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252話目【風の精霊シルフ】

鬱蒼と茂った森に敷かれた石畳を辿ると苔むした巨大な根に突き当たる、

根が隆起して出来た地面との隙間に門が取り付けられており、

中には開けた空間が広がっている、

人間に似た耳の長い亜人種が暮らす場所、

大陸の東に位置するエルフの国、シルフハイド国である。


天然の防壁となっている太い根は高い場所で10メートルを超えており、

国内で最も長寿で最も巨大な木の一部である、

その大きさは空から確認するとより分かり易く、

緑の絨毯から飛び出した湾曲した幹はまるで大蛇のようである。


このエルフ達が敬愛してやまない巨木は

カード王国のダナブルに生えている盆栽の松みたいな木と同じ物、

シルフ様の木、もしくは精霊様の木と呼ばれており、

その名の通り風の精霊シルフの体現場所である。



シルフハイド国は独自通貨を持つほどに発展した国だが、

お隣のキキン帝国同様に国内にある町は1つだけ、

別に鬱蒼と茂った森を開拓するのが大変とかそんなんではなく、

自然を愛し森との共存を第一とするエルフの教え…とかもあるが、

1番の理由は2個目の町が必要になるほど人口が多くないからである。


寿命が長い生物は繁殖数が少ないというのが世の常な訳で、

シルフハイド国の人口は人間の国に比べると20分の1以下、

町の大きさはカード王国の各町より小さい。


余談だが同じ長寿のタルタドワーフ

食料食料問題もあったので更に規模が小さい。


町の構造は池の周りに沿う形で様々な店が並んでおり、

その周りに住居とか畑とかがある感じ、

町中に石畳みの大通りは無く所々淡く光る幻想的な花が咲いている。


防壁代わりの巨木の根には沿う形で足場が組まれており、

シルフがいる木の幹と町の外にある見張り台に繋がっている、

交易以外の訪問者は殆どいないので基本的には

魔物の監視用、周辺で活動している国民との連絡用である。






さて、シルフハイド国の町中までやって来たシルトア達だが…


「王様出掛けたらしいからその辺で適当に待っててよ」

『 はい~ 』


時系列的には250話目【再会】での一場面、

シルフハイド国の入り口で出会い一緒に移動して来たエルフの青年に

シルフハイド王の不在を告げられたところである。



「いや~取り継ぎまでお願いしてしまいまして、

 本当にありがとう御座いましたオフニエルさん」

「いいよ、シャガールさんルコール共和国の偉い人なんだろ、

 もし俺が行くことがあったらよろしく」

「えぇ、その時は歓迎します」

「わわ!? 人間だ…」

「オフニエル何してるの…」

「おいリタネル、ラクネル俺の後ろから出るなよ」


シャガールとエルフの青年ことオフニエルが話をしていると

3人の子供エルフがやって来た、


「おや、お友達ですか?」

「そうだけど、まぁアイツ等のことは気にしないでいいよ」

「早く離れろオフニエル~!」

「こっちこっち」

「早く早く」


少年エルフとその後ろに隠れた少女エルフ達が手招きしている。


「オフニエルさん、お友達がお呼びですよ」

「うん、まぁ…ちょっと面倒だからほっといていいよ、

 もう直ぐ終わるからお前達どっかいってろって」


オフニエルがシッシッと手で払うと3人はそそくさといなくなった。


「よかったのですか?」

「いいよ、王様が帰って来たらハイエルフの誰かが呼びに来ると思うから、

 あとはその人達に何とかして貰って」

「分かりました、それでは…あた!?」


握手をしようとしたシャガール右手に石が当たった。


「大丈夫ですかシャガール様?」

「えぇ、心配するようなことではありません」

「でもちょっと血が出てますよ 僕が治しましょうか?」

「いえいえシルトア様の手を煩わす程のことでは、

 ははは、オフニエルさんも中断して申し訳ありませんでした、

 では仕切り直しまして」

「あぁ…」

「あだ!?」


シャガールが傷を治療して右手を差し出すとまた石が飛んで来た。


「大丈夫ですかシャガール様!?」

「今のは少し痛かったです…」


右手を抑えてプルプルしている、

地面に転がっている石がさっきより大きいのでダメージも増しているっぽい。


「いやはや、投石がこんなにも危ないものだとは知りませんでした…」

「いったい誰がこんな悪戯を?」

「それはあの子達ですよ~」


ペナが示した先にさっきの少年エルフが立っており、

背後から2人の少女エルフが顔を出している。


「ほほほ、ペナさん御冗談を、

 オフニエルさんのお友達が私に石を投げる理由なんて…あ」

『 … 』


シャガールが笑って否定しようとしている最中に

少女エルフが石を構えた、バリバリの現行犯である。


「(しかもさっきより大きくなってる…)」


絶対に握手させないという強い意思を感じる。


「ごめんシャガールさん、アイツ等ちょっと勘違いしてて…」

「はぁ…」

「いやぁぁぁ!」

「こっち来ないで!」

「離れろ2人共!」


申し訳なさそうに謝るオフニエルの後ろで

カルパスに追われた3人が逃げ惑っている。


「カルパス頑張って~」

「ん」

「もっと早く追いかけて下さい~」

「ん」

「(捕まえる気なさそう…)」


ペナとカニの声援を受けながら歩いて追いかけるカルパス、

3人はオフニエルを中心に円を描くように行ったり来たりしている、

どうやら離れる気はないらしい。


「モタタエル、リタネル、ラクネル、いい加減にしろ!

 お前達が石を投げたのはルコール共和国の偉い人だぞ!」

「うわぁぁぁんオフニエルが怒ったぁぁぁ…」

「泣かないでラクネル、ね?」

「何で怒るんだよ! 俺達はオフニエルのことを心配してるんだぞ!

 リタネルに謝れ! ぎゃ!?」


オフニエルが握った拳で少年エルフの頭を小突いた。


「お前達の気持ちは嬉しいけど、間違ってるんだって」

「何がだよ」

「私達何も間違ってないよ、会えなくなっちゃうんだよ?」

「うわぁぁん…」

「悪かったから泣き止めラクネル」

「怒ってない?」

「怒ってない、いいかお前達、大事なことだからよく聞け」

「「「 うん 」」」

「人間に触ってもハーフエルフにはならない」

『 (あぁ…) 』

「?」


オフニエルの言葉で察する一同、

カニは理解していないらしく首を傾げている。


「嘘だよ、お母さんが言ってたもん」

「そうだ、俺も父さんから聞いた」

「オフニエル知らないの?」

「…、ハーフエルフにはならない」

「「「 なる 」」」

「ならない」

「「「 なる! 」」」


人間とエルフが交わるとハーフエルフが産まれる、

ハーフエルフはエルフの掟により国に立ち入ることが出来ない、

この辺りの説明の際にご両親が『交わる』の部分を

誤魔化した結果だと思われる。


現実世界の『子供はコウノトリが運んで来るんだよ~』

とかと同じ流れである。




「じゃぁどうやったらハーフエルフになるんだよ」

「それは…」

「ほらやっぱり人間に触るとなるんだ」

「オフニエル嘘付いたの?」

「付いてない、その辺は親に聞け」

「だから父さんから聞いたんだって!」

「私もお母さんからきいたよ!」

「私もお父さんが言ってた!」

「う~ん…」


この3人は

モタタエル(男、13歳)

リタネル(女、10歳)

ラクネル(女、6歳)

まだまだ正確な説明は憚られるお年頃、

オフ二エル(男、22歳)は知っているのでもどかしい顔をしている、

全員年齢よりも幼く見えるのはエルフだからである。



「あの~どういうことですか?」

『 う~ん… 』


カニ(女、25歳)はハーフエルフの誕生秘話もエルフの掟も知らない、

だが子供の手前ハッキリと説明する訳にもいかず、

知ってる一同がもどかしい顔をしている。


「まぁまぁオフニエルさん、事情は理解できましたので

 無理に説明されなくても大丈夫です、握手は無しにしましょう」

「ごめん、ありがとう」

「いえいえ、こちらこそありがとう御座いました」

『 ありがとう御座いました~ 』


ちょっとしたゴタゴタがあったが解散。




「さて、如何しましょうか?」

「僕はシルフ様のお言葉を水晶に記録する仕事がありますので」

「では私も同行します」

「私も精霊様にお会いしたいです~」

「俺は外周りを確認して来る、カニと」

「え? 私ですか?」


馬車は御者に任せて2組に分かれることに。





シルトアとシャガールとペナは巨木の根に掛けられた足場を辿り、

町が一望できる高さにある直径5メートル程の幹の窪みへとやって来た。


中にはツタに覆われた人型に浮き出た幹と、

それを祀るように築かれた苔むした石の祭壇、

町を見下ろす位置関係と、そのあまりにも神秘的な光景から

この場所に立った者は巨木と一体となった精霊の懐に

抱かれているような感覚に陥ると言う。


「「 ほわわわわ… 」」


例に漏れることなくシャガールとペナが恍惚の表情を浮かべている。


一方、何度もこの場所を訪れているシルトアはというと、

祭壇には見向きもせずに窪みを通過、

木製の椅子に足を組んで座る緑のカエル?の前で片膝をついた。


「お久しぶりですマーミットさん」

「久しぶりだね~」

「「 ん? 」」


我に返ったペナとシャガールが近付いて来た。


「シルトアさん、そちらはもしかして~従者の」

「はい、風の精霊シルフ様の従者、マーミットさんです」

「はぁ~やっぱり、私は傭兵で魔法職のペナです、よろしくお願いします~」

「私はルコール共和国で総領長を務めておりますシャガールです」

「はい、よろしく~」



緑の喋るカエルと聞くと、

『地球を侵略しに来たカエルをモチーフとした宇宙人』で、

語尾が『であります』のキャラクターを

想像するかもしれないがそうではない。


マーミットさんは垂れ目で首の周りに三角のヒラヒラした襟巻があり、

皮膚はツルツルではなくよく見ると若干モコモコ、

フェルト生地っぽい質感である。


名前からセサ〇ストリートに出て来たカー〇ットを

想像する人が居るかもしれないが断じて違う、

凄くとても似ているが絶対に、神羅万象違う、

いろんな方向から怒られるので万が一にも間違ってはいけない。




「実はほにゃららで~」

「ほ~ほ~なるほど、水晶玉に記録か~」

「シルフ様が最後ですのでお願いできないでしょうか?」

「わざわざそんなことのために精霊を巡るなんて、

 大変だね~シルトア、いいよ」

「ありがとう御座います、では僕が記録しますので、

 シルフ様はこちらの水晶玉に向かってお話しください」

「あの~シルトアさん」

「どうしましたかペナさん?」

「そちらは従者のマーミットさんですよね? 

 お名前を間違うのはちょっと失礼じゃないかな~って」

「いえ、先ほどからお話されているのはシルフ様です」

「「 ? 」」

「シルトア様、私の記憶違いでなければ先程従者のマーミットさんと

 ご紹介を頂いたと思うのですが…」

「私もマーミットさんと聞きましたよ~」

「あ、すみません、僕の紹介の仕方が悪かったですね、

 こちらは従者のマーミットさんです」

「「 はい 」」


マーミットさんを手の平で示して再度紹介、

そのまま手の平をマーミットさんの右肩にずらすシルトア。


「そしてこちらが風の精霊シルフ様です」

「「 はい? 」」

「こちらです」


シルトアの手に顔を近づける2人、

よく見るとマーミットさんの肩の上に

羽の生えた5センチ位の小人が座っている。


「え? あの…本当にシルフ様ですか~?」

「そうだよ」

「ですがあちらに…」

「僕が風の妖精シルフ、僕僕」

「「 (えぇ…) 」」


そう、4つ羽の小さな妖精が風の精霊シルフである、

先程から喋っているのはシルフで、

マーミットさんが口をパクパクしているが言葉は発していない、

シルフが襟巻を引っ張るタイミングに合わせて口パクしているだけである。


本来のシルフの声はとても小さいので常に風魔法で拡大している、

マーミットの口パクに意味はなく、本人達が只遊んでいるだけなのだが、

聞いている側からすると視覚的に分かり易いので助かっている。


「それじゃあっちのアレは…」

「あれは只の木だよ、たまたまあんな感じに育っただけなんだけど、

 昔のエルフ達が勘違いして祭壇を造ったんだ」

「「 (えぇ…) 」」


窪みも人型も幹に出来た只の凹凸で偶然の産物らしい、

因みに、祭壇が製作された当時は地面に接していたのだが、

長い年月を経て木が成長し今の高さまで上がって来たらしい、

町を見守っていると感じる位置関係も全て偶然の産物である。


「それではシルフ様お願いします」

「やぁ僕は風の精霊シルフ、隣の緑は従者のマーミット…」

「「 (シルフ様のお姿は記録出来ているのだろうか?) 」」


マーミットまで含めて記録しているので肩の上にちんまり写っている。





一方その頃、町の外へとやって来たカルパスとカニは。


「カニ、ちょっといいか?」

「どうかしましたかカルパスさん」

「さっきの話」

「ん?」

「ハーフエルフとエルフの掟、知りたがってたから」

「え、もしかしてそのために私を? わざわざ町の外まで来なくても

 あの場で教えてくれたら良かったんじゃ…」

「うん、まぁ、いろいろと気を使う話でもある」

「はぁ…そうなんですか」


結構センシティブな話題だったので町の外で教えることにしたらしい、

カルパスは見た目は厳ついが気配りの出来る優しいオークである。


「ふごふご…」

「ほうほう、人間とエルフの間に産まれた子供が…」


多方面に気を使って耳打ちでカニに教えてあげた。






そして、記録を終えたシルトア達は。


「ところで魔王だ魔族だと騒いでいるけど、

 君達はアレがなんなのか理解しているのかい?」

「「「 わかりません 」」」

「そうだろうねぇ~君達には感じられないだろうねぇ~、

 いや、君達が鈍いとは思わないよ、僕が鋭いのさ、

 今から話すことを感じ取れているのは恐らく4大精霊の中でも僕だけ、 

 この風の精霊シルフだけさ!」

「「「 おぉ~ 」」」


マーミットさんの肩の上でシルフが小さく胸を張っている。


「魔王とは、魔族とは、ずばりマナの集合体だよ!」

「「 おぉ~ 」」


胸を張る口パクマーミットさんにペナとシャガールが拍手している。


「あの…」

「そうなるよねぇ~、なっちゃうよねぇ~シルトア、

 驚くのも無理はないよ、この世界中で僕だけが…」

「ヴォルト様も同じことを言われてましたけど…」

「ヴォルトが!? 4大精霊じゃないのに!?」


一際大きな声でシルフがショックを受けた。


サラマンドラウィンディーネ

シルフノーム

こららは世界を形造る主要素として4大精霊と呼ばれている、

但し、この考えは精霊を崇める人達が勝手に造り上げた物なので、

実際の精霊間に優劣は存在しない、

全ての精霊が世界を構成するうえでなくてはならない要素だからである。


故に4大精霊という立場を誇っているはシルフだけ、

ヴォルトと同じでそういうところが妙に人間臭い。



「まぁいいや、ヴォルトって僕と近いところあるし、

 僕4大精霊だし、マーミットもいるし、はぁ~いいよいいよ別に」

「「「 (全然よく無さそう…) 」」」


何処からともなく取り出したタンポポみたいな花を

不貞腐れながら1枚ずつブチブチと毟っている。


「シルフ様はヴォルト様と近しいのですか?」

「そうだよラガール」

「シャガールです」

「あ、ごめん、ワザとじゃないから、

 僕は風の精霊でしょ、風って何だと思うシャガール?」

「風は…風なのでは?」

「僕への理解が足りていない、不正解!」

「空気の流れですよ~」

「うんうん、流石に魔法職は理解が深いね~ペナ正解!」

「わぁ~嬉しいですぅ~!」

「これあげる」

「ありがとう御座いますぅ~!」

「「 (眩しい…) 」」


景品として毟りかけの花を貰い笑顔がはち切れるペナ、

大切なのは物ではなく精霊に認められたということである、

光に当てられたシルトアとシャガールが目を覆っている。


「僕が司っているのは正確には空気なんだ、

 君達を覆っているマナと混じり合った透明な空間、

 透明だけど何もない訳じゃなくて、

 見えないくらい小さな物が沢山あるんだ~

 その中にヴォルトが司ってる物もあるわけ、

 同じ空間だからちょっと近いんだよね、感じ方とかさ」

「「 へぇ~ 」」

「なるほど(わからん)」


恐らく空気中の静電気とか、電子とかの話っぽい、

シルトアとペナは卓越した魔法使いなので

細かい理屈は分らなくても感覚で理解しているが、

一般人のシャガールには難しい話である。


「そういう点ではノームとサラマンドラは近いよね、

 マグマって大地の下にあるからさ、

 あとウィンディーネとシヴァなんて水と氷だし、当然近いよね」

「「「 確かに 」」」


これ位ならシャガールも理解できる。




「ん? ふんふん、確かに確かに、そうだねぇ~」

「「「 ? 」」」


唐突に口パクするマーミットさんに相槌を打つシルフ、

一人芝居をしているように見えるが襟を引っ張っていないので

本当に会話しているらしい、実に紛らわしい。



「マーミットに言われて気付いたんだけど、

 魔王とか魔族って意外と君達に近いかも」

「「「 はい? 」」」

「マナの集合体って点では僕達に近いよ、でもマナの感じが同じなんだよね~」

「マナの感じですか?」

「シルトアもピンとこないか まぁ僕も言われるまで気にしなかったし、

 そうだよね~、マナって2種類あるんだけど違いがわかる人~」

「「「 わかりません 」」」

「おやおや、これは4大精霊である僕が英知を授けるしかないみたいだ」

「「「 よろしくお願いします! 」」」

「よろしい! 風が吹く時、火が燃える時、水が流れる時、

 何かが起きる時には必ずマナが消費される、

 このマナは自然界に満ちているマナ、僕達精霊と同じマナ」

「「「 はい 」」」

「シルトアが魔法を使う時は何を消費する?」

「僕の体内のマナです」

「正解、もう1つのマナは全ての生物が体内で生成しているマナ、

 特に人間と亜人種が生成するマナは感情が豊かだから色が付き易い」

「マナの色ですか?」

「例えだよ例え、記憶とか感情とかそういうヤツ、何かしらの不純物のこと、

 僕達のマナは純粋でそういうの全然ないから、

 シルトアが使ってた水晶玉もマナの色を保存してるんだよ」

「「「 へぇ~ 」」」


水晶玉はマナに残された情報を保存している、

このシステムを装置として確立した人物は相当マナに詳しかったと思われる。


「魔王のマナも色が付いている、だがら君達と似ているってこと」

「「「 ほほほう 」」」


なんとなく魔王の解像度が増した気がする。



おもむろに人差し指を立て目を瞑るシルフとマーミットさん。


「この風の感じは…ケルシス戻って来たみたいだね、

 君達がお待ちかねのシルフハイド王の帰還だよ」

「す、すごいです~! シルフ様はそんなことまでわかっちゃうんですね!」

「ふっふっふ、僕は4大精霊だよペナ、これくらいは当然…」

「あそこにいますね、僕ちょっと行ってきますので、

 シルフ様、マーミットさんありがとう御座いました~」


シルトアが飛び去っていった。


「…一応言っておくけど、本当に見える前から風で分かってたから、

 僕4大精霊だし、嘘だと思われても全然気にしないし、はぁ~いいよいいよ別に」

「「 (全然よく無さそう…) 」」


再び何処からともなく取り出した花を毟っている、

シルトアの何気ない言葉がシルフを傷つけた。





この後の出来事は『250話目【再会】』の最後の部分で書いた通り、

花粉で鼻水と涙がダラダラになったカニと

一触即発状態のイナセとカルパスにシルトアが合流して、

再登場したオフ二エルの説明でカニが町に運び込まれた。




カニがイナセとペナに手伝って貰いながら

強制鼻うがいでぐぇっぐぇっしているころ、

待機していた馬車の前で各国の代表が集まっている。


「私はルコール共和国の総領長を務めておりますシャガールです」

「シルフハイド国の国王ケルシスだ、よろしく頼む」

「こちらこそ宜しくお願い致します」

「シャガール殿とお呼びすればよいか? それともシャガール様か?」

「どちらでも構いません、私はケルシス様とお呼びさせて頂きます」

「シャガール殿としよう、その方が呼びやすい、

 私が記憶している限りでは他国の代表がこの国を訪れるのは初めてでな、

 対応の仕方がよく分からん」

「シルトア様は度々訪れているとお聞きしましたが?」

「シルトアはいつも書簡を運んでくる伝達役だ、

 飛んで来ては直ぐ何処かへ飛んで行く、国の代表とは違う」

「ところが今回の僕は国の正式な代表なんですよ、

 しかもカード王国とタルタ国の2国分です、

 決定権も与えられてますので賓客対応でお願いします」

「体は小さいくせに態度はデカいな」

「それはもう、2国分ですから」

「「「 はははは 」」」


顔合わせは和やかに終了。


「こちらは友好の贈り物です、勿論中身は私達の国の特産物、

 交易でもよくお求め頂いている果実酒と」

「これは有難い、我が国でも果実酒は製造しているが

 ルコール共和国のは各別だ、いつもトトシスと取り合いになる」

「なりません、賓客の前で品性を疑われるようなことを言わないで下さい」


側近のハイエルフのお姉さんが首を振っている。


「ならトトシスの分はなしだな」

「駄目です、権力の乱用ですよ」

「手を放せ、これは私のだ」

「シャガール様は皆に贈られたのです、1人で飲むなんて許しません」

「ほほほほほ」


言った傍から1つの樽を奪い合う国王と側近、

シャガールが満足そうな笑みを浮かべて口髭をネジネジしている。


「それともう1つ、こちらは今年のヴォルト賞に輝いた逸品、

 アルマニャック領の白蜜ブドウを使用したブランデーです」

「ほう、初めてのヤツだな」

「楽しみですね、取り敢えず私が」

「おいふざけるな、私が先だ」

「国王に何かあったらどうするんですか、ここは私が毒見を」

「毒ってお前、シャガール殿に失礼過ぎるだろ、手を放せトトシス」

「国王こそ放して下さい、ちょっと…」

「(2人共お酒好きだったんだなぁ…)」

「ほほほほほほほ」


再び樽を取り合う国王と側近、

目を細めるシルトアの横でシャガールの酒好き矜持が輝きを放っている、

酒樽は別のエルフが運んで行った。


「貰ってばかりでは悪いな、トトシス何か良いものはないか?」

「シルフハイド国を象徴する返礼品であればやはり薬草でしょうか、

 先ほど採取したものが丁度こちらに」

「薬草か、悪くはないがなぁ…もっとこう何かないか? 食べ物とか」

「そう言われましても…」


背負っていた鞄を2人でゴソゴソしている。


「お、いいものあるではないか!」

「それは駄目です、私が後でこっそり食べようと…」

「国王命令だ、我慢しろ」

「そんな!?」

「シャガール殿!」


シャガールの手に置かれたのはデッカイぷにぷに。


「先程の礼だ、焼いて食べると美味しいぞ」

「あ、ありがとう御座います…」

「(うわぁ…)」


ナッツ風味の海老でお馴染み、ナシカブトの幼虫である。


「(あぁ…私の…)」

『(いいなぁ)』


シャガールとシルトアの反応はアレだが

周りのエルフ達が羨ましそうにしているので

恐らく伊勢海老的なポディションっぽい、高級品である。


「っふ、そんな目をするなシルトア、

 分かっている、今回は国の代表だものな」

「いやぁぁぁ!?」


シルトアの手にもナシカブトの幼虫をギフトオン。


「2国分の代表だから特別に2匹やろう、幸せ者だな」

「ひやぁぁぁぁぁぁ!?」


まさかの倍プッシュでシルトア放心、

いくら高級品でも有難いとは限らない、

嫌いな物は嫌いである。









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