251話目【クサウラ】
キキン帝国、内地、東の衛兵詰所。
「マ、マジかよ…キキン帝が殺されて子供が人質に取られてるとか…ヤバすぎだろ」
クダマキが頭を抱えてガクガク震えている。
「ヤバいのはお前の頭だ、何聞いてたんだ馬鹿が」
「おん!?」
「なんだこら? 理解力の低い馬鹿がなに生意気な態度取ってんだ、お?」
「すみません(目付きが怖ぇ…)」
反射的にメンチを切ったクダマキだったが
極悪な目付きのタマニに凄まれて返り討ちにされた。
「もう1度だけ説明してやるからよく聞け、
キキン帝だったビスマス様は老衰で死去して、
その後に殺されたのが跡継ぎだったトリフェン様とアズラ様だ、
人質になってるのは新しいキキン帝のカエンと新しい参謀のキヨに逆らった、
もしくは逆らう可能性があるヤツの家族、わかったか馬鹿?」
「お、おう…(また馬鹿って言いやがったな)」
「スギエダさんとマツバ宰相の家族も捕まってる」
「それは分かってる、トド将軍もだろ」
「元将軍、今はクサウラが将軍だ、
内地の兵士は俺みたいにクサウラの息が掛かったヤツが大半で、
お前みたいに何も知らないド新人が数合わせで配置されてる」
「へ~へ~戦力にならなくて悪かったすねぇ~」
「…」
椅子の上に胡坐を組みながら小指で鼻をホジホジするクダマキ、
おちょくった態度にタマニの眉間のシワが深くなった。
「理解できたなら今すぐ帰れ」
「あ? なんでだよ? 確かに強くはねぇけど俺だって役に立てるぜ、
おん? 舐めてんのかおぉん? おぉぉぼほぁ!?」
性懲りもなくメンチを切っていたら腹に拳がめり込んだ。
「お前みたいなヤツが居ていい場所じゃない、今すぐ帰れ、
全部忘れて外地の警備でもやってろ」
「こ、断るぅ…俺はトド将軍の力になりてぇんだ…オロロロ…」
「馬鹿が、家族が人質に取られると分からないのか?
そうやって身動きが取れなくなったヤツが何人いると思ってる」
「し、心配ねぇ…」
「なんだと…もう1発殴られないと理解できないらしいな…」
「うるせぇ! さっきから馬鹿馬鹿いいやがってよぉぉ全員もう死んでんだ!
人質にできるもんならやってみろや!」
「…そうか、悪かった」
「いや…気にしないで下さい、今のは俺の言い方が悪かった、
タマニさんを責めるつもりとかそんなんじゃねぇから」
なんか気まずい雰囲気になった。
「…魔物か? その腕の傷も」
「これとは別すね、夜に鉱山で仕事してて死んだ、
ハイエルフの仕業だって言われてるけど俺にはよく分からねぇ」
「魔族だ」
「魔族?」
「今世界中で騒ぎになっていてな、
魔王が復活する前触れで眷属の魔族が人を襲うんだと」
「へぇ~…眷属って何?」
「…、部下だ」
「なるほど 襲う理由はなんなんすか? 食うため?」
「分からん、ラリー支部長に聞け」
「…うす」
「光筋教団の光魔法なら魔族を一瞬で消滅させるそうだ」
「マジすか、習得してぇ~俺の等級じゃ無理だけど」
「他国へ行け、等級に関係なく無償で習得させてもらえる」
「タマニさ~ん、絶対嘘だろそれ、流石に俺でも分かるって」
「言ったのは俺じゃない、ラリー支部長だ」
「え? じゃぁマジなのか」
「…」
タマニの眉間のシワが深くなった。
「魔族は世界規模の脅威で、光筋教団は大急ぎで世界中に光魔法を広めている、
だがキキン帝国内で光魔法を習得しているのは数名だけだ、何故だと思う?」
「簡単だぜ、魔法は特別だから」
「違う、キキン帝が馬鹿だからだ」
「(えぇ…この人皇帝にも馬鹿っていうの…)」
クダマキがドン引きしている。
「ラリー支部長が何度も許可を求めた結果が地下牢だ、
魔族のことを未だに国民に伝えていないどころか、
エルフの仕業としてシルフハイド国へ攻め込む口実にした、
お前の家族のことも利用してな」
「…クソすね」
「あぁ、クソで馬鹿だ」
共通の敵を再確認してお茶と煎餅っぽいヤツで一服。
「あのさタマニさん、聞いてもいいすか?」
「何だ?」
「タマニさんとダダ兵士長ってクサウラの部下だったのに、
なんでトド将軍に味方するんすか? やっぱ国を守るため?」
「…いや、国とか世界とかどうでもいい」
「じゃなんで?」
「クサウラが嫌いになった」
「理由は?」
「いるか?」
「まぁ、一応聞きたいっす」
「俺とダダは家族がいない、最初から孤児院だったから顔も知らん、
7歳の時にダダが椅子を壊して追い出された、
あいつは見た目よりずっと優しいヤツだが理解されない、
椅子を壊したのだってわざとじゃない、体がデカくてちょっと力が強すぎただけだ」
「(え、急に何の話?)」
「俺も嫌われていたから一緒に出た」
「(また急に…)なんかしたんすか?」
「別に、何もしていない、椅子も壊していない」
「…殺すぞとか言ってた?」
「言ってた」
「(それやん)」
「ダダが追い出された時に殺すぞババアって言ったら思いっきりぶん殴られた、酷い話だ」
「(極悪やん)」
昔から目つきが悪かったのでそれはもうクソガキである。
「その後は飯だけその辺で貰いながら適当に生きていた、
ある時クサウラに声を掛けられて兵士になった、
他のヤツ等も似たようなもんだ、素性がわからないヤツが多い」
「(あ、出会いの話だったのか)それで?」
「クサウラが嫌いになった」
「いやだから! 話飛び過ぎなんだってぇ!」
「静かにしろ、殺すぞ」
「はい…すみません…(コイツマジでよぉ…)」
お茶をお替りして仕切り直し。
「大人になってからの俺とダダは怖がられることが多くてな」
「(だろうな…)」
「原因は分っている、ダダはデカくて見た目が悪いし、
俺は目付きと口が悪い、いつものことだ」
「いや、自覚あるなら直せばいいじゃないすか…」
「馬鹿が、外見はどうにもならねぇだろ」
「っぐ…(話し方のことだってのぉぉ…いや、これは俺が悪いな)」
ビキビキから急に真顔になるキダマキ、素直に反省できる男である。
「俺はある程度話せば何とかなるがダダは無理だ、
デカくて口下手で見た目が悪いから皆ビビッて逃げちまう」
「(何か増えてね? まぁそうなんだけど…)」
「3年位前にクサウラの指示でトリフェン様の警護に付いたことがってな、
あの人は他の奴等とは違って俺達を見ても怖がったりしなかった、
皇族としての振る舞いかと思ったが違った、いつも自然でそういう人だった」
3年前の宮殿。
「よっ」
「「 よっ 」」
トリフェンとタマニ達の様子はこんな感じ。
戻って現在。
「もしかして好きになったんすか?」
「少し違う気がする…変に壁がなくてな、距離が近い、
はっきり言えるのは安らぎを感じたってことだ、
たぶん家族ってのはあんな感じなんだろう」
「そうすね…」
「トリフェン様が殺されて俺とダダはクサウラが嫌いになった」
「やったのはクサウラだったんすか、マジヤベェな」
「違う、アイツは自分の手は汚さない、だが命令したのはアイツだ」
「なんか証拠あるんすか?」
「ない」
「(いやないのかよ! そこが一番大事ぃぃ!)」
「なんだその目は、殺すぞ」
「はいはい…(すぐこれだよ…)」
「俺達には分かる、…俺達はクサウラの下でそういうことをやって来た」
「…そうすか」
元上司のトドや部下のイナセ、はたまた共犯のツキヨよりも
クサウラを深く理解しているのは水面下で接して来たタマニのような者達である。
「クサウラを尊敬してるヤツ等は全員馬鹿だ」
「それタマニさんも含んでんの?」
「俺は内地に来てからいろいろ学んだから多少マシだ」
「(意外と素直だな)」
「少し先のことも考えられないような馬鹿ばかりで、
そういうヤツ等ってのは扱いやすいんだ、
頼られることが嬉しくて周りが見えなくなる、
善悪なんてどうでもよくて自分がどうなるかも想像できない、
お前クサウラと話したことがあるか?」
「兵士になりたての俺があるわけないすよ」
「ビビるぞ、たぶん今の話を聞いた後でも取り込まれる」
「んなわけねぇだろ~マジで俺のこと馬鹿にしすぎ」
「これに関しては違う、これに関してだけはな」
「おうこら、なんで2回言った? お? お?」
他は馬鹿にしてるらしい。
「クサウラは人の扱いが上手い、俺はトドさん達以外に
アイツを嫌ってる兵士に会ったことが無い、
強くて頭も良い、実力だけでも十分将軍になれた筈だ」
「マジすか…」
「だが内面は腹黒くて疑り深い、野心の固まりみたいなヤツだ、
俺達がこうやって意味のない話をしてる間にも何か企んで…」
「どうしたんすか?」
「…」
タマニが手を上げてクダマキを黙らせると、足音が聞こえて来た、
暫くすると扉が開き険しい顔の兵士が数名現れた。
「なんだ?」
「見回りだ、中を調べさせて貰う」
「…何があった?」
「何でもない、おい、確認しろ」
『 はい 』
指示を受けた兵士達が詰め所内に入ろうとすると
タマニがヌルリと剣を抜いて立ち上がった。
「馬鹿共が…俺の管轄で好き勝手するな…殺すぞ」
『 ひぇ… 』
ドスの効いた声と厳つい目付きで場が凍り付いた、
クダマキが後ろでガタガタ震えている。
「お、落ち着け…これはツキヨ参謀のご指示だ、
先日亡くなられたマツバ宰相の弟子が数名逃走中で、
見つけ出して捕えるようにとだな…」
「ソイツ等は何をした?」
「キ、キキン帝に反逆したとしか聞いていない…」
「そうか、分かった」
『 っほ 』
「調べるぞ?」
「あぁ、好きにしろ、後で東の牢にも案内する」
「わかった、おい」
『 はい 』
兵士達が詰め所を調べ出した。
「ちょっとタマニさん、牢屋には…大丈夫なんすか?」
「問題ない、お前は黙ってろ」
「(えぇ…マツバ宰相どうすんの!?)」
耳打ちして来たクダマキを黙らせて東の牢へ移動。
『 汗臭!? 男臭!? 』
「好きなだけ調べていいぞ、俺は入らん」
「おぃぃ何だこれ!? っていかアイツ等は何してんだ!?」
「いいですよ~、お尻を突き出しながら~
太腿と床が平行になるまで下げる、意識するのは?」
「大腿四頭筋と」
「大臀筋です」
「素晴らしい! 負荷を感じて~息を吐きながらゆっくりと上げます」
「「 ふぅ~… 」」
牢の中のラリー支部長と一緒に通路で男女の兵士がスクワットしている。
「筋トレだ」
「見りゃわかるわ! おいやめろお前達ぃ!」
「邪魔しないで、私は今筋肉と対話してるの」
「何人たりとも俺の成長を止められない、止めさせない!」
「このまま50回いきますよ~」
「「 ふぅ~… 」」
スクワットを継続する3人、ラリー支部長はバーベルを担いでいる。
「おぃぃぃ!? せめてこっち見ろこらぁぁ!」
「無駄だ、アイツ等は今は兵士じゃない、光筋教団員だ」
「何言ってのお前!?」
向かいの檻の中でトドがぐったりしている。
「何で囚人が重り担いでんだ!? 武器になるような物を渡すとは問題だぞ!」
「光筋教団員からの差し入れだ、筋トレ以外には使わないから安心しろ」
「なにその差し入れ!? あんなもんさっさと取り上げろ!」
「やってみろ、もしそのことが光筋教団員に知られたら光魔法で目を潰されるぞ、
アイツ等囲んで来るからな」
『 えぇ… 』
光魔法で圧を掛けて差し入れを許可して貰ったらしい、
例え光っていなくても四方をムキムキの筋肉に囲まれると圧が凄い。
「ウダウダ言ってないでさっさと調べろ、俺は外で待っている」
『 えぇ… 』
さらっと確認して兵士達は帰って行った、
マツバは壁際で麻袋を被って難を逃れたらしい。
「アンタ凄ぇな…心臓オリハルコンかよ…」
「あんな状態で空の檻まで丁寧に調べないだろ、人間ってのはそんなもんだ」
「あそう…なんか増えてなかったすか?」
「ソバコの妹のソバミだ、信用していい」
「了解~」
ソバコに続きソバミが光筋教団に加入、
ラニー支部長のコーチングに掛かれば例え檻の中でも団員を増やせるのだ。
そして国境付近、訓練所にあるクサウラ将軍のテントでは。
「クサウラ将軍、ターニア兵士長です」
「入れ」
「失礼します(げっ!?)」
ターニアがテントに入ると後姿が瓜二つの先客がいた。
「タラコ兵士長、スジコ兵士長、お疲れ様です!」
「「 お疲れ~ 」」
振り返り瓜二つの笑顔で手を振る2人の女性、
2人とも前髪で片目が隠れており、
左目が見えているのがタラコ、右目が見えているのがスジコである。
双子なので顔が似ているのは当たり前なのだが、
厄介なことに体形も殆ど同じ、髪型も同じ、喋り方も同じ、
腰に下げた2本の剣も同じ、戦い方も二刀流で同じ。
2人共兵士長なので遭遇すると挨拶しない訳にはいかないのだが、
名前も似てるという厄介なことこの上ない双子である。
「(2人一緒でよかった、顔が同じで声も似てるから
片方だけだと分かんないんだよなぁ…)」
とまぁ、ターニアが内心ほっとしているように、
両方の名前を呼ぶという2人セットでいる場合にのみ
使用可能な裏技が存在している。
よく見ると目以外にも明確な違いがある、
姉であるタラコの方が妹のスジコよりも胸が小さい。
だが、片方とのみ遭遇した際に胸の大きさで判断する場合は
女性の胸を凝視することになるため非常に危険、諸刃の剣である。
「お~いターニア、ターニア兵士長、何か用があって来たのではないのか?」
「あ、はい、数日前に監視を命じられた不審な回復士の件ですが、
クサウラ将軍の予想通りマイさんと接触しました」
「ほう、そうか…国外逃亡者の手引きに関しては?」
「小声で話すことが多く内容が聞き取れません、
ですが何やら重要と思われる書簡を所持しておりまして、
非常に怪しいかと、今はオタル兵士長が監視中です」
「はぁ~…あまり信じたくはないが放置もできん、
直接確認するとしよう、俺は2人との話が終わってから向かう、
ターニア兵士長は先に合流しておいてくれ」
「了解です!」
「気合が入ってるのはいいがポニコーンを飛ばすなよ、悟られる」
「はい!」
ターニアがテントから出て行った。
「「 ふふふ 良い… 」」
顔を見合わせる双子。
「ちょっとスジコ」
「ちょっとタラコ」
「「 …、どうぞどうぞ、どうぞ… 」」
「何やってんだお前達…」
どうやら話す内容が被ったらしく互いに譲り合いをしている。
「じゃ私が」
「任せたわよ~」
タラコが話すらしい。
「おほん、良い流れですねクサウラ将軍」
「そうだな(それくらいスッと言って欲しいのだがな…)」
「内容次第ではマイを拘束できます、イナセ兵士長を偵察に向かわせて正解でした」
「いや、拘束は確定だ、状況証拠で十分足りる、よく分からん書簡もあるしな」
「「「 ふふふふふ 」」」
悪い顔で笑うクサウラと双子。
「マイは今日中に町へ連行してキキン帝に報告する、
国外逃亡に関与していたとなればイナセも文句は言えん」
「イナセ兵士長の投獄の可能性は?」
「俺の説明次第だ」
「反対された場合はどうしますか?」
「マイを人質にしてイナセを排除する」
「イナセ兵士長を失うとシルフハイド国と戦う際の戦力が減りますけど」
「心配するな、戦争は中止だ、将軍は国を救った英雄となる」
「「 おぉ~ 」」
物騒な話に同じタイミングで拍手する双子、
碌でもないシンクロである。
「あの~人質なんて面倒なことするくらいなら
私達を行かせた方が早かったんじゃないですか?
あの4人だけじゃ絶対勝てませんよ」
スジコの言葉にタラコが深く頷いている。
「わざわざ実力を隠させてきたというのに
生きて帰れるかも分からん敵国に送り込んでどうする?
お前達の出番は俺がイナセと対峙した時だ」
「それじゃあの4人の意味は?」
「選べる選択肢は多い方がいい、
今頃は殺されたか、もしくは生け捕りにされたか、
いずれにしろエルフに見つかれば任務は失敗だ、
開戦することになっていれば責任を取らせることが出来た、
殺してくれていれば仲間殺しの汚名と共に反逆者に仕立てあげられる」
「「 おぉ~ 」」
碌でもないシンクロ再び。
その後、野営地の臨時診療所。
「おいおいマイ…頑張ってるイナセが可哀相だとは思わんのか?」
「イナセがどう思うと知りません、あと私は何もしてません」
「調べればわかることだ、どれどれ、これが例の書簡か」
「そ、それは、返して下さい!」
「お~い、誰かこの娘を抑えとけ」
「「 はい 」」
「返して! お願いです返して下さい!」
「ほう…んん!?」
「どうかしましたかクサウラ将軍?」
「いや、気にするな(マツバ宰相の告発状か、なんて危険な物を…)」
計画を根底から破綻させかねない内容に流石のクサウラも渋い顔。
「(しかもカエンの秘密まで…油断したなツキヨ)
キノと言ったな、これを誰に見せた?」
「だ、誰にも見せていません…」
「そうか、どうだオタル兵士長?」
「俺が監視してた間はマイさんだけです」
「う~ん…(ツキヨが知ればマイは処刑される、これは確実だ、
マイの死を隠してイナセを捕らえられるか? 無理だな、
激高させるだけだ、となるとだ…)」
「クサウラ将軍、それって何が書いてあるんですか?」
「俺も気になります」
「見るなよターニア兵士長、オタル兵士長もだ、
なんというかなぁ~…とにかくヤバい内容だ、首が飛ぶぞ」
「「 ひぇ… 」」
「キノとマイは拘束」
「「 はい 」」
「そんな!? 放して下さい」
「駄目です、大人しくして下さい」
「(すみませんマツバ様、ごめん皆…)」
マイとキノがグルグル巻きにさられた。
「あとそうだな、一応あの娘も拘束だ」
「えぇ!? わ、私もですか!?(黙ってれば大丈夫って言われたのに…)」
書簡を見た疑惑でついでにツツシも拘束、
まぁ国外逃亡の手引きにはガッツリ関与してるので無関係ではない。
「(ふふふ、これは俺が預かっておこう)」
書簡を回収したクサウラは3人を連れて町へと移動。
町へと3人を連行中の馬車。
「あ~いいかお前達、この書簡を見たものは間違いなく処刑される、
キキン帝とツキヨ参謀の立場で考えれば分かるだろ?」
「「 … 」」
「私は見てないですぅ…」
「俺としても見過ごすことは出来ん、残念だ」
「「 … 」」
「本当なんですよぉ…信じて下さいぃぃ…」
虚ろな目でシクシクのツツシ、マイとキノは俯いて静かにしている。
「だがな、国外逃亡の手引きだけなら投獄ですむかもしれん」
「え?」
「私見てないですぅ…本当なんですぅ…」
「(何が目的なの?)」
「素直に話せば拷問はしない、将軍である俺が保障する、
どうするマイ? お前が決めろ」
「私?」
「ぅぅ…マイしゃん…」
「…わかりました」
「認めるんだな?」
「はい…私がやりました」
「何をだ?」
「希望者を集めて国外へ逃がしました」
「イナセは?」
「関係ありません」
「他の協力者は?」
「いません、私とツツシだけです」
「ぅぅ…すみませんでした…皆が可哀想だったんですぅぅ…」
「はぁ…マイ~もう少しマシな嘘を付け、
2人だけで何とかなる規模じゃないだろ」
「…」
「だがまぁいい、キキン帝の要望はこれ以上国民を流出させないことだ、
後は俺が何とか話を付けるからくれぐれも余計なことを言うなよ、
首謀者はマイで他の2人は協力者だ、いいな」
「「「 はい… 」」」
「(っふ、まぁ他に選択肢はないよなマイ、後はイナセを排除するだけだ)」
さてさて、キキン帝国という盤上に全ての駒が出そろったところで
各陣営の状況を確認してみよう。
現在キキン帝国を手中に収めているカエン、ツキヨ陣営は。
「おい、まだ見つからんのか?」
「申し訳ありません、連日兵士による捜索を行ってはいるのですが…」
「たった2人だぞ、急げ」
「キキン帝、大変申し上げ難いのですが…
この広大な国の中から2人を探し出すというのは、
砂に落とした砂金を探すようなもので…」
「探しているのは小さな粒ではなく人間です、
簡単には隠せませんし食事も必要になる、
国外へ逃げていなければ必ず町の中にいます、
内地を探して見つからないのであれば外地を探して下さい」
「ツキヨ参謀の言う通りだ、実際にクサウラ将軍は野営地で1人捕えたぞ」
「はい…」
「おい、もし2人を捕えたならお前を宰相にしてやる」
「私を!? ほ、本当でしょうか!?」
「あぁ、だが急げよ、あまり長くは待てん」
「はい!」
「それとだ、くれぐれも書簡のことを忘れるな、
所持していた場合は中身を確認せずに持って来い、見たら死ぬと思え」
「は、はぃぃ!」
クサウラが嘘を付いたためマツバ派の捜索に躍起になっている。
地下牢に捕らわれたトド、マツバ陣営は。
「キノ君が無事であったことは喜ばしいが、何故クサウラは事実を隠す?」
「ほほほ、将軍の地位では満足できんのじゃろ」
「まさか…この状況で裏切るのか?」
「利用したと言った方が正しいかもしれんな、
マツバよ、お主がクサウラだったとして皇帝になるにはどうする?」
「カエンとツキヨの口を封じた後、私の告発状を利用し
国民に対して2人を討った正当性を主張する」
「自らの悪事も全て2人に被せるか」
「勿論、最大限に利用する、シルフハイド国との戦争を止めることで
カエンの暴挙から国を救った英雄となり、国民の指示を得て皇帝となる」
「完璧じゃな、1人を除いてじゃが」
「イナセ君が最大の障壁だ、真実を知りクサウラを脅かす強さを持つ」
「ついでに兵士達から中々の支持を得ておる、さて、どちらの言い分を信じるかの?」
「条件が等しければ国を2分していたかもしれないが…」
「マイが捕まっておる、クサウラの読み勝ちじゃな」
「トドよ、今こそビスマス様の飛槍として役目を果たす時ではないか?」
「そうじゃな、ワシ等が動かねばこの国に未来はない」
クサウラの野望を阻止するために行動を開始。
そして最も優位に立つクサウラ陣営は。
「あれ? 何でマイさんが?」
「もしかして許されたんですか? クサウラ将軍」
「んな訳ないだろう、罪人と言っても優秀な回復士だ、
戦争が終わるまで前線で仕事をしてもらうことにした」
「「 へぇ~ 」」
「治療が必要な者だけ近ずくことを許可する、
絶対に枷を外すなよ、檻から出すのも禁止だ、
あと見せしめの意味もあるからな、オタル兵士長看板立てとけ」
「え? 俺ですか?」
「そうだ、ターニア兵士長は罪状書いた紙を持って来い、
ちゃんと示しとかんとこっちが悪いことしてみるみたいな感じになる」
「了解です」
「常に監視を付けとけよ」
「「 はい~ 」」
「ふふふ、使う物は手の届く場所に置いておかないとねスジコ」
「ふふふ、直ぐに使えないと困るものねタラコ」
「「 ふふふふ… 」」
マイを野営地に連れ帰り監禁、万全の状態でイナセの帰還を待っている。
そんなことは知らないイナセ陣営、というかイナセは。
「素直に認めなさい」
「確かにクサウラ将軍に命令されてアビン様を殺そうとはした」
「でも違う、俺達はやってない」
「嘘じゃない、あれは事故だ、信じてくれ!」
「そうですか」
「いたぁ!? 何で俺!? 俺何も言って無かったじゃん!?」
「何も言わねぇからだろ」
「黙ってやり過ごそうとしてんじゃねぇ、テメェもちゃんと話せよ」
「俺なんてもう穴だらけだぞ、見れみろこれ」
「「「「 いたぁ!? 」」」」
「お父さん酷い…」
「(そうかなぁ…僕は優しいと思うけどなぁ…)」
「(ルコール共和国なら絞首刑です)」
捕まえた4人を槍でツンツンしていた。




