君達の入団を歓迎するよ」
「いつの時代も諦めず抗う者こそ成果を得る、一緒に頑張りましょう」
「「 よろしくお願いします~ 」」
一方、ラリー支部長は駆け付けた光筋教団員にソバコとソバミを紹介中、
エンガワとイチボだけ短パン、タンクトップ姿なので
出社前の早朝に町中を走っているトレーニー感がある。
「そんなに綺麗に纏めなくてもいいだろ、こういう時だけ几帳面だなトトシス」
「私はいつも几帳面です、国王こそもう少し丁寧に纏められないんですか?
初めての外交なんですから品格が疑われるような行為は慎んで下さい」
「たかが蔓の巻き方1つで大袈裟なヤツめ、シルトアもそう思うよな?」
「僕はトトシスさんの意見に賛成です、
偉い人達って立ち振る舞いとか大切にしてますよ」
「ほら、ほ~ら、やっぱりそうなんですよ、纏め直して下さい」
「断る、面倒臭い、ならシルトアの輪は小さいから器が小さいのか?
こんなもの人を判断するなどそれこそ品格を疑うぞ」
「僕は体が小さいから仕方ないんです」
「そういう屁理屈も止めて下さい、品格が疑われます」
「(こういう作業は人間性が出ますからね…)」
「(ケルシスちゃんって変に頑固なところあるよねぇ…)」
上空で冷え切った体を太陽の熱で温めながら
シャガールとテイジンが蔓を纏める3人を眺めている。
「ちょいとマツバ、あのハイエルフの人がシルフハイド王みたいだよ?」
「はて? 男性という話ではなかったかの~?」
「それは前王の話だ、現在のシルフハイド王が自ら外交を行った記録はない、
正確な情報が全くない故、私に尋ねられても困る」
「「 へぇ~ 」」
「私は王様が交代したことも知らなかったよ」
「それはそうだろう、シルフハイド国の王位が交代したのは
私とスギエダが3本柱になる前の話だ」
「ワシも知らなかったぞ」
「それはトドが怠慢なだけだろう、書簡での連絡があったと記録されている、
名前や性別の記載は無かったそうだが」
「そんなの覚えとる方がおかしいじゃろ」
「まぁ、シルフハイド王が話題に上がることもなかったしねぇ…はぁ…しんどい…」
30年位前の話なので覚えていなくても仕方がない、
当時トドは既に将軍であり、キキン帝国の皇帝はビスマス、
スギエダとマツバは20代の若造だった。
因みに、王位交代時に各国に配布された書簡には
『シルフハイド王が交代しました、
交易などの決め事は引き続きそのままでお願いします』
と記載されていたそうな、差出人はトトシスである。
エルフの掟もありシルフハイド国は基本的に交易以外で他国と関ることがない、
たまに個人的に関わりを持つ者が現れてるが国としては殆無い、
他国もまたシルフハイド国が僻地にありすぎるのであまり干渉しない、
そんな中、唯一定期的にシルフハイド国側から発せられるアクションが
年に1度の新年挨拶である。
『今年も宜しくお願いします』
と非常に簡素な文面の書簡と共に友好の贈り物が贈られてくる、
中身はその年によって異なり、ハスリコットやクロモモの詰め合わせだったり、
果実酒、メガドラゴの羽の装飾品などなど、
たまににナシカブトの幼虫が入っているため、
各国の開封担当者は新年早々ドキドキさせられているらしい、
勿論、差出人はトトシスである。
ナシカブトの幼虫は時期的に滅多に見つからないし、
トトシスが食欲に打ち勝った時のみ贈られて来るので確率は少ない。
余談だが、以前カード王国にナシカブトの幼虫が届いた際は、
白帝ヨトラムが息子と一緒に育てて無事に成虫になった、
妻の雷光のモレナと娘は気持ち悪がって近寄らなかったそうな。
「お~いテイジン、そろそろ説明してくれんかの~」
「もう少し温まってからでいい将軍ちゃん? ワシ今冷え冷えでさ~」
「ほっほっほ、駄目じゃ、生憎急いでおっての、あとワシはもう将軍ではないぞ」
「あそうだった、何十年も呼んでたからさ~こういうのって中々抜けないよね~」
「いいから働けテイジン、そのためにお前を運んで来たんだぞ、
片付け終わる前に話を付けないとこうだぞ、こう!」
ケルシスが巻き終えた蔓を通路脇に運びながら拳をシュッシュしている。
「え~ちょっと酷くない? っていうか何でケルシスちゃん達は無事なわけ?
マジで寒かったのに…」
「国王だからな、お前とは鍛え方が違う」
「(そんな筈ないと思うなぁ…)」
「(絶対違いますね…)」
ムフーと胸を張るケルシスにテイジンとシャガールが目を細めている、
折角巻いた蔓を落としたので余計にグシャグシャになった。
吊るされて運ばれていた者達は上空の冷たさに加えて
吹き付ける風を受けて体温を奪われたが、
風魔法で空を飛ぶ者達は風を相殺しているので
同じ高度でも体感温度が全然違うのだ。
「テイジンさん私も一緒に説明します、ご紹介頂いても宜しいでしょうか?」
「いいよ~お~い元将軍ちゃん、この人シャガールさん」
テイジンとシャガールが元3本柱の3人に経緯と目的を説明していると、
片付け終わったシルトア達も合流した。
「なるほどの~思いがけぬ援軍という訳じゃな」
「逃げ出した国民の影響がこんな形で現れるなんて想像してなかったよ、
こう言っちゃあれだけど、はぁ…かえって良かったのかもしれないねぇ」
「良い訳がないだろう、私の愚かな選択が世界中に混乱をもたらしてしまった、
各国の代表の方々、本当に、本当に申し訳ない…」
拳を握り締めたマツバが深々と頭を下げた。
「宰相ちゃん、あ間違えた、元宰相ちゃんさ~、
あんまり深く考えない方がいいよ、家族を人質にされたら同じことするよ~ワシ」
「そうだよマツバ、折角いい方向に話しが進んでいるんだ、
すんだことより先のことを考えな」
「まぁ、お主が断っておっても結果は変わらんかったじゃろ、
殺されて次の宰相が首を縦に振っておったわい」
「…」
キキン帝国メンバーが声を掛けるが頭を下げ続けている。
「(ほらケルシスちゃんも何か言ってあげて)」
「(ふむ、仕方が無いな)おいマツバとやら、
1人で世界を動かしたなどと傲慢が過ぎるぞ、
精霊様と同列にでもなったつもりか、恥を知れ」
「申し訳ない…」
『 えぇ… 』
マツバの頭が更に低くなった。
「ちょっとケルシスちゃん~この状態で追い打ち掛けるとか…マジヤバくない?」
「何だその顔は、お前が言えと言ったのだろう」
「いや言い方…てか内容もさ~…」
「開戦前の状況でシルフハイド国が受けた影響なんぞ微々たるものだ、
国境付近の監視を増やした程度で何を言えと、
私がシルフ様の傍を離れてここまで来たことの方が大事だぞ」
「ケルシスちゃん引き篭もりは良くないよ~これワシの経験談」
「酒に飲まれてたお前と一緒にするな、
シルフ様を讃え森と共に生きる、それこそがエルフの正しい在り方なのだ」
『 うんうん 』
ムフーと胸張るケルシスに賛同するハイエルフ達、
1人頷いていないハイエルフがいるが
彼女は個人で他国と物々交換しているので若干意見が異なるらしい。
「カード王国もまだ大した影響は出ていませんし、
マツバ様が謝る必要は無いと思います、
僕としては魔王の復活の方が心配なので戦争だけは防がせて頂きます」
「シルトア殿…」
シルトアは大した影響は無いと言っているが
ここでカード王国の国境付近を見てみよう。
「はい、そうです、今は魔王対策で他の都市に受け入れることが出来なくて、
申し訳ありませんが皆さんにはこの混在都市コルビーに留まって頂くしかありません」
「混在都市コルビー…あの~ホラントさん、
あいや、ホラント伯爵とお呼びすればよいのでしょうか?」
「ホラントは名前ですので伯爵名のモントレーでお願いします、モントレー伯爵です」
「よく分かりませんが…そういうものですか」
「そういうものです」
「ではモントレー伯爵、今どのような状況なのでしょうか?」
「なんか材料が一杯あるけど…都市なのですか?」
「ははは…一応ここも都市になる予定なんですけど…見ての通りまだ建設途中でして」
「「 はぁ… 」」
早くも難民の第1陣が到着したため
街道沿いに置かれた椅子すらない長机でホラントと代表2人が話中、
建設予定地にはいくつかの小屋が立っているだけで、
道も無く村とも呼べない状況、早朝から職人達がフル稼働で建築中である。
「因みに、何人くらいですか?」
「残っているのはたぶん300人くらいです」
「300!? 先に大きめの小屋作っておいて良かったぁぁ!」
「あ、あの…」
「そんなに頭を抱えて…大丈夫ですか?」
「すみません、取り乱しました、最低限の食事と宿泊所は提供可能ですが、
残念ならが全面的に皆さんの生活を支援できる状況ではありません」
「いやいや、置いて頂けるなら何も文句はありません、
雨風と魔物を避けられるだけで本当に、凄くとても有難いです」
「私達人手だけならありますから是非お手伝いさせて下さい、
皆鉱山で働いていましたのでそれなりに働けます、
今はちょっと疲れちゃってますけど少し休めば元気になりますから」
「(この人達も相当苦労して来たみたいだなぁ…)
わかりました、一緒にコルビーを良い都市にしましょう」
「「 ありがとう御座います! 」」
「検問所で必要事項に記入を頂いてから入国を…、
そういえばキキン帝国の方は魔法を習得していないとお聞きしたのですが本当ですか?」
「はい、ですが何人かルコール共和国で魔法を習得した者がおりまして、
なんとかここまでたどり着くことが出来たというわけでして…」
「なるほど、では飲み水と怪我の治療は間に合っているということで宜しいですか?」
「一応は」
「体調を崩している者がいます、それと食料がもう…皆お腹を空かせています」
「では先に医師と食料も手配しましょう、
手続きが完了された方は担当の者の指示に従って下さい」
「わかりました、朝早いのにモントレー伯爵自ら対応頂き感謝します」
「本当にありがとう御座います、あら?」
「どうかされましたか?」
「何か地面が…」
「まさかメメナシか?」
「カード王国にもいるの?」
「(メメナシ?)」
なんて騒いでいると街道の真ん中が陥没して女性のドワーフが顔を出した。
「(ルルグ様!?)」
「ふぅ~やっと…ってあれ? これズレてないかい? ちょいと見てみなよ」
「何を言っておるのだ、そんな筈なかろう、…ん?」
「(ゲルツ将軍!?)」
「駄目なんですか? ってここ街道じゃないですか、マズいですよ」
「ちょとクラージさん!? 何やってるんですか!?」
「あ、ホラントさん、おはよう御座います」
「おはよう御座います、じゃなくてこれ、えぇぇぇ!?
まさかタルタ国からここまで!? 国境超えて穴掘っちゃったんですか!?」
「はい、皆がどうしても街道を移動したくないと言うもので」
「いやまぁ…ドワーフの人達だから分からなくもないですけど…けどこれ…」
「本当は畑の近くに出る予定だったのですが、ズレてしまったようです、すみません」
「いや、すみませんって…そういう問題じゃ…」
「すみませ~ん! そこの街道の真ん中にいる方危ないですよ~!
ウルダのルート伯爵からコルビーのモントレー伯爵宛に
支援の人員をお連れしました~!」
「えぇ!? 早朝なのに?」
「可能な限り急ぐように言われてま~す! 特急料金頂いてま~す!」
「わ~待って待って! 私がモントレー伯爵です! そこで止まって下さい!
クラージさん直ぐに埋めて下さい、危ないですから!」
「わかりました、皆さんここは埋め直して畑に向かって掘りますよ~」
『 う~い 』
「(結局掘るの!? 掘るよねドワーフだもん…カード王になんて説明しよう…)」
混在都市コルビーはタルタ国の食料問題解決の意味合いもあるため、
出入り口を施錠する条件で国境を越えて直通の穴を掘ることは
カード王とタルタ王の間で話が付いている、
可哀想なことに手違いでホラントに知らされていないだけである。
難民対策の最前線を任されているホラントに多大な負荷が掛かっており、
ウルダから人員が届いたように混在都市コルビーの建設のために
各都市から様々な支援が行われているため、
キキン帝国の問題はカード王国全体に結構影響を及ぼしている。
場所は戻ってキキン帝国。
「カード王国はまぁそんな感じですけど、ルコール共和国はちょっと…」
「そうですねシルトア様、確かに我がルコール共和国は
難民の方々によって財政の圧迫や治安の悪化など様々な影響が出ています、
ですがそれは皆が最善と信じた行動の結果なのです、
マツバ様お1人が責任を感じる必要はありません、
今すべきは頭を下げることではなく、キキン帝国内の問題を早々に解決し、
難民の方々が安心して戻って来られるように努めることです、
ほほほほほ、只のビール好きにしては出過ぎだ発言でしかね?」
『 おぉ~ 』
髭をネジネジするシャガールに一同が拍手している。
「アレですよ国王、ああいう自己を主張しながらも
やんわり諭すような言葉を皆さん求めていたんです」
「そんなことわざわざ言わんと分からんか?
アレ結構な大人だろう? いやもしかして見た目以上に若いのか?」
「いや、人間の年齢は良く分かりませんけど…」
『 (う~ん…) 』
ケルシスとトトシスがコソコソ話しているが丸聞こえである。
「シャガール殿の言われた通りだ、一度は捨てた命、
マナと消え去るまで国の再建のために捧げよう」
「そうそう、それでいいんだよマツバ、はぁ…しんど…」
「しかしアレじゃの、ワシ等もいろいろと考えとった訳じゃが、
マイは救出済みでイナセがクサウラの相手をしておるとなると、
もう結果は出とるな、後はカエンとツキヨを退かせるだけじゃ」
「簡単にお認めになるとは思えませんが…」
「なに心配には及ばんよシャガール殿、
さて、他国からの遥々来られた客人方に恥を忍んでお願いしたい、
戦争中止を求めるのは大いにけっこう、難民と魔王の復活、
自国を守る行為はそちらの権利じゃからの、
じゃが国内のイザコザはこちらの問題じゃ、
皇帝についてはワシ等に任せて欲しい、決して手を出さぬように…」
「はは…」
「ん? ワシ何かおかしなことを言ったかのシルトア殿?」
「すみません、イナセさんから同じようなことを言われたもので、
親子って似るんだなって」
「ほう、なんと?」
「クサウラ将軍を止めるのは自分の役割だから手を出すなと」
「ほっほっほ、イナセは自ら考え責務を果たそうとしておる、
ワシは亡き友の願いを叶えようとしておるだけじゃ、似てなどおらぬよ」
「はぁ…」
「それにイナセは容赦がない、ワシの方が優しいからの~ほっほっほ!」
「(それはなんとなくわかる…)」
シルトアの脳裏で航空輸送装置のテストをするイナセが大暴れしている、
可哀想なことにサルトバ兵士長が無限人柱編に突入している。
「トド、スギエダそろそろ行くとしよう、クサウラが追ってこぬとも限らん」
「イナセが相手をしておる、そうそう来させはせんじゃろ」
「ラニー支部長、すまないけど背負ってくれるかい? しんどくてねぇ…」
「お任せ下いさい」
トトシス以外のハイエルフ達と
光筋教団員と筋トレを始めたソバコとソバミを残して宮殿へ移動。
「ところでさ~本当に元参謀ちゃん? そんな感じだったけ?」
「そうだよ、テイジン爺さん遂にボケたのかい?」
「まだボケて無いって、もしかして地下牢でご飯貰えなかった?
すごく痩せちゃって可哀想…」
「まぁ、碌な物は食べて無いけどねぇ…はぁ…
細くなったのはマナを大量に消費したからだよ」
「僕リバイブ使えますからマナ切れなら回復させましょうか?」
「おや、折角だからお願いしようかねぇ、流石にちょっとしんどくて…、
でも少しだけにしてくれるかい? あんまりマナが溜まると…はぁ…
またパンパンになっちゃうからねぇ」
「? わかりました」
シルトアがリバイブで少しだけマナを回復させると
スギエダが通常の大きさに戻った。
「は~なんだか気分が良くなったよ、ありがとねぇシルトアちゃん」
「いえ…(あの時縮んだように見えたのは見間違いじゃなかったのか…)」
「…え? なんで膨らんだの? テイジン意味わかんない」
「ずっと言ってただろう、そういう体質なんだよ私は」
「それマジだったんだ…どういう体? ヤバくない?」
「私に聞かれてもねぇ、膨らむのは膨らむんだから仕方ないだろう、体質だよ」
「(変わった人もいるんだなぁ…)」
「(重さは変わらないようですね)」
テイジンは驚き、シルトアは達観し、
ラリーは負荷が増えなかったのでちょっとガッカリした。
「おるか~! おったら返事しろ~!」
「ちょっと国王、そんなに扉を叩いたら失礼ですよ」
「お止めください、勝手な振る舞いは困ります」
「おるか~! おるだろ~! 開けろ~!」
『 えぇ… 』
トトシスと兵士の制止を振り切り
ケルシスがシルフハイド王として初となる
鮮烈な外交デビューを見せつけ空の謁見の間に突入、
暫く待っていると兵士を引き連れたキキン帝とツキヨが姿を現した。
兵士達は左右の壁際に並び、
部外者のクダマキ、タマニ、ダダ、ラリー、テイジン、トトシスは部屋の隅に移動、
キキン帝が一段高くなった椅子に腰かけ、ツキヨが傍に控え、
部屋の中央付近でトド、スギエダ、マツバが膝を付いて頭を下げ、
シルトア、ケルシス、シャガールの各国代表者はその横に立ってスタンバイ。
重々しい空気の中、右肘を付きながらキキン帝が口を開いた。
「ふぁ~ぁ…聞けば兵士の忠告を聞かず強引に押し入ったそうだな
まったく不愉快だ、叩き起こされた身にもなってみろ」
『 … 』
「ルコール共和国、カード王国、タルタ国、そしてシルフハイド国の代表者か、
何故お前達は立っている? 跪け、この場で皇帝の我と対等のつもりか?」
「私の認識では国の代表者は対等だと思うのですが」
「まぁ、僕はカード王国とタルタ国の代表なんで実質上ですね」
「私は下に見ているぞ、お前だけな」
「あん?」
「「「 あぁ? 」」」
あまりの態度に話し合いどころかバチバチの代表者達、
髭をネジネジするシャガールの額に血管が浮き、
シルトアは2か国分の代表代理証明書を見せつけ、
ケルシスは親指を下に向けてメンチを切っている。
「え? ヤバく無いっすかこれ? むしろ戦争になるんじゃ…」
「静かにしてろ馬鹿」
「あん!?」
「落ち着けクダマキ」
「あんなのが皇帝なんですか? うわ~…」
「はい…まぁ…」
「皇帝ちゃん強気すぎ~…」
トトシスの呆れた声にラニーとテイジンが目を背けている。
「飯も食わずに対応してやっているというのに、ふざけやがってぇ…」
「キキン帝、お気持ちは分りますが取り敢えず先に進めましょう」
「だがアイツ等完全に俺を舐めてるぞ」
「流石に先程のはキキン帝に非があるかと」
「そうか?」
「はい」
「皇帝でもか?」
「皇帝でもです」
「…そうか」
キキン帝とツキヨがなにやらコソコソ話をしている。
「おいそこの3人、顔を上げろ」
「「「 はい 」」」
「元将軍のトドと元参謀のスギエダ、
地下牢に捕えていたお前達が脱獄していることは、まぁ…
全く良くは無いが、取り敢えず置いておくとしてだ、
元宰相のマツバ、何故お前が生きている? 毒を飲んで死んだ筈では?」
『 うんうん 』
ツキヨと壁際の兵士達が頷いている。
「1度は愚かな選択を悔やみ…」
「もうよいて、お主の話をしに来たのではなかろう」
「適当に生き返ったとでも言っておけばいいよマツバ」
「…、国のためを想い、その…頑張って生き返りました」
『 (う~ん…) 』
ちょっとだけマツバの意思が盛り込まれたせいで余計に変な返答になった。
「ふん、どいつもこいつもふざけおって、シルフハイド王よ」
「なんだ?」
「難民だなんだと理由を付け関係のない国を巻き込みおって、
臆したのなら素直にそういえば良いだろう、
戦争を中止して欲しいなら大人しく風の精霊を差し出せ、
別にお前達の命などどうでも…」
「おい!」
『 !? 』
ケルシスがいきなり大きな声を出したので全員ビックリした。
「よく聞き取れなかった、もう1度ハッキリと言ってみろ」
小指で耳をホジホジしながら聞き返すケルシス、
静かな口調とはうらはらに態度は明らかに挑発している。
「その長い耳は飾りのようだな…戦争を中止して欲しければ、
このキキン帝に、風の精霊をぉ!」
「様を付けろよデコスケ野郎!!」
「…ぁぃ」
『 (…デコスケ野郎?) 』
カチキレのケルシスに気圧されるキキン帝、
皆首を傾げているがシルトアとトトシスだけは頷いている、
自分が馬鹿にされることは許せるが
精霊に対する不遜な振る舞いは許せない、そうハイエルフならね(内1名人間)。
世の中には精霊の従者の口に棒を突き立てたり、ひっくり返したり、
精霊本人に貝殻を磨かせたりする罰当たりな不届き物がいるらしい。
「シルトア」
「わかりました」
「?」
ツキヨに水晶玉を手渡した。
「寄こせとか手に入れるとか言ってますけど、そもそもの認識が間違ってます、
その水晶玉には精霊様の有難いお言葉が治められていますので確認して下さい」
「今ですか?」
「今すぐです、僕達待ってますから」
「「 はぁ… 」」
水晶玉の映像を確認し終わるまで話し合い中断、
貴重な精霊の一目姿を見ようと兵士達も集まりキキン帝の周りがゴチャゴチャしている。
「おぉ~」とか「凄い」とか「なんかフワフワしてる」とか声が漏れ出ている、
10分位すると元の配置に戻った。
「まぁつまりなんだ? 魔王は自分達で解決しろとか言っていたな」
「そうです、世界を構成する偉大な精霊様がわざわざ
人間や亜人種だけを助けるわけないじゃないですか、
魔王は自分達の力で乗り越えるしかないんです、
それに、この世界の誰も精霊様に命令なんて出来ませんし、
精霊様を物のよう扱なんて考えるだけでも許されません!」
「風の精霊…様は小さいから捕まえられそうだったがな」
「はぁ…全然分かってない…、
精霊様はとんでもない魔法の固まりみたいな感じなんですよ、
見た目は関係ありません、全ての精霊様が強大な力を秘めていて、
その気になればこの国の国土くらい簡単に地図から消滅させられます、
キキン帝は魔法の危険性をご理解されていないのですか?」
「っは、誰に言っておるのだ、勿論理解しておる、
少しばかり魔法が使えるからといて調子の乗るでないわ」
キキン帝が不敵な笑みを浮かべてシルトアを指差した。
「見せてやろう、我の皇帝たる力をぉ!」
指先からチョロチョロと水が出た。
『 … 』
「はーっはっはっは! どうだ、声も出ぬか? まだまだ他にも…」
「キキン帝その辺りで…」
「まだ水魔法を見せただけだぞ、今から火と雷と…」
「床がビチャビチャになっていますし、キキン帝が使用可能なのは全て初級ですから」
「まだ習得したばかりだから仕方ないだろ、初級も魔法だ」
「他国では魔法の習得は当たり前ですし、
スギエダに至っては水の上級魔法が使用出来ます、流石に見ていて痛々しい…」
見かねて止めに入ったツキヨとキキン帝がコソコソと話をしている、
スギエダよりも目の前の小柄な僕っ子が世界屈指の化け物でることを2人は知らない。
「キキン帝、宜しいでしょうか?」
「なんだルコール共和国の代表?」
「精霊様を手に入れるという目的が達成できないのであれば、
戦争を行う意味は無いと思います、中止されては如何でしょうか?」
「シャガール殿の言う通りだ、私も無駄な争いは好まん、この辺りが引き時だ」
「もし続けると言われるなら、各国の代表から署名頂いた書簡に従い
僕が全力で阻止します、これは内政干渉ではありません、
魔王復活を助長する行為を未然に防ぐための防衛策です、ご確認下さい」
侵略行為阻止に関する賛同書をツキヨに手渡した。
「読み上げてくれ」
「…魔王に対する精霊様のお考えを再度確認し、
そのお言葉もってキキン帝国へ説明を行い、
シルフハイド国への侵略行為を阻止すること。
また、阻止できなかった際、各国の賛同が得られた場合に限り、
武力を用いてキキン帝国の侵略行為を阻止すること。
賛同が得られなかった際は2国間の問題とし、シルフハイド国に対応を委ねること。
確かに各国の代表者の署名がありますが…」
「ツキヨ参謀、その書簡は正式なものなのか?」
「おそらく…私もそこまで詳しい訳ではありませんので」
「キキン帝、ツキヨ参謀、その書簡は私も確認させて頂きました、
カード王国の国章が記載されており各所の作りも一致しております、
正式に発行された書簡とみて間違いありません」
「元宰相の言葉は信じるに足るのか?」
「歩く法典と呼ばれた男ですから、私は信じて良いと思います」
「う~む…ツキヨ参謀と話をしてくる、少しの間待っていろ」
『 はい~ 』
キキン帝とツキヨが部屋から出て行った。
「どうする? 俺としてはもう戦争は無しだが」
「一番望んでたのは貴方でしょ」
「そうだけど、精霊が手に入らなければ意味がない」
「でも国民に対して鉱山を襲った犯人はハイエルフだって言っちゃってるのよ、
クサウラ抜きで決めていいものか…」
「だがこのまま続ければシルフハイド国だけでは済まなくなるぞ、
あのチビに何が出来るか知らんが、
アレはつまりはカード王国が参戦するという意味だろ?」
「たぶんね、流石に別の国まで来ちゃったら無理、
ルコール共和国までシルフハイド国側に付いたら交易が全てなくなる」
「世界から孤立か? まぁキキン帝国だけでもやってはいけるが…
魚は無いぞ、やっぱり南の山脈を掘って海に繋げるか?」
「魚はそれでもいけどお酒の種類はかなり減る、殆どルコール共和国産だもの、
いやでも貴重鉱石があるから…足元見られて買い叩かれるか
取り敢えずクサウラを呼んでもう1度話を…」
「アイツ等が待つと思うか?」
「思わない、とうかクサウラがいてもいなくても結果は同じね…」
「「 う~ん… 」」
部屋に戻ったキキン帝は戦争中止を宣言した。
キン帝は戦争中止を宣言した。




